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魔法のコトバ*  Last Season 魔法のコトバ-5-
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Last Season  魔法のコトバ -5-

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どれぐらい泣いたのだろう。
とっくに陽の落ちた準備室は薄ら暗かった。
灯りがないだけで部屋が随分と寒く思えて、羽織ったカーデガンの前をそっと掻き寄せた。
ずずっと鼻を啜り上げて、膝に埋めた頭を起すとぐらりと揺れた。
体中から水分が蒸発したかのように喉がカラカラだった。
絵の具をもらったら、今日はもう帰ろう。
そう決めて立ち上がろうと膝に力を入れた。
ふと窓辺に視線を泳がすと、存在を主張するかのように三脚に置かれたままのキャンバスが視界に溶けた。
その隣には束になっているパネル。
私がしばらくここに顔を出さなかった間に、佐倉くんの絵は数を増していた。


今、佐倉くんはどんな絵を描くのかな───。


覗き見たのは、ほんの好奇心だった。




それはたくさんの色彩の溢れた絵。
赤。紅。橙。朱色。桜。蜜柑。カナリア。
たくさんの暖の色が溢れていて、そっと触れたくなるような熱を持った色。
ただ暖かで優しかった。
佐倉くんの想いが迫り来て胸を熱く焦がす。
なんて迫力があるの?
私にはない天性の才能。
独特の色使いや、自由で思い切りのいい筆運び。
繊細に絡まった感性。

夕暮れの美術室───それは私が描いている絵と同じ構図。
けれど全く違うもの。
溢れんばかりに窓から差し込む夕暮れの色に、教室が溶けてしまいそう。
佐倉くんがずっと見てきた、ずっと過ごしてきた空間がそこに再現されていた。
この絵が佐倉くんそのもの。
準備室という空間とそこで過ごしてきた時間が、愛しくてたまらない。
そこからいつも見ていた窓の向こうのかの人が、愛おしくてたまらない。
彼の気持ちがひしひしと伝わってくる。
たぶんこれがここで描ける最後の絵。
彼の持てる全てを色に込めて、今まで歩んできた軌跡と共に一枚の絵に託した。
私には描けない気がした。
こんな絵、とうてい描けっこない。






気がついたら部屋を飛び出していて、そこから逃げた。
足がもつれそうになるくらいに走って走って、会議室まで飛び込んで乱暴に扉を閉めた。
溢れる涙を堪えながら唇を噛んで上を見上げると、ぼやけた視界に描きかけのキャンバスが飛び込んだ。
ただ大きいだけの、深みも迫力もない絵。
見上げたそれは大きいのに、ちっとも存在を感じられない。
薄っぺらくて厚みも迫力もない。
ただ上辺だけを見て、デッサンして、色を乗せた。
先生が言っていたのは当たっている。
だから悔しかった。辛かった。
佐倉くんの絵を見て初めて分かった。
先生が言った意味が。
私にも見える。
この絵が「自分のない死んだ絵」なんだって───。




もうこの場から逃げ出したくて。
早くここから抜け出したくて。
ろくに確認もしないで足元のバケツを持ち上げた。

もう帰ろう。
もう絵なんて描けっこない。

ちゃぷんとバケツの水が跳ねた。
フッと影が動いた気がして私は弾かれたように振り返った。
あ───!と思って手を伸ばした時は、遅かった。
ズッと床が鳴って大きなパネルが傾いた。
それはそのまま鈍い音を立てて床滑りして、ガタンッと派手な音を立てて水平に横たわった。
それを阻止しようと伸ばした手だけが虚しく宙を切る。
何も考えずに伸ばしたその手に、バケツを握りしめていることなんてすっかり忘れて。




「う、そ…っ」




転がったキャンバスの上に、見事にその濁った水をぶちまけた。
溶解度をとっくに通り越した黒に近い絵の具の水が、どんどん絵を侵食していく。
「うそ…やだっ……やだっ……っ」
その辺にあったボロ布をかき集めて必死で水を吸い取るけれど、黒の波紋が絵に広がるばかり。
拭けば拭くほどそれはひどくなって。
絵が。自分が駄目になるような気がした。
キャンバスの白が穢されていく。
それはまるで自分自身の心のようにドロドロと渦巻いた気持ちが、綺麗で純真な部分を侵食していくような奇妙な光景だった。



気がついたら。
水を拭き取る手が止まっていた。
呆然と侵食されていく絵を見下ろす。
もう、どうでもいい。







これは私だ。




───『絵は、描く人の心を映すから』

いつか佐倉くんが言った言葉が頭の中で木霊する。





ひどくて。惨めで。情けなくて。
嫉妬じみたドロドロとした感情が心を支配していく。
私そのものだ。
蒼吾くんはいつもがむしゃらに頑張っているのに。
レギュラーになれるかもしれないって、嬉しそうに笑った彼に。
心から素直に、おめでとうって言ってあげられなかった。
それさえ眩しくて、羨ましくてたまらない。
自分はちっとも進歩がなくて、頑張れなくて、弱虫のままなのに───。
なんだか、蒼吾くんに置いていかれるような気がした。



「…もう、絵なんて…っ!!」



描けるはずがない。
そんな器じゃないって、最初から断ればよかった。
弱虫な私にはできっこない。
そんなの最初からわかってたはずなのに───。



脇腹がキリキリ痛んで吐き気が私を襲った。
悔しくて、悔しくて。
拾い上げた絵の具の箱を思い切りそれにぶつけた。
ベコッってキャンバスが凹む鈍い音がして、絵の具がバラバラと床に散ばった。






「…っ、く…っ…うう……っっ」





涙が止まらない。
人の才能を羨ましがって、嫉妬して。
そんな自分が嫌で堪らないのに、一度卑屈になってしまった心はそう簡単にそこから抜け出せない。
自分がみえない。
渦巻くようなドロドロとした気持ちに心が支配されていく。
キャンバスはまるで私だ。
白が穢されていく───。









キィと小さく音を立てて風が動いた気がした。





「…園田───?」










To Be Continued
魔法のコトバ*  Last Season  comments(6) -
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Comment








ああ!キャンバスが!
もう、ましろちゃんの色んな思いが一気に溢れて、
拝読しているこちらまで苦しくなります。
感情が乗っていない、薄っぺらい絵、かぁ。
かなり高度な場所で悩んでいる彼女が、壊れちゃわないように。

そこの、入ってきたアナタ(笑)
今度はちゃんと頼みますよ〜!今度は!
from. 史間 | 2007/07/08 12:35 |
私も史間さんと全く同じ意見です〜・・・
読んでいて、なんか胸が苦しくなります。。。
今正直言うと泣く寸前です・・・
ましろがかわいそうで・・・
本当ですよ。
ましろ!!頑張って!!
辛い時もあるよ。だけど、それを乗り越えなくちゃ本当の自分には逢えないよ。
そんな励ましを送ってあげたいです。
次も頑張ってください。
from. さくら | 2007/07/08 17:46 |
はじめましてっ「魔法のコトバ*」
書き始めのころから読ませて頂いています。。

今回はもうっ!!ましろちゃんめちゃめちゃ混乱してますね・・


そしてっ!誰なんだっ!!?
次回楽しみにしてます。

頑張ってください!!
from. 紗沙 | 2007/07/08 21:59 |
●○●史間さんへ●○●
ましろが陥っていくさまは、書いていてもとても辛かったです。どんどん嵌って抜け出せないところまできてしまって。でも。とことんまで追い詰めていったのは私です。ごめんね、ましろ(苦笑)

そこのアナタ。今度はちゃんと、ね(笑)


●○●さくらさんへ●○●
泣く寸前まで感情移入してくださってるとは!その言葉に私が泣きそうです。嬉しくて。

自分の弱さに気付いているけれど、それがなかなか乗り越えなれない。ましろの辛いところです。
ちゃんと自分で答えを見つけられるかどうか、最後まで温か目で見守ってやってくださいね。


●○●紗沙さんへ●○●
はじめまして!コメントをありがとうございます。
書き始めの頃からという事は、随分前からお付き合いいただいているのですね。とても嬉しいです。

混乱のましろです。ましろごめんね、と思いながら書いています。
>そしてっ!誰なんだっ!!?
のコメントに爆笑させてもらいつつ、次回をどうぞ読んでやってくださいね!
from. りくそらた | 2007/07/09 17:21 |
 こん^^ 詠ませてもらいました☆  今回・・・早く気持ちをすっきりさせて 良い絵を描いてもらいたいんですが・・・ 気持ちってそんなに簡単に整理できないものですよね;;
  なんか、もやもや。・゜(р≧д≦q)゜・。    最後に声をかけてきたのって・・・??  色々想像してもふw  
 こんなガキな私でも 感動しちゃう お話なんで 次回も 楽しみにしてますよぉ!!  最後まで きっちり読ませてもらいます(o>(ェ)<;a   
   蒼吾の一途なとこや前向きなとこ 見習います!!(w
from. *:..。o愛花 *:..。o○☆ | 2007/07/09 19:33 |
●○●愛花さんへ●○●
気持ちの整理って難しいですよね。私はもやもやしてしまうと、とことんやっちゃいます(笑)凹むと長いのはましろと同じです。
想像を膨らませて読んでいただけて、とても嬉しいです。またお付き合いくださいね!
from. りくそらた | 2007/07/09 22:42 |
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