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魔法のコトバ*  Season10 気持ちが動く瞬間-9-
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Season10  気持ちが動く瞬間-9-

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カップからゆらゆらと立ち上がる白い湯気の向こうで、綺麗な顔にやんわり優しい笑顔を乗せて、凪ちゃんが私に笑いかけた。

「私、最初から知ってたから……。蒼吾がましろを好きなこと──────」


嘘じゃなかった。
蒼吾くんが言ってた言葉は真実。
膝の上に乗せていた淡いピンク色のマスクを思わず強く握りしめた。



「前にましろ、聞いたことがあるでしょ? いつから蒼吾のことを好きなのかって……。好きだって意識しはじめたのはたぶん…小学校3年生、かな。
まさか蒼吾を好きになるなんて思いもしなかったから、自分の気持ちに気付いた時は正直、びっくりした。
だって。こーんなちっちゃい時から知ってるんだよ? 蒼吾のこと」
凪ちゃんの記憶の中の蒼吾くんを再現しながら、懐かしむように笑って、羽織っていたカーデガンの前をそっとかき寄せた。




「でもね……。私が自分の気持ちに気付いたときにはもう、蒼吾は違う誰かを見てた。
それが──────ましろ」


凪ちゃんの“ずっと”と、蒼吾くんの“ずっと”が繋がった。
胸の一番深いところをぎゅって掴まれるような、そんな感覚が押し寄せる。




「知らなかったでしょ? そんなにも前から蒼吾がましろを見てたなんて。
あのときのアイツ、必死だった。好きな子を傷つけて、どうしようもなくて…。見えないところでましろのこと、守ろうと必死だったんだよ?
キス事件だって──────」
凪ちゃんが言いにくそうに言葉を濁した。
たぶん私を気遣って。
「……あの後、どうして安部たちの中傷がなくなったか知ってる?
ましろは私が庇ったことで、アイツらのいじめがなくなったって思ってるんでしょう?」
こくり、と頷く。
あの当事、学級委員だった凪ちゃんが庇ってくれて、私の友達になってくれたから、安部くん達のいじめがなくなった。
ずっとそう思ってた。
あの日から、私と凪ちゃんは始まったから。







「私じゃないよ。……蒼吾だよ」



「……え?」


「ましろが倒れちゃった後に、安部達の冷やかしを突っぱねて蒼吾が言ったの。『園田を好きで悪いかよ!』って。
真面目な顔で、すごく怒ってた。安部たちのことよりも、たぶん自分自身に……。
みんな何も言えなかった。あんな真っ直ぐにましろを守ろうとしてる蒼吾を見てたら、何も。言えるはず…ないよね……?」
「………」
「アイツはいつだって、ましろのことしか見えてないから。ましろじゃないと、ダメだから。
前にも言ったでしょ? 私、とっくにふられてるんだって。もう、万に一つの可能性もないの。なのに…友達だって言ってくれた蒼吾の優しさに、いつまでもすがってたの…。ダメだね、私」
凪ちゃんが困ったように笑う。
「あの日、蒼吾の腕の中にましろがいるのを見たとき。ああ、言ったんだな、って。とうとう好きだって言っちゃったんだな、って思った。
ショックじゃなかったっていえば嘘になるけど、でも…ちゃんと蒼吾の気持ちの行く末を最後まで見届けることができて、すっきりしたの」

凪ちゃんは私の憧れだった。
凛とした強さがあって、いつも堂堂としていて、いつだって真っ直ぐに生きてる。
凪ちゃんみたいに強くなりたいってずっと思っていたのに。
そんな凪ちゃんが、ひどく小さく見えた。
儚げで危なげで。
このまま消えてしまうんじゃないかって、心配になる。





「だから、ましろが気にすることないんだよ? 最初から知ってたから。私は…もう、大丈夫だから……」


大丈夫って顔、してないよ…凪ちゃん。
精一杯の強がりの向こうで、笑顔だけが空回りしてる。
私が凪ちゃんに、こんな顔させてる。
きれいな顔を曇らせて、唇をきゅっと結ばせて。
泣きそうな顔で笑わせてる。
そんな凪ちゃんを見てたら、胸が痛くて痛くて、堪らなかった。






「…ごめん……、ごめんね……、凪ちゃん………」



パタパタと。
溢れた涙が頬を伝う。





「どうして、ましろが謝るのよ?」



いつだって気付くのは、誰かを傷つけてから。
大事な人を傷つけてから、その事に気付く。


「……そんなの、…謝らないでよ…。私だって…ましろを傷つけたんだもん…。佐倉の気持ち…ましろは知ってたの…?」
こくりと頷いた顎の先から、涙がポタリとこぼれ落ちた。
「そっか……。私も知らない間にましろのこと、いっぱい傷つけてたんだね」
参ったなぁって、小さく笑った顔が、くしゃり。
泣きそうになった。
「私の方こそごめんね…ごめんね、ましろ……」
何度も呟くごめんねという言葉に私は、髪が乱れるほどに首を横に振った。

「そんなの…、そんなの……っ。凪ちゃんの気持ちの長さに比べたら、私のなんて──────」
「バカだなぁ、ましろは」
呆れたような声で笑って、言葉が遮られる。




「好きって気持ちに、長さなんて関係あるの? そんな簡単な気持ちだったの? 佐倉のこと?」


簡単じゃなかったよ、佐倉くんへの気持ち。
どうしようもなく好きで。好きで。
自分の気持ちが手に負えなくて。
彼のことを思うと、いつもたまらなく胸が痛んだ。
たとえようのないくらいの幸福と、切なさの波が交互に押し寄せてきて。
眠れない夜もあった。
好きになった期間は決して長くはなかったけれど。
その気持ちが簡単なものなんかじゃなかったのは確かだ。

それでも。
凪ちゃんの思ってきた年数に比べると。
自分の気持ちは、とっても軽い気がしてしょうがなかった。




向かいに座っていた凪ちゃんがゆっくり立ち上がって、私の隣に腰かけた。
ぽすん、と。
凪ちゃんの体重でソファが沈んで、すぐ側に彼女の体温を感じる。




「…ましろも……、辛かったんでしょう?」

そっと頭を撫でられた。
母親が小さい子どもにするみたいに、優しくそっと。
触れた指先から伝わってくる温かさが、空っぽだった心に深く入り込む。
凪ちゃんの優しさが、ずっと悴んだままだった私の心を溶かしてくれる。
涙が溢れて溢れて止まらなくなる私を、細い腕の中に抱き込んで。
そっと側まで引き寄せた。





「……バカだなぁ、ましろは…」

こつん、と。
凪ちゃんの頭が触れた。


「自分だって傷ついてるのに、私のことばっか。たまには自分のことを一番に考えなよ? そんなましろだから、私は大好きなんだけど……。
たぶん私は、そんなましろを好きな蒼吾だったから、大好きだったんだよ。
ましろを好きな蒼吾ごと……好きだった────」



一番自分の振り向いて欲しい人は、他の誰かを見てる。
その誰かは、自分の一番大好きな親友だった。
そのことに、私も凪ちゃんも気付いてしまった。





「好きな人に振り向いて欲しいだけなのに。ただ、それだけなのに。それが一番難しいなんてね? 好きって気持ちだけじゃどうにもならないことって、たくさんあるんだね」



その事実に凪ちゃんだって泣きたいのに。
黙って優しく頭を撫でてくれる。
何も言わない優しさは、とても佐倉くんに似てる。
私は凪ちゃんの優しさを、佐倉くんに重ねて見てたのかもしれない。





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魔法のコトバ  Season10 comments(2) -
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Comment








凪は大人ですね。
ましろを好きな蒼吾を好き…
そんな大きな気持ちが持てる凪は、きっと素敵な女性になりますね(今でも充分だけど)。
ましろちゃんも凪も、お互いをちゃんと親友だと認めている。
悲しいんだけれど、とてもいい関係だな〜と思って、じーんとしました。
from. 史間 | 2007/06/07 04:40 |
●○●史間さんへ●○●
恋愛が絡むとどうしても崩れやすくなってしまう女同士の友情をこんな形もあっていいんじゃないかな、という意味を込めて書いてみました。
凪は大人ですね。自分じゃありえません(笑)
じーんとしていただけたのなら本望です!
from. りくそらた | 2007/06/07 10:38 |
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