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魔法のコトバ*  Last Season 魔法のコトバ-3-
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Last Season  魔法のコトバ -3-

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結局、私は。
背中を押されるまま、卒業制作を引き受けた。
「園田さんなら、引き受けてくれると思ったのよ。よかったわ〜」
嬉しそうに笑って、先生は絵を描く特別教室を設けてくれた。
旧校舎の一階奥。
美術室と正反対側にある会議室。
そこへブルーシートを敷き詰めて、大きなキャンバスが用意された。
人ふたりが両手を広げたぐらいの大きなサイズ。
正直言うと。
初めてキャンバスを目にした時、早まった事をしたかなって思えるぐらいにその大きさに圧倒された。
エントランスホールの絵と同じサイズなのに、絵がないだけけでこんなに大きく、存在がのしかかってくるなんて。
私は思わず息を飲んだ。


「テーマは“学び舎”。ようするに学校ね。
学校を題材としたものであれば、風景でも人物でも何でもいいから。とりあえず描きたいものを探してデッサンして、一度先生に見せてくれるかしら?」
「はい」
楽しみにしてるわね、そう言い残して廊下の向こうに消えた。
心なしか見送った背中が嬉しそうな気がした。

ひとりになるとひどく教室が広く思えた。
特別教室が多い旧校舎は、授業を終えてしまうとやけに静かだ。
遠くから吹奏楽部のラッパの音が微かに聞こえた。










描きたい題材を探して、探して。
私はひたすらにデッサンし続けた。
校庭。
夕暮れの教室。
屋上から見える景色。
体育館やエントランスホール。
バスケットコートにプール。
校舎。
黒板。
登下校の風景。

目に映るもののすべてを。
溢れるキモチのすべてを絵に描き出して。
デッサンして。考えて。
それでも気持ちに力が追いつかない。
時間が影のようにずっと、私を追いかけてくる気がした。



「園田さん、ホールの絵やるんだって?」
「一年なのにすごいね」
「頑張ってね!応援してる」
屈託ない笑顔で励ましてくれるクラスメイトに曖昧な笑みを返して、私はまたキャンバスのある会議室へ向かう。
右手には鞄よりもひと回り大きなスケッチブック。
三学期に入ってから二冊目になる。
ひたすら校内を歩き回って、描いて描いて描きまくったのに。
心に響く題材が見つからない。
描きたい何かが見えてこない。
ただ感じるのは、周囲の期待を込めた眼差しとそれに答えなきゃと気負うプレッシャー。
時折、それに押しつぶされそうになる。
締め切りは、佐倉くんがいなくなってしまうタイムリミット。
いいものを描かなきゃ。
佐倉くんと、この学校を去り行く先輩達へのはなむけに。
いいものを……。




ふと見上げたら空が張り詰めていた。
頬をさらう風が随分と冷たくて、マフラーをきつく巻きなおす。
それに顔を埋めて、すっかりかじかんでしまった手をそっと擦り合わせる。
はぁ、と息を吹きかけると、白い息が手のひらに落ちた。
「園田?」
聞き覚えのある声に、あ…と思って顔を上げると、心配そうに覗き込む眼差しと目が合った。
「何やってんの?」
ユニフォームの上にスタジャンを着込んで、薄っすらと汗をかいた顔で蒼吾くんが覗き込んできた。
マフラーをぐるぐる巻いて、分厚いダッフルコートを着込んでいても寒いのに、寒さなんて微塵も感じないかのように顔が赤く上気してる。
「座り込んだまま動かねぇからさ、凍ってんのかと思った」
目深にかぶっていた野球帽を脱いで、ガガッと髪を掻きあげると、意地悪っぽく口の端を持ち上げて笑った。
「部活中じゃないの?」
「ん。休憩中。グランド10週してきたとこ」
そのままドカッとベンチに腰を降ろした。
蒼吾くんの気配を身近に感じて、一瞬、身を縮こまらせた私を見て苦笑した。
「描くもの決まった?」
そう言って手元のスケッチブックを覗き込む。
「……まだ…」
私はまた、マフラーに埋もれるように下を向いた。
頬を撫でる風がひどく張り詰めている気がずるのに、なぜかそれが冷たく感じない。
きっと隣に蒼吾くんがいるから。

「そっか」

蒼吾くんが空を見上げた。
風が真っ白なページを攫い、パラパラと乾いた音を立てて捲れる。
二冊目になるスケッチブックは未だ真っ白なまま。


頑張らなきゃ。いい絵を描かなきゃ。
そう思うたびに。
「頑張って」「期待してるから」
そう言われるたびに、鉛筆持つ手が震えた。
期待を背負った鉛筆が鉛のように重く感じる。
周囲の期待というものに極端に弱い私の心が悲鳴を上げて、それをひた隠しにして蒼吾くんを追った。
どんな逆境にも強い、その姿を目に焼き付けたくて。
描くための勇気と力を分けて欲しくて。
気がついたらいつも蒼吾くんを追っていた。


「今度、春に練習試合があるんだけどさ」
黙ったまま何も言わない私に痺れを切らせてか、蒼吾くんが口を開いた。
「俺、レギュラー取れるかもしんねぇ」
「…ほんと?」
「たぶん、ほんと」
蒼吾くんが笑う。
「今までベンチ入りが精一杯だったけどさ、次はスターティングナインに選ばれる可能性があるから、頑張れって監督が」
「…すごいね。おめでとう」
私も笑った。

「だからさ、お前も頑張れ」
「…え…?」
「結構、遅くまで頑張ってるだろ?」
「………」
「園田の絵、すごかったからさ。お前らしい絵をまた描けばいいんだよ。頑張れ」
くしゃって、蒼吾くんの手が頭に触れた。
その体温を感じてトクンと心が揺れたけど、それを笑って返せなかった。


すごいって何が?
どんな絵がすごいの?
私らしいってなに?


私って…どんなの…?




物言いたげに見上げた私の気持ちに蒼吾くんが気付くはずもなく。
「あまり根を詰めんなよ?」
そう言って笑った。
何ともいえない感情の波が押し寄せて、涙が零れそうになって顔を伏せた。

私は蒼吾くんに、何て言って欲しかったんだろう。
蒼吾くんが私を好きだという気持ちに甘えて、過信して。
大丈夫だよって。
お前ならやれるって、抱きしめて欲しかったの?



「…園田?」
私の異変を感じ取って、蒼吾くんが表情を変えて私を覗き込んだ。
その肩越しに。
「コラァ!!夏木ーーっ!!女といちゃついてんじゃねーよっ。休憩、とっくに終わりだっ」
上級生からの罵声が飛んだ。
「すみませんっ!!今、行きますっ!!」
でっかく叫んで。
「…大丈夫か、お前…」
それでもまた私を覗き込む。
「大丈夫だから。行って?」
感情を押し殺して笑顔を浮かべて、バイバイって手を振ったら、また罵声が飛んだ。
それに短く返事をして名残惜しそうな表情を残しながら、グランドの向こうに消え行く背中を見送る。


「部活中にいちゃつくな!」
と守口くんに小突かれ、そんなんじゃねぇよ!とぶっきら棒に言い返す。
そのまま手渡されたミットとプロテクターを手早く装着すると、いつものようにキャッボールをはじめた。
冬の白く張り詰めた寒空にボールが弧を描く。
パシッってボールを受け止める音が、乾いた空に溶けた。




私の二冊目になるスケッチブックは、未だ真っ白なままだった。






To Be Continued
魔法のコトバ*  Last Season  comments(4) -
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Comment








ましろ、複雑ですね・・・
「自分通り」を求める気持ち分かる気がします。
あと、蒼吾のアドバイス。
私にとってはナイスですねww
自分が迷っている時なんかにそんなことを言われると、なんだかほっとしますね・・・
それにしても本当、ましろは辛いですね。。。
でもそれを乗り越えてこそ、いい結末になると思います。
これからを楽しみにしてます。
P.S.私の学校で夏休みの宿題に「読書感想文」があります。
そこで質問なんですけど、りくさんのオススメの本ってありますか??
(中学生でも読めるような・・・)
もしよければ教えてください!! お返事待ってますww
from. さくら | 2007/07/04 21:07 |
●○●さくらさんへ●○●
ましろは心の葛藤が続いています。
蒼吾のコトバが凶と出るか吉と出るか。ましろにとってそれがどのように響くんだろうか…と、私自身、葛藤していたりします(笑)
そういうのを乗り越えて人って強くなるんですよね。

読書感想文ですか(笑)ものすごく懐かしい響きです。未だその宿題は健在しているんですね。
実は最近、活字の本にはほとんど触れていません。オンライン小説を読むのにはまっているのですが…。
中学生ぐらいだとハリポタとか…?定番すぎかな。
どうにも私ではお役に立てそうにないです(涙)ごめんなさい〜。
from. りくそらた | 2007/07/04 22:50 |
蒼吾……
「がんばれ」って、今は辛いんだよ、ましろちゃんはぁ〜(悶絶)
プレッシャーとか、時間とか、いいもの書きたいとか。
そんなんが同時に襲ってくるのは、作り手の、常なる苦悩ですよね。
特に、根をつめがちなましろちゃんには、きっと私が想像するよりも、
ずっともっと苦しいわけで。

蒼吾にかけて欲しかった言葉、すごく分かるよ!
理解して欲しいとかじゃないけど、
皆とは違う言葉、欲しかったんだよね(涙)
甘えだなんて!だから、素直に甘えていいんだってば(笑)
…と、興奮は置いといて。

ましろちゃんをいつも見守っている蒼吾だから、
きっと何かに気づくはず、と願いつつ。

続き、楽しみにしています!
凪の出番も待っています♪
from. 史間 | 2007/07/05 00:54 |
●○●史間さんへ●○●
「がんばれ」って言葉は、無責任な言葉だなと思うときがあります。特に何を頑張ればいいのかさえ見失いつつあるましろにとっては、今はかなり重たい言葉のはず。
蒼吾はいつも見守ってはいるものの基本はバカですから、気付いてやれるんでしょうか(笑)そこのところはスト○カ○センサーで…もごもご。

私の中ではもう最後まで話は書き上がってはいるものの、どう表現していくか。ましろじゃないけど作り手の苦悩です(笑)頑張ります!
from. りくそらた | 2007/07/05 08:54 |
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