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魔法のコトバ*  Season10 気持ちが動く瞬間-5-
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Season10  気持ちが動く瞬間-5-

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「園田」
廊下を歩いてたら突然、先生に呼び止められた。
「これに書いてる物を美術室から取って来てくれないか? 次の授業で使うから。部員だから保管場所、わかるだろ?」
そう言ってメモを手渡された。
「え…?」
気まずそうに顔を歪めた私のことなんて、おかまいなし。
「昼休みの間に準備して、教室へ置いておいてくれ」
親しげにポンと肩に手を置くと、先生は忙しそうに廊下の向こうに消えていく。
「あ…、先生…っ」
「頼んだぞ〜」
私がどんな気持ちか知りもしない先生は。
満面の教師スマイルを浮かべながら、ヒラヒラと手を振って廊下の向こうへ消えていった。
残された生徒がどんな気持ちなのかも知らずに。
泣きそうになってるのなんて、気付きもせずに。
私はあの日からずっと、美術室には行っていない。








カタカタって。
古い引き戸の扉を開くと乾いた音がした。
冬の空気に混じって絵の具や石膏の独特な匂いが、ふわりと風に乗って流れてくる。
しばらく来なかっただけなのにその匂いが懐かしくてたまらない。
目頭がジンと熱くなる。
誰もいないことを確認して、そっと覗いた準備室。
描きかけのキャンパスがぽつん、って。
寂しそうに置かれていた。
デッサン途中のキャンバスは、何度も消され、描き直した跡がある。
佐倉くんにしては珍しい迷いの跡。
それにそっと触れると、また泣きそうになった。
いけない。
しっかりしなきゃ。
ここに長くいるといろんな事を思い出して、泣きそうになってしまう。
思いを振り切るように何度も首を振って、弱い心を奮い立たせた。
「頼まれていたものを探さなきゃ」
準備室の奥の棚に目的の物を見つけた私は、踏み台に上がって手を伸ばす。
指の先に箱が触れて、あと少しで手が届きそうだと思った瞬間。
足元がぐらりと揺れた。




「…うっ、わ……!」

体の中をヒヤリと冷たい風が走って、思わず棚を掴んだ。
身の危険を感じてバクバクと踊り出す胸元に手を当てて。
ふぅと安堵に息をもらす。
気持ちを落ち着けて足元を確認したあと、もう一度それに挑戦しようと手を伸ばしたとき。
ひょい、と。
すぐ顔の横に伸ばされた腕が、棚の上の箱を引っ張り出した。


ドクリと、胸が高鳴る。
こめかみの辺りがきゅうって痛くなった。



真後ろに人の体温。
振り返ったら絶対、触れちゃう距離。
セーターを肘まで捲り上げた細くて長い腕。
絵の具の匂いに混じって、よく知ってる匂いがした。
好きで。好きで。
大好きだったから。
振り返らなくても分かる。



佐倉くん。







「……平気?」

私が背伸びをしても精一杯だった高さのものを軽々と引き出す。
繊細なこの人からは、男子特有のガサツさとか、豪快さとか。
普段、そういうのをほとんど感じさせないのに。
ふとした瞬間に見える力強さや、逞しさはしっかり男の子で。
普段そうじゃない分、ひどく意識させられる。


「ましろちゃん?」


何ひとつ変わらない優しいトーンの声で名前を呼ばれると、それだけ心拍数が跳ね上がって胸が苦しくなる。
もう振り向いてくれることなんてないのに。
万が一の望みもないのに。
それでもこうやって名前を呼ばれるたびに、心のどこかで期待してしまう。
特別なのかもしれないって。
そう思ってしまう浅ましい自分がいる。
そんな自分が惨めで嫌だ。




「これ。授業で使うの? 運ぶの手伝おうか?」

優しい態度は今までとちっとも変わらなくて。
あの日の出来事は夢だったんじゃないかって、錯覚しそうになる。
ずるいよ、佐倉くん。
私はあの日のことをなかったことになんてできない。
どんな顔をして佐倉くんに会えばいいのか、ずっと悩んでた。
それなのに佐倉くんは何ひとつ変わらない声で私の名前を呼んで、優しく微笑む。
無神経なのか、何も考えていないのか。
わかんない。
佐倉くんが、わかんない。



「……いい。これくらい大丈夫だから──────」

精一杯の強がりで笑ってみせたのに、佐倉くんの顔を見たとたん。
ドクリと心臓が突き上げた。
笑顔が作れなくなる。




頬から口元にかけて赤く腫れ上がった顔。
唇の左はしには絆創膏子。
目の下にできた青紫の痣はあのとき、蒼吾くんに殴られた痕だ……。
普段あまり感情を露にしない佐倉くんが人を殴った。
凪ちゃんの為に。


初めて見たよ。
佐倉くんもあんな風に怒ったりするんだね。
凪ちゃんへの想いと、蒼吾くんへの苛立ち。
私には見せてくれることのなかった佐倉くんの熱い一面。
気持ちの裏側。
敵わないって思った。
あんな一途な気持ちを自分に向かせるなんてできっこない。
凪ちゃんには敵わない。
佐倉の絵を見つけたあの日から答えは出てた。
私はもう、とっくに失恋してる。








「──────ましろちゃん……」


気がついたら頬を涙が伝ってた。
やだ。
泣くつもりなんてなかったのに。




泣き顔を見られたくなくて、顔を背けた。
「目にゴミが入っただけだから」
こじ付けのような言い訳をして。
「これ。ありがとうね!」
逃げるようにして佐倉くんから荷物を奪い取って、その場から離れようとした。
何もなかったように平気な顔をして、佐倉くんと一緒にいるのは、今の私には無理だ──────。







「ましろちゃん! 足元…!」



そこから逃げることに必死だった。








「え? ……きゃあ…ッ」



受け取った荷物は想像していたよりも重くて。
不安定な足場でバランスを崩した私は、見事に足を滑らせた。
バラバラっていう絵の具が床に散ばる音と。
踏み台が転がる音が乾いた空間に鮮明に響いた。




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魔法のコトバ  Season10 comments(2) -
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Comment








こんばんは!
いつも空間描写にうっとりしてます。

私(と絵描きのカノコ)も美術部員だったので、匂いの描写とか、
リアルに想像できるねーと話してました。
毎回切ない…ぐす(←ましろからもらい泣き

私も美術部員と恋愛しとけばよかったです。
(その前に、佐倉君のような素敵な男子部員が
いなかったという、根本的な問題が…)
from. 史間 | 2007/05/27 21:32 |
●○●史間さんへ●○●
おおっ。おおおっ!!
史間さん&カノコさんは美術部出身でしたか〜!
私は美術経験者ではないので、『こんな感じかな』という感覚で書かせてもらっています。
経験者の方が読まれると『こんなんじゃにのに』と突っ込まれやしないかドキドキします・・・(汗)ひえ〜〜。

>私も美術部員と恋愛しとけばよかったです。

これには笑ってしまいました〜(笑)
私もはづきも青春時代の一番大事な時期を女子校
で過ごしているので、共学というだけでも羨ましいです(笑)
from. りくそらた | 2007/05/27 23:36 |
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