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魔法のコトバ*  Season10 気持ちが動く瞬間-3-
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Season10  気持ちが動く瞬間-3-

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玄関を開けると冬の匂いが鼻をついた。
吐いた息が真っ白に変わる。
気だるい体にすうって冬の空気が入り込んで、頭の芯がジンとした。
体がしゃんとする。
この日の朝は氷点下を記録するぐらい寒くて。
鼻の頭や耳が、真っ赤になりそうなぐらい寒いのに。
蒼吾くんはずっとそこにいた。
──────いつからそうやって待ってたの?



門扉にもたれる大きくて広い背中。
でっかい背中を丸めてポケットに手を突っ込んで。
息を吐くたびに真っ白に変わる吐息のさまをぼんやりと見つめる。

広い肩幅。逞しい胸。
あの大きな腕で私を抱きしめた。



『──────ずっと好きだった』

そう言って。





こういうのは慣れてない。
告られる経験なんて今まで一度もなかったから。
こういうとき、どうすればいいんだろう。
いつも凪ちゃんの向こうに見えてた蒼吾くん。
凪ちゃんが好きな蒼吾くん。
彼の気持ちに応えることなんて、できるわけがない。
それに私はまだ。
佐倉くんのことが忘れられないのに。





「はよ」

玄関前で動けない私を、蒼吾くんが振り返った。
鼻の頭が寒さで真っ赤だった。



「……おはよう…」

一度俯いてしまったら、顔が上げられない。



「……ごめんな。朝っぱらから押しかけて。迷惑だってわかってたんだけどお前、倒れちゃうし、ずっと気になってて……。とりあえず元気になったみてぇで、よかった」
安心した柔らかい声が鼓膜を揺らした。
「後ろ。乗ってくか?」
そんなこと、できるわけがない。
蒼吾くんの自転車の後ろになんて。
私は大きく首を横に振った。
「そっか。……無理だよな。ゴメン」
「………」
「あのさ、園田。頼むから……、逃げるのだけはもうやめてくれよ? あれ、マジ辛いから」
蒼吾くんが困ったように笑った。
この人は私の性格をよく知ってる。
弱虫で、困難に立ち向かうとすぐに逃げちゃうような私の性格を。
よくわかってる。


「凪ちゃん、は……?」
あれからどうしたの?
背中越しに見えた凪ちゃんの泣きそうな顔が頭からずっと。ずっと。離れない。


「園田を保健室に連れて行ったあと、アイツもちゃんと帰ったよ」
「そう…」
「園田のこと、すげぇ心配してた」
「……」


私が倒れたとき、いつも最初に見えたのは凪ちゃんだった。
心配そうに綺麗な顔を曇らせて、ずっと側についててくれた。
目が覚めたとき、「大丈夫?」って優しく笑いかけてくれる凪ちゃんの顔を見たら、いつも安心できた。
元気になった。
凪ちゃんはいつだって私の側にいて、支えてくれた。
助けてくれた。
かけがえのない大切な大切な友達。
なのに。
私は彼女を傷つけてしまった──────。






「……園田。アイツ、知ってるから。オレが、お前を好きなこと」



「……え?」



「最初から知ってたんだ、アイツ。もう……小学校のときからずっと──────」








なに、それ。
ずっとって、なに?
知ってたの? 凪ちゃん。
蒼吾くんが、私を好きなこと。



私、頑張れって。
凪ちゃんにいっぱい頑張れって、言っちゃったのに。
彼女はどんな気持ちで、その言葉を聞いてきたんだろう。
私は知らず知らずのうちに、どれだけ凪ちゃんを傷つけた?
熱いものが込み上げて、瞳に涙の膜が張る。
ますます顔が上げられなくなって、私は地面をじっと見つめたまま唇をひたすらに噛締めた。




「──────オレ、もう遠慮するのやめたから。お前にも、日下部にも。もう、遠慮しない。それを今日、言いに来た」

弾かれたように顔を上げた私に。
蒼吾くんが容赦なく、真っ直ぐな視線を投げかけてくる。
胸が痛かった。







「……ごめ…ん…」


私は。
蒼吾くんの気持ちには応えられない。
凪ちゃんの手を離すことなんてできない。




「……ごめんね、夏木くん…。…ごめんなさ、い……」



「そのごめんは、何に対して謝ってんの?」




冷たい声が聞こえて。
ドクリ、と胸が突き上げた。


「今、園田が日下部と佐倉のことで頭がいっぱいなのは知ってる。オレのことなんて、考える余裕がないのもわかってる。でも。そんなに簡単に答え出すなよ……!」
ジャリって。
乾いた地面を踏みしめる音がして、私は小さく身を震わせた。
蒼吾くんの気配をすごく近くに感じて。
あのとき、私を抱きしめた体温を思い出して、体が勝手に強張ってしまう。






「…だって…。だって…っ! 凪ちゃん、夏木くんのこと、ずっと好きだったんだよ……!?」


怖くて。
真っ直ぐにぶつけてくる蒼吾くんの気持ちが痛くて、辛くて。
瞬きをしたらこぼれ落ちそうな涙を堪えて。
きゅっと唇を噛み締めた。








「────ずっと、ってなんだよ?」



俯いた視界に。
コンバースのスニーカーが見えた。





「日下部がずっとっていうんだったら、オレだってそうだよ。園田のこと、ずっと好きで好きで。すげぇ好きで!!
お前が転校した後もずっと忘れらんなくて、佐倉のこと好きなのわかってても諦められなかった!
やっと気持ちを伝えられたって、こっからだって思ってんのに……っ」

「──────夏…っ」


ぐいって。
腕が掴まれた。
そのまま強く引き寄せられて、すごく間近に蒼吾くんが見えた。
ビクリと私の体が強張ったのがわかって。
蒼吾くんはそれ以上、距離を寄せない。
でも。
すごく近くて。
両腕を捕まえた手が熱くて。
手のひらから伝わってくる気持ちが痛くて。
私は乱暴に顔を逸らした。
捕まれた腕の力が、一層強くなる。


「……日下部、日下部って。お前の気持ちはどうなるんだよ?
日下部に依存して、他人に気遣って。オレ、ずっと嫌だった。屋上で日下部の気持ちを知られたときから。お前はそうやっていつも簡単に境界線を引いちまう。
お前だって傷ついたんだろ? 佐倉が日下部にキスしたの見て」



「…それ、は…──────」



思い出したくなんてないのに。
さっさと色あせてしまえばいいのに。
忘れたい記憶ほど、鮮明に脳裏に焼き付いてしまう。
佐倉くんの気持ちが凪ちゃんに向いてるのは、とっくにわかってたはずなのに。
急に突きつけられた現実は容赦なかった。
それを受け入れられることはできなかった。
だから。
あの場から逃げ出した。







「まだ好きなんだろ? 佐倉のこと。諦めたとか吹っ切れたとか……、嘘つくな…っ」



蒼吾くんの言葉に何も返せなかった。
言葉が出てこない。
ただ代わりに。
涙がパタパタと溢れた。






「それでもオレ、諦めねえから。お前への気持ち、そんなに簡単じゃねぇから────!」




掴まれた腕が痛くて。
蒼吾くんの真っ直ぐな気持ちが痛くて。熱くて。
ただ涙が溢れて溢れて、止らなかった。






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