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魔法のコトバ*  Last Season 魔法のコトバ-7-
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Last Season  魔法のコトバ -7-

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「絵。駄目になっちまったな」
ポツリ、と声が落とされた。

どれぐらいそうしていたのかわからない。
どれぐらいの時間が経過したのかもわからない。
優しく背中を撫でてくれる大きな掌が心地よくて。
抱きしめてくれる確かな体温にひどく安心して。
気がつけば穏やかな気持ちで、その腕の中に包まれていた。
そこだけ時間から切り取ったような静寂な空間の中に、ふたりだけがぽつんと浮んでいるような。そんな錯覚に陥る。


───静か…。

ポチャン、と。
水道の蛇口から滴る雫の音が、やけに鮮明に聞こえた。



「もう平気か?」


すぐ耳元で囁かれた。
嗚咽と共に浅く短く繰り返された呼吸は。
いつの間にか落ち着きを取り戻し、ようやく深く息をすることができた。
もう大丈夫。
そう思えたから頷いた。


「そっか」


よかったって。
短く呟いて体をそっと離された。
これ以上抱いてるとやばそうだから。って。

見上げた私の視線を途切れさせて。
その意味を理解したらまた体温が上がった。
居心地が悪そうに視線を泳がせて下を向いたら、パチンと電気が灯る音がした。
あまりの眩しさに思わず目を瞑り、それに慣れるのに数十秒かかった。
ようやく目が慣れてじわりと瞼を開けると、それがひどく重いことに気付く。



「…ひっでー顔」
蒼吾くんが笑った。
「それに…。ひっでー部屋…」
そして呆れたように部屋を見渡した。

水浸しのシートの上に腐敗したように変色したキャンバス。
投げつけてバラバラになった絵の具のチューブ。
色が溢れたパレットに、転がった刷毛や筆。
床一面に広げられた無数のデッサンに美術書。
蛍光灯の青白い光に照らし出された光景は、あまりにもひどかった。

「もしかして…あれ、投げた?」

散乱した絵の具を蒼吾くんが指差した。

「…う、ん…」

今さらながら、自分のした事が恥ずかしくなって俯く私に。

「園田にも、そんな激しい一面があるんだな。想像つかねぇけど」
ちょっと見たかったかも、って。
嫌味っぽく口の端を持ち上げて笑う。


「さて、と。
これを片すのは大変そうだけど…。とりあえずやるか!」
気合を入れるように軽く膝を叩いて立ち上がると、床に座り込んだままの私に手を差し伸べた。
「あまり遅くまで描くなよ?特に凹んでる時の暗闇はよくない。描くなら陽のあるうちに描け!カビる!!」
「…なにそれ…」
偉そうに踏ん反り返る蒼吾くんがおかしくて、私は笑った。
「さっさと片付けて帰るぞ。送ってやるから」
いつまでも座り込んでいる私の腕を掴んで、力強く引っ張り上げた。




「…ごめんね」
黙々と作業を続ける蒼吾くんの背中に呟いた。
「制服。濡れちゃったね」
そっと指差した私に、ああって笑う。
「これくらいいいよ。すぐ乾く」
乾くって…。冬なのに。
その前に風邪引いちゃいそうだよ。

「なぁ。園田」
「うん」
「さっきの話。佐倉が東京に行くってやつ。あれ、ほんとか?」
シートの上の水を拭き終えた布をきつく絞りながら、蒼吾くんが聞いた。

「…うん。お父さんがあっちにいるから…戻るんだって。ほら。佐倉くんって、もともとあっちの人でしょ?四年生の秋に転校してきたから」
「あ〜…。そうだっけ。そういえばアイツ、俺らとちょっとイントネーションが違うよな?標準語クサイし」
「そっかな…」
そんなの気にしたこともなかった。
だけど。思い返してみれば確かに、彼は言葉がとても綺麗なんだ。
それは彼の持ち味なのかもしれないけど。

「そっか。アイツ、東京戻るのか」
「知らなかった?」
「知らねぇよ、そんな話。俺、アイツとは友達でも何でもねーし」
「…なにそれ」
「アイツは昔から気に食わん」
「どうして?」
「どうして…って。それをお前が聞くか?」
近くにあった美術書を持ち上げた蒼吾くんがふくれっ面で、私を振り返った。
「アイツがお前のことを特別扱いすんのも、お前のことだけ名前で呼ぶのも、ずっと気に入らねーんだよ」
ぶっきら棒な物言いは蒼吾くんの照れ隠し。
子どもみたいに拗ねて残りの美術書を拾い集める。
「でも…。アイツはやっぱりお前にとって、まだ、でっかい存在なんだな。悔しいけど…」

私は。
佐倉くんがいなくなってしまうという事実に。
居場所を取り上げられた子どものように拗ねて、混乱して、自分を見失った。
足もとが危ういまま急に目隠しをされたような感覚に陥って、簡単に崩れた。


でもね。

それを蒼吾くんがひっぱり上げてくれたんだよ?
呼吸もままならないくらいに苦しくて、虚しくて。いくらもがいても出口さえ見つけられないような空間からいとも簡単に。
いつもひとつ先にいて、振り返って手を差し伸べてくれる。
蒼吾くんのそばなら深く深く息ができる。
どこまでも高みに登って行ける。
そんな気がしてならない。



「これ…───」

集めた美術書を隅に寄せていた蒼吾くんの手が何かを見つけた。
「佐倉くんの絵だよ。ちょっと借りてたの…。すごいよね」
積み上げられた美術書の横にそっと置かれた小さなキャンバス。
私が初めて目にした彼の絵。
柔らかいタッチの筆使いと彼独特な色彩が大好きで、一枚だけこっそり借りてきていたもの。

「…なんで?」
「え?」
「俺、美術とか芸術の分野ってよくわかんねーから偉そうなことは言えないけど。絵ってさ、自分の目に映るものを感じたままに描きだせばいいんじゃねーの?
そりゃ佐倉の絵はすげーかもしれないよ。素人の俺から見たってアイツの技術がすげーのはわかる。
でもだからってそれを真似る必要はねーし、比べる必要もない。だって園田と佐倉は違う人間だろ?園田は園田の感じたままを描けばいいじゃん?別にプロじゃないんだしさ。そんなに気負う必要なんてねぇよ」
「……………」
「初めて園田の絵を見た時さ、すげぇって思った。技術とかうまさとかじゃなくて、何ていうか…。絵に込めた気持ちがすげぇなって。
正直、勝てる気がしなかったよ。お前の佐倉を想う気持ちにも、そこまですごい絵を描かせる佐倉っていう存在にも。
そういう絵が描ける園田にだからこそ、頼んだんじゃねぇの?佐倉の代わりなんかじゃなくて、お前自身に」
何か言おうと思うのに、声にならない。
思考が頭の中で渦巻いてぐちゃぐちゃだ。

「引き受けちまったもんはどうしようもないんだから、できる限りやってみるしかないだろ。今が辛くても頑張った分、答えが返ってくるからさ。努力は無駄にはならねーよ。
ほら、見てみろ」
そう言って大きな掌をかざした。
それは豆がつぶれて皮が剥けて。それを何度も繰り返したゴツゴツと分厚い掌。
蒼吾くんの努力の証。


「できるかできないかじゃなくて、やるかやらないかなんだよ。やる前から諦めてたんじゃ、目的地には絶対辿りつけないだろ?
絵、やれよ。もう一度、頑張れ。諦めたらそこで終わりだぞ?次なんてないんだ」
大きな体を折り曲げて足元にあった何かを拾い上げると、それを私に握らせた。


「ましろって名前…すげーおまえらしいよ。真っ白で汚れてなくて。
時々、他の色に負けて染まってしまう時もあるけどさ、本質はやっぱり白だよ。濃い色だって淡く優しい色に変えてしまう。
園田にはそんな力があるよ、マジで───」


そっと開けた手のひらには一本の絵の具のチューブ。
スノーホワイト。
涙に滲んで白の色が溶けた。


「もう一度、俺に見せてよ。園田の目に映る世界を」

私の心を優しく包みこんでくれた蒼吾くんのコトバは。
どこまでも優しく果てしない空の蒼のような気がして。
心に沁みた。











「いってきまーす」

いつもより早く家を飛び出して外の空気を吸い込むと、マフラーをもう一度きつく巻きなおした。
凛と張った空気が背筋をピンと伸ばしてくれる。
冬の空だというのに。
その日見上げた空はどこまでも果てしなく青くて。
ただ、ただ、目に沁みる。

「冬の空でもこんなに晴れることってあるんだ…」

吐き出した言葉が、白い息と共に空に溶けた。
庭先に植えられたスノードロップは、すっかり満開の時期を終え、来年の冬へ備える。
道路の脇にひっそりと揺れるタンポポの蕾が、春の足音を連れてくる。
明けない夜がないように、冬だっていつか終わりを告げる。
頬を撫でる風はまだ冷たいけれど、確実に春は近づいている。
私はずっと張り詰めたように下を向いていたから。
ほんの小さな周りの変化に、ちっとも気付かなかった。



下を向くな。顔を上げろ。

蒼吾くんのコトバはがつんと心に響いた。
ずっと下を向いてた私の顔を上げさせた。
久しぶりに見上げた空は、びっくりするぐらい青くて。眩しくて。
心を奮わせる。









「あぁぁーーーっ!!どうしたの、これ!?」
顧問の清水先生が悲鳴混じりの声を上げた。
「バケツの水を、ひっくり返しちゃったんです…」
こうなるまでの自分の間抜けな経緯を先生に話した。
感情のままに絵の具の箱をぶつけたことは話さなかったけど。
これ以上、先生を困らせたくない。

「こうなっちゃったものは、もうどうしようもないけど…」

どうしようかしら、と頬に手を当てて大きなため息を落とす。
もう卒業式まで半月もないから。


「先生」
「ええ」
「私…描き直したいんです」
「そうね…。これを復元するのは無理そうだから、描き直してもらうしか…」
「いえ。違うんです。最初からすべてやり直したいんです。デッサンを起すところから」
「今から!?」
弾かれたように私を振り返った。
「はい」

私は強く強く、ただひたすらに先生を見つめた。
掲げた想いはもう決して揺るがない。
もう決めたの。
蒼吾くんが背中を押してくれたあの日に。
どうしても描きたいものが、確かに私に見えた。


しばらくじっと私を見つめて、それを感じ取ってくれたのか、先生が深く息を落とした。
「でも。もう時間はあまり残ってないのよ?大丈夫?途中でやっぱり描けないなんてできないわよ」
「やれます。どうしても描きたい絵があるんです」

どうしても伝えたい人がいる。
伝えたい想いがあるから…。

「…そう。それなら頑張りなさい」

先生、信じてるから。と、優しく微笑んだ。



───「もう一度、俺に見せてよ。園田の目に映る世界を」───




この絵が出来たら想いを彼に伝えよう。
全部、全部。
これをやり遂げたら。
私はそう心に決めた。






To Be Continued
魔法のコトバ*  Last Season  comments(7) -
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Comment








わぁww・・・・・
蒼吾、カッコイィっっ!!やばいですww
ましろもがんばれって励ましたくなりました^^

それはそうと、もう少しでコレ終わっちゃうんですね・・・・
うぅ・・・早くラストが見たいけど、終わってほしくないよぉ((泣
複雑ですゥwwでも、応援してます★☆ 
from. なつみ | 2007/07/11 20:37 |
昨日この小説に出会ってから、すっかりファンになってしまったRI-HOです!
いや〜今回もいい感じですねぇ。2人の距離もあとちょっと!
そしてそして蒼吾君っ!知れば知るほどいい男ー(><)毎話読むごとに好きになっていきますwホントに純粋で一途で男らしくて!蒼吾君みたいな人がいたならば…現実にいてほしいぃ(´д`;)

つくづく思うこと・・・文章表現がすごく上手いですね…!セリフの言葉とかがあまりに自然で…“読んでる”って感覚がなくなっちゃいます〜完全に物語の中に自分が(笑)。

次話もすごく楽しみです〜2人の恋に進展がありそう!?ですし(^^)
これからも頑張ってくださいっ★

from. RI-HO | 2007/07/11 21:28 |
●○●なつみさんへ●○●
もうすぐ終わっちゃうんですよね…。しみじみ。
早く書きたいけれど終わってしまうのはさみしい。私自身、微妙な心境です(笑)
まほコトが終わったら、なつみさんプッシュのもうひとつのお話も少しはペースアップできるかな。と思っています〜。そちらもお楽しみに。


●○●RI-HOさんへ●○●
「馬鹿で真っ直ぐな男」や「夢に向かってがむしゃらな男」が好きです。ちょっぴり汗臭いくらいの青春っぷりが大好きです!いい年してお恥ずかしいのですが…(苦笑)
蒼吾にそれを感じていただけたのならとても嬉しいです♪
ふたりの距離もあと少しです。すっきりとした結末を用意していますので、どうぞ最後まで見守ってやってくださいね!
from. りくそらた | 2007/07/11 22:28 |
蒼吾、本当にましろちゃんを見てるな〜と思いました!
言葉の一つ一つがストレートで、
でも、ちゃんと紡がれていて。
この葛藤があって、
ましろちゃんにも勇気が出たみたしですし。
ほんとうに時間がないけど、時間は関係ない。
描きたいものを見つけられたなら、きっとやり遂げられるはず。
ましろちゃんなら!大丈夫!

彼女の成長過程が見えて、感動しました!
from. 史間 | 2007/07/11 23:21 |
●○●史間さんへ●○●
だって蒼吾はストー…もごもご…(笑)

それはさておき。
ましろの成長を感じ取っていてただけてよかった!書き手としてもとても苦労させられたシーンだったので…。
あと残りわずか。ましろがどれだけ成長できたか、見守ってやってくださいね!
from. りくそらた | 2007/07/12 08:46 |
まほコトがもうすぐ終わちゃうなんて悲しいです(涙

なんか、蒼吾がましろに言ってるコトバに私まで励まされているような気がします!

蒼吾みたいな人がいたら絶対スキになっていると思います!!!!!
from. ひかる | 2007/07/12 21:01 |
●○●ひかるさんへ●○●
あはは(笑)ありがとうございます〜。
私も蒼吾みたいな熱血バカ?と、もう一度青春をやりなおしたいです〜。なんて(笑)
from. りくそらた | 2007/07/13 00:37 |
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