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魔法のコトバ*  Season10 気持ちが動く瞬間-16-
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Season10  気持ちが動く瞬間-16-

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ふと。
誰かに呼ばれたような気がして。
ぼんやりと目を開けると、闇の色が飛び込んできた。
虚ろな瞳で体を起し窓の外へ目をやると、陽はいつの間にかとっぷり暮れていた。

…もうこんな時間……

6時間目の古典の授業までは覚えてる。
おじいちゃん先生の子守唄のような朗読が、あまりにも気持ちよくって。
教室の暖かさと、時折聞こえてくる蒼吾くんの気持ち良さそうな寝息に誘われて。
いつの間にか眠ってしまってた。
肩に掛けられた紺色のカーディガン。

…ましろ、こんなところで寝てたら風邪引くよ?…

夢うつつに聞いた声。
部活に行く前に凪ちゃんがそっとかけてくれた。






「────園田?」

低い声が空から降ってきて。
驚いたように見下ろす蒼吾くんと目が合った。
夢の中で聞いた私を呼ぶ声って、蒼吾くんだったの?



「お前、まだいたの?」
「夏木くんこそ…。部活は…?」
「とっくに終わったよ。何時だと思ってんの?」
腕時計に目をやると、pm7:00をとっくに回っていた。


「もしかして。あれからずっと寝てたんか?」
「そう…みたい……」
「さっき、先生が校内の見回りしてたぞ?」
「え…っ。ホント?」

その言葉に、私は慌てて鞄に荷物を詰め込む。
帰り支度なんて、ちっともできていないのに。



「夏木くんは? なにか忘れ物?」
「んーー…。体操着、取りに来たんだけどさ……」
そう言いながら、私の前の席に腰を降ろした。
後ろに体を向けて、トン、って。
肘を付いた手のひらに顎を乗せて、こちらを見上げる。






「…園田……」

「うん…?」

「お前、部活……、行ってねぇの?」







荷物を詰め込んでいた手が、一瞬。止まってしまった。
その小さな動揺を、蒼吾くんは見逃さない。







「……また、佐倉と、なんかあった……?」

蒼吾くんの瞳が。
あまりにも真剣な色を湛えて私を見つめるから。
大きすぎるくらいに首を横に振った。




「…何もないよ…。夏木くん、変に勘ぐりすぎ」
「じゃぁ、何で行かねぇの? …美術部、やめんのか?」
「……」
「あんなすげぇ絵が描けんのに…。絵、やめてしまうのか?」

表情を。感情を。
覗き込むみたいにして私を見つめるその顔がすごく真剣で。
私のことをすごく真剣に心配してくれてるのが分かるから。
思わずパッと、目を逸らしてしまった。


気まずい空気がじわりと間を流れる。
蒼吾くんの視線から逃げるみたいに、私はひたすら俯き続けて。
何とか次の言葉を紡ごうとするけれど、なんにも思いつかない。





ふぅ、と。
ため息を漏らす声が聞こえた。


「…送る」



カタン、って。
椅子を鳴らして蒼吾くんが立ち上がった。




「…いいよ…」
「外、真っ暗だぞ?」
「駅まですぐそこだし。……ひとりでも、大丈夫」


ふたりきりを意識したら、急に怖くなった。
コートを腕に掛けて、急いで立ち上がる。





「じゃあね」

できるだけ穏やかに笑って。
心の内を蒼吾くんに気付かれないように背を向ける。

…逃げたって。
蒼吾くんはまた、思うかもしれない。
肝心なところで私はいつも逃げてしまう。
その弱さや脆さをわかっているのに。
自分ではそう簡単には変えられない。










「────園田!」



腕がきつく掴まれた。



「送る」



低い声が鼓膜を揺らす。






「…いい、ってば……。駅まですぐそこだし、大丈───…」

「オレが大丈夫じゃねぇんだよ!」



静寂を壊すような蒼吾くんの言葉に。
ドクリと。胸の奥が音を立てた。





「お前のこと……、ひとりで帰すのは、心配なんだよ……」


トクン、って。
心が揺れる。
気持ちの波がざわざわと音を立てる。
どんな顔をすればいいのか、何て言えばいいのかわかんない。
そんな私を見て。
蒼吾くんが少し、困ったように笑った。


「…ほんとはさ。靴箱に園田の靴が残ってるのが見えたから…。だから戻ってきたんだよ。…送らせて───」



優しく笑って、私を覗き込んだ。












てのひらを色んな角度から擦り合わせて、はあっと息を吹きかける。
その息はすぐさま白くなって、小さな手の中へ落ちていく。

「───掴まってろよ」

鞄を前籠に突っ込んで、ペダルを強く漕ぎ出す。
蒼吾くんの藍色の自転車。
吐き出した真っ白な息は、すぐに闇の色に溶けて見えなくなってしまう。


「雪、溶けちまったな」
「うん…」
「ずっと積もってたらいーのにな」
「うん…」
「そんで、学校が埋まるくらいに積もってさ、さっさと冬休みに入る! それがベストだなっ」
「あはは…」

何の他愛もない会話を交わしながら、夜道を走り抜ける。


「園田、疲れたんじゃねーの?」
「そんなことないよ…。どうして?」
「お前、体力ないもん。明日、絶対筋肉痛だって」
「ひっど…。雪だるま作ったぐらいで、そんなのならないよ」

ぷぅ、と。頬を膨らませると。
そんな私の拗ねた様子を背中で感じ取って蒼吾くんが笑う。





「……な。園田の手。熱くね?」
「え…?」
「さっき園田の手を掴んだとき、熱かった。…やっぱ、調子悪いんじゃねぇの?」

住宅街を走り抜けて、土手への道を真っ直ぐに駆け上がる。
何も遮るもののない空間へ飛び出たら、びゅう、って。
切るような冬の寒さが頬をさらった。




ひどく静か。
耳の奥がキーン…、って。痛くなるほど。
他の雑音なんて聞こえてこない、静寂な夜道。
シャーーーって。
車輪が転がる音だけが、やけに鮮明に聞こえてくる。


「やっぱ、せーかい!
お前のその、エスキモーコート。夜はさっみぃよなーっ」


こんなに寒い日だっていうのに。
制服にでっかいマフラーをぐるぐる巻いただけの蒼吾くん。


「さっみーな」
「うん…」
「寒かったら、オレにくっついていーぞ?」

「……」

「…じょーだんだよ」

答えを返せなかった私を、蒼吾くんは笑う。

「ちゃんと掴まってろよ〜」

月明りに時折反射する自転車の藍の色が綺麗で。
どこまでも伸びていくシルエットが切なくて。
蒼吾くんのコトバのひとつひとつが優しくて。
涙が出そうになった。







────掴まってろよって、どこに掴まればいいの?

このコトバを。何度、聞いた?

この背中に。何度、助けてもらったんだろう。




初めは、転校二日目。
新しい環境へのプレッシャーに押しつぶされそうになって、道端に座り込んでしまった私を助けてくれた。
彼だと知らずに触れた優しい背中。

二度目はその日の帰り道。
鞄を人質に取られて、いやいや乗った自転車の後ろ。
無愛想な表情の。
ぶっきら棒なコトバの裏に。隠された彼の優しさ。
小学生だった蒼吾くんの成長を感じた大きな背中。

三度目は佐倉くんの気持ちに気付いてしまった放課後の夜道。
行き場がなくなってしまって、どうしようもなくなった気持ちのカケラ。
この大きな背中が全部、受け止めてくれた。
何も言わずに貸してくれる背中が。
すごく温かかったのを覚えてる。

四度目は学祭の買出しに行った午後。
悩んでいた私を。
気持ちが吹っ切れなくて、立ち止まったままの私を。
そこから連れ出してくれた力強い背中。


いつもいつも。
蒼吾くんは側にいてくれて。
いつもいつも。
私を見ていてくれていたのに。
あまりにも自然なその背中に、私はちっとも気付かなかった。
背中に隠した蒼吾くんの気持ちに、ちっとも気付かなかった。
知らず知らずのうちに。
私は何度、この人を傷つけていたんだろう────。






「────あっ!!」


蒼吾くんが短く呟いて。
キィィーーーーッって。
悲鳴のようなブレーキ音が鳴り響いた。





「…あっ、ぶねぇ〜……っ」



自転車を止めた蒼吾くんの視界の向こうを白い猫が横切った。

「轢く(ひく)ところだった…。セ〜フ……っ」

安堵の声を漏らしながら笑う。




「ごめん、園田。平気?」

トン、と彼の背中にぶつかった私の頬。
熱くて、熱くて。
どうしようもない。
声にならなくて、ただひたすら深く頷く。
そんな私を蒼吾くんが笑う。

「サドルでもどこでもいいからさ、ちゃんと掴まっとけよ?
俺、結構、運転荒いからな」

そう言ってまた、ゆっくりと自転車を漕ぎ出す。




…知ってるよ…。



クラスの男子や守口くんを乗せて、校内を全力疾走する姿。
遅刻しそうになって猛ダッシュで滑り込む姿。
手放しでどこまで乗れるか、なんてやってて、転んで頬を擦り剥いでいたのも。
いっぱい。いっぱい見たよ。
蒼吾くんのこと。
いっぱい。いっぱい。
考えた。
凪ちゃんに言われたコトバの意味も。



気が付けば、目で彼を追っていて。
耳が彼の声を手繰り寄せていて。
どんな遠くからでも見つけられるくらい、その姿を焼き付けた。
穏やかに流れていく心の波を。
それを認めてしまえば始まってしまう気持ちの理由(わけ)を。
認めてしまうのが、怖かった。





いつもは荒い自転車の運転。
今日はこんなに優しいのはどうしてだろう。
ゆっくり。ゆっくり。進めてくれる。
蒼吾くんの藍色の自転車。




…まいっちゃうな…。






「……園田…?」






ちょっとだけ。
ほんのちょっとだけ…。

その背中に触れてみた。
大きくてあったかいその背中に。



「お前、…やっぱ、熱くないか…?」



そう問う、彼の声が優しくて。
ゆっくり漕いでくれるペダルの音が胸に沁みて。





どうしてだろう。



涙が出た。











「あら〜。熱があるわねぇ。39度!
こんなに上がるまで気付かなかったの?」
ヒエピタをおでこに貼りながら、ママが呆れたように呟いた。
気のせいだと思っていた体の火照りは、ちっとも気のせいなんかじゃなくて。
平熱を軽く超えてしまった私の体は、あっという間にダウンしてしまった。
「何の熱かしら?」
頬を真っ赤に染めて寝込む私を、ママが心配そうにしていた。


ごめんね、ママ。
原因は分かってる。


普段考えないような事をいっぱい考えて。
蒼吾くんの事だけをいっぱい考えて。
気がついたら蒼吾くんのことばかり考えていた頭は。
あっという間に容量を超えて、パンクしてしまってた。






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魔法のコトバ  Season10 comments(2) -
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Comment








熱出てんじゃん、ましろちゃん!
エスキモーなのに!(はて、エスキモーの人々は風邪を引いたりするのでしょうか?)

心配です〜><
私以上に、蒼吾は心配なんだろうな。
それにしても、蒼吾はましろちゃんを、本当によく気にかけている!
少し触れたくらいで、熱いんじゃないかと気づくなんて。
男って、だいたい視覚に頼るじゃないですか(しかもおおざっぱに)。
一見ざっくりな蒼吾が、そんな敏感さんだと、本当にどきどきしますよ。
優しい気持ちになります。

ざっくり母さん、蒼吾!
from. 史間 | 2007/06/19 00:26 |
●○●史間さんへ●○●
エスキモーなのに知恵熱です(笑)
エスキモーといえば、昔あったエスキモーアイスを思い出してしまいます。

そうなんですよね。ほんとの蒼吾は大雑把。
普段はあまり細かいところまで見えてないような、猪突猛進タイプだと思ってます。
でも、ほら。彼。ましろのストーカ…(もごもご…)だから。

と。相方が言ってました(笑)納得!

from. りくそらた | 2007/06/19 13:18 |
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