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魔法のコトバ*  Season8 初恋〜サイド凪-5-
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魔法のコトバ* Season8  初恋〜サイド凪-5-

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転がった林檎を拾いもせずに、階段を駆け上がって、自分の部屋のベッドにうつ伏して泣いた。
ほんとうにショックだった。
あいつはあの日から、園田さんのことで頭がいっぱいなんだ。
彼女しか、見えてない。
悔しくて悲しくて。
いっぱい泣いた。
後からお母さんが部屋に持ってきてくれた林檎が、泣きつかれた喉に沁みて。
また、涙が出た。


次の日。
蒼吾はもうそのことに触れてこなくて。
安部たちの園田さんに対する中傷も相変わらず止まらない。
私も蒼吾もそれに対して何をするわけでもなく。
中途半端でもどかしい日々が過ぎていった。
そして、事件は起きた。

私は。
どうしてあの時、蒼吾の頼みを聞いてあげられなかったんだろうって。
あとで死ぬほど後悔した。
だって。
そしたら蒼吾が園田さんにキスするあんな場面を。
見ることなんてなかったのに。


暑い夏が幕を開けたあの日。
忘れもしない。















梅雨明け宣言が出されて早々、雨の日で。
いつもなら外に出てドッジボールやサッカーを楽しんでる男子が、ほとんど教室に残ってた昼休み。




「キャァァーーーーっ!!」

教室に悲鳴が上がって。
窓際の席のど真ん中。
まん丸な目を見開いて座り込んでる園田さんと、同じように床に座り込んで放心状態の安部。
そのふたりの間でバツが悪そうに俯く蒼吾の姿が、同時に目に飛び込んできた。





なに?

今の、なに────?






「嫌ぁーーーっ!!」
「なんで!? 蒼吾くん、やだぁ〜っ!!」




自分の席で友達と授業中に書いた手紙の交換をしていた私は、その手が止まった。
頭が真っ白になって放心状態。
だって。
今の、なに?




「なんで蒼吾くんが、園田さんにキスするのっ!?」



甲高い水野さんの声が教室中に響いた。










キス────?



園田さんが真っ赤になって口元を覆った。
まるで証拠を隠すかのように。
その仕草で、一気に目が覚めて現実に引き戻された。


うそ。



なんで蒼吾が、キスしたの?








教室はもう大騒ぎで。
男子の茶化す声と、女子の悲鳴の入り混じった泣き声と。
いろんな感情が入り混じって大騒ぎ。
騒ぎの中心で、園田さんが目に涙をいっぱいためて顔を覆う。
丸っこい目からポロポロとこぼれ落ちた涙。
それは決して止まることがなかった。



「俺がやるって言ったろ…ッ!?」
小さく囁くように聞こえてきた安部の声。
あいつ。
最初から園田さんにキスするつもりだったんだ。
本を取り上げて床に落としたのはわざと。
全ては園田さんにキスするために仕組んだこと。
サイテー。
絶対許せないって思った。
私が男だったら、胸ぐら掴んでぶっ飛ばしてる。
女の子だからそんなのやらないけど。
でもそれぐらい腹が立ってしかたなかった。
女の子にそんなことしようとした安部も許せないけど。
それに気付かなくて止められなかった私も、蒼吾にも、腹がたった。
だって。
蒼吾がキスしなくたっていいじゃない。

悲しいのか悔しいのか、それとも怒りなのか。
わけのわかんない感情がこみ上げて来て、私は思わず席を立った。
ガタンって、椅子が倒れたのも気にせず。
「ね、やめたほうがいいって…!」
そう言って止める友達の声も聞かずに。
気がついたら。






「ねぇ。いい加減にしたら?」


園田さんを庇うように仁王立ちをしている自分がそこにいた。
学級委員の立場とか、クラスをまとめなきゃとか。
そんなこと、どうでもよかった。
正義のカケラもなし。
園田さんのためとか、蒼吾に頼まれたとか関係ない。
自分のため。
あんな蒼吾、もう見たくない。




「もうそういうの、やめたら? あんた達、男のくせにかっこ悪すぎ。他にやることないの?」
安部のしたことは男としても人間としてもサイテー。
もちろん蒼吾も同罪。
「キスしたからってなに?
だいたい気持ちのこもってないキスなんて、カウントに入らないでしょ?」
見たくなかった。
あんな蒼吾。
キスなんて、お互い好きでないとカウントされない。
蒼吾は好きでも園田さんは違うんだよ?
私は自分に言い聞かせるように強く言った。
そうでもしなきゃ、涙が溢れてしまう。

「な、…なんだよっ、日下部…っ」
勢いに負けて、安部の体が一歩後ずさった。
「おまえ…偉そうに言ってるけどな…っ、キスの経験もないくせに偉そうな事いうなよ!」
「────経験? …あるわよ」
わざとに安部を見下ろすように冷ややかに言ってやった。
こういう上辺だけのやつには、はったりでもよく効くんだ。
案の定。
「……え…?」
安部の顔から血の気が引くのがわかった。
予想外の返事に戸惑いの色が隠せない。

「キ・ス。したことあるからゆってるんでしょ」
教室の中がシン、って。
静まり返った。
ごくって安部が唾を飲み込むのが見えた。
「そっちこそ、したことないのに偉そうなこと言わないで」
冷たく言い放つと。
「大丈夫? 園田さん」
床にぺたんと座り込んでいる園田さんに声を掛けた。
突然の出来事に。
涙をいっぱい溜めたくりんとした目を大きく見開いて、私を見上げる彼女。
顔が涙でぐしゃぐしゃ。
彼女は今までずっとひとりでこんな状況に耐えてきたんだ。
そう思ったら罪悪感にチクリと胸が痛む。
この痛みは学級委員としての責任感。





「園田さん?」

小さな背中にそっと触れる。
私を見上げた顔が一瞬、ふわって笑って。
次の瞬間。
その場に崩れるように倒れ込んだ。







「…え…? 園田さん…? 園田さん────!!」


今まで張り詰めていた気持ちの糸が切れた瞬間だった。



ごめん、園田さん。
本当にごめんね。
助けてあげられなかった、ずっと見ないふりをしてきた結果が、彼女をここまで追い詰めた。
罪悪感にかられながら、私は何度も心の中で、謝罪の言葉を呟いた。






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