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魔法のコトバ*  Season8 初恋〜サイド凪-13-
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魔法のコトバ* Season8  初恋〜サイド凪-13-

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あの日。
野球部で行われた練習試合でエラーを連発した蒼吾は。
罰としてグラウンドの整備と部室の掃除を言い渡された。
1年生で夏の大会にベンチ入りするのは、うちの野球部では珍しくて。
2年生なのにまだベンチ入りもできない先輩からの嫌がらせ。
「ひがみみたいなもんだろ」
って。
笑いながら、蒼吾が話を続けた。

「残って掃除してたらさ、見えたんだよ。あいつが。
女子の部室の周りをウロウロしてるところ」
田口先輩。
さっきのサイテー男。
「部活もやってない顔だけのもやし男が、こんなところに珍しいなって。
そん時はそれぐらいにしか思ってなかったんだけど。
お前が遅くまで頑張ってんの見えたから、せっかくだから一緒に帰ろうって思ってさ。でも、いつまでたっても出てこねぇし、入れ違いになってんじゃないかと思って部室を覗きに行ってみたら、見えたんだよ。少し開いた窓の向こうに、あいつの茶色い髪が」
きゅっと口元を結ぶ。
目元や口元の殴られた跡がひどく腫れて痛々しい。





「俺、カッとなって。後先考えずにあいつ、殴り飛ばしてた。……ごめん…」

なんで蒼吾が謝るの?

「怖かったろ?…もう平気か?」
覗き込む心配そうな顔。
その顔が小さく笑った。
「お前、ひでー顔」
そう言って笑った蒼吾が、少し困った顔をした。




「泣くなんてらしくねーぞ?」





「だって…っ」


涙が止まらない。




「だって…、私のせいで…っ」








蒼吾。
試合に出られなくなっちゃった。
ベンチ入りできるんだって、あんなに嬉しそうだったのに。
あんなヤツの。
私のせいで───。






正当防衛とはいえ先輩をぼこぼこにのしてしまった蒼吾に。
夏の大会の出場停止が言い渡された。
顔に殴られた跡のあるような生徒を、正式な試合には出せないという学校側の判断。
そんなのおかしいよ。
だって蒼吾は何も悪くないのに…。
助けてくれただけなのに。
蒼吾が来てくれなかったら、今頃、私は────。



「泣くなって」
ほら、って。
「ちょっと汗くせーかもしんねーけど」
でっかいスポーツバッグからタオルを取り出して、それを私に突きつける。
「もう泣くなって。試合、これが最後じゃねーんだし、次があるって」
「ごめん…ごめんね…っ」

蒼吾がきてくれて本当に嬉しかった。
私の為に後先考えず助け出したくれた蒼吾。
あんな時なのに胸がきゅうってなった。
嬉しくて嬉しくて。
溢れ出した気持ちが止まらなくなりそうなくらい。
誰よりも助けに来て欲しかった蒼吾が来てくれて、ほんとに嬉しかったんだ。

でも。
ほんとは。
できることならあんな場面。
蒼吾になんて、見られたくなかった────。




ごしごしと唇をぬぐう。
やだ。
もうこんなのやだ。
「もうあんまりこするなって。血、出るぞ」
それでもやめられない。
いくら擦ってもなかったことになんてできないのに。

「好きでもないやつとのキスは、カウントしねーんだろ?」
「…え?」
「昔、お前が園田に言ってた。
あれ、カウントされてねぇんだろうな。俺、結構マジだったのに」
そう言って笑う。

話題を変えて気を使ってくれてるのは分かる。
自分の痛い過去の話をおもしろおかしく話して、私を笑わせようって。
心の傷を軽くしてやろうって。
でも。
蒼吾は時々、ものすごく残酷だって思う。
だって。
こんな時なのにましろの話。

無理矢理キスされたことよりも。
嬉しそうにましろの話をする蒼吾の顔を見るほうが辛いなんて。
こんな時だから、なおさら惨めな気分になる。
抱きしめて大丈夫だよって。
そんな都合のいい事を期待してたわけじゃない。
だけど。
こんな時にましろの話なんて聞きたくないよ。
後先の事も考えないで、私を救い出してくれた蒼吾。
なんで?って聞いたら。
きっと、お前は俺の大事な友達だろ?って。
笑って言うんだ。
それ以上、望んだらいけないのも分かってる。



でも。



もしこれが私じゃなくて、ましろだったら?


大丈夫だよって。
俺がいるからって。
優しく抱きしめてくれるの?
好きだよって、キスしてくれるの?


もし、ましろだったら────。












「日下部?」


立ち止まって私を呼んだ蒼吾。
いつも見ていた大きな背中が振り返って──────笑った。





ドクンって。
胸が音を立てた。
ポケットに手を突っ込んだままの振り返って笑う顔。
今まで両手にいっぱい抱えてた気持ちのカケラ。
こぼれ落ちないように大事にしまっていたもの。
その器が音を立てて壊れた。




気持ちがもう。限界だった。








「どした?」


心配そうに私を振り返る蒼吾の制服の開襟シャツの胸元を両手で掴んで。
自分の方に引き寄せた。

軽く背伸びをして、唇に触れる。






泣くなって言うんだったら。
さっきのキスの感触、消してよ────。







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