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魔法のコトバ*  Last Season 魔法のコトバ-11-
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Last Season  魔法のコトバ -11-

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卒業式を迎えた早朝、エントランスホールに絵が飾られた。
登校してきた生徒たちが立ち止まり、その絵を目にして小さな歓声や吐息を漏らす。
何気ない日常のざわめきのなかでふと足を止める。
それを見ているとなにか愛しいような想いが込み上げてきて、瞳に浮ぶ熱いものをそっと手でぬぐった。
窓の向こうに咲く景色のようにキャンバスの蒼が視界に溶けていく。

「よく頑張ったわね」

隣で一緒にそれを眺めていた顧問の清水先生が、感嘆の声を漏らした。
柔らかい表情で私に笑いかけながら、まるで子どもにするかのように頭を撫でてくれる。
それが妙にくすぐったくて嬉しくって笑っていたら。
「よくやったぞーっ!」
って。
いつからそこにいたのか、担任の新垣先生に背後から抱きしめられた。
卒業式前に感極まって男泣きをする先生に苦笑いをしていたら、隣にいた凪ちゃんが。
「先生、それ。セクハラ」
って綺麗な顔を思い切りしかめた。



三月一日。
この日の凪ちゃんはこれでもかっていうぐらい、三年生に呼び出された。
朝から告白ラッシュ。
第二ボタンならぬ制服のスカーフをねだる上級生。
それを全部、丁寧に断ってた。
スカーフが欲しいって、それって女々しくない?
って凪ちゃんに聞いたら「私もそんな男、嫌だ」って。
こっそり耳打ちして、ふたりで顔を見合わせて笑った。

式を終えて花道を作って上級生を送り出しても、卒業式の余韻はなかなか醒めない。
清々しい中にも妙に、もの悲しい雰囲気が漂う。
卒業生達は最後のHRが終わってもなかなか帰ろうとしなくて。
思い出の詰まった学校を離れるのは惜しいようだった。


先輩への最後の挨拶に美術室へ顔を出したら。
大きな花束が私を迎えてくれた。
白と黄色と桃色の大きな花束。
早春の風に乗せて春の匂いが鼻腔をくすぐる。
「よく頑張ったね」「素敵な思い出をありがとう」って。
美術部の先輩達から。
嬉しくって思わず涙ぐんでしまった私をいつもの指定席に座りながら佐倉くんが笑ってた。
彼がそこにいるのも今日で最後なんだなって思うと、いっそう、涙が止まらなくなった。
それを卒業式のせいにして、私は花束に顔を埋めるようにして泣いた。



賑やかだった美術室は三年生を見送るとひどく静かに思えた。
「まだ帰らないの?」
と問う二年の先輩にまだ残ることを伝えると。
「仲いいな、一年。実はデキてるんじゃないの〜?」
と私と佐倉くんの顔を見比べながら疑いの眼差しで見つめられて、少し焦った。
「違いますから!」
と何度否定しても煽るような冷やかしは変わらなくて、何だかどうでもよくなってしまって仕舞いには諦めた。
自分達の気持ちがしっかりしていれば、真実はちゃんと見えてくるはずだから。
「校内だからほどほどに〜」
とニヤニヤしながら部屋を出て行く先輩たちに苦笑いしながら、そっと扉を閉めた。
普段なら何気ない日常の風景がひどく淋しく感じる。
主のいなくなった空間はこんなにも淋しいものなのだろうか。



「蒼吾には会った?」
ふと佐倉くんに聞かれた。
ううんと、ゆっくり首を横に振る。

「部の打ち上げの幹事になったとかで、随分と忙しそうだったから…」

ここ二、三日。
幹事を任された蒼吾くんは、会場の段取りとか部の買出しとか。
せわしなく動き回っていてゆっくり話す機会がなかった。

「打ち上げね、女子ソフト部と合同なんだって」
「何で?」
「野球部って女の子がいないからじゃないかな?」
「だからってさ、ソフト部って…」

佐倉くんが苦笑した。
彼が言いたいことは分かる。
うちの女子ソフト部って、サバサバした体格のいい女の子ばかりだから。
運動部は大変だなって。
佐倉くんが笑う。

その点、文化部は楽。
卒業式の後に軽食をつまみながらお茶会程度の打ち上げ。
話をして写真を撮っていつの間にか解散。
ひどくあっさりしてる。


「陸上部もね、男女合同だって」
「そうなんだ?」
「…いいの?」
「いいのって、何が?」
佐倉くんが笑う。

ひとつだけ開いた窓の隣。
ロッカーの上に浅く腰かけてそっと窓の外を見遣る横顔。
凛としたその横顔が向かうキャンバスはもうない。
綺麗に片付けられた準備室の空間に寂しさがじっと静寂を鳴らした。






「いつ、発つの?」

横顔にそっと呼びかけた。

「明日。昼の便」
「……そっか」
ずっと知ってたけれど、はっきりそれを聞くと、その分寂しさが募る。





「さて、と。私…行くね?」
「うん」
「佐倉くんは?」
「俺はもう少しここにいる」
「……そっか」


佐倉くんの気持ちはひたすらすぎるほどに、窓の向こう。
春を待つように彼女を待ってる。






「佐倉くん」
「うん?」
「きっと春は来るよ」
「え…?」

佐倉くんがじっと私を見上げた。
答えを待つみたいにしてじっと私を見つめる彼に。

「またね」

って笑って背を向けた。
さよなら。って言葉はあまり好きじゃない。






「ましろちゃん」
「うん?」
「頑張れ」
「え?」

「───── 行くんだろう?」

その言葉の意味が何かわかった。


まいっちゃうな。
佐倉くんは最後までお見通しだ。
彼にはやっぱり敵わない。












頬を撫でる早春の風が気持ちがいい。
春を両手に抱えて早足でそこへ向かう。
約束は何もしていない。
でもなぜか、蒼吾くんがそこにいるような気がした。
渡り廊下を駆け抜けてエントランスへと足を踏み入れる。
静寂を鳴らす校内に反響する足音が響く。
小さく肩を揺らして弾んだ呼吸をゆっくりと整えた。

キャンバスが飾られてあるホールまで歩みを進めると。
それを見上げる大きな背中が足音に気付いて、顔を上げた。






「おっせーよ」


不機嫌そうな顔が振り返った。


「…なんてな。うそ。ほんとに来た」


ほんの少し驚きの色を滲ませて優しく目を細める。


「俺がここにいるの、わかった?」

「うん」

約束はしていないけれど。何も言っていなかったけれど。
蒼吾くんはここにいる。
そんな気がしてた。





「魔法みてぇだな」
「……魔法?」
あまりにも突拍子のないことを呟くから、おかしくて笑ってしまう。
「こういうのって以心伝心っていうんだよ」
「…イシンデンシン? そういえば、そんな歌、あったよな」
なんだっけ? と、真面目に眉を寄せる。
「あ。オレンジレンジじゃん。俺、あれ結構好き」
音の記憶を手繰り寄せて、軽く口ずさむ。
蒼吾くんがこんな風に歌うのって初めて聞いた。
鼻歌混じりに口ずさむ低音のメロディが鼓膜を揺らして気持ちがいい。





「知ってる?」

風に乗る歌声がふと途切れて、嬉しそうに聞いた。
私はそれに静かに首を横に振る。



「だよな? 園田ってイメージじゃねーもん」
「でも、いい曲」
「だろ?」
やたらと得意げに呟いて。
「今度、貸してやるよ」
蒼吾くんが嬉しそうに笑った。




「それ、なんで花束?」
卒業生でもねぇのに、と花に埋もれた私を笑う。
「絵、頑張ったからもらったの」
「よかったじゃん」
「うん」
私も笑う。
蒼吾くんが笑うたびに、高鳴る鼓動の音が蒼吾くんに聞こえてしまいそうで、すごくドキドキした。










何気ない会話を交わして。笑って。
ふと。
それが途切れた。
ひとつ高いところから見下ろす三年生の靴箱はガランとしていて。
どこか物悲しい。
見上げた窓の向こう、雲の隙間から射し込み始めた光が暖かい。
空の蒼を吸い込んだ光が眩しくて、思わず目を細めた。





「─────すげぇ青」


ふと、蒼吾くんが呟いた。
瞳にキャンバスの蒼を映した横顔で。





「俺、青って一番好きな色」

「うん。知ってる」

「……知ってんの? すげーじゃん」


一瞬、丸くした目を嬉しそうに細めて、私に笑いかけた。
こんなときにそういう顔、反則だ。
ますます気持ちを加速させる。





「やっぱすげーな、園田。すげーよ、お前……」


空を仰ぐようにその絵を見上げて、気持ちよさそうに蒼吾くんが笑う。
まるで自分のことのように誇らしげに胸を張って。




「描けないって言ってたのがうそみたいじゃん。あんな短期間でこんな絵を描いちまうお前って……やっぱすごい」





何度深呼吸しても緊張は解けることを知らなくて。
胸の奥が小さく何度も波打つ。
あまりにも沢山すぎる緊張を押し込めたら、気持ちが溢れて零れそうになって、ゆっくり深く息を吸い込んだ。





「夏木くん」


「んー?」



呑気に返す横顔にそっと呼びかけた。






「前に聞いたことあったよね? 私の初恋っていつ…って」
「…ああ」
「小学生の時だったよ。すごく好きだった、その人のこと」
「それは……佐倉、じゃなくて?」

落とされた言葉に静かに首を振って、真っ直ぐに蒼吾くんを見つめた。






いつも真っ直ぐで、何事にも諦めなくて。
がむしゃらに頑張るその姿は、どこまでも真っ直ぐで大きい。
私にないものをたくさん持ってるその笑顔は、青い空に浮ぶ太陽のように眩しくて、大好きだった。
笑ってくれるたびに私に勇気をくれた。








「────私、夏木くんが好き。……蒼吾くんのことが、好きだよ」




いつも逃げていた私に、真っ直ぐ前を向くことの大切さを教えてくれた。
いつも下を向いていた私に、空を見上げる素晴らしさを教えてくれた。
見上げた空はいつも綺麗ではないけれど。
それでも抜けるような青い空は心を洗ってくれる。







「蒼吾くんが、好き────」



私がえがいた空は果てを知らないどこまでも蒼。
蒼吾くんを想わせるのはいつも蒼の色だったから。
キャンバスの蒼に想いを乗せて。
気持ちが彼に届けばいい────。










目をまん丸にして私を見下ろしてた蒼吾くんが。
はっ、って。
小さく笑った。






「マジ、で?」




その言葉に大きく頷く。

ほんとうは。
立っていられないくらいに足が震えて。
その場から逃げ出してしまいたくなるくらいに怖いけれど。
それでもちゃんと前を向く。
その大切さを蒼吾くんが教えてくれた。
彼の言葉と笑顔はいつも勇気をくれて背中を押してくれる。



「前に言ったよね…? 私の目に映る世界がもう一度見てみたいって。だから描いたよ。蒼吾くんがいたから、描けたんだよ。だから……」




──── これからも、ずっと。一緒にいてくれる? ────




言い終わらないうちに私の体が、ぐんって引かれた。
頬に蒼吾くんの制服のシャツが強く当たって、髪に厚い手のひらが触れた。
そのまま指が髪にもぐって頭から引き寄せるように抱きしめて頬を寄せる。
蒼吾くんが気持ち全部で、私を抱きしめた。





「そんなの…当たり前だろ…? 手離さねぇよ。もう────」








パサ、と。
思わず落としてしまった花束が春の匂いを漂わせて、鼻腔をくすぐる。
蒼吾くんの匂いと体温を確かに感じて心の奥がきゅってなった。
抱きしめられるままに体の横に降ろしていた手をそっと蒼吾くんの背中に回す。
一瞬それが、驚きの色を見せたけれど。
そのまま全てを包み込むようにまた、抱き寄せた。
愛しさの色を滲ませて蒼吾くんがそっと耳元で呟いた。





「園田がこうやって俺の腕の中にいるのが、嘘みてえ。すげぇ……嬉しい────」





To Be Continued
魔法のコトバ*  Last Season  comments(7) -
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Comment








こんばんにちわ、ひかるデス。。
この11話の


「こういうのって以心伝心っていうんだよ」

「…イシンデンシン?そういえば、そんなタイトルの歌、あったよな」

なんだっけ?と、真面目に眉を寄せる。

「あ。オレンジレンジじゃん。俺、あれ結構好き」


の所を見ている時丁度オレンジレンジの「以心伝心」を聞いていました
こんな偶然って本当のあるんですね!!!
メッチャビックリしました\(◎o◎)/!

話変わりますが、ましろちゃんが蒼吾に想いを伝えれて本当によかったです!!
いよいよクライマックスですね。。ガンバってください!!!
from. ひかる | 2007/07/24 17:41 |
●○●ひかるさんへ●○●
わわわ!すごい偶然ですね〜!そんなこともあるんだ〜と思わず鳥肌が立ってしまいました(笑)
彼らの曲は夏っぽくポップな歌が多いので大好きです。何となく蒼吾のイメージ?
なんとか思いが伝えられて私も一安心です(笑)
from. りくそらた | 2007/07/24 17:48 |
こんばんは!初めまして!
いつも楽しみに読んでます!ドキドキが読むたびに止まらなくてすごい面白いです!
蒼吾とましろちゃんがくつっいて良かったです☆
クライマックスがとても気になります!早く読みたいです!
これからも頑張って下さい!!
from. ゆう | 2007/07/24 19:57 |
こんばんは!
2話一気読みですみません><

ようやく、ですね。
ましろちゃんがこんなにはっきり想いを口に、形にするなんて、
本当に、恋の力ってすごいな〜と。
胸が熱くなりました。
蒼吾もよかったね。
だいぶがんばったから(笑)
でも、そんな強くて真っすぐな気持ちだったから、
困難を乗り越えて、元通りに、初恋のときの二人に戻れたんですね。

さて、佐倉くんと凪!
凪ちゃんの気持ちの変化(見えてなかったからびっくり〜)を知って、
佐倉くんに「よかったね!」と言ってあげたいけれど。
それは続きに取っておきます。

楽しみにしていますね^^
from. 史間 | 2007/07/24 20:14 |
●○●ゆうさんへ●○●
はじめまして!コメントありがとうございます。
ドキドキが止まらないですか〜。嬉しいなぁ。その言葉に私もドキドキしながらコメントを読ませていただきました。
クライマックスは大いにドキドキしてやってください!またどうぞお楽しみに♪


●○●史間さんへ●○●
ましろに偉かったね!と褒めてやることよりも、むしろ蒼吾によかったねー!と言ってやりたい親心(笑)
彼、だいぶ頑張ってましたからね(笑)

意外に凪と佐倉の恋の行方を気にしてくださっている方が多くてびっくりしています。嬉しい〜。
こちらもどうぞお楽しみに!
from. りくそらた | 2007/07/25 08:35 |
またまたお久しぶりです☆ご無沙汰してます。
ま、まさか・・・ 私が来ていない間にこんなに進んでいたとは・・・!!
しかも読んだだけですごくHAPPYな気持ちです♪
ましろ、変わりましたね。佐倉くんのお陰でしょうか??www
あとは凪ちゃんかな? 
蒼吾も幸せになれて良かったです。
なんと表現すればいいか、中二の私にはわからないですけど、とにかくましろと蒼吾が幸せになれて本当に本当に良かったです。
さぁあと少しでENDになりそうな雰囲気ですね。
私も期待しています。
小説頑張ってくださいね。
from. さくら | 2007/07/25 20:07 |
●○●さくらさんへ●○●
HAPPYな気持ちを感じ取っていただけて私もHAPPYです。
こういう幸せなシーンは、書いていても心がほっこり温かくなります。こんなのばかりだと良いのにな(笑)

ほんと。凪の恋の行方を気にしてくださる人が多くてびっくりしています!凪も佐倉も幸せ者だなぁと、嬉しい。
またどうぞお楽しみに!
from. りくそらた | 2007/07/26 01:01 |
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