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魔法のコトバ*  Season8 初恋〜サイド凪-12-
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魔法のコトバ* Season8  初恋〜サイド凪-12-

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夏の大会間際に。
個人で出場が決まった高跳び。
どうしても思った記録が出せなくて。
みんなが部活を追えた後もひとりで残って練習してたあの日。

辺りが暗くなるまで練習して。
バーの輪郭が見えなくなるまで頑張って、やっと納得のいける高さが飛べた。
すごく嬉しくて。
明日、蒼吾に話そうって。
すがすがしい気持ちで部活を終えた。
「日下部、もう上がれよ。みんなとっくに帰ったぞ」
って、顧問の先生の声に。
私は喜びを噛み締めながらマットやバーを体育倉庫にしまった。
蒼吾も頑張ってんのに負けてなんかいられない。
そんな気持ちが私の背中を押してくれた。
頑張らせてくれた。
これも、蒼吾のおかげ。
って。


なのに。


水道で顔を洗って汗を拭いて、部室に帰る。
みんなとっくに帰っていて、部屋はガランとしてた。
早く着替えて帰っちゃおう。
蒼吾、もう帰っちゃったかな。
帰りにちょっと寄ってみよっかな、なんて。
逸る気持ちを押さえながら、ユニホームのランニングの上に羽織ったパーカーを脱いだ。
「…ッ!?」
ふいに誰かに口元を塞がれた。
な、に?
一瞬、目の前が真っ白になった。






「……声、出すなよ?」


耳元で声がした。
男の声。
聞いた事がある。
震える体で恐る恐る後ろを振り返る。
「…先、輩…?」
先週、屋上で私に告ってきた先輩。
茶色いサラサラの髪が揺れた。
なんで、ここにいるの?
いつからいたの?
全然気付かなかった。


目が合った先輩が。
「お前、むかつくんだよ」
チッって、耳元で吐き捨てるように言った。
「ちょっと顔が可愛いからって、調子に乗ってんじゃねーよ」
な、に…言ってんの?
言ってる意味が、わかんない。
動悸が激しくなって。
怖くて逃げ出したいのに体が動かない。

「俺、結構もてるんだよね?今まで女をふったことはあっても、ふられた事ってねぇの。お前が初めて。結構、屈辱的だったよ」
そう言って顔を近づける。
「誰とも付き合わないって噂、ほんとだったんだな。お高くとまってんな、お前。
憧れのマドンナ日下部凪、か。お前を落としたら俺のステータスが上がるって思ってたんだけど」
耳元にざらりとした声。
鳥肌が立った。
「お前、男と付き合ったこと、あんの?」
口を塞がれたままの状態で私は首を横に振る。
それが精一杯。
「だろーな。好きなやつって、誰?そいつ俺よりもいい男?」
顔を近づける。
ゾクって寒気がした。
「名前、教えてよ?」
ブンブン。
首を横に振る。
あんたになんて絶対教えてやらない。
「同じガッコのやつ?」
不敵に笑う口元。気持ちが悪い。
絶対、言うもんか。
「1年?それとも上級生?」
絶対、言わない。
「運動部?」
フッって、耳元に息を吹きかけられた。
一気に恐怖心が足のつま先から頭の天辺まで駆け上がって。
目頭が熱くなった。
「ふーん」
そんな私を、馬鹿にしたような顔で見下ろすと。


「やめた」

え?

な、に…?

「そいつの名前を聞き出して、ぼこぼこにしてやろうかと思ったけど。
やめた。気が変わった」
そう言って顔を近づけた。
きれいな顔してるけど、企んだように笑った表情が気持ち悪い。
吐き気がした。
「お前、やっぱすげー美人。気が強いところも結構、タイプ」
なに、言ってんの…?
「付き合った事がないってことは、そういう経験もなしか」
なんの、こと…?
「キス。したことねーだろ? もちろんその先も」
どくん。
って心臓が鳴った。
蒼吾を思ってる時の、胸がぎゅってなるような感覚じゃなくて。
危険を感じて震える感じの音。
じわりと嫌な汗が出てきた。
危険だって。
頭の中でシグナルが鳴り響いてるのに体が動かせない。
怖くて怖くて、動けない。











「俺をふったこと、後悔させてやるよ────」



そう言った口の端がニヤリと上がったのが見えて。
私の口元を塞いだ手が、一瞬、離れた。
声を出そうって、口を開けようとした瞬間。
また。
唇が塞がれた。
さっきとは違う感触。



「…ッ…!!」

ぬるりとした生暖かい感触が唇に触れる。

「…ッ、や…っ…!!!」



先輩は。
私の両腕を壁に押し付けて、無理やり唇を押し付けた。
舌が唇をこじ開けて侵入してくる。
「…っ、や、だッ…やめて、…っ!!」
声は届かない。



みんながカッコイイって、イケメンだって騒いでた先輩は。
軽薄で馬鹿で、サイテーな男だった。
遊んでるって噂、本当だったんだ。
顔は良くても中身はサイテー。
こんなやつ、ちっともタイプじゃない。
夢もなくて放課後もプラプラしてて、中身のないような人間。
そんな男、やだ────!




手がランニングの裾から侵入してきて、肌に触れた。
じっとりと湿って生ぬるい手。
悪寒が走った。
「や、だ…っ!!」
抵抗するのに全然手応えがなくて。
「誰か…っ」
声を上げるのに届かない。
「黙ってろ!」
その声でさえ、簡単に塞がれる。
嫌だ。
蒼吾以外の人に触れられるなんて。
嫌だ……っ!!!!














「────なに、やってんだよ?」



部室に風が抜けた気配がした。
キィって小さく扉が開いて、知ってる顔が見えた。
その顔つきが変わった。
「何やってるんだって言ってんだよっ!!」
ガンッッって、扉を蹴り上げる音に。
私を押さえつけていた先輩の体がビクリと上下した。
蒼、吾。
なん、で………。


先輩の返事も聞かずに。
ものすごい剣幕で部室に駆け込んだ。
私がどんなにもがいても振り切れなかった腕を、いとも簡単に引き剥がす。
「何だよ、お前?」
先輩の声に耳も貸さずに、そのまま引き剥がした顔を殴りつけた。
すごい音がして、細い体が吹っ飛ぶ。
「ってぇ、なぁ…」
殴られた頬に手を当てて、先輩がよろよろと立ち上がった。
「なんだ、お前。1年坊主か?」
「凪になにしてたんだよ…っ」
「…凪?」
先輩が顔をしかめた。
私と蒼吾の顔を見比べて。
ハッって馬鹿にしたように笑った。
「なるほど、こいつか」
ハハハッって乾いたような声で笑う。
勘にさわる笑い方。
さっき間近で見た気持ちの悪い表情を思い出して、吐き気がした。
「ふーん」
品定めをするように、蒼吾を上から下まで舐めるように見つめる。
「俺の方が、だんぜん勝ってるけどな」
私を見て馬鹿にしたように笑った。
「なんのことだよ」
苛立ちを隠せない蒼吾の声。
「いーや、こっちの話」
「あ?」
「探す手間が、省けたって事だよっ!!」

「蒼吾っ!!!」

私が声を上げるよりも早く、先輩の拳が蒼吾の顔をぶん殴った。
ガシャンって、派手によろけた大きな体がロッカーにぶつかる。
「喧嘩、ふっかけたのはそっちだろ?」
先輩がニヤリと笑った。
「お前、喧嘩したことあんの?俺、人の女盗っちゃって修羅場る事が多いから、喧嘩なれしてんだけど」
平気?って、馬鹿にしたように笑う。
「上等だよ」
切れた口元をぬぐいながら、蒼吾がゆらりと立ち上がった。
カチン、って。
スイッチが入ったような音が頭の中で響いた。
やばい。
やばい、よ。
こうなったら蒼吾は止まらないんだ。
だめだよ。
こんなところ見つかったら、怒られるだけじゃすまないって。
自宅謹慎どころか、停学になっちゃうよ。
そうなったら、蒼吾。
試合に出れなくなっちゃう────。


「だめだよ、蒼吾っ!!」
そんなの駄目だ。
背番号もらったって、あんなに喜んでたのに。
あんなに嬉しそうだったのに。
こんな事で試合、駄目にしないで…っ!!





「凪、お前、先生とこ行ってこい」
「チクル気かよ?」
「もしもの時の保険だよ。お前の側には置けねぇだろ」
「ハッ。負け惜しみかよ?俺に勝てる自信がねぇからそんな事ゆーんだろ?」
「負ける気はしねーよ」
「…蒼吾っ」
「さっさと行けよっ!!」


止めなきゃって思うのに。
体の力が抜けて立てない。
派手な音がして先輩の体が倒れ込む。
その体に蒼吾が馬乗りになって殴り飛ばした。
喧嘩慣れしてるって自信満々だった先輩は。
何度か蒼吾を殴った後。
簡単に床に転がった。
いくら喧嘩慣れしてるからって。
毎日、早朝から夜遅くまで部活で鍛えてる蒼吾の体力に勝てるはずがない。
血が飛び散って、ロッカーにこびりつく。






怖い。
早く誰かに知らせなきゃ。
でも、腰が抜けて座り込んだまま立てない。
怖くて怖くて、体の底から震えが来る。



先輩や蒼吾が怖いんじゃない。
一番怖いのは。
蒼吾が試合に出られなくなること────。











「蒼、吾…っ!!」


お願いだからもうやめてよ。
蒼吾が辛そうにしてる顔なんてもう見たくない。

ましろがいなくなって。
抜け殻みたいになった蒼吾を助けてくれたのは大好きな野球だった。
野球がいつもの蒼吾を取り戻してくれた。
だから。
野球まで蒼吾から取り上げないでよ…っ。



「もう二度と凪に近づくなっ!」



って。
蒼吾が先輩をのした瞬間。
半開きになった部室の扉から。
「なにやってんだ、お前らっ!!!!」
って。


先生の声が、響いた────。



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