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魔法のコトバ*  Season8 初恋〜サイド凪-10-
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魔法のコトバ* Season8  初恋〜サイド凪-10-

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春は嫌い。
浮き足立った世間の波に、自分だけ取り残されてるような感じがするから。
あの日の惨めな気持ちを思い出す。









6年生になった春。
新しく担任になった岡田先生が言った。
「───残念なお知らせだが、園田が転校した」
教室が大きくざわめいた。
だって誰も知らされてなかったから。
5年生から持ち上がったクラスメイトのまま、卒業するんだって誰もが思ってた。
なのに。
「お父さんの仕事の都合で、サンフランシスコへ移住した」
ざわめきが強くなる。
だって小学生にとって海外なんて遥か遠い国。
「本人たっての希望で、転校することはみんなに内緒にしていてくれということだったので、今日まで伏せていた。別れが辛かったんだと思う。ひとりクラスメイトが減って寂しくはなるが、また新しい気持ちで新年度をスタートしてほしい。以上!」
そう締めくくった先生の声は。
あいつの耳に最後まで届いていなかった。




「日下部っ!」
朝のHRが終わったとたん、蒼吾がすごい剣幕で顔を寄せてきた。
「なに?」
理由は分かってたけれど、わざととぼけたような声を上げた。
「……こっちこいよ」
授業の準備をしていた私の腕を強く引っ張って、蒼吾が廊下に連れ出した。
刺さるようなクラスメイトの視線なんて視界に入ってない。
何もしゃべらない背中が怒ってる。
屋上へと続く階段の踊場までくると、ようやく腕が解放された。
つかまれたところがジンジンする。

「なに? こんなところまで連れてきて」
「園田が転校ってどういうことだよ?」
やっぱりその事。
クラスのみんな知ってるんだから、別に場所を変えなくってもよかったじゃん。
「お前、聞いてたんじゃないのか?」
顔がひどく怒ってる。
「聞いてたよ。でも、ましろが誰にも言わないでって言ってたから…」

泣きそうな顔で外国に行くことを告げたあの日。
クラスのみんなには言わないで、って。
ちょっぴり寂しそうな顔で笑いながら、ましろが言ったんだ。

「目立って騒がれるのが苦手だってこと、蒼吾も知ってるでしょ?」
「だからって…」
唇を噛み締める。
「何で言ってくんなかったんだよ…っ!!俺が、あいつの事好きなの知ってるくせに…っ」
すっごく悔しそうな顔で言うんだ。
なにそれ。
それを私に言うんだ。
なんでそんなにもましろが好きなの?
熱いものが胸に込上げてきて、私は強く唇を噛締めた。

本当は。
蒼吾にだけは話そうって思ってた。
ましろへの気持ちを知ってたから。
でも。
誰にも言わないでね、約束だよって、ましろのコトバに。
ずっと心の奥深くに閉じ込めていた私の心に、魔が差した。
誰にも、って。
蒼吾にも言っちゃだめってことだよね?
だって、約束したんだもん。

ましろの転校が決まって悲しかった。
本気で泣いた。
ましろのこと、大好きだったから。
でも。
泣きつかれて、ふと冷静になってみたら。
心のどこかで、もしましろがいなくなったらって思う自分がいて。
もしそうなったら蒼吾は────って。



嫌な子だ、私。








「何でお前が泣くんだよ」



無愛想な蒼吾の声が降ってきた。
知らず、涙が零れる。
だって。
「私の気持ち、全然わかって、ない…っ」
ぎゅっと掌を握りしめた。
気持ちのカケラがこれ以上、溢れてしまわないように。
「なんだよ、それ…」
「…私だって…っ」
蒼吾が好きなんだよ?
私の顔を見ればましろ、ましろって。
そんなのひどいよ。
溢れる涙をぬぐいもせずに私は真っ直ぐに蒼吾を睨みつけた。
弱い部分なんて見せるつもりはなかった。
私が泣いたってこいつは痛くもかゆくもないんだ。
いつだってましろだけ。
泣いたって抱きしめてくれたりなんか、しない。


「…悪かった、よ」
小さく呟く声。
「悪かったって」
そう言ってバツが悪そうに頭を掻いた。
「お前ら、仲よかったもんな。転校するって聞いて、お前だって辛かったよな。俺、カッっとしてて。…ごめん」
頭を下げた。

ほんと。
わかってないんだ。
こいつは鈍感だから。
きっと言わなきゃ私の気持ちになんて気付かない。
もしも、ここで。
私が好きって伝えたら、蒼吾。
どんな顔、するんだろう。
少しは私の事も見てくれるようになるの?
心の隅にでも私の事を考えてくれる時間ができるの?
ましろは、もういないんだから。
私は、きゅっと唇を噛み締めた。


「でも、さ。
…俺だって辛いんだよ。
俺、あの時のまんま、ちっとも進歩してねぇよ。園田に、好きもごめんも。何にも伝えてねぇのに…っ!」

悔しそうに唇を噛み締めて俯く蒼吾の顔。
それを目の当りにしたら、もう、何も言えなくなった。
すごく惨めで、報われない気持ちを思い知らされた瞬間。
ましろがいてもいなくても。
蒼吾の気持ちは変わらない。
きっと、これからもずっと。
そう思ったら悔しくて悔しくて。
溢れる涙を乱暴にぬぐって。
気がついたら、口から出てたコトバにびっくりした。









「もう、ましろは帰ってこないから。ずっと向こうで暮らすんだって」




とっさについた嘘に、蒼吾の顔が大きく歪んだ。








「…んだよっ、それ!!」



ガンっ!って、屋上への扉を蹴り上げた。








「もう、ましろには会えないから」


だから。


もうこれ以上、ましろを好きにならないで───。









「…ち、きしょう…っ」
泣きそうな顔で頭を抱え込んで座り込む蒼吾の姿に。
惨めな気持ちと、大きな罪悪感が胸を締め付けた。






ほんとは。
「仕事のめどがついたら2〜3年で帰ってこれるかもしれないから……だから、待ってて」
って、笑ってさよならしたんだけど。
教えてやらない。
だって、海の向こうに気持ちは届かない。
蒼吾の気持ちはもうずっと、ましろに届かなければいい。




小学生の私達にとって。
海の向こうの外国は、永遠に手の届かないような場所だった───。








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