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魔法のコトバ*  Season7 キミに届け-5-
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魔法のコトバ* Season7  キミに届け-5-

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駅を抜けて住宅街を走り、河川敷への坂道を駆け上がる。
目の前の景色が開けた時、川から吹き付ける北風に思わず目を瞑った。
冬の河川敷は人がまばらで、時折ベビーカーに子どもを乗せた若い女の人や下校中の小学生とすれ違う。
人通りの少ない静かでのんびりした道をゆっくりと自転車で走った。

「ここで食うか」
しばらく走って見つけた公園の脇に蒼吾くんが自転車を止めた。
ベンチには散歩の帰りに休憩してるお年寄り。
自転車を木の脇に止めると、ドカッと枯れ芝の上に腰を降ろす。
汚れていないかどうか確認をして、制服のスカートのプリーツを整えながら私もその隣に腰を降ろした。
「ん」
蒼吾くんが紙ナプキンに包んだドーナツを差し出した。
「ありがとう」
風に乗ってほのかにチョコレートのいい匂いがする。
お昼食べたばかりなんだけどな。
なんて思いながら、それでも甘い誘惑には勝てない。
ぱくんとそれをほおばる。
その横で蒼吾くんが大口を開けてドーナツをほおばった。
袋の中にはまだ2つ。
ほんとに甘いもの好きなんだ。
横目でぼんやりと蒼吾くんを眺めた。
「なん?」
きょとんとした顔で蒼吾くんが振り返った。
「甘いもの、好きなんだね」
「…男のクセに、って思っただろ?」
不機嫌そうに眉を寄せながら、2個目になるドーナツをほおばる。
「思ってないよ」
「…ふーん…」
半信半疑な顔でこっちを見る。
ドーナツがどんどん大きな口に吸い込まれていく。
私が半分も食べ終わらないうちに、あっという間に3つのドーナツが蒼吾くんの胃袋の中に収まった。

「食った食った〜」
満足そうに背伸びをすると、蒼吾くんがその場にごろんと寝そべった。
足を組んで空を見上げる。
私は慌てて食べかけのドーナツを口に押し込んだ。
蒼吾くん、食べるの早すぎだよ。
「ゆっくりでいいぞ」
私を見て蒼吾くんが笑った。
「ん…」
口の中がいっぱいな私はとりあえず首だけで頷いた。

「空。見てみ。すっげー青い」

寝転んだまま空を指差した。
見上げた空は雲ひとつない抜けるような青を覗かせて、どこまでも果てがなく見えた。
空気が凛と張っていて綺麗。
心に染み入るような空の青に、曇っていた心が洗われるようだった。

「俺、こんな青い空の日に生まれたんだってさ。
だから空の蒼(アオ)を取って、蒼吾」
「…そうなんだ」

すごく蒼吾くんらしい名前。



「夏木くん」
空を見上げた横顔にそっと声を掛けた。
「あの日…、ありがとうね」
私の言葉に少し考えて。
「ああ」
小さく笑った。



佐倉くんの想いを知ったあの日の帰り道。
ひとりだったらきっと、まだ立ち直れてなかった。
涙が枯れるまでっていう泣き方を身をもって実感するくらい泣いた。
そんな私を心配して、家まで送ってくれた蒼吾くん。
泣き顔のまま、電車になんて乗れなかった。
人通りの多い駅の前なんて通れなかった。
だから人通りの少ない河川敷の道を選んで送ってくれた。
頭からかけてくれた大きなスポーツタオル。
あれは蒼吾くんの優しさ。


「気持ちの整理、ついたのか?」
「うん…」
私は笑った。
「……」
「なに?」
「…いや」
肩をすくめて苦笑する。
「俺でよかったらいつでも聞いやるよ。相談料、高いけど」
「何それ」
私は笑う。


「さて、と。そろそろ行くか」
大きく背伸びをして立ち上がるとジャージに付いた草や土を勢いよく掃った。
「遅くなると怒られそうだし」
「うん」
座ったまま蒼吾くんを見上げたら。
「ん」
覗き込んだ顔がそっと手を差し出した。

「え?」

「手」

そう言って私の前に大きく手を広げた。

「いいから」

戸惑う私の手を引き上げて体を起してくれる。

あの日以来、蒼吾くんはちょっと違った感じで。
いつもと違う優しさに戸惑ってしまう。
気を使って心配してくれてるのがすごくよくわかる。
だからよけに心配かけちゃいけないって、思ってしまう。
私が笑わなきゃ、蒼吾くんが心配する。
凪ちゃんが好きな蒼吾くん。
心配かけちゃだめだ。
凪ちゃんにまできっと伝染する。
そうなったら佐倉くんだって…。
なんか堂々巡りみたいだな。


自転車をこぎながら、蒼吾くんが言った。

「頑張れよ。絵、見に行くから」
「…うん」
「じゃ、あとは人数分のジュースを仕入れて帰るとすっか!」
「夏木くん」
「ん?」
「ありがとう」


私はその背中にそっと呟いた。




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