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魔法のコトバ*  Season7 キミに届け-6-
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魔法のコトバ* Season7  キミに届け-6-

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誰もいない美術室で、私はぼんやりと絵を見上げた。
学園祭当日。
二日目を迎えた午後の美術室は、がらんとしていて。
準備に追われてごった返していたあの一週間が、嘘のように静かだった。
お祭りムードで盛り上がりを見せる校庭や向こうの新校舎と違って、当日使われない旧校舎は、まるで時間が止まったような静寂な世界。
絵を見に来た生徒や外部の観客が、時折、足を運んでくれる程度。
二日目になるとなおさら人が少なくて、誰も来ない美術室で私はぼんやりと絵を見上げた。



「よ」
ふいに声を掛けられた。
振り返った先にいたこの場には不釣合いな人物に、ちょっぴり驚いて、私は何度も瞬きをした。
「…夏木くん…?」
目が合うとでっかい口元に笑顔が浮んだ。

「すげーな、絵」

制服のズボンのポケットに手を突っ込んだまま、ゆっくりこちらに歩み寄せる。
「見にきてくれたんだ」
「園田が見に来いって言ったんだろ?」
「…そうだった」
いつか交わした約束を思い出して、私は口の端を緩めた。
社交辞令のつもりだったのに。
ちゃんと約束守ってくれたんだ…。

「これだろ、園田の絵」
窓際の一番端の絵を指差した。
「初めてにしては上出来じゃん。気持ちが溢れてるってゆーか。…すげーよ…」
立ち止まったその先で息を漏らし、その絵を見上げた。


ずっと真っ白だった私のキャンバスは。
『春を想う』というタイトルがつけられて、美術室の一角に展示された。
薄紅と桜が溢れ出す淡い色合いの春の絵。
初めて本気で取り組んだ絵はぎこちなくて、一所懸命背伸びをしているようで。
まるで初恋を連想させる…そんな絵だった。

眠れなくなるほどに絵に没頭して、想いでキャンバスを埋めた。
行き場のなくなった淡い恋心を鮮やかにそこに映し出す。
ずっと真っ白だったキャンパスを埋めてくれたのは佐倉くんへ想い。
想いが絵になった。
優しくて温かくて。
柔らかな陽だまりのように居心地がよくて。
春のように淡く笑う彼が好きだった。
毎晩、一心に描いた。寝る間も惜しんで。
絵が完成した時、少しだけ気持ちが軽くなった気がした。
でも。
涙がこぼれた。
今まで絵にぶつけていた想いの行き場がなくなって、心にぽっかりと穴が開いたようで。
描いた春の陽だまりは温かくて切なくて。
ほんとはそんな安心できる場所に、ずっといたかった。
だけど。もう───。




「…やめんなよ」
絵を瞳に映したまま、ふと落とされた言葉。
「美術部」
弾かれたように蒼吾くんを見上げた。
どうしてだろう。
私、何も言っていないのに。
まるで心の内を見透かしてしまうような言葉を呟くから、胸の奥がドキリと音を立てた。

「こんなすごい絵描くのに、やめたらもったいねぇだろ」
穏やかに呟く。
「…私のなんて、すごくないよ」
佐倉くんの方がすごいんだよ。
見に来た人が、みんな彼の絵の前で立ち止まる。
足を止めてその絵の前で、息を漏らす。

両手を広げたよりも大きなキャンバスに描かれた佐倉くんの絵は、すごく広大でダイナミックで。
それでいて繊細で切なくて。
銀杏の舞う秋の風景画は鳥肌が立つほど幻想的だった。
出来上がったその絵を初めて見た時、涙がこぼれた。
今まで抑えてきた感情や想いが、どうしようもなく、止め処なく溢れ出して、涙が止まらなくなった。
私がずっと見ていた横顔が見つめていた世界。
それがそのままキャンバスに描かれていて、あの凛とした横顔を思い出した。
佐倉くんの感性の凄さを全身で思い知らされた。


「俺、絵って正直いって全然わかんねーけどさ。園田の絵、すげーって思うよ。鳥肌が立った。気持ちが溢れてるっつーか、押し寄せてくるっつーか。こんな凄い絵が描けるのにもったいねーだろ?だから…やめんな」
眩しそうに。それでいて照れたように絵を見上げて言うんだ。
その横顔から、お世辞とか励ましとか。そういう上辺だけの言葉ではないっていうのがひしひしと伝わってきて嬉しかった。
「ありがとう」
私は笑った。
素直に嬉しいと思った。
最近、蒼吾くんの言葉にいつも救われてる。
彼の何気ない言葉や行動に、背中を押されている気がする。

こんなに。穏やかに笑う人だったっけ…。

隣で優しさを滲ませて絵を見上げる蒼吾くんを見て、ぼんやりとそんな事を考えた。




「園田さん〜」
不意に、入り口から呼ばれた。
「交代の時間。回ってきていいよ」
「ありがとうございます」
腕時計に目をやると、ちょうど交代の二時を回ったところだった。
そういえばお腹すいたな。
「学祭、一緒に回るか…?」
蒼吾くんが大きな体を折り曲げて私を覗き込んだ。
「…え?」
予想外の言葉に恐ろしくぼんやりと聞き返して、蒼吾くんを見上げた。

でも…。

「凪ちゃんと約束してるの。
そろそろ実行委員も交代の時間だから。お昼、一緒に食べようって」
「…ふーん」
ちょっと拗ねたような顔。
あ。そっか。
凪ちゃんと蒼吾くん、あれ以来ぎこちないんだっけ。
話してるのとかあまり見かけない。
最近なんて私の方が彼と話す機会が多いくらいで…。

「ね、よかったら蒼吾君も一緒にお昼しない?」
「え?…俺はいいよ」
「いいじゃん。人数多いほうが楽しいし」
凪ちゃんと、話すきっかけができるといいな。
「ね、行こう?」
軽く腕を引っ張った。
蒼吾くんはバツが悪そうに頭を掻くと。
「わかったよ」
諦めたように呟いた。






* 





実行委員が使っている会議室は旧校舎の4階。
学園祭の催し物に使われない旧校舎は、殺風景でがらんとしていて。
廊下を歩く足音と、時折交わす話し声だけがやけに響いた。

「こっち、静かだな」

「うん」

微かに開いた窓の向こう、時折聞こえる雑音に耳を傾けながら目的の場所へ向かう。
腕時計に目をやると、約束の時間を随分過ぎていた。
引継ぎをしていたら思ったよりも時間が掛かってしまったから。
心なしか早足で廊下を歩き、私の後を蒼吾くんが歩く。

ぱこん。ぱこん、って。
上靴のかかとを踏んだ足音。
ぱたぱたと鳴る私の早足と違って、歩調がゆっくり。
背が高い分、コンパスの長さが違うのかな…なんて思いながら、歩みを進める。


校舎は静寂を鳴らし、空気がじっと鳴っている。
そんな感覚が私を襲う。

…何だろう。

なぜか胸騒ぎがして、ざわざわと胸の奥が音を立てた。


目的の場所に辿り着いて、半開きになった扉に手を伸ばす。
ふいに。
聞き覚えのある声が鼓膜を揺らした。

「…日下部」

凪ちゃんを呼ぶ、穏やかで優しい声。
男の人なのにちょっと高めの凛とした声。
聞き間違えたりしない。
佐倉くんだ。


…どうして───。


胸がドクリと音を立てて、気持ちを波立たす。
もう大丈夫だ。そう思っていたのに。
その声ひとつで簡単にあの時の気持ちを呼び起こす。
胸騒ぎがした。

そういえば佐倉くんも当日の係なんだっけ…。

彼の想いの行方を知って以来。
気持ちの整理がつくまでは…と。佐倉くんとは顔を合わせないようにしてきた。
顔を見たら。声を聞いたら。
心に決めた決心が揺らいでしまいそうで。
弱い私は簡単に壊れてしまいそうで怖かった。
なのにこんなところで───。

しかも凪ちゃんと一緒。
気持ちを知るまではふたりが一緒にいても何とも思わなかったのに。
今は一緒にいるところを見る勇気なんてない。
ずっと見ないように触れないように心の奥にしまい込んでいた気持ちが溢れそうになった。
胸がうずく。

「園田?」

どうした?って。蒼吾くんが心配そうな表情で私を覗き込んだ。

「あ…」

一気に現実に引き戻された。
そうだ。
もう決めたんだ。
あの絵を描いた時に、強くなろうって心に決めたはずなのに。

「何でもないよ」

そっと笑って扉に手を掛けた。





やめとけばよかったんだ。
引き返せばよかった。



「───さく、ら…ッ…」


凪ちゃんの悲鳴混じりの声が耳を掠めて。
その言葉は、紡がれることのないまま塞がれてしまう。
彼の唇によって、言葉も涙も飲み込まれてしまった。


バサバサっ、と。
凪ちゃんが抱えていた書類が音を立てて腕から滑り落ちた。
その音だけがやけにリアルに鼓膜を揺らす。




大好きだった横顔が、ひどく遠くに見えた。
私が知っている彼とは別人に見える。


なんて顔をしているんだろう。
愛しさを滲ませる彼の横顔。
私には見せたことのない佐倉くんのもうひとつの顔が瞳に飛び込んで視界を滲ませる。
溢れて。溢れて。止まらない。



見なきゃよかった。
見たくなかった。
こんな佐倉くん。



私の知らない、彼───。









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