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魔法のコトバ*  Last Season 魔法のコトバ-1-

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Last Season  魔法のコトバ -1-

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年が明けた。
冬休みは特に何かをするわけでもなく。
家族と過ごして、凪ちゃんと初詣に行って。
なんとなく過ごしているうちに終わってしまった。

あの日。
私を抱きしめて囁かれた蒼吾くんのコトバは。
ずっと胸の奥深く燻ったまま。
噛み締められたたった二文字のコトバを。
私はまだ、伝えられてはいなかった。








新学期早々、呼び出された。
呼び出したのは美術部の顧問、清水先生。

「───部の…代表ですか?」
予想もしていなかった話の内容に、目を何度も瞬かせた。
てっきり。
長期に渡って欠席していた事を咎められると思っていたから。
清水先生は綺麗な顔をほころばせながら、ゆっくりと話を続ける。
「ほら、エントランスホールに大きな絵が飾ってあるでしょう?あれ、うちの部生が描いたものなのよ?
毎年、卒業シーズンに代表の生徒に描いてもらって、それを卒業式の日から一年間、飾るの。卒業生へのはなむけとして。
今年の二年生はデジタル専攻の子達ばかりでしょう?だから、園田さんにお願いしたいという話が出てるんだけど…。どうかしら?」
そんなの無理に決まってる。
美術部に入ったのもついこの間。
やっと一枚、ちゃんとした絵を仕上げたばかりだっていうのに。
「学祭の園田さんの絵、とてもよかったわ。好評だった。何か迫り来るものがあって。あんな絵をもう一度描いてほしいと思うのだけど…」
清水先生はかけていた眼鏡をそっと外して。
「やってみない?」
私に微笑みかけた。


うちの学校のエントランスホール。
そこに飾ってある大きな大きなキャンバス。
両手を広げたよりもずっとずっと大きいの。
それに描かれているのは屋上から見える夕暮れの風景。
黄昏色の淡い淡い、それでいて温かい色合いの絵。
思わず立ち止まって見上げたくなるような素敵な絵。
私も。
何度も立ち止まって見たよ。
毎日、生徒やセンセイたちを迎え、一日を見送る。
そんな絵を私が?


「私には…ちょっと、難しい…です……」
「どうして?」
「…どうして…って…」
認めてもらえたのは嬉しいけど、胸を張って引き受けられるほどの度胸も実力も私は持ち合わせていない。
「そんなに気負わなくてもいいのよ?別にどこかに出展するわけでも、偉い方が見に来るわけでもないのだから」
「…でも…」
「普段どおりにやってもらったので構わないの。今から取り掛かれば、時間も十分にあるし」
「…でも……。やっぱり、無理です…」
頭を深く下げた。

それを見て先生が大きなため息を零した。
「どうしてやらないうちから簡単に答えをだしちゃうかな?」
トントン、って。
考え込むような表情で机を指で叩く。
「園田さんは、これからどうするつもり?」
「え?」
「進路。そっちの道に進むつもりはないの?」
そんなの…考えてみたこともなかった。
まだ一年生だし。
「これから美術を専攻していくのであれば、いいチャンスだと思うのよね?エントランスホールはいわばうちの学校の看板。いろんな人の目に止まるからチャンスも転がってる。
まだ一年生だからって、呑気に構えてたら、三年間なんてあっという間よ?」
「……はい…」
担任でもないのにそんなことを言う。
でも、この先生は担任でもそうじゃなくても、生徒を大事にしてくれる先生だって知ってるから、そこのところは嫌味には聞こえない。
素直に聞き入れられる。
特に美術部生には優しいの。

「まぁ。急な話だったものね。少し時間をあげるから考えてみて?
この機会に進路のことも考えてみるといいわ。遠い未来のことではないんだし」
「はい…」
「佐倉くんはそこのところをよく、考えてるみたいよ?しっかりした子ね」

佐倉くん?
そうだ、彼がいた。
私なんかよりもよほど、彼の方がすごい絵を描くじゃない。

「…あの…」
「なぁに?」
「佐倉くんは、候補に上がってないんですか?」
「ああ…。もちろん彼も上がってはいたんだけど、…辞退したわよ」
「辞退…?」
「ほら、あの子。時間がないから」

なんの?




「あら、園田さん。聞いてないの?」















私は、走った。
何がそうさせているのかわからないけれど、とにかく走った。
「あ、園田さん。バイバイ」
時折、すれ違うクラスメイトの声なんて。
全部無視して、全力で駆けた。
普段、こんなに走る事なんてないから、息が切れてしょうがない。
肩で息をしながら、顔を上げた先。
目的の場所への入り口。
何度も何度も開けた扉の前で、私は大きく息を吐くと。
思い切ってそれを開けた。




久しぶりだった。
つんと鼻をつく絵の具や石膏の独特な匂いも。
画材がいっぱい並んだ殺伐とした部屋の風景も。
そこだけがまるで、時間の流れから切り取られたような穏やかな空間も、なにひとつ変わっていない。
たったひと月半、こなかっただけなのに、ひどく懐かしく思えた。
何だかわからない感情が込み上げて、唇をきゅっと噛み締めた。


窓辺の指定席にいつもの横顔を見つけた。
外は手が悴んでしまうほど寒いのに、ひとつだけ開いた窓は変わらないまま。
キャンバスに向かう凛とした横顔は、真剣な色を湛えて。
繊細な感性が彼の目に写る切ないまでの世界をそこへ描き出す。
声をかけようか躊躇って、その名前を飲み込んだ。
時折、窓の外を見つめるその表情。
佐倉くんの想いはひたすらすぎるほどに、彼女のもとにある。
それは今も変わらない。



「…ましろちゃん…?」

先に気付いたのは佐倉くんだった。
凛とした表情に少し驚きを浮かべて、柔らかいトーンで名前を唇に乗せる。
私を見つけた顔が、穏やかな笑顔に変わる。
一瞬。
トクン、と心が跳ねたけれど。
それは思っていたよりも穏やかで、自分でも驚いた。


「久しぶりだな。元気だった?」
その問いに、こくりと頷いてみせた。
「美術部、復活?」
嬉しそうに笑う。


まだしばらく、ここには来ないつもりだったのに。
気がついたら走り出していて、ここに来てた。
職員室で聞いたあの言葉が、頭から離れない。


「先生から聞いた?エントランスホールの絵の話」
「…うん。聞いた…」
「すごいよな」

嬉しそうに笑う。


「引き受けるの?」
「…わかんない」
「ましろちゃんなら大丈夫だよ。学祭の絵、すごかった」
「…どうして佐倉くんはやらないの?私よりも上手でしょう?」
「俺はいいよ。他にやりたい事あるし。ましろちゃんにゆずる」
「ゆずるって…」

理由はそれだけ?
違うでしょう?


「それになんだったら俺は来年、引き受けてもいいし。な?」

穏やかな顔で覗き込む。


佐倉くんはそこにいるのに。
すぐ、側にいるのに。
それがひどく遠くに見えた。




「…うそ…。

佐倉くん、うそばっかり…っ」



びっくりするぐらい大きな声が出た。
怒ってるのか。泣いてるのか。
それさえ自分でわからない。
彼が一瞬、驚いて。
キャンバスに置かれた手が止まった。

でもそれは、ほんの一瞬で。
そんなことなんてまったく気にする様子もなく。
「…どうしたの?」
って、穏やかな顔で笑う。
それがあまりにもいつもと変わらないから、泣きそうになる。






「…来年なんて…ないんでしょ?」





佐倉くん。





「東京、行っちゃうって…ホント…?」






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魔法のコトバ*  Last Season  comments(8) -
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Comment








ついにラストになってしまいましたね・・・
正直題名を見た時とても驚きました。
半分はショックでしたが、だけど「いつか終わりはあるんだ。」と思い、なんとか1話読むことができました。
佐倉くんとましろ。
久しぶりに物語に出てきた気がします。
ここで二人の間にあるわだかまりを取れればいいな・・・と私は思います。
ラストスパートはもう切られました。
私もりくさんを全力で応援します!!
物語に期待してますね。
from. さくら | 2007/06/28 21:40 |
●○●さくらさんへ●○●
ほろりとくるコメントをありがとうございました(涙)
私もこれをUPした時に、もうすぐ終わるんだな〜としみじみしていたので、同じように感じてくださってたことをとても嬉しく思います。
佐倉、久しぶりの登場です。彼の存在がましろたちにとってどう影響していくのか。最後まで見届けていただけると幸せです。
from. りくそらた | 2007/06/29 09:02 |
ラストですか。
寂しいです〜

えええええ!
佐倉くんは、東京へ行っちゃうのですか!?
ましろちゃんもそうだけど、
佐倉くんの、凪への気持ちは!?
そして、ましろちゃんが伝えそこねている、蒼吾への言葉って―

先を読みたいような、読みたくないような。
切ない4人の物語を、でも、しっかり見届けたいです!
from. 史間 | 2007/06/29 23:44 |
わぁぁ・・・・もうこんなところまできちゃったんですねぇ!
早く続きが読みたい・・・ケド、
「ラスト」だからもぅそろ終わるってコトでしょ???・・・そぅ思うとすっごくサミシイです・・・
(でも続き楽しみにしてます!がんばってください!)
from. | 2007/06/30 10:32 |
ども。なつみです☆★
わたしはやっぱり蒼吾派ですねww
かっこいぃですもぉん!!
はぁww膈腓發終わるんですか?もっと読みたかったです・・・
残念ですけど、ましろと蒼吾の関係がきになります
頑張ってください!!めっちゃ楽しみにまた覗きにきます♪
from. | 2007/06/30 21:40 |
●○●史間さんへ●○●
佐倉の東京行き、びっくりでしたか!彼なりにいろいろ思うところがあるようなので、これからどう動くか、凪やましろがどう変わって行くのか。最後までどうぞ見届けてやってくださいね!
from. りくそらた | 2007/07/01 09:21 |
●○●10:32AMにコメントをくださった方へ●○●
いよいよラストスパートになりました。「もう最後なんですね!」というコメントをたくさんいただいたので、終了時期を予告しておいた方がよかったのかな〜とかちょっぴり後悔です(苦笑)
私自身、連載を始めてからは生活の中心が「まほコト」だったので、終わってしまうのは非常に寂しかったりします(涙)
どうぞ最後まで恋の行く末を見守ってやってくださいね!
from. りくそらた | 2007/07/01 09:26 |
●○●なつみさんへ●○●
久しぶりに佐倉を書きました(笑)
蒼吾か佐倉か。人によって好みが分かれるんじゃないかな〜と思ってます。なつみさんは蒼吾派。ちょっとガキっぽい部分もあるんですけど、プッシュしていただけてとても嬉しいです。
ふたりの関係の続き、ラストに向けてどうぞ楽しみにしていてくださいね!
from. りくそらた | 2007/07/01 09:33 |
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