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魔法のコトバ*  Season9 初恋〜サイド蒼吾-13-
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Season9  初恋〜サイド蒼吾-13-

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放課後の教室。
時折聞こえる笑い声とグラウンドからの掛け声。
俺は授業以外でめったに開くことのない教科書と参考書を前に、窓ぎわの席に座っていた。
顔を上げれば衣替えをしたばかりの冬のセーラー服に身を包んだ園田の後姿。
小さな体をますます小さく折り曲げて、文庫本を開く。
無造作に降ろされた長いふわふわの髪が時折風に揺れて、茶色がかった髪が陽の光に反射する。
それがすごく綺麗で、思わず手を止めて見とれてしまう。

前を向いたまま振り返ることのない背中はすげぇ小さくて、華奢で。
抱きしめたら簡単に折れてしまいそうだ。
ほんの少し手を伸ばせば、触れられるくらい近い距離。
部生の掛け声で騒がしいグラウンドの音も。
時折廊下を通る生徒の笑い声も、遥か遠くに聞こえるようで。
俺と園田がいるこの教室だけが、別の空間のように思えた。

教室ってこんなに広かったっけ。
小さな背中越しにぐるりと見渡す。
それに静かだ。
シャープペンの音。
本のページをめくる音。
普段だったら耳にも届かないような小さな音でさえ、リアルに耳に届く。
あまりにも静か過ぎて、バクバクいってる俺の鼓動の音まで聞こえるんじゃないかって。
マジで心配になる。




あの後。
追試を宣告された俺は担任の新垣をうまく丸め込んで、追試までの間、園田にプチ講師をしてもらうように仕向けた。
“帰国子女”という肩書きが、その願いを容易にしてくれた。
園田の真面目な性格とか。
人に頼まれると断れない気弱なところとか。
卑怯だとは思ったけど、それを利用した。
案の定。
園田は断れなくて、泣きそうな顔で補習を承諾してくれた。
園田を騙した事に、正直胸が痛んだけど、なりふりなんて構ってられなかった。
佐倉の存在が影のように付きまとっていて、気持ちを後押しした。
焦りがそうさせた。
ちゃんと園田と向き合って話がしたかったし、あの日のことを謝りたかった。
もう一度、昔のように俺を見て話してくれて。
あの顔で笑ってくれればそれでいい。
それ以上望まないっていえば嘘にはなるけど。
話すチャンスさえない俺にとって、それだけでも十分だ。

園田っていうマウンドの中で、ベンチ入りも果たしていない俺に。
今のままでは気持ちの球を投げこむ事も、そのチャンスでさえ回ってこないんだ。
アイツはちゃっかり居座ってる。
たぶんマウンドのど真ん中に。
まずはアイツと同じマウンドに立つ事。
それが俺のスタートライン。



なのに。
現実は理想のようにうまくいかない。
すごく近くにいるのに、話を切り出すきっかけがない。
園田は背を向けたまま文庫本を読んでるし。
俺は問題集とにらめっこ。
無言の背中がめちゃくちゃ俺を拒否ってる。
初日が肝心!って心を決めてきたのに。
このままじゃ、約束の1時間なんてとっくに終わってしまう。

俺はたまらなくなって、頭をガッと掻き揚げた。
窓の外から吹き込む秋の風に。
園田のフワフワした茶色い髪が揺れる。
すっげぇ綺麗。
触れたい。
触りたい。
小さな体をこの腕に閉じ込めて、思い切り抱きしめたい。
ヤバイ。
ふたりきりの空間が逆効果を生んで、このままだととんでもない衝動に走りそうだ。
また園田を傷つけちまう。
頭を軽く振って、大きく息を吸い込む。
意を決して思い切ってその背中に声を掛けた。

「なぁ」

ビクリと小さな体が上下して、恐る恐るこっちを振り返る。
う、わ。
顔がめっちゃ強張ってるじゃん。

「…なに?」
声まで上ずってる。
表情がびくついてる。
こいつはあの時からずっとそうだ。

「ここ、なんだけどさ」
わからない箇所を指差す。
てゆーか、分かってる箇所の方が少ないんだけど。
プリントを覗き込んだ顔が安堵の表情に変わる。
「ここはね」
って。
小さな唇の端が柔らかく笑って、綺麗な発音を言葉に乗せる。
英語教師よりも発音が綺麗で心地がいい。
俯いた園田の髪と、俺の前髪が重なる。
すっげぇ近い距離。

う、わ。

思わず目を瞑る。

一所懸命教えてくれる園田には申し訳ないけど。
説明なんてちっとも頭に入らない。
気がついたら顔ばっか見てた。
髪、フワフワだな。
とか。
ほっぺた、白くて柔らかそうでマシュマロみたいだな、とか。
綺麗な発音の英語をまるで音楽のように奏でる形のいい唇はふっくらで。
クラスの女子みたいに、ラメ入りのてらてらしたグロスを塗りたくった偽者のピンクじゃない。
自然な桜色の唇。

俺。
この唇にキスしたんだよな?
そういう感触とか全然覚えてない。
唇よりも歯が当たった感触の方が鮮明で、
何より園田の泣き出しそうな顔が一番強烈だった。
何度、思い出してもすげぇ罪悪感。
だってこの唇にキスするなんて、犯罪だろ。
しかも不意打ち。
俺ってやっぱ、サイテー。
園田はあれが初めてだったんだろうか。
そうなるとますます俺ってサイテーじゃん。
考えれば考えるほど、どんどん自分が追いやられてくる。
やっぱり謝んねぇと。


「わかる?」
形のいい唇がそう言って、こっちを見上げた。
すっげぇ間近で目があった。
絶妙なタイミング。
初めてマウンドに立った時よりも、動悸が激しくなる。

「…わかんねぇ」

ごめん。
それどころじゃなくて、ちっとも頭に入らねぇよ。





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