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恋愛コンプレックス 3



「あーあ。かわいそうに」
降ってきた声を見上げると、海から上がってきた朝子が、濡れた髪をタオルで拭きながらあたしを見下ろしていた。
「……なによ、かわいそうって」
髪を滴ったしずくが、焼けた砂地に落ちる。
「もうちょっと優しくしてやればいいのに」
お節介な物言いにむっとしたあたしは、睨みつけるように朝子を見上げた。
「……朝子。わざと金子よこしたでしょ」
仲間内で集まっても、ふたりきりになる機会なんてほとんどない。
べつに避けてるわけじゃなく、金子は島や大野とバカばっかやってるし、あたしも朝子やとわといるからだ。
あたしがひとりなのをいいことに、金子にはっぱかけたに違いない。

「そんなに悪くないと思うんだけどなぁ、金子」
「だったら朝子が付き合えばいいでしょ」
「あー…。ナイナイ。ムリ」
ほれみろ。
自分でもありえない男をなんでわざわざ人に押し付けるかなぁ。
あたしはむくれて顎を抱えた膝の上に乗せた。
「勘違いしないでよ。ないっていうのは、受け付けないっていう意味じゃなくて、金子にその気がないからでしょ。だって金子が好きなのは鈴じゃん。アンタも薄々気づいてるでしょ」
気づいてるもなにも。
「……知ってるわよ。告られたこと、あるから」
とはいっても、もう7年も前の話だ。
金子のことは友達として好きだけど男としては見れないって、はっきり断った。
あたしが友達でいることを望んだから、今もずっと友達でいてくれてる。
視線を自分の手元に落として、手にしていたミネラルウォーターを口にする。
顔を上げると、朝子が変なカオでこっちを見ていた。



「……何?」
「知っててあの態度なわけ?」 
「その気がないのに、思わせぶりな態度取るほうが酷でしょ」
「そっちの方が、酷だと思うけど。その気がないけど、お友達でいましょなんて。付き合う気がないなら、いっそバッサリ付き合いそのものもやめちゃえばいいのに」
「やだよ。みんなで集まるのは楽しいもん。
それに、今も金子があたしを好きかどうかはわかんないじゃん? 告られたのって、高校生のときの話だよ?」
「好きでしょ。アイツの目、ずっと鈴を追いかけてんだもん」
あたし、なのか、おっぱいなのか。
奥手なくせに、目元はちらちらあたしの谷間を追いかけてんだよね。
「……そっちの対象として見られてるかもしんないじゃん」
「あんたねぇ…。男なんだからそこは仕方ないでしょ。そんな格好で目の前ウロつかれたら、誰だってみるわよ。
あたしだって女ながらに鈴のボディにはムラムラくるもん」
「……朝子。そんな目であたしのこと、見てたんだ」
肩にかけてあったパーカーをわざとらしくかき寄せてみせたら、朝子が指であたしの頭を小突いた。
目が呆れてる。
「うそうそ。冗談だって」
余計なお肉がついてなくて、モデルみたいな体系の朝子。
スレンダーなボディが羨ましい。
胸なんて結局、脂肪のかたまりだから。
「まあ、金子が奥手すぎんのよね。気ぃきかせて、ふたりきりにしてやったのに、押しが弱いっていうか。押し倒すぐらいの根性見せれば、少しは進展するかもしれないのに」
いやいや。
こんなところで押し倒されても困りますけど。
「女は結局、強引な男に弱いんだから。ね?」
朝子の言葉に曖昧に笑った。
金子だけはダメ。
だってあいつは、みんなに優しすぎるんだもの。





ひと泳ぎしたみんなが着替えから戻ったあと、荷物を片付けて解散になった。
夜は飲みに行こうなんて話してたのに、朝子もみっちゃんも彼氏のお迎え。
とわと酒井くんの仲の良さにあてられたのか、大野まで「彼女に会いたくなった」なんて、キモイことを呟いて。
彼女からの電話に嬉しそうに耳を傾けながら、あたしを残して帰っていった。
なによ、みんなしてさ。
「あたしにだって、迎えに来てくれる男ぐらいいるんだから」
携帯を開きかけて、やめた。
上辺だけのあたしを見て、好きだ、かわいいって言ってくれる男に迎えに来られても、今は嬉しくない。
本物を手に入れた酒井くんの幸せに満ちた顔を見てたら、偽者にしかすがれない自分が虚しく思えた。
それに。
会えば絶対、朝まで帰してくれない。
今日はそんな気になれなかった。
「仕方ない。電車で帰るとするか」
夕焼けのオレンジが優しい波になって、ビーチを淡く染める。
多くの家族連れで賑わってたビーチは、気がつけばつけば恋人達の時間になっていた。
こういうとき、独り身は身にしみる。





広い通りに出て立ち止まった。
駅は、ビーチを挟んで北と南にある。
少し遠いけれど待合室のあるきれいな駅と、近いけれど待合室も自販機もないさびれた無人駅。
疲れてるなら近い方がいい。
大き目のショルダーバッグを肩に掛けなおしたあたしは、重い足取りで駅へ向かって歩き出した。
さすがに一日中、太陽の下にいるとキツイ。
日に焼けた肌はひりひりと痛むし、体は気だるさがぬぐえない。
久しぶりに本気を出したバレーボールは、日頃の運動不足がたたって、腕や脚が筋肉痛だ。
水を吸った水着やバスタオルを詰め込の荷物は行きよりも数倍重くなってる。
25を超えると何かと体が言うこと利かない。
ヒールなんて履いてくるんじゃなかった。

高架下の人気のないトンネルをくぐって角を曲がったところで、ギクと足を止めた。
外灯の下に男が数人たむろってる。
くわえた煙草からゆらゆらと煙が立ち上り、乾いた笑い声が聞えた。
見るからにガラの悪そうな集団。
ああいう輩には近づかないに限るけど、あそこを通らなければ駅には行けない。
道は一本しかないのだ。
来た道を戻ってもうひとつの駅に向かう手もあるけど、それには結構な距離を歩かなきゃならない。
疲れた体でそれは絶対、嫌だった。
大丈夫よね。
ただ、たむろってるだけだもん。
目を合わせないように、何食わぬ顔で通り過ぎればいいだけ。
来た道を戻ることよりも、間近に見える駅を選んだあたしは、無視を決め込んで早足で駅へ向かった。
「おい、あれ昼間の」
その中のひとりがあたしに気づき、こっちを見た。
その顔に、見覚えがあった。
派手な茶髪に日に焼けた肌。じゃらじゃらと趣味の悪いネックレスをぶら下げた、軽そうな男。
ビーチであたしに声を掛けてきたやつだ。
にやけた厭らしい微笑みを向けられて、嫌な予感がした。
男が隣にいる男になにやら耳打ちした。
そいつを含めて数人がこっちを振り返った。
まずい。
昼間より人数増えてる。










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恋愛コンプレックス comments(4) -
恋愛コンプレックス 2



あたしの名前は、中田鈴。
平凡な名前からは似ても似つかない、派手な外見、メリハリボディが自慢の25歳。
独身。
さっきまで一緒だった彼、酒井ともひろは高校時代の同級生。
最近、あたしの親友、花井とわと結婚が決まって、幸せの真っ只中。
ずっと好きだった彼女に、ようやく手が届いた。
くっつくなら、もっと早くにまとまってくれよって思う。
そうすれば、あたしだってこんなにモヤモヤすることなかったのに。




「あ、鈴。おかえりー。どこ行ってたの?」
ふたりを見送ったあと、みんなのいる場所に戻ってみれば、それぞれが時間を満喫していた。
泳いだり、ビーチバレーしたり、携帯いじってたり。
自由気まま。
「海の家」
「にしては遅かったけど、混んでた?」
「たちの悪いナンパにつかまったのよ」
「えー? またぁ?」
「すげぇな、中田。今日何人目だよー」
携帯をいじってた大野がこっちを見上げて、無神経にケラケラと笑った。
「うっさい。バカ大野!」
睨みつけたら。
「……なんか俺、悪いこと言ったか?」
バツの悪い顔で、隣の朝子と顔を見合わせる。
今あたしは、虫の居所が悪いのよ。


こういう場所でのナンパの数は、軽い女のバロメーターな気がする。
だってわざわざこんな場所で、本命を探したりしないでしょ。
男なんて、本能で動く生き物。
やることしか考えてない。
下品な話、てっとり早くやれればいいって、心の中で思ってる。
こういう場所で声をかけるのは、軽くて遊んでそうで、簡単にひっかかりそうな女。
それがあたし。
そりゃ、悪い気はしないよ。
いくら軽そうに見えても、「おっ!」って思える美人じゃなくちゃ声は掛けない。
女の魅力を感じなきゃエッチだってなしだ。
ていうか、あたしレベルだったら、かけられて当然だと思うのよね。
だって、女を磨く努力は日々してるもん。
通り過ぎたあとに立ち止まってまであたしをふり返る男を見ると、ガッツポーズを決めたくなる。
気持ちのいい優越感。
だけどそいつらは、あたしのことを好きってわけじゃない。
かわいい、タイプだって、いくら褒められても。
そこに『愛』はない。
まあ。
ナンパに愛を求められても困るんだけどね。


「あ、そうだ。とわね。お迎えが来たから先に帰ったよ」
知ってる。
今そこで会ったもん。
「ご飯食べに行くんだってさ。式を予定してるレストランで、打ち合わせも兼ねて。
あのふたり、一緒にいるのが自然すぎて、付き合ってるって言われてもイマイチピンとこなかったんだけど、そういうの聞くととホントに結婚するんだなぁって羨ましくなっちゃった」
「……朝子、カレシいるじゃん」
「いるけど……。長すぎてマンネリ。付き合い始めの頃はあれだけラブラブだったのに…気付いてみれば今や長年 連れ添った夫婦みたい。休日といえば、彼んちでマッタリ過ごすだけで、デートらしいデートなんて最近全然だもん」
あたしみたいに短すぎるのもどうかと思うけど。
マンネリになるほど、長すぎる経験なんて、あたしにはない。
「さて。うちらもそろそろお開きにしよっか。最後にひと泳ぎしない?」
「ゴメン。あたし今泳いできた」
バカな男に飲み物こぼされたから。
ついでにシャワーも。
「荷物見てるから行ってきなよ」
じゃあ、と頭を下げた友人たちが見えなくなったあと。
あたしはレジャーシートの上に腰を降ろして膝を抱えた。


数分前を思い出すと、気が滅入る。
水着もメイクも完璧だったのに。
あたしには見向きもしなかった酒井くん。
腕を取っても、自慢の胸を押し付けても、何も感じてないクールな横顔。
一応ね。
あたしに気がなくても、たとえ彼女がいるやつでも、ドキリとするのよ。
柔らかくておおきな胸を素肌に近い状態で押し付けられたりなんかしたら。
酒井くんは昔からそう。
過去に一度だけ付き合ったことがあるけど。
迫っても、キスをねだっても、体を重ねても、これっぽっちもあたしに興味を示さなかった。
いくら体だけの男でも、エッチの最中はあたしに夢中になるのに、あの人はあたしにはまったく興味がない。
あんな惨めなセックスは初めてだった。
べつにロマンスを期待してたわけじゃないし、人の男を誘惑したいとか、そういうつもりもない。
酒井くんがとわ以外の女に興味がないのは、ずいぶん前から知ってたし、とっくにあきらめてる。
だけど。
「ああも無反応だと、さすがに凹わ」
酒井くんはいつも、あたしの自信やプライドを、ことごとく覆す。
「……あーあ。なんか頭、痛いや」
ぐずと鼻を鳴らして、抱えた膝の上に額を乗せた。


「…ッ、きゃぁ!」
突然、頭に何かをかぶせられて、あたしは飛び上がる。
見上げれば、でかい図体を折り曲げた金子。
「なに、たそがれてんだよ、中田! らしくねーな」
あたしを覗き込む無神経な笑顔にイライラする。
ていうか、なにこれ。
麦わら帽子?
「……ダサ」
思ったことが口をついて出る。
被せられたのは、つばの広い大きな麦わら帽子。
よく畑で農作業してるおじいちゃんやおばあちゃんが被ってるみたいなあれだ。
「夕方っつってもまだ日差し強いんだからな、被っとけよ」
「やめてよ! 髪が乱れるから!」
それをますます深く被せてくるから、あわててとった。
ていうか、そんなのどこで売ってんのよ?
ていうか、それで電車に乗ってきたの?
信じられない。
「見た目よりも機能じゃん。遊びに来て病気になるほうがシャレになんない。
つか。俺、電車じゃなくて、バイクだって。 メット被って、首にこれぶら下げてぶっとばしてきた。首絞まるかと思ったけどな」
馬鹿じゃないのか、コイツは。
やることなすこと、いちいちガキっぽくってやだ。
もう25でしょ。
中学生じゃないんだから。


「つか、他の奴らは?」
「最後にひと泳ぎしに行った。あんたも行ってくれば」
はっきりいってウザイ。
隣に寄り添わないで。
可愛いあたしに、ダサいあんたじゃ釣合わない。
「いや、いい。もうしこたま泳いだし、ここに残る。ホラ、お前いろいろ心配だし」
心配?
「さっきも男に絡まれてたろ?」
見られてたのか。
ていうか。
「見てたんなら助けなさいよ」
あたしがあからさまに嫌な顔してたの、気づいたでしょ。
付き合い長いんだから。
「危なくなったら行こうと思ってたら、酒井の登場じゃん。俺が出ていけるわけないってー」
頭をかきかき、がははと豪快に笑う。
あんたにプライドはないのか。
そんなんだから、あんたはいつまでたっても脇役なのよ。
彼女できないのよ。
見た目がっつり体育会系なくせに、奥手で、お節介なぐらい人に優しくて。
草食系男子?
一時期流行ったけど、あたしは苦手なタイプ。
男ならさ、押し倒すぐらいの根性見せてみろ。
「…ああ、もう頭痛い」
あたしは膝を抱えた。
「ほらみろ。炎天下にそんなかっこでずっといるから」
「べつに日差しのせいじゃないけど」
腹が立つから言ってやった。
「ホルターネックってさ、一点で支えるから重いのよ」
「なにが?」
無邪気にきいてきた笑顔にますますムカついて。
「おっぱい」
わざと大きな声で言ってやったら、周りにいた知らない人が、ぎょっとした顔をした。
ついでに隣の金子もおんなじ顔。
ばっかじゃないの?
腹いせに、わざと腕で谷間を強調するように胸を寄せて、上目遣いで思いっきり顔を作って見上げてやった。
「ば、ばっか…ッ! お前、こんなとこで…ッ」
金子は予想通りの反応。
なによ、真っ赤になっちゃってさ。
酒井くんの無反応もイラつくけど、そういう反応もどうかと思う。
経験ぐらいあるんでしょうが。


「……もういいから。マジで頭痛いからあっち行ってよ」
わざとらしいため息をついて、手を降った。
ひらひらと。
「だったらなおさら、俺がいたほうがいいだろ! 倒れでもしたら……つか、医務室行く?」
「いいから、ほんとあっち行って。マジうざい」
「ちぇっ。人が心配してやってんのに…」
足げにされてふて腐れた金子が、諦めて立ち上がった。
相変わらずでかい。
真横に立たれるとぬりかべみたいな威圧感。
「何かあったら大声で呼べよ。あっちで泳いでっから」
あんた呼ぶぐらいなら、自分で歩いて行くわよ。


正義感溢れる、凛々しく逞しい男。
いちいちリアクションが派手で、あつかましくって。
金子がそばにいると、気温が二度上がる。
暑苦しい。
キライ。











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恋愛コンプレックス comments(4) -
恋愛コンプレックス 1




あたしにもいつか、『本物』がくるのだろうか。








「ねえ、カノジョ。今、ひとり?」
真夏の太陽がギラギラ眩しいビーチで。
注文していたドリンクが出来上がるのを待っていたら、声を掛けられた。
……またか。
ため息をポーカーフェイスの裏に隠して、振り返れば男がふたり。
にやにやした笑顔を浮かべながら、あたしを見下ろしていた。
「可愛いねー、水着。すげえ似合ってるんだけど」
「それ、どこで買ったの?」
下心の滲み出た視線が、上から下まであたしを撫で回すのはいつものこと。
それが胸元で止ることにも気づいてる。
おっきな胸はあたしのセールスポイント。
水着だってそれがちゃんとキレイに見える色とデザイン選んでるもん。
男ならそこに目が行くのは普通。
だけど、あからさまに下品な視線はいや。

「俺らあっちの浜辺でジェットスキーやってんだけどさ、よかったら一緒にやらない?」
「……いい。友達と来てるから」
「友達も誘っていいよ」
「やったことないし、遠慮しとく」
「俺、インストラクターの免許持ってるし、初心者大歓迎!」
「でも、興味ないから。他当たってよ」
適当にかわしながら、注文していたトロピカルサワーを受け取った。
「つれないなぁ。他の子じゃなくて君がいいんだよ。俺すっげータイプなんだよ、君のこと。カワイイし、スタイルいいし」
なにがタイプだ。
中身を知りもしないくせに、よく言う。
アンタらが好きなのは、どうせあたしの身体でしょ。
そのサングラスの下が常にアタシの胸元やビキニラインを追いかけてることなんて、とっくのお見通しなんだから。
軽蔑を込めた視線で上から下まで撫で回してやると、何を勘違いしたのか、誇らしげに白い歯を見せて、茶色い髪をかき上げた。
あーやだやだ。
こういう自意識過剰男は。
ジャラジャラ下げたネックレスや、無駄に多く開けたピアス。
ひけらかす自意識過剰な態度。
こういう男、大きらい。


「西海の方にさ、泳いでは行けない入り江があって、すげえ海が碧くて最高なんだよ。穴場! 綺麗な魚がいっぱいいるし。ニモとか興味ない?」
ニモが流行ったのはいつの時代だ。
子どもじゃないんだから、魚ぐらいで女が釣れるか。
ていうか。
カクレクマノミは熱帯海域のサンゴ礁に分布・生息する魚でしょうが。
どこにでもいるわけじゃない。
知識のなさを暴露してるって自分で気づけないのか、この男。
「なあ、行こうぜ?」
しつこい!
「なぁってば! 無視すんなよ!」
「…あっ」
突然、腕を取られたもんだから、手にした飲み物がこぼれた。
「やめてよ、もう!」
30分も並んで買ったのに!
人気ドリンクで、もう売り切れちゃったんだから!
あたしは恨みを込めた視線で、キッと男を睨み上げた。
だけど男は動じない。
それどころか。
「わざとじゃないんだぜ? ごめんな? 新しいの買ってやるから行こうぜ」
なんてへらへら笑って。
「水着、平気だった? あちゃー、キワいところにこぼれたなぁ」
谷間を覗き込むにやけた顔。
わざとか、この男。
さすがのあたしもカチンときて一発ひっぱたいてやろうかと、拳を握り締めたところで声を掛けられた。





「……中田?」

その声であたしは思いとどまる。





「酒井くん……」

振り返れば、眼鏡の奥の鋭い瞳と視線がぶつかった。
なんてタイミング。

「……誰? 知り合い?」
あたしと酒井くんを交互に見比べながら男が言う。
この際、利用できるものはさせてもらう。
「カ・レ・シ」
酒井くんの腕に自分の腕を絡ませて、上から見下ろすように言ってやった。
えっ、と短くつぶやいて。
無遠慮な視線が酒井くんを上から下まで撫で回したあと、さすがに適わないと判断したのか顔を見合わせる。
「男いんなら、最初から言えつうの」
チッと舌打ち混じりに負け惜しみなセリフを呟いて。
男たちはそそくさと逃げ出した。
はあ?
なに言ってんの。
あたしぐらい可愛かったら、カレシのひとりやふたり、いるのは当たり前。
ていうか海にひとりで来るわけないでしょ。
バーカ。


心で悪態ついて。
「ありがとう、酒井くん。助かった」
とびきりの笑顔を作って、上目気味に酒井くんを見上げる。
「いや。俺は何もしてない」
低くそう言うと、絡めた腕を解かれた。
ちぇっ。
ちょっとでもダメなんだ。
あいかわらず変なところで堅いんだから。
べつに誰かに見られたところで、誤解されたりする仲じゃないんだからさ、そんなにあからさまじゃなくてもいのに。
まあ。
アイツらの前で腕を振りほどかれなかっただけでも、感謝しなきゃいけないんだけど。


「仕事帰りにお迎え?」
Yシャツにネクタイ、スラックスに革靴。
リゾート地に場違いな服装は、仕事帰りの証拠。
「ちょっと早くない? 遅れて来させた上に、もう連れて帰るわけ?」
「思ったよりも早く終わったんだよ」
「だったら酒井くんも遊んで行きなよ」
「この格好でか?」
呆れ顔があたしを見下ろす。
「いいじゃん、べつに。
ていうか、大野に服借りれば? アイツ衣装持ちだからさ、持ち合わせてんじゃない? 体系も同じぐらいでしょ」
金子はマッチョ系だから、スレンダーな酒井くんとはちょっと違うし。
「そこまでしなくていい。遊んで帰るつもりないから」
「海キライ?」
「キライじゃないけど、好きでもない」
「じゃあさ、夜は? たぶん遊んだあと、みんなで飲みに行くだろうからさ、そっちに加わわんなよ?」
それだったら、その格好でも平気でしょ。
「悪い。このあと、店予約してる」
「店?」
「ああ」
「とわと?」
「他に誰がいるんだよ」
「……ふぅん」
「……なに」
「べっつにぃ」
早く終わったんじゃなくて、早く終わらせただけのクセに。
店の予約だって無理矢理ねじ込んだクセに。
要はさっさと、大事な彼女を連れて帰りたいわけでしょ。
独り占めしたいわけでしょ。
知ってるんだからね。
彼女の可愛い水着姿を見せたくなくて、体中にキスマークつけてたこと。
ビーチバレーができないほど、激しく抱いたことだって。
涼しい顔が腹立たしいから、知ってること全部暴露してやろうかと思ったけど。
たぶん言ったところで、動揺する人じゃない。
むしろ認めて、仲のよさを思い知らされそう。
余計に惨めになりそうだから言うのはやめた。
自分のために。

「…わ。見て、あの人……」
リゾート地に場違いな服装が視線を集める。
ううん。
酒井くんの存在自体が、視線を集めてしまうんだ。
「……さすがにこの格好じゃ暑いな」
夏の日差しに顔を歪めてネクタイをゆるめる仕草まで、嫌味なぐらいかっこいいんだもん。
ていうか、ホント嫌味でしょ。
こんなタイミングで現れるなんて。














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