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魔法のコトバ*  Season8 初恋〜サイド凪-9-
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魔法のコトバ* Season8  初恋〜サイド凪-9-

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「凪ちゃん、音楽室いこ」
移動教室の前の休み時間。
珍しくましろが私の席に誘いに来た。
あの事件以来。
蒼吾を避けていたましろは、2学期になって私の席にあまり来なくなった。
理由は簡単。
私の前に蒼吾が座ってるから。
だから休み時間は、私がましろの席に移動して話す事の方が多かった。

「早いね、ましろ」
「うん。日直だから。音楽室の鍵、取りに行かなくちゃいけなくて」
あ、なるほど。
特別な理由はないんだ。
「じゃあ、行こっか」
準備の出来た教科書と筆記用具を持って席を立った。
その時。





「ましろちゃん」


背後から誰かに呼び止められた。



え?

ましろ…ちゃん?



今の、なに?
声が高かったけど、明らかに男子の声だった。







「リコーダー、忘れてる」
小花柄のキルトで作られた可愛いリコーダーケースを手渡す顔が爽やかに笑った。
転入生、佐倉。
真っ白なTシャツに水色のチェックのシャツを合わせた爽やかな格好。
夏でもあまり汗をかかない顔がにっこりと微笑んでる。
今。
ましろのこと、名前で呼んだよね?
「ありがとう」
って、嬉しそうに袋を受け取るましろ。
特に驚いた様子もなく、普通に笑って返す。
名前で呼ばれても違和感がなかった感じ。
ちらりと前の席を見ると。
クラスメイトと大口開けて笑ってたあいつの顔が固まってた。
うっ、わ…。



「じゃ、音楽室でね」
って。
佐倉は何事もなかったかのように、他のクラスメイトと一緒に音楽室へ向かった。
「いこっか」
振り返ったましろが笑う。
「あ、うん…」
こっちは放心状態。
あれって、今初めて名前で呼んだ感じじゃない。
呼びなれた感じだった。
あいつ、いつからましろを名前で呼んでたんだろ。
全く気付かなかった。

「凪ちゃん?」
どしたの?って。
自分より少し後を歩く私を、ましろが不思議そうに足を止めて振り返った。
「ね」
「ん?」
「ましろって…佐倉と仲いいね」
一瞬、きょとんとした顔をすると。
「…そっかな」
照れたように笑う。
「もしかして…あいつのこと、好きだったりする?」
私の言葉にくりんとした目がますますまん丸になって。
「まさか〜」
って、大げさなくらいに首を横に振った。
「そんなんじゃないよ。佐倉くんって優しいでしょ?なんか話しやすくて」
照れたように笑う。
「だよね」
でも、名前で呼んでたよね。
だからどうだって言われても困るんだけど。
蒼吾のあんな顔を見たら、ちょっと気の毒に思えた。
「佐倉くん、すごくいい人だよ?」
って屈託ない笑顔を見せるましろ。

この時はまさか。
数年後にましろが佐倉に恋をするなんて思いもしなかったから。
ふたりの仲良しな関係をこれ以上、深く追求する事はしなかった。
でも。
佐倉が転入してきたおかげで。
私は6年生の春まで、3人の微妙な関係に振り回されることになってしまった。










「ね、ましろにちょっかい出すのやめてくれる?」
昼休み。
探し回ってやっと見つけた屋上で。
スケッチブックを片手に座り込む爽やかな横顔に、ちょっとぶっきら棒な口調で声を掛けた。
「え?」
って。
描きかけのスケッチブックから佐倉が顔を上げた。
「だって、やたらとましろばっかり構うでしょ?」
ましろだけ名前で呼ぶし。
それってまた、ましろが反感買うんだよ。
ていうか、ましろのこと好きなの?
「なに?日下部ってましろちゃんの保護者?」
「そんなんじゃないよ!」
ムッとした。
「ごめんごめん」
そう言って笑う。
「でも雛鳥を守ってる母親みたいだよな?」
「なにそれ」
「ましろちゃん、ふわふわしてて雛っぽくない?」
かわいいよな、って付け加えた。
それ、蒼吾の前で言わないでよ。
あいつ、きっと動揺する。
ただでさえライバル出現か!?ってなぐらい焦ってるのに。
真っ直ぐなくせに不器用なやつ。
ささっと告っちゃえばいいのに。
そうすれば私だって少しは吹っ切れる。
でもふられるんだろうな。
そうなったらまた堂堂巡りだ。
はぁ、ってため息が出た。

「もういい」
「いいの?」
だって佐倉と話してると調子がくるっちゃう。
こっちが気を張って話してるのに、のんびりした穏やかな表情で言うんだもん。
力が抜ける。
まだ威勢のいい安部と話すほうが私の性に合ってるかも。
「そう?」
特に気にするでもなく、佐倉はまた手元に視線を落とした。


ふとその手元を覗き込むと、描きかけの絵が目に飛び込んできた。
屋上から見える景色。
空の青と山の緑のコントラスト。
「絵、うまいね…」
気がついたら思わずそんなコトバが出てた。
一瞬、顔を上げた佐倉が目を丸くするとにっこりと笑った。
「さんきゅ」
また視線が手元に落ちる。
「絵、好きなの?」
「うん」
顔も上げずに頷く。
真剣な横顔。
「人とか動物とかは、描かないの?」
佐倉の絵があまりにもうまいから、ちょっと聞いてみたくなった。
「生き物を描くのはあんまり好きじゃないんだ」
「どうして?」
「なんとなく」
ふーん。
こんなに上手なのに。
「ね。私、描いてみてよ」
だって、うまい人が描く自分ってちょっと見てみたい。
この前の図工の時間に、席の隣同士でお互いの顔を描き合ったんたけど。
安部の描いた私の絵って最悪だった。
ほんと。
破り捨ててやりたいぐらい。
そういえばあの日、佐倉は欠席してたんだっけ。

「日下部を?」
きょとんとした表情で座ったまま、私を見上げた。
「うん、描いてよ」
私のコトバにちょっと困ったような顔をした後。
佐倉は新しいページをめくるとサラサラと鉛筆を動かし始めた。
細くてきれいな手が魔法のように動く。
ちょっとすごいなって思った。
折り紙で鶴も折れないようなぶきっちょな蒼吾と全然違う。

「できたよ」
そう言って差し出された絵。
思わず私は顔をしかめた。
「なにこれ」
「雛鳥を守る日下部母の絵?」
苦笑まじりに差し出された絵は、二頭身の私が鳥に扮して怒っている漫画のようなイラスト。
絵っていうより漫画だよ、それ。
「ひどっ」
私は頬を膨らませた。
あははって、佐倉が笑う。
笑うとその辺の女の子よりも可愛い顔して笑うんだ。
不覚にもちょっとドキっとしてしまった。
クラスの女の子達は、きっとこの笑顔にやられたんだ。
危ない危ない。

「とにかく。ましろに必要以上にちょっかいださないでよね」
「…ん〜。考えとく」
「考えとくって…」
「ましろちゃんってさ、ぽやぽやしてて何だか放っておけないから、つい構いたくなるんだよね。日下部もそうじゃないの?」
それは分かるんだけど。
「とにかく、忠告したからね!」
「はいは〜い」
佐倉はわかってんだかわかってないんだか。
気のない返事をして手をヒラヒラと振ると。
また何事もなかったかのようにスケッチブックに視線を落とした。
変なやつ。
何考えてるのかわかんないよ。




その後。
佐倉は私の忠告を聞き入れることはなく、相変わらずましろと仲良しこよしだった。
そのたびに私は。
頬杖をついて、なんともいえない表情でふたりを見つめる蒼吾の背中を。
複雑な気持ちで見守った。
ましろは。
佐倉のおかげで男子への恐怖心とか、トラウマとか。
いじめられてた頃の心の傷が少しずつ和らいできている感じがした。
そんな様子を見てたら。
佐倉にましろに近づくな、なんていえなくて。
私はただ複雑な気持ちでふたりを見守った。

ましろの心の傷が回復しても。
蒼吾との仲は相変わらず。
4年生が終わっても、5年生になっても。
私とましろ、蒼吾と佐倉は微妙な関係のまま。
少しずつ大人へ階段を登っていった。



そんな中。
6年生を迎える前の春休み。
いつもと違う泣き出しそうな顔でましろがこっそりと私に言った。





「私、春で転校しちゃうの…。外国、行っちゃうんだ…」



って。


一瞬、何の事いってるのかわからないくらい。
頭が真っ白になった。





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