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魔法のコトバ*  Season10 気持ちが動く瞬間-8-
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Season10  気持ちが動く瞬間-8-

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「突っ立ってないで入ってよ」
リビングの入り口で立ち往生している私を振り返って、凪ちゃんが笑いながら手招きをした。
「……体は、もう大丈夫なの?」
「うん。昨晩には熱が下がってたんだけどね、今日は念のためにって休んだだけなの。だから平気よ」
「そう……」
よかった。
「ずっと寝てばっかりだったから暇してたの。ましろが来てくれて嬉しい」
凪ちゃんがそっと笑った。


家の中に入るのは小学生の時以来だった。
すごく久しぶりすぎて、なんだか緊張してしまう。
センスのいいシックでモダンなインテリアと、広いリビングの中央に置かれた大きなグランドピアノ。
このピアノは昔もっと大きく感じたのに、今ではそれほど大きくは感じない。
そっと蓋を開けて指で鍵盤を押さえると。
ポーン、って。
調律の行き届いた綺麗な弦の音がした。


「おばさんは?」
「今日は講習会。夜まで帰ってこないの」

凪ちゃんちのママはピアノの講師。
自宅で小さい子どもから大人まで幅広くピアノを教えてる。
凪ちゃんと同じ線の細い体で、深みのある音を導き出す。
初めてピアノを聴いた時は、子どもながらにもすごいって。
鳥肌が立ったのを覚えてる。



「ミルクティでよかったよね?」
やんわりと上がる湯気から、紅茶のいい匂いが部屋いっぱいに漂った。
「ありがとう」
カップを手に取ると、さっきまで冷え切っていた体が、芯から溶けていくような温かい感じがした。
「テストって、明後日からだっけ?」
「うん。凪ちゃん大丈夫?」
「ましろが毎日ノート取ってくれてたから。これ。大変だったでしょ?」
嬉しそうに目を細めて、今日の分のノートをパラパラとめくる。
「ううん。それぐらい何ともないよ。おかげで復習にもなったし……」
「ましろ。まじめだから」
「それだけがとりえだもん」

だって。
私にはそれぐらいしかできないもん。
気の利く言葉も、気の利いた行動も思いつかない、どんくさい私。
いつか蒼吾くんが言ってた。
────凪ちゃんに依存してる────
って。
あの言葉は的を得てる。




「……外。寒そうだね」
「だってもう、12月だもん」
「今年ももう終わっちゃうんだね。早いなぁ。ましろが帰って来てから、あっという間だった」

当たり障りのない会話を交わしながら、ぼんやりと外を眺める。
窓の向こうに見えた空は、今にも雪が降り出しそう。
私も。凪ちゃんも。
言いたいことがたくさんあるのに。
聞きたいこともたくさんあるのに。
それが言葉になって、でてこない。

ノートをめくる音と、カップの音。
普段なら何気ない生活音が、やけにリアルに鼓膜の奥を揺らす。
すごく。すごく。時間がゆっくり流れているみたいな感じがして、息が詰まりそうだった。




「それ。どうしたの?」
先に口を開いたのは、凪ちゃんだった。
「これ?」
鞄のポケットから小さく顔を覗かせるピンクのマスクを引き出すと、そっと膝の上に広げてみせた。
「インフルエンザ対策?」
準備がいいねって、凪ちゃんが笑う。
「でもましろって…予防接種しなかったっけ?」
「毎年してるよ」
「あまり体が丈夫じゃないもんね。小学生の時もよく風邪で休んでたし。ましろんちのおばさんでしょ? マスク持たせてくれたの」
「ううん。帰りに夏木くんが……」





あ……。




何気なく出した名前に、カップを持ち上げようとした凪ちゃんの手が止まる。
表情が強張った。




私のバカ。
どうしてこんなときに、蒼吾くんの名前なんか……。
ママが持たしてくれたとか。
ドラッグストアで買ってきたとか。
気の利いた言葉が出てこないんだろう。
とっさに機転の利かないバカな私。
もう、やだ…。







「…そっか。蒼吾か……」



ポツリ。
凪ちゃんが蒼吾くんの名前を呟いた。



「アイツ、普段は気の利かない男のくせに、ましろのことになると敏感っていうか、よく見てるっていうか……。
そういうの、昔からちっとも変わんないなぁ……」

その声は怒ってるとか、呆れているとか。そういう類の声色じゃなくて。
優しさを込めた穏やかな声。
顔を上げた私の視線が、凪ちゃんのそれとぶつかった。

 


「ねぇ、ましろ。
蒼吾のことで負い目を感じるのはやめてね? そんな辛そうな顔しないで」





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魔法のコトバ  Season10 comments(2) -
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Comment








あ、あああああああー!
ましろちゃんってば、正直者ー!
どうするんだ、気まずくなっちゃったじゃん(汗
まぁ、そこがましろちゃんの良いところ、なんだけど〜

ああ、女の子って、こんな気の遣い方、しますよね。
相手も気を遣ってるんだって、分かっていながら、自分からはその壁を破れない。
苦しい、苦しいです。
早く続きが読みたいです〜!
from. 史間 | 2007/06/04 21:08 |
●○●史間さんへ●○●
そうなんですよね〜。
女同士って意外に難しい!と常々思います(笑)
ましろはバカ正直で小心者だから、なおさら大変じゃないかと・・・(苦笑)
そこをましろの長所だと取ってくれる史間さんに感謝です!ありがとう〜(笑)
from. りくそらた | 2007/06/04 21:32 |
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