http://miimama.jugem.jp/

スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

- - -
魔法のコトバ*  Last Season 魔法のコトバ-6-
*******************************************

Last Season  魔法のコトバ -6-

*******************************************

「どうしたんだよ、これ──────」
驚きを隠せない声が空から降ってきた。
薄く開いた扉の向こうに蒼吾くんが立っていて。
「やばいだろ…っ!」
硬質な声が鼓膜を揺らして、座り込んだ私のすぐ横を風が抜けた。
斜めがけにしていたでっかいスポーツバッグを乱暴に放り投げて、手洗い場にかけてあったタオルや雑巾をかき集める。
制服の裾が濡れるのなんて全く目に入らないかのように、無心に座り込む大きな蒼吾くんの背中。
それをまるで他人事のように呆然と見つめる自分が、ひどく虚しく思えた。



「何やってんだよっ、園田っ!! 絵がダメになるぞっ! 早く!」


焦りと苛立ちを込めた声が投げつけられた。
振り返ることもせずに、ただ水を拭き取る作業だけに神経を集中させている。



だって。
もうそれは、濡れていてもそうでなくても駄目な絵なのに。
もう、どうしようもないのに。
そんなの今さらやったって虚しいだけだから。
私は首を横に振った。



「もう…どうにもならないよ…」
「そんなのやってみなきゃわかんねーだろっ? ぐちぐち言ってる暇があるんならこっちきて手ぇ動かせ!」

ほら早く! と、タオルが投げ込まれた。

「…もう、いいから……」

小声過ぎて蒼吾くんの耳に届かず消えた言葉に、虚しくまた振り返った。

「早く!」







どうしてそんなに一所懸命なの?
床に膝を付いた制服のズボンやブレザーの裾がひどく濡れている。
それに目もくれず蒼吾くんは必死だった。
もう、どうでもいいのに。
こんな弱虫でうじうじした私なんて、放っておけばいいのに。





「もう…いいからっ!!」


気がつけばとんでもないくらいに大きな声が出ていた。
空気がじんと揺れた。





「………園田? どうしたんだよ…」


初めて私の異変に気付いて、蒼吾くんが手を止めて顔を上げた。
困惑の瞳が私の視線を絡め取る。


こんなときになんで蒼吾くんなんだろう。
この人にはいつも弱いところばかり見せてしまう。
いいところなんて見せられた試しがない。
それでも蒼吾くんは私が好きだって言ってくれる。
どうしてかわからない。
こんなに弱くて惨めな私が、それに応えられる資格なんてないのに。




「…もう…、もう、いいの……っ」



「いいって、なにが?」


全ての動作をピタリと止めたまま、痛いぐらいに真っ直ぐに見据えて私に問う。


「最近のお前、変だぞ?」

お前らしくない、って。
またその疑問を投げかける。


「大事な絵がこんな事になっちまって、テンパってるのはわかる。でも早くしねーと本当に取り返しがつかねぇことになる──────」
「違う…、違うから……っ」
「なにが?」
「…もう描かない」
「は?」
「もう絵なんて、描きたくない…。描けないよ……っ」

情けないくらいの本音が腹の底から搾り出された。


「…なんで私なんだろうって、ずっと思ってた…。佐倉くんの絵の方が遥かにすごくて、才能に溢れてるのに……っ。なんで、なんで……っ」


一度、堰を切って溢れ出してしまったそれは留まることを知らないかのように吐き出されていく。

「こんなことになったってならなくったって、こんな絵、もうどうしようもないんだよ…。
自分らしいって何? どうやれば気持ちがこもった絵が描けるの?
私が教えて欲しいくらいなのに、みんなは私らしくやればいいからってそればかり。
私って何? どういうのが私なの!? 私なんてただの弱虫で、卑屈になってて、ひとりでは何も答えを見出せなくて……。そんな私が自分らしい、いい絵なんてかけるはずがないじゃない…っ!!」




止め処なくぶつける暴言に、何がなんだか分からないみたいにして私を見やる蒼吾くんから顔を背けた。
呆れてる。
嫌われたかもしれない。
それがわかっているのに、止まらなかった。


「佐倉くんが東京に行かなきゃ、こんな話、私には来なかった…。佐倉くんの代わりなんてできっこないよ…っ。
…こんな絵…引き受けるんじゃなかった…っ」


目的地は遥か遠く。
それは確かに見えてるのに、たどりつけない歯痒さといったらない。
涙が溢れた。
あんなに涸れるほどまで泣いたのに、涙はどこから沸いてくるのだろう。
私の弱さがそれになって溢れてくるようで、悔しくてきゅっと唇を噛んだ。








「──────お前、サイテーだよ。それ」


心の底から呆れたようにでっかいため息が落とされた。


「自分でやるって引き受けたんだろ? それなら最後まで責任持ってやれよ。途中で投げ出すな」


心の一番深いところに重石のような何かを落とされたように感じた。
蒼吾くんはひどく呆れてる。
今までに聞いた事のないような低くて淡々とした声が、鼓膜の奥を強く揺らした。
ザッとブルーシートを踏みしめる乾いた音がした。


「佐倉の代わりなんて誰が言ったんだよ? 佐倉と比べてんのは自分だろ?」


敷き詰めたシートを踏みしめて、その足を私の前で止める。
どこまでも真っ直ぐに見通すような瞳が私を見下ろすから、息が詰まりそうになって私は下を向いた。
ただ押し黙るように私の言葉を待って。待って。
それでも返ってこない現実に、苦虫をかみ潰したような顔で蒼吾くんが告げた。



「前にも言ったよな、オレ。園田はずるい。いつも逃げて、下を向いてばっかりで、って。
それを待ってるやつのことを一度でも考えたことがあるか? ちゃんと周りが見えてるか? 足元ばっか見てると大事なものも見落としてしまうぞ」


怒ってない、だけど、優しくもない。
淡々とした声が近くに聞こえて、ぼやけた視界に彼の薄汚れた上靴が見えた。
濡れた膝を折り曲げて私の前に座り込む。
差し出された大きな手のひらが視界に溶けて、両手で私の頬を包み込んだ。
急に強く顔を上げられた。
正面からジッと私を見据えて、その瞳に自分が映っているのが確認できるほどに私を見つめる。

すぅ、と。大きく息を吸い込んだ蒼吾くんが、力強く叫んだ。



「しゃんとしろって! 顔を上げろ! 自信持てって──────!!
お前、自分で思ってるほど弱くねぇよ。強いよ、お前。
小学校でいじめられてた時も、腹が痛くても貧血で倒れても、お前ほとんど学校休まなかっただろ?
安部をチクった時も。あんなに嫌なことされたのにオレやアイツを責めなかった。
佐倉のスケッチブックを見たときだって、お前、泣かずに笑ってたじゃん。触れたら糸が切れて今にも泣き出しそうな顔してんのに、平気だって笑う。すげーって思った。強いって、思った」


あまりに蒼吾くんの目が真剣さを湛えて私を見つめるから、捕らわれているみたいに、それから逸らせなかった。
穏やかなトーンで優しく言葉が落とされた。


「オレ、ちゃんと見てたから。そういうお前。
小さくて、ちょっとでも吹けば簡単に飛ばされそうなぐらい危ういのに、ちゃんと芯は強い。ずっと見てたから──────」


優しい空気が私を包み込むように鳴っている気がした。
柔らかく穏やかな声で呟くそれは、確かな優しさで私を包み込む。


「ダメだって思うなら、いつだって頼ってくれていい。手を伸ばせ。頼りねぇかもしれねぇけど、オレ、ちゃんとお前を支えてやるから。
だからもう、そうやってひとりで泣くな」



瞼の上に影が落ちて蒼吾くんの気配を感じた瞬間、全てを包み込むようにその腕に抱きしめられた。
背中に触れた熱い腕が強く抱いた。




「園田にないのは実力じゃない。自信と勇気だ。できないって諦めて下を向いてしまう前に、自分の出来ることを探せ。
お前ならできるから…。頑張れ─────!」





優しく抱きしめてくれる腕は広くて温かくて。
卑屈になって凍り付いていた私の気持ちを柔らかく溶かしてくれる。
その感触の確かさと、体温にひどく安心して、涙が溢れた。
溢れて、溢れて。
止まらなくなった。



蒼吾くんのコトバはいつも魔法だ。
がつん、って。
私の一番深いところに響いてくる。
飾らない、どこまでも強く真っ直ぐな気持ちをそのままコトバに乗せて、私に投げかけてくる。
時にはそれにひどく傷つくこともあるけれど。
心の一番奥に、簡単に入り込んで心を強く揺さぶる。




言葉をうまく紡ぐことができなくて。呼吸さえもうまくままならなくて。
全部の不安を吐き出すみたいなため息の後に、止め処ないほどの涙が溢れた。
今まで溜め込んでいた不安や嫉妬。
当たり前のようにあった存在がなくなってしまう戸惑い。
ひとりでは抱えきれなくなった周囲の期待とプレッシャー。
全部が弾けて、溢れた。





「…う……ぁぁああ……っ……っ」




全てを吐き出すように声を上げて、ただ。ひたすらに泣いた。




しゃくり上げるように嗚咽を漏らして震える体を。
蒼吾くんはまた、強く。強く。
抱きしめてくれた。












To Be Continued
魔法のコトバ*  Last Season  comments(7) -
スポンサーサイト
- - -
Comment








蒼吾、よくぞ言った!
ましろちゃんのことをよく見ているからこそ、言えたセリフですね。
大丈夫、まだ、大丈夫。
ここから前を向けば、絵と向き合えるよ。
蒼吾に頼れ、ましろちゃん!
私も応援しています〜!



※たぶんですが、蒼吾へ。
「役不足」は、きっと君が使っている意味と反対の意味です…
from. 史間 | 2007/07/09 22:17 |
●○●史間さんへ●○●
ああ…っ。
早速、調べました。また間違ってました(汗)
日本語って難しい…。
蒼吾、バカですから(笑)その辺は彼だと思って見逃してやってくださ〜い!(もちろん直しました…ドキドキ)
from. りくそらた | 2007/07/09 22:47 |
初めて読みましたが…
なんて素敵な青春物語っ!!
もーう蒼吾クンが素敵すぎますっ!!
男として最高っっ
胸がキューンってしっぱなしで…
1話から我も忘れて読みふけりました…
現在夜中の12時…;;ああ…

早く、はやく、ましろチャンから蒼吾君に
「好き」って気持ちを伝えてほしい。
もう我慢できなーいです!!蒼吾君がかわいそう!
それに早く蒼吾君の喜ぶ顔が見たいですww

早く両想いになって…ラブラブ生活とかも見てみたいですw

わがままばっか言ってごめんなさいm(_ _)m
続きが気になって夜も寝られません。
更新楽しみにしています!これからも頑張ってくださいね♪
from. RI-Ho | 2007/07/10 00:05 |
●○●RI-HOさんへ●○●
はじめまして!コメントありがとうございます。
遅くまで読んでいてだいたようで…。お疲れ様でした!

書き手が自分のキャラに惚れ込んでしまうのは格好が悪いとはわかっているのですが、蒼吾にはかなり入れ込んで書いています。いい部分も悪い部分も全て詰め込んで。
そんな彼を好きと言っていただけるのはとても嬉しい。ありがとうございます!
早くましろや蒼吾の幸せそうな顔が私も見てみたい!(笑)あともう少しです。楽しみにしていてくださいね!
from. りくそらた | 2007/07/10 09:00 |
おはようございます!
会社でコメントをチェックする不届き者です(笑)

嬉しい驚き(笑)
こちらからは、それこそ私のためのもだったので。

ああ、あれには困りますよね〜(苦笑)
本当に、お互い気をつけましょうね!
では、最後に、本当にありがとうございました!

追伸:蒼吾なので(笑)納得です。たぶんそうだろうと思いましたが、
念のためご報告を(蒼吾だけど←ひどい)。
余計なこと言って、逆にすみませんでした〜!(ぺこり)
from. 史間 | 2007/07/10 10:14 |
 こん^^ よみましたよ! また蒼吾 頑張った!! 良いこというな〜 ましろcうらやましい((ヾ(○・ω・)ノ☆・゚::゚   はぁー・・・(ぇ     思ったんですが,短時間でこんなステキな長文を よくかけますね!!(かんしん!! (((。^(ェ)^。))) 
文章力がとってもすごいなぁ〜なんて思ったりしながら読んでました♪    
ところでもう,夏ですね〜 夏休みがまっている!! アイスとかスイカとかw 楽しみ!でも・・宿題が・・・・ 今年こそためないようにしなきゃ!!
from. ☆○o。..:愛花 *:..。o○☆ | 2007/07/10 16:24 |
●○●史間さんへ●○●
納得の時間です(笑)会社で覗けるのっていいですね。私はそういう職場ではなかったので羨ましい。

こちらこそありがとうございました!


●○●愛花さんへ●○●
蒼吾、頑張りました(笑)やっとましろもここから抜け出せそうなのでよかったです。

短時間ではないのですよ〜。ましろのようにかなり自分と時間と葛藤しながら書いています(笑)
from. りくそらた | 2007/07/10 19:38 |
<< NEW | TOP | OLD>>