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魔法のコトバ*  Last Season 魔法のコトバ-8-
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Last Season  魔法のコトバ -8-

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まるで周りがみえなくなったみたいに、私はひたすらキャンバスに向かった。
そこには下絵になる線も、デッサンを記したスケッチブックもないけれど。
ただひたすらに色を乗せて心に描いた世界を映し出す。
何度も躊躇したようなまどろっこしい線も道標も。
もういらない。
下絵は私の頭の中にある。
思い描くままに色を乗せて気持ちを込めて、夢心地に描き続ける。
描くことが楽しくてたまらなかった。
無我夢中でそれを表現して。
ただ夢中に色を乗せた。
朝日が昇る時間に家を出て学校へ向かい、昼休みも返上して描いた。
放課後は陽が落ちるまでキャンバスと向き合い、闇の色が溶ける前には筆を置く。
どんなに描いても描いても描き足りないぐらい、ひたすらそれに向かう。
こんな気持ちは初めてだった。



脚立の天辺に座り、目的の場所に目的の色を乗せ終えて息を吐いたら、カタン、って。
後ろで小さく音がした。

「…あ…」

脚立から降りて音のした方を覗くと、部屋の入り口にそっとミスドの紙袋が置かれてあった。
頑張って”とひと言、メモが添えられて。









カタカタカタと。
乾いた音をさせて古い木戸を開くと、それに気付いた彼が顔を上げた。

「あれ?」
私を見つけた顔がゆるりと微笑を浮かべる。
「もしかして…邪魔しちゃったかな?」
佐倉くんが小さく肩をすくめた。



「ちょうど休憩しようと思ってたから。…隣、いい?」
「どうぞ」
にっこり笑って差し出された椅子に腰を降ろして、手に提げていたドーナツの袋と買ってきた缶コーヒーをロッカーの上に置いた。
「これ。ありがとう」
「俺だってよくわかったね」
「うん」
わかるよ。

“頑張って”と、添えられた右上がりの綺麗な楷書は。
女の子が書くような丸っこい文字じゃなくて。
読めないような乱暴な殴り書きでもなくて。
書いた人の性格が滲み出るような整った綺麗な文字。
凪ちゃんでも蒼吾くんでもないのなら、心当たりはひとりしかいない。


「声、掛けてくれればよかったのに」
「すごく集中してたみたいだったから。邪魔しちゃ悪いと思ってね」
筆に乗せた色をキャンバスに描き終えると、一旦、筆を置いた。
絵の具がバケツの水に溶かれて秋色に変わる。
…綺麗…って。
そのさまをぼんやりと眺めていたら。

「うまくいってる?」

ふと問われた。
「エントランスホールの絵。うまくいってる?」
もう一度、優しく聞いた。
「…うまく描けてるかどうかはわからないけど…。
楽しんで描いてる。今は絵のことしか考えられないくらい集中してる自分にびっくりしてるほど」
私は笑った。
「よかった」
それを聞いて心底安心したように、佐倉くんが柔らかい笑みを浮かべた。

「…よかった?」

どうして?
私は首を傾げた。


「一時期、すごく落ち込んでたみたいだったからさ。あのまま浮上できないんじゃないかって、心配してた」
あ…。
気付いてくれてたんだ。
「声を掛けようかどうか迷ってたんだけど。結局、踏みとどまった」
「どうして?」


疑問を投げかけた私に。
佐倉くんの端正な顔がじっと私を見つめた後。
ふっ、と。柔らかく笑った。

「今それは、俺の役目じゃないだろ?」


「…え?」


「よかったな。吹っ切れて。今、清々しい顔してる」


その言葉の意味をようやく理解した鈍い私は。

「…うん」

と頬を染めて頷いた。
佐倉くんの口からそんな言葉を聞くなんて、何だか意外だったから。
少しびっくりした。


「絵も少し変わった」
「前の絵、バケツの水をひっくり返して駄目にしちゃったんだ…」
「そうなんだ?
でも…題材がどうとかじゃなくてさ、根本的なものが変わったよ。前は透明感重視って感じだったのが、今は深みと迫力が増してる」
いいね、あれ。
その言葉に自然に笑って返せた。


佐倉くんの隣に座って、何気なく景色を瞳に映す。
壁の本棚いっぱいの美術書や参考資料。絵の具のついた木の棚。
不規則に重ねられたスケッチブックと窓辺のキャンバスは、彼が歩んできた軌跡。
私が買ってきた缶コーヒーを口にしながら、ひとつだけ開いた窓の向こうにぼんやりと視線を送る佐倉くんの横顔。
それをそっと覗き見る。


不思議…。
佐倉くんとはもう、こんな時間は過ごせないって思っていたのに。


まるで真綿に包まれているような穏やかで心地のいい空間。
何かを話すわけじゃないけれど、ただ隣に座って、絵を描いて。
時々、言葉を交わして…。
また描きかけの絵に動作を返す。
この何気なく流れていく時間の心地よさが、私はやっぱり好きだって思った。
たぶん。
時間の動線が彼と私はよく似てる。


「何?」
ふと佐倉くんが聞いた。
「なんか、嬉しそうにしてる」
なんで?って私を覗き込む佐倉くんの方がよっぽど楽しそう。
「…あのね。私。佐倉くんと一緒にいるとすごく安心できるなって思ってたの。時間がゆっくり流れているみたいで、楽でいられる」
感じたままを素直に口にした。
そしたら隣で、佐倉くんが小さく声を立てて笑った。


「なに?どうして、笑うの?」
「いや。別に」
「なんか意味深っぽい」
「そ?深い意味はないんだけどさ」
佐倉くんが座ってた椅子から腰を上げて、私の方へ向き直った。
「俺も。ましろちゃんと一緒にいると安心するよ。居心地が良くてホッとする」

「…え?」

「ましろちゃんっていう気持ちが安らぐ存在に、癒されてたのかも」


私を見て優しく、優しく笑う。
少し涙が滲みそうになって唇をきゅっと結ぼうとしたら。
でもな、って。
真剣みを帯びた表情で佐倉くんが言葉を続けた。



「日下部といる時は違うんだ。
近くにいるって思うだけで、背筋が伸びてしゃんとする。体全部でアイツを意識して心が震える。穏やかでなんていられない。
ましろちゃんも今、そうじゃないの?蒼吾といる時」

そう言って、佐倉くんは壁に立て掛けてあったパネルの束から一枚、小さなパネルを選んで差し出した。




「…これ…───」





弾かれたように顔を上げた。
正面からがっちり視線が噛み合った。
「ましろちゃんにプレゼント」
そう言って笑う。
「…人物画は、描かないって言ってたのに───」

佐倉くんが描く人は、ただひとり。
最初から最後まで、凪ちゃんひとりだったはずなのに。



「それでも描いてみたいって思わせる表情をしてたから。
いい顔してるよ。今の、蒼吾と一緒にいる時のましろちゃん」



いつの間に描いたんだろう。
佐倉くんが描いた絵は、蒼吾くんと一緒にいる笑ってる私。
すごく嬉しくて、幸せで。そんな笑顔。

私、蒼吾くんといる時こんな顔してるの…?




「さて、と。やりますか」
うーんと背伸びをして、佐倉くんが私を見た。
「ましろちゃん、どうする?まだやるの?」
「あ…。うん…」
しばらく絵に心を奪われていたままだった私は、佐倉くんの言葉に弾かれたように顔を上げた。

「私も…もう少し頑張ってくる。まだ陽はあるし」
「陽?」
「夏木くんが“へこんでる時の暗闇はよくない。カビる!”って」
「カビる?」
一瞬、意味が分からず何度か瞬きを繰り返した後。
「確かにアイツだったらカビるかもな」
そう言って笑った。


「じゃぁ、頑張って」
「またね」


手を振ってそっと部屋を後にする。
扉を閉めようと手をやって、何気なく視線を返した時。
佐倉くんのいつもの横顔が視界に映り込んだ。
優しく穏やかな表情が凛とした真剣さを湛えてキャンバスに向かう。

トクン、と。
胸が小さく音を立てた。

でもそれはとても穏やかで。
込み上げてくるような切なさとか。
胸の奥がきゅっと狭くなって、泣きたくなるような心のざわめきはもうなかった。
あんなにも佐倉くんのことを好きだと思ったのに…。




ああ…そっか。


想いがここにあるからだ。
伝えられなかった想いがまだここに残っているから、踏み出す勇気がなかった。
凛とした横顔とキャンバスに向かう真剣な眼差し。
溢れそうな気持ちをひた隠しにしてそればかり見てた。
ずっと、佐倉くんの特別なひとになりたかった。
彼の瞳が他の誰かを見つめていても。
私だけを見つめてほしかった。

でもそれを。
私は一度だって言葉にして、佐倉くんに伝えた事がなかった。







「佐倉くん」


そっと背中に呼びかけた。







「私ね。佐倉くんのこと…好き」





ピクリと。
キャンパスに置いた筆が止まった。




「そうやって絵を描いてる時の横顔が、大好きだった」






ずっと。ずっと口に出来なかった想いのかけら。
言葉にできなかった気持ちが。伝えられなかった言葉が。
ここに想いを残した。
私がずっと踏み出せなかったのは、佐倉くんにそれをきちんと伝えてなかったからだ。
言葉にしなきゃ気付いてもらえないのに。
言葉にしなきゃ伝わるはずがないのに。

凪ちゃんも。蒼吾くんも。佐倉くんも。
届かなくてもちゃんと伝えたのに。
私はやっぱり意気地なしだったんだ。



「今までありがとう」


ちゃんと言えた。

下を向かずに、泣かずに。笑って。
もう弱虫は返上したから。



「ましろちゃん…少し変わった?」
「うん」
「俯くことが減った」
「うん」
「でも…ごめん。俺、日下部のことが好きだから」


「…うん。知ってる」


その答えをちゃんと聞きたかった。
佐倉くんの口から。




「ましろちゃん、ありがとう」




佐倉くんが笑った。






To Be Continued
魔法のコトバ*  Last Season  comments(7) -
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Comment








ましろちゃん、本当に変わった!
ストレートに「逃げるな、俯くな」と励ましてくれた蒼吾のおかげだね(涙)
佐倉くんの絵に描かれた、ましろちゃんの表情、どんなんだったんだろ?気になります〜><でも、きっといい顔なんでしょうね♪
ちゃんと気持ちを伝えられて、
向き合えて、こっちも心があたたまりました!
ありがとうございます♪
さて、変わったましろちゃんから勇気をもらった佐倉くん、
君も気持ちをぶつけるんだー!ごー!
from. 史間 | 2007/07/14 18:22 |
 お久〜♪ なかなかコメかけませんでした。・゜(р≧д≦q)゜・。      ましろちゃん すごく変わりましたね☆  創吾や佐倉くんの事で成長できたんですね   
 凪ちゃんも気になります  絵も調子に乗ってきてるので このままがんばってもらいたいです 
from. 愛花 | 2007/07/15 14:22 |
はじめまして♪実月です。

パソコンで小説を読みたいなぁwと、思い見つけたサイトがここでした。
もぉ、メッチャぃぃです!!(笑
物語がすごぃいいし、文章もプロの人が書いているみたぃですごぃ胸キュンです♪
絵もすごぃ可愛くて、本当にイメージ通りだなぁと思います!
これからも頑張ってくださぃ♪
from. 実月 | 2007/07/16 10:58 |
はじめまして(^ω^)
久しぶりに恋愛小説が読みたくなってネットで検索かけたら、運命的にHitして第1話から一気に読んじゃいました☆笑
4人それぞれの想いのベクトルが全部違う方向を向いているのがもどかしくて、でもすごく惹きつけられる作品です。
ましろちゃんがウジウジしてるところは思わず何やってんの〜!?ってツッコミたくなりましたが(笑)たくさんの葛藤がある上で成長していくんだなぁってじ〜んときました(´∀`*)
一途な蒼吾くん、最高です!!笑
これからも楽しみです♪頑張ってください(●^З^)
from. ぽち | 2007/07/16 13:38 |
はじめまして!

ぽちさんと同じく恋愛小説が読みたくなって検索したら
この素晴らしい小説と出会えました.+(´^ω^`)+.
見てて心がドキドキするような物語..
こんな気分最近味わえなかったのですが...
この小説で久しぶりの感覚がかえってきました!
蒼吾くんはあたしのモロタイプですw
野球少年で一途なところにベタ惚れしましたヾ( ^ω^)ノ
続き待ってます☆+゚
from. あゆみ(・∀・) | 2007/07/16 21:58 |
お返事、大変遅くなってしまってごめんなさい。


●○●史間さんへ●○●
ましろの成長を感じ取っていただけて嬉しいです。書き手泣かせの主人公だったので…(笑)
佐倉が描いたふたりの絵は、ギャラリーに入っている『笑顔』という絵のつもりです。あの絵をはづきにもらった時に「こういうシーンを取り入れよう!」と心に決めていました。私の場合、はづきの描いてくれた絵から物語が思い浮かぶことって多々あります。はづきには感謝です!
また暇があればギャラリーの絵と照らし合わせてみてくださいね♪


●○●愛花さんへ●○●
ましろは少しずつですが確実に成長してくれているのではないかと思います。書いてる私さえも「しっかりしろよ!」と思いながら書いていたぐらいでしたから(笑)
「女の子は恋をすると変わる」という言葉をよく耳にしますがましろもそうなんですよね。それを感じ取っていただけてとても嬉しいです♪
from. りくそらた | 2007/07/18 08:47 |
はじめまして!コメントありがとうございます♪
&一気読み、お疲れ様でした〜☆

●○●実月さんへ●○●
あぁ…っ。嬉しいお言葉をたくさんありがとうございます。
嬉しくてへらへら笑いながら読ませていただきました(笑)
イラストも素敵でしょう?いつもイメージ通りの絵を描いてくれているので私自身、新しいイラストをもらうのが楽しみで仕方ありません。
これからもどうぞお楽しみに♪


●○●ぽちさんへ●○●
運命的なHit。嬉しいです〜。数ある小説サイト(ブログ)の中でHitして読んでいただけてほんと運命!?(笑)
ましろのウジウジには書き手の私も悩まされました(笑)ようやく抜け出せそうです。
蒼吾の一途っぷりは書いていても気持ちがいい!あと残りわずかですが最後まで恋の行方を見守ってやってくださいね♪


●○●あゆみさんへ●○●
検索サイトさんから足を運んでくださる方ってたくさんいるのですね〜。しみじみ…。
長いお話を途中で脱落することなく読み進めていただいてとても嬉しいです。
蒼吾にベタ惚れですか!あはは。嬉しい(笑)
私も野球少年、大好きです!汗臭く青春臭いところが…。
どうぞ最後まで見守ってやってくださいね♪
from. りくそらた | 2007/07/18 09:00 |
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