http://miimama.jugem.jp/

スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

- - -
魔法のコトバ*  Season10 気持ちが動く瞬間-17-
*******************************************

Season10  気持ちが動く瞬間-17-

*******************************************

こんな日に日直なんて。
つくづくクリスマスというものには縁がない。
そんな気がする。
生まれてから15年間。
クリスマスカラーが街に溢れて、色とりどりの電飾が点灯するこの日を。
家族以外の大事な人と過ごした事がない。


12月24日。終業式。
世間ではXmasイヴと呼ぶこの日。
書き終えた日誌をぱたんと閉じて、私は顔を上げた。
ついさっきまでの熱気の篭った教室とは対照的な静寂な空間。
やけに静かで、気持ちが和らぐ。
黒板には色鮮やかな文字。
<メリクリ!!>とか。<enjoy冬休み!!>とか。
浮かれた気持ちをめいいっぱい書き込んだ鮮やかな空間。
書きあがった日誌を教卓の上に置いて、それを消した。
壊れて意味を成さないクリーナーを横目に。
窓を開けて、パタパタと黒板消しを叩く。
粉雪のように白いチョークの粉が舞って。
私は、派手にむせた。

…最悪。



コホコホと涙目になりながら、制服についた粉を払って、ため息をひとつ零す。
黒板消しを元にあった場所に整列させて、黒板を見上げる。
「うん。完璧!」
自分のこなした仕事ぶりに納得しながら頷いて、日誌を手に取った。
これを先生に提出したら終わり。
明日からは冬休み。








帰り支度を整えて、教室を出ようとした時。
廊下から慌しい足音と声がした。
ふと、顔を上げると。廊下を走りぬけるそれと、目が合った。

「───あっ!!」

小さく声を上げた蒼吾くんは。

「よかった!まだいた…っ」

口を大きく開けて教室に滑り込んだ。
一歩教室を出ると、手が悴んでしまうほど寒いのに。
額には薄っすらと汗の粒。

「わりぃ!ちょ、ごめんっ!!」

顔の前で手を合わせ、小さく声をひそめると。
そのまま教卓下に大きな体を潜り込ませた。


え?え??…なに……!?


「夏…───」
「シッ!」
黙ってろ、って。
人差し指を口元に当てる。


「待ちやがれーっ!!蒼吾っ!!」


物凄い声と怒りを露にして、男子生徒が教室に飛び込んできて。
ビクリと体が飛び跳ねた。
ほんと、びっくりした。
それは向こうも同じで、目が合うと驚いたように声を上げた。
「あ…れ?…蒼吾、は?」
隣のクラスの守口くん。
「あいつ、ここに来なかった?」


あ、えっと……。


コツン、と。
足元が蹴られた。


「……来て、ない…」




「…マジで?」



コツン。
また、蹴られる。




「うん……知らない…」


仕方なく、また、嘘。



「……っかしいなぁ。絶対ここだと思ったんだけど…」


短髪を困ったようにがしがしと掻く。
なんか、すごく困ってる。
ていうより、怒ってる?

「…どうしたの?」

さりげなく聞いてみる。

「んー…。ちょっと、な」

言葉尻を濁してまた、頭を掻いた。

「あいつ、逃げ足だけは速いからなぁ」

舌打ち混じりに呟く。

うん。
逃げ足だけは天下一品だから。
それは小学生の頃から、ちっとも変わらない。


「あいつ、見つけたら言って!」
「う…うん……」
「俺、まだしばらく校内にいるからさ。アイツとっ捕まえるまでは、ぜってぇ帰るつもりねぇし。よろしくなっ!」
最後の方は怒りを強調するように、すごい勢いで捲くし立てた。
じゃ、って。
軽やかに廊下の向こうへ駆け抜ける。
あんなに走っても息ひとつ上がっていない。
さすが運動部って。
後姿を見送りながら、妙に感心してしまう。






「…行ったか…?」



足元から声がした。



「……うん」



私の返事を待ってから、蒼吾くんが足元から顔を出した。
窮屈そうに折り曲げていた体をぐんと空へ伸ばす。
でっかい体がますます大きく見えた。

「悪いな、園田」
助かったって、制服を軽く叩く。
「何、したの…?」
あの温厚そうな守口くんがすごい怒ってた。



「あ〜…。



あいつのチャリ、ぶっ壊した…」









え?





「ええっ?」
「わざとじゃねぇよ。事故」
嫌そうに眉根に皺を寄せる。


「どうして……」

自転車が壊れるなんて、よっぽどだよ。

「今朝、すっげぇ寒かっただろ?水たまりとか凍ってたし。だから姉貴がチャリは危ないから乗って行くなって、自転車禁止令」
「うん…」
「ガッコが終わったらどうしても行きたいところがあったからさ。取りに帰る時間もねぇし、涼に借りたんだ。
そしたら帰りに、ぶっ壊れた……」

蒼吾くんの制服はひどく汚れてた。
肩から肘にかけて、特に。

「あいつの自転車、すっげーんだぜ?ギアが6段もあってさ。
調子に乗ってフル活用してたら、使い方誤ったみたいでさ、チェーンが外れやがった…」
最後は、申し訳なさそうに小さな声。
「で。押して帰る時間がなかったから、めんどーだし土手において帰ったんだ。帰りに取って帰ってくれってゆったらあいつ、ぶちきれやがった…」

「…それは…」


怒るよ…。
守口くんじゃなくても。

「だってあいつ親友じゃん?それぐらいでさ」
ちっちぇ男だよな、って拗ねたように肩をすくめた。
その肩から背中にかけて、枯れ草や泥がついてる。
どんな格好で転んだんだろ…。


「…今、想像笑いしたろ?」
「…あ、ううん……」

慌てて首を横に振って否定。

「ぜってー笑った」
「…笑ってない、って…」

どんな顔して転んだんだろ。
すごく慌てたんだろうな。
それを想像したらおかしくって。
つい、笑みが零れてしまう。



「ひっでーな、園田。笑うな」
「ごめん…。
…でも、どうしてそんなに急いでたの?」

「───あっ…!!」

やべっ!忘れてた、って。
思い出したようにでっかいスポーツバッグを開けて、中を覗き込んだ。

「…っかった〜。無事〜」

大きなため息をついて、安堵の声に肩を落とす。
そのままバッグの中から何かを取り出すと。
「やる」
私の前に突き出した。

「…なに、これ…」

見覚えのある小さな紙袋。

「開けてみ?」

袋を開くと、ふんわり甘い匂いがした。
そっと中を覗き込むと、真っ白なホワイトノエルがひとつ。
ちょこんと入ってる。
期間限定のミスドのクリスマスノエルだ。
どうして……。
「これを園田に渡したくってさ。今日までだろ?これ」
わざわざ、この為に?
「上の姉貴がミスドでバイトしてんだよ。今日、ちょうど店に入っててさ、こっそりおまけしてもらった。ほら、サンタふたつ乗っかってるだろ?」

ノエルの上にちょこんと座ったサンタクロース。
まるでキスをしているみだいに、顔を寄せて座ってる。
あまりにそれが可愛くて、思わず顔がふにゃりと緩んだ。
「園田、好きじゃん。ミスド」
うん。
毎日でも食べたいくらい、大好き。


「…ありがとう…」


つられて蒼吾くんも笑う。


「でも…私、何も用意してないのに…」
「いいよ、別に。見返りを期待して買ってきたわけじゃねぇし。ただ単純に園田の喜ぶ顔が見たかったっていうか…。こんなもんでごめんな?」
照れたように笑う。
その笑顔に。
トクン、と。心が揺れた。

「そういえば、鈴木は?」
「帰ったよ…」
そんなのとっくの昔に。
「あいつも日直だろ?」
「…そうだけど…」

クラスメイトの鈴木くん。
他校の彼女との待ち合わせに間に合わないとかで、私に仕事を全部、押し付けて。
とっくの昔に帰っちゃった。
園田は彼氏とクリスマス…ってこと、ねーだろ?って。
大きなお世話だっ…。


「相変わらずだな、お前」
ぷっ、って。
蒼吾くんが吹き出した。
「あの頃とちっとも変わってねーの」
「なにそれ…」
「人に頼まれると断れない性格。真面目で、おまけに騙されやすい」
肩を揺らして笑いを堪える。
それって失礼だよ、蒼吾くん。

「初めてお前と会った時もそうだったじゃん?水遣り当番押し付けられてさ、すっげー不機嫌そうにひとりで水遣りしてんの。
テキトーに終わらせて帰ればいいのに、それをやろうとしない。
すっげぇ真面目なやつって思った」
「…それって褒めてるの?けなしてるの?」
「褒めてんだよ。一応、な」
蒼吾くんが笑う。
一応は余計。



「でもさ。俺、そん時だったよ。…園田のこと、好きになったの」






「…え?」


「たぶん、一目惚れ」


「………」


「少女漫画じゃあるまいし、って思ったけどさ。視線を奪われるってゆーの?ほんとにあるんだな。そういうの。
フワフワした髪が陽に透けてすっげぇ綺麗で。…触ってみたいって思った」
「………」
「…なーんてな。ちょっとクサイ話だよな。ま、クリスマスだし、トクベツってことで。気にすんなっ」

最後の言葉は、豪快に笑った蒼吾くんの声にかき消されて消えた。







でも、私は。


それを軽く笑って流せなくらい。
ざわざわと胸の奥から込み上げてくる感情に押しつぶされそうになって、下を向いてしまった。






「園田?」


「……」


「あれ?また、マジに取った?」


顔が上げられない。



「…園田?」



「……」



「…なんで、黙ってんの?」



「……」







「…なんで…そんな顔するんだよ…?」







だって。
反則だ。そんなの。今さら。

あの時。
そんな風に思ってくれてたなんて。
恋が始まったあの日に、同じ風に感じてくれてたなんて。
それを今、言うなんて。








「…な。園田…」

柔らかい声が頭の上から聞こえる。


「…さっきの。
お礼とかプレゼントとかいらないってゆったやつ。

…やっぱあれ、なしにしてい?」





「…え?」







「髪……触っていいか…?」







ドクリって。

心臓が飛び跳ねた。






何言ってんのとか。
冗談ばっかとか。
笑って流しちゃえばいいのに。
そんな言葉が出なくなるくらいに、私を見つめる蒼吾くんの瞳が真っ直ぐで。
真剣な色を称えてた表情は、冗談なんかじゃなくて。
息が、止まっちゃうかと思った。









「───…触れて、い?」






伸ばされた大きな手のひらが宙を舞う。



いいなんて言ってないのに。
なにも言ってないのに。
宙を舞った手のひらがそっと、私の髪に触れた。
輪郭を優しく撫でて、髪の流れに沿って。
まるで壊れ物を扱うかのように優しく触れていく。
髪の一本一本までに、神経が通ってるんじゃないかって錯覚するくらいに。
優しく撫でる指の動きが、リアルに心へと伝わってくる。
触れた指先から伝わる体温に、鼓動が波打つように早くなる。


指が優しく耳の横を通り。
そのまま、髪の一束を掬い上げた。

まるで。
私の気持ちを掬い上げるかのように。




…どうしよう。顔が上げられない…。



ひどく。ひどく。真っ赤な気がして。
気持ちが全て、顔に出ているような気がして。
どうしようもなくて。
私は、きゅっと唇を噛み締めた。









……お願い、何か言ってよ。でないと、私…。







「予想通り」


空気が柔らかく動いた。


「髪。すっげぇ…柔らかいんだな」



蒼吾くんの笑顔は。
彼のコトバと気持ちを乗せて。
私の気持ちを簡単に攫ってしまった。

人が人を好きになるきっかけなんてほんの些細なことで。
その瞬間が、いつ訪れるかなんて。
たぶん、誰にも分からない……。





「園田」


「…え?」


「すっげぇ真っ赤」


笑いを抑えるように私を覗き込む。


「な。それって、さ…───」


言いかけて、蒼吾くんが顔を上げた。
何かを察知したように一度、廊下を振り返ると。
「…やっべ、いいとこなのに…っ」
短く呟いた蒼吾くんに。
そのまま腕を引かれて体が持っていかれた。



頭が真っ白になった───。







NEXT→

魔法のコトバ  Season10 comments(5) -
スポンサーサイト
- - -
Comment








お久しぶりですw

たまに見に来て読んでたんですけど、テストとかがあってなかなかコメントできませんでした;;

でも、どんどん面白くなってて続きが楽しみですw
今回のお話はましろちゃんがめっちゃ可愛かったですよ♪

では!がんばってください!!
from. 志歩 | 2007/06/20 22:02 |
い、いいところで区切られた…!(←蒼吾2号か?
もう、どきどきが止まりません!
ストーカ…いやいや!例えそうだったとしても、私なら何度蒼吾に落ちていることか!
夜中に大興奮でしたよ(汗)
ましろちゃんも、すっかり彼のペースですねぇ

続き、楽しみにしています♪
ではでは!
from. 史間 | 2007/06/21 01:44 |
●○●志歩さんへ●○●
おお!お久しぶりでございます〜!
学生さんはテストとかあって大変ですね。蒼吾もつい最近までは大変でした(笑)きっと補習とか、追試とか…ごにょごにょ……。

ましろ、可愛かったですか?ありがとうございます。乙女ドリームを突っ走っていますので、大丈夫かなぁと少々心配だったりするのですが、支持していただけてとても安心しました。また続きを楽しみにしていてくださいね!


●○●史間さんへ●○●
あはは(笑)いいところで寸止めです。
気がつけば、すっかり蒼吾のペースですよね。ましろは回りに流されやすい女の子なのです(苦笑)

夜中に熱い興奮をありがとうございます。史間さんのコメントはいつも夜中だったり、朝方だったりなので、お仕事がお忙しいんだな〜と思いながら読ませてもらっています。
お体を壊さない程度に、また読みに来てくださいね(笑)
from. りくそらた | 2007/06/21 09:18 |
ずーと前から気になっていたのですが、「いちよう」って話の流れから「いちおう(一応)」?

from.   | 2007/06/21 10:32 |
↑の方へ。

「一応」の間違えです。

地元の方言的な言い方で、間違った覚え方をしていてたんですね、私…。普段の会話で普通に使ってました。
漢字に直せば一目瞭然なのに。お恥ずかしいです。
ずーっと。ということは、過去にも…(汗)見直してみます!
ご指摘、ありがとうございました。助かります。
from. りくそらた | 2007/06/21 10:58 |
<< NEW | TOP | OLD>>