http://miimama.jugem.jp/

スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

- - -
魔法のコトバ*  Season2 初恋-6-
*******************************************

魔法のコトバ* Season2 初恋-6-

*******************************************


席替えの日の朝は珍しく遅刻ぎりぎりだった。
前の日にいろんな事がありすぎてなかなか眠れなくて。
ほんとは念入りに時間をかけてやるはずだった算数の宿題も、ただそのまま解くだけで終わってしまった。


始業10分前の予鈴が鳴るのと同時に、私は玄関に滑り込んだ。
急いで履いてきたスニーカーを脱いで上靴に履き替える。
同じようにギリギリセーフで走り込んで来た生徒達が、ばたばたと階段を駆け上がる。
チラリと靴箱に目をやると、蒼吾くんのナイキのスニーカーが見えた。
もう来てるんだ。早いな。
ちょっとホッとしたような、後ろめたいような気持ちでそれを確認すると私も急いで階段を登った。
随分と走ってきたから息が上がる。
3階まで一気に駆け上がったところで足が上がらなくなって、膝に手を付いて大きく息を整えた。
1組は廊下の一番手前、階段横の教室。
まだ先生は来てないみたい。
ホッと胸をなで下ろした。


「何だよ、それ」


聞き覚えのある声が教室から聞こえた。
声変わりが始まったばかりのちょっとハスキーな声。
蒼吾くんだ。


「園田だろ」


…え?


突然上がった自分の名前に私は、弾かれたように顔を上げる。


「お前、園田のことが好きなんだろ?」


笑い声の混じったクラスメイトの声が廊下まで聞こえてきた。
その内容に私は目を丸くする。

蒼吾くんが私を…好き?

「だから、違うって言ってるだろ?」
「でもやたらと仲いいじゃん、おまえら。授業中に仲良く外見たり、ノートの交換とかやってるしさ」
「宿題もいつも見せてもらってるじゃん」
「怪しいよな〜。ラブラブってやつ〜!?」
男子の口笛交じりのはやし立てる声が廊下にも零れる。
ラブラブ?私と蒼吾くんが??
カーッと耳の上まで血が登って顔が真っ赤になるのがはっきりと分かった。
この状況で教室に入るのなんて無理。
話題に話に参加していないクラスメイト達も興味津々で聞いているのが、教室の外まではっきり伝わって来る。


どうしよう…。


「好きとかそんなのカンケーねぇよ。
たまたま園田が隣の席だから、宿題を見せてもらってただけだろ」
「またまたぁ!照れちゃって〜」
「園田と離れたくないから、席替えしたくない発言したんだろ?
あ〜!お熱いね〜〜!!」
「何だよそれ」
蒼吾くんのムッとした声がした。
今にも飛び掛っていきそうな不機嫌な声。
あ。
やばそう。
直感的にそう感じた。
でも自分の名前が話題に上がっている中に飛び込んでいけるような勇気は、私には持ち合わせてなくて。
どうしようもなくその場に立ち尽くしてた。

「それは違うってば!」
険悪なムードを断ち切るように声が聞こえた。
甲高い女の子の声。
この声、水野さんだ…。
昨日の出来事を思い出して、ますます教室に入りづらくなって足を止めた。


「園田さんって真面目だから、宿題も文句を言わずに見せてくれるから、席替えしたくなかっただけでしょ? 都合がいいって蒼吾くん、言ってたじゃない!」
甲高い声が廊下まではっきりと聞こえる。
「そうだよね?」
念を押すように水野さんが言った。
「…俺はべつに…、園田のことなんてなんとも思ってねーよ。
ただ隣だと、いろいろと都合がいいから…」







…なんだ。
水野さん達が言ってたこと、デタラメじゃなかったんだ…。


もやもやとした気持ちが押し寄せて、胸の奥に何か引っかかってるような感じがした。
気持ちが悪い。
じんわり涙が浮んで目頭が熱くなった。

「ね、やっぱりそうじゃない。好きとかそういうんじゃないんだって!」
水野さんの嬉しそうな声が私にさらに追い討ちをかけた。
「…園田って、何か違うんだよ。普通っぽくないっていうか、髪だって目だって色が薄くて外人みたいだし、くるくるしてるし。」
「ワカメみたいな髪だもんね?」
「あーー。…そんな感じ」
蒼吾くんが曖昧な返事で頷いた。
「ワカメだって〜」
「可哀相〜。でも当ってるよね」
クスクスとクラスから笑い声が上がる。
足が棒のように動かない。


蒼吾くんが、そんな風に思ってたなんて。
あの時。
去年校舎裏で、フワフワしてて可愛いって言ってくれたのは嘘だったの?
かくまってもらったお礼だった?
そもそも蒼吾くんはあの日の事なんて、これっぽっちも覚えてないんだ。
きっと…。
私は悲しいのか悔しいのか分からない、もやもやした気持ちを押し込めるように、唇をぎゅっと噛み締めた。



「それにさ、園田って色が白くてほっぺたとかぽっちゃりしてて、マシュマロみたいだし。
あ、ちょうど昨日テレビでやってたマシュマロお化けみたいな…」
「お…おい、蒼吾。」
「何だよ」


「あれ…」


クラスメイトのひとりが私の存在に気付いてこっちを指差した。
クラス全員が。
蒼吾くんが、こっちを振り返る。



「……園田…」


蒼吾くんの表情が、凍りついたように強張った。
教室の中が、シン…と静まりかえる。
まさか本人が聞いてるなんて思わなかった。
そんな表情で私の出方を待ってる。




「おーい、席に着け〜〜」
本鈴が鳴ったのと同時に、出席簿を持った先生が教室に入ってきた。
クラスメイト達は後ろ髪を引かれながらも、先生の言葉で蜘蛛の子を散らすように自分達の席に帰っていく。
私と蒼吾くんは固まったようにその場から動けない。
「おい、どした? 園田? 入らんのか?」
先生が教壇から不思議そうに声を掛けた。
「夏木も立ったままで。何かあったのか?」
「…いや、何でもないです」
「そうか? それなら早く席につけ。園田もだ。
それともお前ら、何か? そんなに席が離れるのがいやか?」
状況の見えない先生は冗談混じりにニヤリと笑った。

先生、それ今は禁句だよ。

クラスメイトみんながそう思ったと思う。
私は黙って下を向いた。


「とにかく、早く席に着け。1時間目が始まる前にやってしまうぞ、席替え」


その場から走って逃げ出したくなる気持ちをグッと我慢して、私はよろよろと教室に入った。
痛いぐらいの視線が私と蒼吾くんに向けられる。
顔を上げなくてもそれはひしひしと伝わった。
もう帰りたい。
ここから逃げ出したい。
泣きそうになるのをグッと我慢して、私は席についた。


「…園田、」

蒼吾くんがそっと、声を掛けた。
困った表情にちくりと胸が痛む。

もういいよ、蒼吾くん。
あんな事を言われたあとで話すことなんてないよ。
何事もなかったかのように話すなんて、弱虫な私には無理。
今は何を聞いても言い訳にしか聞こえないから。
それならいっそう、ずっと話さないままの方がいい。


私はずっと下を向いてた。
少しでも顔を上げると泣いちゃいそうだったから…。





NEXT→

魔法のコトバ*  Season2 comments(0) -
魔法のコトバ*  Season2 初恋-5-
*******************************************

魔法のコトバ* Season2 初恋-5-

*******************************************





「蒼吾!行くぞ〜!!」
終わりの会が終わって、隣のクラスの男子が廊下から顔を出した。
「今行く!!」
蒼吾くんは一度教室の外を振り返って、慌しくランドセルに荷物を詰め込む。
乱暴に詰め込まれた教科書の端が折れても全然気になんかならない。
「あ、園田」
思い出したように蒼吾くんが振り返った。
「明日も算数の宿題、よろしくな!」
ランドセルを肩にかけながら蒼吾くんがにっと笑う。
「いいよ」
「じゃ、またな」
「うん。バイバイ」
蒼吾くんは手を上げると、誘いに来た隣のクラスの友達と部活に行ってしまった。


こういうやりとりも、今日で最後になちゃうのかな。
席替えしちゃうと、もうこんな風に話せなくなっちゃう。
背中を見送りながら、思わず涙ぐみそうになるのをぐっと堪えた。
黒板に大きく書かれた『席替え』の赤い文字がすごく憎らしい。




帰って宿題をやろう。
蒼吾くんにノートを見せてあげられるのは、明日できっと最後だ。
席が離れたら蒼吾くんはきっと、新しく隣になった子に宿題を見せてもらう。
もう私のノートは必要なくなる。
だから今日は、しっかり宿題をやっておこう。
きれいに書いて、念入りに答え合わせもしとかなきゃ。
そう思うといてもたってもいられなくなって、急いでランドセルに教科書やノートをしまった。
私がぼんやりしている間に、クラスメイトのほとんどが教室からいなくなった。
急がなきゃ。




ふと。
机に影が落ちて私は顔を上げた。
見上げると女の子が3人、机の前に立っているのが視界に映る。
…なに?
「ねぇ」
ひとりが口を開いた。
いつも髪の毛をふたつに結った気の強そうな女の子。
確か水野さん、だっけ?
去年も蒼吾くんと同じクラスで、始業式の日に一緒に座ろうって誘ってた女の子。
メゾピアノの派手な水色パーカーに膝上のデニムのミニスカート。
短いスカートから覗く足を大きく開けて私を睨みつけるように立ってた。
「ねぇ!」
水野さんはもう一度、強く私に言った。
「園田さんって蒼吾くんの事、好きなの?」
水野さんの言葉に私は大きく目を見開いた。
どうしてそんな事、私に聞くの?
訳が分からず水野さんを見上げた。
すごく怖い顔で睨みつけるように私を見てる。
どうして怒ってるの?
私、何か気に触ることしたかな?
鈍感な私は水野さんの質問の意図が見えず、口をぽかんとあけて顔を上げた。
きっとすごく間抜けな顔してる。
そんな私に痺れをきらして、
「蒼吾くんの事が好きなのかって聞いてるの!」
水野さんはもう一度聞いた。

蒼吾くんを好き?
私が?
好きだけど…。
何でそれを水野さんが聞くの?言わなきゃいけないの?




「ねぇ。質問わかってる?日本語分かる?に・ほ・ん・ご!!」
そう言って水野さんはずいっと私に顔を近づけた。
少し吊りあがった切れ長な細い目が私をギロリと睨みつける。
怖い。
私は思わず体を縮こまらせた。
横にいてそのやり取りを聞いていたふたりがクスクスと笑う。
木村さんと中村さん。
確かそんな名前だったと思う。
ほとんど話したことがないからうろ覚え。


「園田さんって言葉、わかんないんじゃないの?」
「日本人じゃないんでしょ? 英語で話してあげたほうがいいんじゃない〜?」
嬉しそうに顔を見合わせて、馬鹿にしたように笑う。



「日本人じゃないって……何?」
「園田さんって外国の血が混じってるんでしょ? だから目とか髪の色が薄いって聞いたの」
「ひとりだけ茶色くて変なの!」
「…確かに外国の血は混じってるけど…私、ちゃんと日本人だよ?」
「じゃあ何で髪がこんなに茶色いのよ! 校則違反じゃない!!」
水野さんが私の髪をグイッと引っ張った。
「痛いっ!!」
無理やり引っぱられて、私は机にうつ伏しそうになるのをかろうじて両手で踏ん張った。




どうして?
何で私が、こんなことされなきゃいけないの?
そんなの誰にも迷惑かけてないし、水野さんたちには関係ないじゃない。








「こんな変な髪で、蒼吾くんに近づかないでよ!」




水野さんが私の髪を握りしめたまま強くそう言った。




「隣の席だからって調子に乗らないで!」
「調子に乗ってなんか…」
「蒼吾くんがこのままの席でいいって言ったのは、あんたが隣だと文句言わずに宿題みせてくれるからよ! 園田さん真面目だしね」





ああ、そっか。
水野さんは蒼吾くんが好きなんだ。
鈍感な私はその言葉でやっと気がついた。
だからさっきの終わりの会で「席替えしなくていい」発言をした蒼吾くんに腹を立てて、私に焼きもちやいてるんだ。
別に蒼吾くんとは隣の席ってだけで、なんでもないのに…。







「ちょっと仲良くしてもらってるからって調子に乗らないで! 蒼吾くんに近づかないで!」
「園田さんみたいにとろくて見た目の変わってる子、蒼吾くんは迷惑なんだって!!!」



迷惑って───。
それ、蒼吾くんが言ったの?








「あんたみたいな鈍くさい子、迷惑なだけなの! 友達がいなくて同情してるだけなんだから!!」
迷惑?同情??
それも、蒼吾くんが言ってたの?
「あんたなんて宿題を見せてもらうだけの都合のいい存在! ただそれだけなんだから!!」
「席替えしたら、もう蒼吾くんに近づかないでよ!!」
「行こ!!」
3人は言いたいことだけ言っちゃって捨て台詞を残して帰っていった。
始業式の日に蒼吾くんの隣の席をゆずってもらえなかった事や、今日の蒼吾くんの発言に根を持ってる。
そういうのはお門違いって言うんだよ?






やだな、こうゆうの…。
迷惑とか、友達が少ないからかわいそうとか。
ほんとに蒼吾くんが言ったのかな。
宿題見せてもらうだけの都合のいい存在って、ほんとに思ってるのかな。
ふと視線を感じて顔を上げると、さっきまでの私達のやり取りを見ていたクラスメイト達が、私と目が合うと逃げるように教室から出て行った。
ぽつんと広い教室に私だけが残される。


「…痛いなぁ、もう……」
そっと引っ張られた髪を手で直すと、切れた髪の毛が数本、パラパラと机に落ちた。
随分強く引っ張られたみたい。
やだな、お腹も痛いよ。
気がついたらポロポロと涙が溢れて頬を伝ってた。
痛くて、悲しくて、悔しくて。
何も言い返せなかった弱い自分が情けなくて。
私は広い夕暮れの教室で声を押し殺すように泣いた。




こんなの今日が最初で最後だよ。
そう、自分に言い聞かせて。













でも。




これが全ての幕開けだなんて、この時は思いもしなかった。












NEXT→




魔法のコトバ*  Season2 comments(2) -
魔法のコトバ*  Season2 初恋-4-
*******************************************

魔法のコトバ* Season2 初恋-4-

*******************************************


蒼吾くんはよく笑う。
いつもクラスの中心にいて、よく笑って怒って。
表情がくるくる変わって、見ていて飽きない。
パワフルで、明るくて、行動的。
私にはないものをたくさん持っている男の子。
同じクラスになったことで、蒼吾くんのいろんな顔が見えてきた。

野球が好き。青が好き。ゲームが好き。
牛乳が苦手でいつも給食の時、我慢して飲んでること。
負けず嫌いで曲がった事が大嫌いな性格。
それでいて不器用。
友達がすごく多くて、休み時間はいつも彼の周りには友達が絶えない。
声が大きくて、よく通るの。
よく笑って、怒って、とにかくよく笑う。
口を大きく開けてわらったり、いたずらっぽく歯を見せてイヒヒって笑ったり。
顔をくしゅくしゅにしてはにかむように笑う顔が、私は何よりも大好きだった。








「園田、ちょっと消しゴム貸して。オレ家に忘れてきちゃってさ」


授業中、蒼吾くんがそっと私の肘を小突いた。
私はピンクの花柄の筆入れから消しゴムを取り出すと、そっと隣の机の上に置いた。
「さんきゅ」
あ。
またあの笑顔だ。
くしゅくしゅって顔いっぱいに浮かべる笑顔。
胸の奥をぎゅって掴まれるような、何ともいえない息苦しい感覚が私を襲う。
私がまだじっと見ている事に気付いた蒼吾くんが、にっと笑って自分のノートを指差した。
「?」
私が首をかしげると『コレ、見ろよ』といわんばかりの仕草でノートを渡した。
「…あ」
受け取ったノートの隅に、小さく男の子の絵が描いてある。
蒼吾くんを見ると、何やら伝えたそうな顔でこっちを見てる。
指でパラパラと教科書をめくる。
ああ、そっか。
私は蒼吾くんの言いたいことを理解すると、受け取ったノートの端をそっとめくってみた。
隅に描かれた男の子の絵がノートをめくると動き出す。
これ、パラパラ漫画だ───。
勉強が大嫌いな蒼吾くんが珍しく真剣にノートをとっているなと思ってたら、こんなものを作ってたんだ。
思わず笑ってしまう。
「それ」
あいつ、と前に立って授業をしている茂野先生を指差す。
野球部の顧問で熱血教師の担任、茂野先生。





蒼吾くんは4年生になって野球部に入った。
昔から野球が好きで、お父さんと休みの日にはキャッチボールをしてたんだって。
地元のリトルリーグと部活動。
どちらにしようか迷って。
結局、友達の多い部活動を選んではじめたのがついこの間。
茂野先生は去年のクラスマッチで、蒼吾くんの野球センスに入れ込んで。
彼をしごきまくってるって専らのうわさ。
「いい先生なんだけどさ、熱くなりすぎるから時々、ついていけないんだよな」
そう言いながらも、蒼吾くんは嬉しそうに笑った。
大好きな野球を。
大好きな学校で出来ることが、すごく嬉しいみたい。
パラパラ漫画の主人公は、熱血野球馬鹿な茂野先生。
空振りしちゃうへっぽこシーンは、先生への小さな仕返しのつもりらしい。
あまりにも子どもっぽくて笑っちゃう。






隣の席の特権は。
こうやって蒼吾くんと小さなやり取りが出来る事。
隣の席にならなかったらきっと。
『隣のクラスの蒼吾くん』っていう距離は変わらないままだった。
存在感の薄い私は、名前さえ呼んでもらえなかったかも。
クラスメイトって、隣の席ってすごい。
あまり好きじゃなかった学校が少しだけ、好きになった。
蒼吾くんに会える毎日は、キラキラ輝いて、何をしてもドキドキする。
このままずっと席替えしないといいのに。
私は毎日、そう願ってた。







でも。





「明日は、席替えをするぞ〜」
帰りの会で黒板に時間割表を書きながら、先生が言った。
「やったぁ〜!!」
って喜ぶ子や。
「え〜〜。このままでいいのに〜」
って席替えを嘆く子。
私は明らかに後者。
もちろん口に出してなんて言えないから、そのまま自分の席で固まったまま動けなくなった。
うそ。
もう席替えしちゃうの??
まだ新学期が始まって2週間だよ?
5月の連休が終わるぐらいまでは大丈夫だと思ってたのに。
あまりにも早すぎる展開に涙が零れそうになって、私は唇をぎゅっと噛締めて下を向いた。









「別に、このままの席でもいいんじゃねーの?」




クラスメイトの喜びを打ち破るように、よく通る声が教室に響いた。
声の主は蒼吾くん。
クラスがざわめいた。




「なんだ。夏木は席替えしたくないクチか?」
「だって別に不自由してないし。今の席で親睦を深めたのでもいいじゃん。授業に差し支えもないしさ」
「それ───お前が言えるセリフか? 学級委員の日下部がいうならともかく、夏木じゃなぁ。そういうセリフは毎日の宿題をちゃんとしてきてから言え」
「オレ、ちゃんと毎日宿題やってきてるじゃん」
「園田のを丸写しだろうが。それはやってるとは言えないんだよ、夏木」
「げっ。ばれてた??」
蒼吾くんのおどけた言葉に、クスクスと教室から笑い声が上がる。




蒼吾くんは毎日、宿題をやってこなくて。
毎朝、私の宿題を写しすのが日課になってた。
もちろんそれは蒼吾くんの為にはならないけれど。
写したあとに「さんきゅ」って、はにかむように笑う蒼吾くんの笑顔がとても好きだったから。
私はその朝の時間が大好きだった。
でも。
席替えしちゃったら、それも違う子の特権になっちゃう。



「わからないとでも思ってたのか? 先生を甘く見るなよ?」
先生はニヤリと笑うと、
「ま、そういうやつの為にも席替えは必要だ。望んでその席についたやつもいるけど、貧乏くじをひいたやつもいる。次は公平にするぞ」
「ちぇっ」
蒼吾くんは大きなため息をついた。
「とにかく明日は朝一で席替えだ。楽しみにしておけ」

先生はそう言って、時間割表の一番上に大きく赤字で『席替え』と書いた。












NEXT→
魔法のコトバ*  Season2 comments(0) -
魔法のコトバ*  Season2 初恋-3-
*******************************************

魔法のコトバ* Season2 初恋-3-

*******************************************



4年生になって。
クラス替えがあった。
新しいクラスは1組。
教室に入ると、みんな新しいクラスの話題で盛り上がっていた。
同じクラスになれた喜びを分かち合ったり、クラスが離れた友達の事を悲しんだり。
担任の先生は誰になったんだろうって話したり。
新しいクラスで迎える新学期に期待で胸を膨らませている、そんな感じ。
私は。
特に仲のいい友達と同じクラスなれたわけでもなく。
どちらかというと新しい環境になじめず不安の方が大きかった。
春は苦手。
新しい環境に自分から飛び込んでいくことが苦手な私にとっては、何もかも新しくなる春はあまり好きじゃなかった。




新しい教室を見回して空いている席を探した。
しばらくは、最初に座った席のまま新学期がスタートする。
だから最初の席取りって重要なの。
クラスの大半は新しいクラスメイトに気を取られているから、まだいくつか席が空いてる。
「あ」
窓ぎわに空席を見つけた。
前から2番目だけど、外が見える特等席。
私は一度、窓の外を確認してからその席に座った。
去年の3学期も窓際だった。
たまに体育の授業で蒼吾くんが見えたっけ。
今年も見れるかな。
なんて考えながら、ぼんやりと外を眺めていたら。


「なぁ。ここの席、開いてる?」


ふいに声を掛けられて顔を上げた。
その瞬間。
私の体が硬直した。









───蒼吾くんだ。


もしかして…同じクラス?






「この席いいか?」
なかなか答えの返ってこない私に痺れを切らせて、蒼吾くんがもう一度聞いた。
「…あ、うん」
小さく頷いて、私はそのまま下を向いてしまった。
顔が熱くて上げられない。
あまりに不意打ち過ぎて、きっと真っ赤だ。
「じゃあ、遠慮なく」
そんな私を気にするでもなく、蒼吾くんがドカッと隣の席に腰を降ろした。






うそ…。
何で蒼吾くんが私の隣に?
他にも席、いっぱい空いてるよ?
バクバクいってる心臓の音が聞こえるんじゃないかってぐらいドキドキしてた。
蒼吾くんは身の回りの荷物を机の中に整理すると、何やら1枚の紙を取り出し真剣に書き始めた。
カチカチって。
シャープペンの芯を出す音が鼓膜に響く。
空色のシャープペンが掌の上で、くるくると器用に回るのが見えた。

話かけた方がいいのかな。
でも、何を話したらいいの?
同じクラスになったことがないから、蒼吾くんは私の名前も知らない。
なのに私だけが名前を知ってるのって、やっぱ変だよね。
特別───みたいに取られたら、やだな…。
…あ。
あの時の事。
みずやり当番で花に水を上げていた放課後の事、話してみたら?
でも、覚えてなかったら……。





「あ、蒼吾くん!同じクラスだったんだ〜!!」
女の子が何人か近寄ってきた。
「…また、お前らと一緒かよ…」
うんざりした声に、私もつられて女の子達を見上げた。







…あ。



あの時の子達だ…。




初めて蒼吾くんに会った時に探していた子達。
同じクラスなんだ…。
聞こえてくる会話から、去年も同じクラスだったのがわかる。
楽しそうな様子にちょっぴり羨ましいなと思いながらも、私が話しかけなくてよかったって、胸をなで下ろした。





「それより。何でこの席なの?前から2番目じゃん。後ろの席、まだいくつか空いてるよ?一緒に座ろうよ」
ひとりの女の子が蒼吾くんの腕を掴んだ。
ふたつに髪を結い上げた気の強そうな女の子。
「いいよここで」
「え〜〜。何でぇ?」
女の子はそう言って頬を膨らますと、チラリと私を見た。

うっ。
思わず下を向いてしまう。
何だか私が悪いみたいな視線。
私が望んで隣になったわけじゃないのに…。
じわり、涙が浮びそうになる。
席、移動した方がいいのかな。







「何でこの席なの?」

「ここがいいんだよ」



無言の視線が私に注がれる。
あきらかに私を見てる。
すごい威圧感。
席をゆずってとばかりの強い視線。







「ねぇ…」

女の子が私に口を開きかけたのと同時。
「おーい!席に着け〜!!朝の会を始めるぞ!!」
ガラリと前の扉が開き、出席簿を手にした男の先生が入ってきた。
どうやらこのクラスの担任の先生みたい。
「先生来たぞ」
蒼吾くんは私の前に立つ女の子に声を掛けた。
「もうっ!」
女の子は怒ったように呟くと、じろりと私を一瞥してから諦めたように空いていた席に戻っていった。
見下したような視線。

…やだな。

思わず下を向いてしまう。
何だかお腹、痛いな。
私はそっとお腹に手を当てた。








新しいクラスの先生は茂野先生っていう男の先生で、野球部の顧問だった。
熱血の体育会系っぽい先生。
何だか私と合いそうにないな、とぼんやり憂鬱になる。
「なぁ」
ふと蒼吾くんが声を掛けてきた。
私はびっくりして、体を縮こまらせた。
なに?
ドキドキを彼に悟られないようにゆっくりと隣に顔を向ける。
自分の方を向いたのを確認した蒼吾くんが、先生に気付かれないようにそっと窓の外を指差した。






「桜。今、すっげー綺麗」




蒼吾くんが指差した方向に目を向けると、校門から校舎へと続く桜並木が見えた。
桜の花びらがひらひらと舞い落ちて風に舞う風景が視界に飛び込む。
薄紅色の幻想的な世界。
まるで映画のワンシーンのような風景に、思わずため息が零れた。




「ここって外見えるじゃん? 俺、授業中に外見るの好きなんだ」







あ。


だから?
だから…窓際にこだわってたんだ。







「な。きれいだろ?」





蒼吾くんが笑った。



くしゃって。
顔をくしゅくしゅにしてはにかむ笑顔。
あの時の。
ホームランを打った時の嬉しそうな笑顔とよく似てる。
この笑顔は今、私だけに向けられているんだなって思うと妙に嬉しくて、胸の奥がぎゅってなった。
頬が熱く、赤くなるのがわかって。
それを蒼吾くんに気付かれたくなくて、下を向いた。
蒼吾くんがまた笑って、窓の外の風景に視線を返す。
彼の横顔と。桜と。空と。
ドキドキしながらそれをそっと覗き見た。






それが、初めて。
蒼吾くんの事を好きだって、自覚した瞬間だった。






NEXT→
魔法のコトバ*  Season2 comments(0) -
魔法のコトバ*  Season2 初恋-2-
*******************************************

魔法のコトバ* Season2 初恋-2-

*******************************************


それから。
あの男の子が隣のクラスだって知ったのは、春の終わりの進級間際。
3年生が終わる少し前だった。

私の通ってた桜塚小学校は、必ず年度はじめと終わりにクラスマッチがある。
クラスの親睦を深めましょうってやつ。
そういうのが苦手な私は、毎年それが苦痛で仕方なかった。
全員参加型クラスマッチで、運動神経の悪い私がみんなの足を引っ張るのが何よりも嫌だった。


3年生最後のクラスマッチは野球。
リトルリーグ方式の6回。
なんで野球なんだろう。
サッカーじゃなくて野球だよ、野球。
学年主任の先生が大の高校野球ファンで。
「年の最後の締めは野球だ!!」なんて。
熱血してたみたい。
運動神経がいいとはいえない私は、もちろん出番は少なくて。
クラスマッチのほとんどをベンチで応援してた。



うちのクラス3年4組は順調に決勝まで駒を進めていって。
最後の対戦相手は隣のクラス3組。
6回の裏で先攻2−0。
2アウト1,3塁だったけど、あと1回を押さえればゲームセットでうちのクラスはもうすでに優勝ムードで盛り上がってたところだった。


それを覆した隣のクラスの男の子。
逆転2ランホームラン。
すっかり優勝ムードで、隣のクラスも諦めモードだったのに、
最後まで諦めなかった彼。
カーン。
って。
バットに当たる金属音と共に打球がぐんぐん伸びていって。
青い空に消えた。


今でもその時の光景は目に焼きついて離れない。


逆境に強くどんな時でも諦めない。
彼はそんな男の子だった。


ホームに帰ってきて隣のクラスのみんなが歓喜に駆け寄る中。
初めて私はその男の子があの日の男の子だって認識した。
よくやったなって、頭をくしゃくしゃにされながら嬉しそうに笑う顔。
太陽みたいな笑顔が焼きついて離れない。
それが隣のクラスの夏木蒼吾くんだって、初めて知った。




逆転さよならホームランでクラスに優勝をもたらした彼は。
一躍有名人になった。
女の子たちは「3組の蒼吾くん」って。
みんな名前で呼んでいて。
同じクラスの女の子達は、彼とすごく仲が良くて。
私もあの輪の中に入れたらいいのに、って。
いつも教室を通るたびに横目で眺めてたっけ。
引っ込み思案な私には、隣のクラスの男の子なんて遥か遠くの存在で。
とてもじゃないけど自分から声を掛けるのなんて無理だった。
もちろん。
蒼吾くんもあの日の私のことなんて、覚えてるはずもなく。
接点のないまま3年生は過ぎていった。


NEXT→

魔法のコトバ*  Season2 comments(0) -
魔法のコトバ*  Season2 初恋-1-
*******************************************

Season2 初恋-1-

*******************************************




初めて蒼吾くんに出会ったのは7年前。
小学校3年生のとき。
この頃の私はやっぱり気が弱くて、泣き虫で。
嫌なことを頼まれても断れない性格は相変わらず。
ちょうどその日も、花の水やり当番を押し付けられて。
口には出しては言えない文句をブツブツと心の中で呟きながら、夕暮れの校庭裏でみずやりをこなしてた。


大き目のじょうろに水を汲んでそれを両手で持ちあげて、花に水をあげる。
背の低い私にとって、6年生も使ってるじょうろは結構大きくて、水をいっぱい入れるとフラフラしちゃう。
でも半分の水だと、何度も往復しなきゃいけないし。
それなら重くても回数が少ないほうがいいかな、って。
重さで手が震えながらも私は頑張ってみずやりをしてた。


3度ほど花壇と水汲み場を往復して、あと1度で終わり。
安堵に大きなため息をつきながら水道から顔を上げると、向こうから男の子が走って来るのが見えた。
チラチラと後ろを気にしながら走ってきた男の子が、ふとこちらを振り向き私を見た。
視線がぶつかる。
すぐにそらされるかと思ったその視線は、外されることがなく。
痛いぐらいにじっとこっちを見つめてきた。




…な、なに………?

強い視線に耐えられなくなった私は、あからさまに顔を背けて、手元に視線を落とした。
まだ…見てる?
それどころか、近づいてきてる!?
気配がどんどん近づいて、俯いた視界に男の子が履いたスニーカーのつま先が見えても、怖くて顔を上げられなかった。





「……あのさ」

男の子が口を開こうとしたとき。



「夏木ーーーっ!?」
数人の足音と、誰かを探す声が校舎の向こうから聞えてきて。
「うわ、やべっ」
男の子は声のした方を一瞬振り返ると。
「悪い!ちょっと隠れさせて!!」
手洗い場の下に隠れ込んだ。


「えっ…!?」
私は咄嗟にスカートの裾を押さえた。
そして手洗い場の下を覗き込む。
そしたら、
「シッ!」
って、男の子は自分の口元に人差し指を当てた。
黙ってろって。

何…?

顔を上げると女の子達が3人、こちらに走ってくるのが見えた。
きょろきょろと誰かを探してる。
そのうちのひとりと目が合った。


「ねぇ、こっちに男子来なかった?」


この人の事だ。
とっさにピンときたけれど、何て言っていいのかわからなくて。
思わず。
「あ…あっちに行ったよ」
そう答えてしまった。
「あっちだって!」
「もう! 夏木のヤツ、逃げ足だけは速いんだから!!」
「ありがとねっ」
女の子達は文句を言いながら私にお礼を言うと、私が指差したグランドの方へ走って行った。


何がなんだかわけが分からず、私は口をぽかんと開けてその背中を見送った。
足音も気配もしなくなったぐらいに、
「…行ったか?」
男の子が水汲み場の下から聞いてきた。
「…うん」
私が小さく頷くと、よろよろと這うように出てくる。
「さんきゅ。助かった」
男の子は膝や腰についた泥を払うと無邪気な笑顔を向けた。
どうして追いかけられてたの?
私の口からその言葉は、簡単には出てこなかった。


「花のみずやり?」
私はコクンと頷いた。
それが精一杯。
「ひとりでやってんの?」
こくん。
「ふうん」
じーっと私を見つめる視線が痛い。
どうして?
なんでそんなに私を見るの?
「そんなのテキトーに済ませちゃえばいいのに」
「……」
そんなのできないよ。
私はもうとっくに汲み終ったじょうろを両手で持つと、残りの花壇に水をやりに行く。
歩くたびにチャプチャプと水が跳ねて、服を濡らす。
「真面目なヤツだなぁ。貸してみ」
「あ…っ」
男の子は私の手からじょうろを奪い取って、残りの花壇に水をかけた。
あんなに重かったのに。
この人が持つと、そんな風に見えない。
体格は私とあまり変わらないのに……。
「ほらよ」
からっぽになったじょうろを渡された。
「さっきの礼」
「え?」
「さっき、黙っててくれただろ? それの礼だよ」
黙ってた、って。
そんなつもりは更々なかった。
お礼を言われるようなことはしてないのに。
「なぁ。それ」
「?」
「それって、パーマか何か当ててんの?」
「…あ…」
髪のことをゆってるのはすぐに分かった。
今までも何度もいろんな人に聞かれたから。


私の髪の毛は、ちょっとくせっ毛で、それでいて色素が薄い。
黒じゃなくて栗色に近い茶色。
もちろんカラーリングもパーマもしてない。
私のおじいちゃんは外国の血が混じってて。
いわゆるハーフってやつで。
その血が混じってる私は目の色だったり髪の色だったり、ちょっと人より色素が薄いんだ。
人とは違う外見のおかげで、目立ちたくなのに目だってしまう。
そんな自分の髪や目の色がすごく嫌いだった。


「……何も、してないよ…」
男の子がやけにジロジロと見る理由がわかった。
また髪の事で何か言われると思ったら。
私は顔が上げられなくなった。




「可愛いじゃん」









え?



「フワフワしてていいじゃん、それ」








そんな言葉が出てくるなんて思わなかった。
顔を上げて男の子をじっと見つめる。




「いいよ、それ。お前にすげえ、似合ってる!」



そう言って笑ってくれた男の子の言葉は、お世辞やたてまえなんかじゃなくて。
ほんとうに心からそう思ってくれてるようなそんな笑顔だったから。
すごくドキドキした。
コメカミの辺りが、キュウって痛くなる。

なんだろ…これ。






「あ、夏木ーーーっ!! いたーーっ!!」

「うわっ、やべ!!」
男の子はびっくりしたようにふり返ると。
「じゃあな!!」
軽く手を上げて逃げるようにその場からいなくなった。


「待ちなさいよ!! 人に日直の仕事を押し付けてにげるなんてサイテーじゃん!!」
女の子達がバタバタと目の前を走り抜けて行く。



あれ…?
なんだ。
あの子も日直をさぼって、女の子に追いかけれてたんだ。
うちのクラスの男子と一緒じゃない。
それなら庇わない方がよかったのかな。



そう思いながらも。
男の子の言葉が耳から離れなくて。
しばらく耳に残って、忘れられなかった。





NEXT→
魔法のコトバ*  Season2 comments(0) -
| 1/1 |