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魔法のコトバ*  Last Season 魔法のコトバ-4-
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Last Season  魔法のコトバ -4-

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デッサンの最終締め切り。
ギリギリまで頑張ってはみたけれど、結局、納得のいくものは描けなかった。
「じゃあ、この絵で行こうかしら?」
先生が選んだのは美術室を描いた風景画。
キャンバスを立て掛けた夕暮れの美術室に、ふわりとカーテンが揺らめくそんな空間。

「園田さんはどれで行きたいの?」
どれもピンと来ない。
「それで…いいです…」
曖昧に笑って答えた私に、先生はちょっぴり寂しそうにため息を零した。
「別に“いいもの”を期待してるんじゃないの。あなたらしい絵を描いてくれればそれでいいから」
ちゃんと自分に納得できてる?
先生が聞いた。

私らしいってなんだろう。
その答えが見つかっていないのに、自分らしい絵なんて描けるはずがない。
周りが評価してくれた春の絵。
あの時はただ、がむしゃらに佐倉くんへの想いをぶつけた。
行き場を無くした気持ちは、絵の上でしか想いをぶつけることが出来なくて。
溢れた想いが荒れ狂って白い紙の上に恋の色を描いた。
何かを忘れたくて、眠れないほどに絵に没頭した。

気持ちばかりが焦ってしまうのに、時間は待ってくれない。
無常にも刻々と時を刻んでゆく。
佐倉くんがいなくなってしまうタイムリミットは、もうそこまできているのに、私はただ、絵を描くことしかできない。
去り行く彼に、何をしてあげられるのだろう…。
「あと少しだから…頑張ってね」
優しく肩を叩いてくれた先生に私はただ、困ったように笑うことしかできなかった。












ふと新しい色をパレットに乗せようと筆を置いて、絵の具のチューブに手を伸ばす。
欲しかった藍の色は使い切ってしまっていて、チューブはすっかり空になっていた。
ため息をひとつ落として制服の上から着用していたエプロンを取り外し、新しいチューブを取るために準備室へ向かった。
とっくに活動時間を追えた美術室の鍵は固く閉じられていて、私は仕方なく鍵を取りに職員室へ足を運んだ。
保管庫から目的の鍵を取り出して、使用ノートに自分の名前を記入する。
顧問の清水先生にもう少しだけ残る事を告げて行こうと、職員室へと続く扉に手を掛けかけた時。
ふと声が漏れた。


「園田はまだ頑張ってるんですか?」
自分の名前が上がったことに扉に触れかけた手が躊躇した。
「ええ。毎日、遅くまで頑張ってるみたいですよ」
若い女の先生の声。
しっとりと艶のある声で、それがすぐに顧問の清水先生だと分かる。
「アイツ、大丈夫ですかね?」
野太く低い声の男の先生は、担任の新垣先生。
曇りガラスの向こうにでっかい影が揺れた。

「園田は精神的に弱い面がありますから。最近、結構参ってるんじゃないかと思いましてね」
「新垣先生、よく見てらっしゃる」
清水先生が小さく声を立てて笑った。
ほんと。
ちょっとびっくりだよ、先生。

「頑張ってますよ、彼女」
「そうですか。それを聞いて安心しました。園田は精神的に参ると、すぐに腹痛を起したり貧血で倒れたりしますから…」

心底、安堵の声を漏らし、苦笑混じりにそう告げた新垣先生に、清水先生が躊躇いがちに言葉を続けた。

「───でも…」
「でも?」
「春の絵。あれは確かにすごかったんですけど、あれ以来、勢いがないというか」
「…ああ。学祭の。あれはすごかったですね。園田の隠れた才能を発見したというか。職員の中でもなかなか好評だった」
「確かに彼女の感性には目を見張るものがある。同じ一年の佐倉くんに、負けず劣らずだと思います。
でも今の彼女の絵には自分がない。絵に心がこもっていない。
ただ上辺だけを見て、デッサンして、色を乗せて。ただの機械的な絵。そんな気がしてしまって…」
「難しい年頃ですからね。この時期の子どもたちは」
「あの子は、すぐに精神面が絵や色になって現れる。
それが恋の色を浮かべた透明感溢れるものだったり、ひどく荒れて影を落としていたり。不安定です」

先生からため息が零れた。
それが深く、私の心を抉(えぐ)る。

「やはり、佐倉に任せた方がよかったんでは…」

その声に弾かれたように顔を上げた。
知らず涙が溢れる。


「そうですね。そう思った時期もありましたけど……。
私は彼女を信じます。やれば出来る子ですから。乗り越えられない何かがある時だからこそ、園田さんにはやって欲しい。ひとつの大きな課題をやり遂げる事によって、彼女の自信になればいい。そう思っています」

静かにそう告げた清水先生の声が、いつまでも私の鼓膜を揺らして離れなくなった。











誰もいない扉の鍵を開けて準備室に入ると、静かにそれを閉めた。
壁に背中を預けると力が抜けて、音もなく床に沈む。
唇をきつく噛み締めて上を見上げたら、天井がゆらりと滲んだ。
涙が溢れないようにいっそう唇を強く噛み締めても、とめどなく溢れるそれは止まることを知らない。


悔しいのか。悲しいのか。それさえもわからない。
一度卑屈になると、それがどんどんと深みに嵌っていく。
抜け出せなくなることはわかってる。
それが自分の弱い部分なのも。
詰(なじ)られたわけじゃない。
むしろ弱い自分にエールを送ってくれている、そんな言葉だったのに。
なのにどうしても心が弱っている時は、悪い言葉ばかりが耳に残って、脆(もろ)い私の心を簡単に抉ってしまう。


自分のない絵。自分のない作品。
自分のない私───。
いつか蒼吾くんが言った、他人に依存している自分。


ましろのしろは真っ白のしろだ。
自分がなくてどこまでも真っ白でぼやけている、そんな白。
大好きだった名前が、急に色あせて見えた。
もっと暖かみのある名前や、ちゃんと色のある名前だったらよかったのに。
蒼(あお)を名前に持つ蒼吾くんのように、私にも色があったら。
もっと違う自分になれたのかな。
蒼吾くんのように背筋をピンと伸ばして、颯爽と空を見上げて。
それに浮ぶでっかい太陽のように堂堂と胸を張って笑えたのかな。





悔しくて悔しくて。
かかえた膝に顔を埋めた。
抱え切れなくなったプレッシャーと自分への戸惑い。
背けたくなるほどに自分の弱さが嫌になる。
いろんな負の感情が一気に押し寄せて、私を押し潰す。



暗がりの中でひとり。
うずくまるようにして、私は泣いた。






To Be Continued

魔法のコトバ*  Last Season  comments(4) -
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Comment








ましろちゃん……
どうしてかな、ちゃんと見ていてくれる人は側にいるのに。
一人で泣いちゃうんだね。
優しいから。人に甘えるのを遠慮しちゃう子だから。

デッサンに納得いってない。
気持ちが乗っていない。
分かっているけれど、具体的にどうしたらいいのか分からない。
焦燥と葛藤。
ああ、自分とリンクするなぁ(←

悩むときは、とことん悩めと誰かは昔言っていました。
そうなのかも。

それにしても、表現の手触り感が心地よい読みやすさです。
特に絵を描くプロセスとか、美術部時代の怒涛のデッサン地獄を思い出し、
思わず右手が震えました(笑←腱鞘炎になってしまった人

続き、楽しみにしていますね〜♪
from. 史間 | 2007/07/07 04:03 |
 初めまして☆ お話よませてもらってます!!o(〃^▽^〃)o      切なくて 次はどうなるの とか 考えながら 一気に1話〜魔法のコトバ -4- まで よんでしまいましたw                    応援してるので これからも 小説書くのがんばってください!!    続き を楽しみにしています ワクo(・。・*o)(o*・。・)oワク             
from. **☆**愛花**☆**:;;;;; | 2007/07/07 11:01 |
●○●史間さんへ●○●
そういえば史間さんは経験者でしたね!そういう体験があるのですね(苦笑)想像するだけで胃が痛くなりそうです…。
絵を描くプロセスや葛藤は私には未知の世界なので、想像と自分で調べた知識のみで書いていっているのでそう言っていただると嬉しいです。えへへ。

>悩むときは、とことん悩め。
いい言葉ですね。メモっておこう(笑)
from. りくそらた | 2007/07/08 00:09 |
●○●愛花さんへ●○●
はじめまして!コメントをありがとうございます。
「一気に読みました!」というコメントをよくいただくようになったので、久しぶりに読み返してみたところ物凄く時間がかかりました。きっと大変だったことだと思います。ありがとうございます。
もう終盤に近いのですが最後までお付き合いいただけると嬉です。
from. りくそらた | 2007/07/08 00:14 |
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