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春を待つキミに。 3
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春を待つキミに。 3  サイド*佐倉

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その日の放課後も屋上で絵を描いた。
この学校に転入してから、こうして絵を描くのが日課だった。
場所は屋上だったり、教室だったり、グラウンドの隅だったり。
その日の気分と天候次第。
どこまでも青を覗かす空と、遥か彼方に見える海と。
秋色に染まっていく木々や山の緑。
描きたいものはたくさんあったから。
描いていたら余計なことを考えずに済むとか。そんなことばかり。
ただ、人は描かない。
どうしてもアイツがちらつくから。


どこまでも高く続く秋の青空は、いつの間にか夕焼けに色を染めて。
気がつけば藍の色に近くなっていた。
もうすぐ日が暮れる。
描いていたスケッチブックを閉じて、手早く帰り支度を済ませ校舎を出た。
夕暮れのグラウンドは部活を終えた生徒たちが、徐々に引き上げる頃で。
厳しい声も飛び交っていて、部活ともなると楽しいだけではないんだろうな、とぼんやりとそんなことを思う。

その中に見覚えのあるクラスメイトが見えた。
夏木 蒼吾。
夏休みを有意義に過ごしました!とでも主張するかのように、真っ黒に日焼けしたアイツ。
野球用のヘルメットを深く被り、バッターボックスに立つその横顔はどこまでも真剣で。
今までに見たことのない表情で、真っ直ぐボールだけを見つめていた。


…やっぱ人間、『好きなこと』になると集中力が違うな。
授業中のアイツと全然、違う。


なんてぼんやり見つめていたら。
硬質な音が耳を掠めて、白く放物線を描いて秋の空に消えた。
「ありがとうございましたっ!」
深く頭を下げたアイツが、こっちに走ってきた。
一瞬、視線が合わさったけれど。
それを気にする様子もなく、俺のすぐ横の手洗い場まで駆け寄ると、使い込まれたヘルメットを脱いで脇のベンチに置いた。
そこに止まっていたトンボが、驚いて飛び立った。



「オツカレ。もう上がり?」

蛇口をめいいっぱいひねって、頭から水を被る後姿に声を掛けた。
んー、と気のない声が返って。
蒼吾は水を被った頭を犬のように振った。


「…お前こそ。今、帰り?おっせーな」
なにやってたんだよ、とでも言いたそうな口調で顎を伝って滴り落ちる水滴を乱雑にタオルで拭いた。
「絵、やってたから」
「…絵?」
視線が俺の抱えているスケッチブックに泳いだ。
「ああ…」
そういえば、女子がそんなこと話してたっけな。と、そんなことはどうでもいいやと言わんばかりの響きが返った。
お前はいけ好かん、という雰囲気がありありと滲み出ている。
少しは気を使うとか、取り繕うとかすればいいのに。
そんなんだから、彼女に嫌われるんじゃねーの。と喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。


「野球、いつからやってんの?」
「四年の春」
「半年前?…にしては上手いよな」
「別に。フツーだろ」
「ポジション、どこ?」
「…キャッチャー希望」

面倒くさそうに答えながら、軽く乾いた頭に野球帽を被りなおした。
野球少年らしい短髪頭は、水を被ってもすぐ乾くらしい。
便利だ。

「なに。何か用?」
ふて腐れた表情でじっとこっちを見た。
「いや、別に」
用がなければ話しかけたらダメなのか?と素朴な疑問は、蒼吾には通じないらしい。
“好きな女の子”と仲のいい俺は、どうしても邪魔者でしかない。
蒼吾が話を打ち切りたがってるのがわかって。

「じゃあな。部活、ガンバレよ」

とだけ声を掛けて打ち切った。
おう、と短く答えて、蒼吾は足元に転がっていた球を拾い上げて、駆け足で去っていった。


そういえば。
蒼吾とまともに話したのって、これが初めてかも。
いつも教室の隅に陣取る蒼吾たちのグループは、クラスでもかなりの騒々しさだ。
同じクラスでありながら、アイツとの接点は少ない。
ぼんやり背中を見送って、帰ろうと踵を返した時。
ふと視線を感じた。
強い、視線────。


それを探して、橙色に沈む校舎に視線を泳がせると。
三階の端の窓に視線が止まった。
四年一組の教室。俺のクラス。





「…あ」



日下部だ…。


なにやってんだよ、アイツ────。



とっくに帰ったものだと思ってた。
荷物を取りに教室に戻った時には、誰もいなかったから。
うるさい学級委員長に捕まらなくて良かった、と。
ホッと胸を撫で下ろしながら鞄を回収したのに。


まだ残ってたのか…。


グラウンドのバックネットに掛けられた時計に目をやると、時刻はPM6時を回ったところ。
今日の授業は5時間でとっくに終ってる。
HRが終わってからかなりの時間が経っていた。

窓辺に佇むその姿は、ただ立ち止まっただけ、というのではなくて。
目的のために立っている風で。
真下にいる俺なんて通り越して、遥か向こうのグラウンドを真剣に見つめていた。
今までに見たことのない憂いの残る横顔が、なぜか心拍数を上げた。
電気の消えた教室は橙色に沈んでいて。
時折、風に舞う白いカーテンが翻って、夕日に透ける。


…なに見てんだ。



視線の先を辿る。
グラウンドで活動する部活はほとんど引き上げていて、最後まで残って練習をしていた野球部が片付けとグラウンドの整備をしていた。
まばらになった部員達に影が降りて、遠目からはその表情がよくわからない。
教室からだと、誰が誰か、認識するのも難しいだろう。
それなのに。
ただ一点を迷いもなく真摯な視線を投げかける。



「夏木ー!」


整備中のグラウンドにひと際、大きな声が響いた。
だらだらとトンボを引きずっていた蒼吾が顔を上げるのが見えた。
六年生だろうか。
駆け寄ってきた同じ野球部員に頭を軽く殴られて、バックネットの端へと連れていかれた。
先輩は“怒っている”という訳でもなさそうで、二人共笑顔まじりでじゃれあってるって感じだ。
人好きのする、人懐っこい笑顔が零れた。


一瞬、それに気を取られたけれど。
どうしても彼女の様子が気になって、また視線を窓辺に返した。




────…あ。




俺は誘われるように目を奪われた。
言葉をなくして、ただそれを見つめる。



夕焼けがやけに鮮やかだった。
長い髪がさらさらと肩を滑って胸の方へ流れた。
グラウンドを見つめる俯いた視線と相まって、夕暮れの窓辺に憂いのある雰囲気が漂う。

 


────なんて顔、してるんだよ…。




一瞬、息を詰めた。



淡い優しさが染み渡った笑顔と。
どこか切なげで、寂しそうな表情。



日下部のあんな顔。
誰も見たことがないのではないだろうか。
こんな表情もできるのか、と。
ざわめきが胸中に満ちていた。


俺は彼女の怒った顔しか知らないから。






見つけてしまった。
彼女の視線の行方────。








>>To Be Continued


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春を待つキミに。 comments(11) -
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Comment








また「魔法のコトバ」が再開してくれて嬉しいです!
今度は佐倉君の話なんですねぇっ!

これからも頑張ってくださぃ!
from. 実月 | 2007/09/24 14:26 |
●○●実月さんへ●○●
楽しみにしていただけて嬉しいです。
今回の凪と佐倉の話はちょっぴり大人な雰囲気で書いていきたいな〜と思っています。よろしければまた応援してやってくださいね!
from. りくそらた | 2007/09/25 09:45 |
こんなに毎回コメントしても迷惑じゃないでしょうか;
でも毎回コメントしたくなる程、良いです♪
特に最後の文が切なくってキュンってなりました〜

私はサイトをもってないので、小説をお見せすることはできないのです;
ごめんなさい;
でもまだまだここは拝見させて頂きますので☆
from. ひなた | 2007/09/25 18:32 |
つ、ついに佐倉くんに恋が・・・!?
でもそれはとても切ない恋とわかっているので、これからを考えるとすごく悲しいです。。。
でも決してやらないほうが良かったことではないと思うので、これからも静かに見守っていこうと思います。
佐倉くん、ファイト!!
from. さくら | 2007/09/25 19:09 |
佐倉君の恋も動き始めましたねぇ(>д<)!!
今回は蒼吾も出てきたので一人ニヤ△靴覆ら読まして
いただきました。蒼吾との絡み期待してます。
これからの展開が楽しみです!!
PS.ちょっと、質問です。
新作の小説の題名なんですが、「青春ライン」って
「いきものがかり」さんの曲名から来てるんですか?
もしそうだったらうれしいです。
今一番お気に入りの曲なので!(>д<)!
from. サク | 2007/09/25 22:21 |
●○●ひなたさんへ●○●
もったいないお言葉をありがとうございます〜。
ちっとも迷惑ではありませんよ。むしろ大歓迎です!ひと言コメントをいただけるだけでも、やる気が全然違いますから…。とても嬉しい♪
ひなたさんはサイトをお持ちではないのですね。残念。
いつかその機会があれば、ぜひ教えてくださいね!喜んで訪問させていただきます。


●○●さくらさんへ●○●
少し佐倉の気持ちに変化が現れてきました。恋の始まりなんて、意外ときっかけは単純なものだったりしますよね。
結末の見えてしまっている恋ですが、本編で見えてこなかった部分も楽しみにしていてもらえると嬉しいです♪
応援ありがとうございました〜!!


●○●サクさんへ●○●
蒼吾の登場。喜んでいただけてよかったです。
彼は動かしやすいキャラなので、私も書いていて楽しいです♪♪
ご質問、ありがとうございました。
そうです。ビンゴです(笑)いきものがかりのカップリング曲を引用させてもらっています。
近々リリースの曲を何気に検索していたら、心にビビッと引っかかったタイトルなのです。
実はタイトルを引用させてもらってから、初めて曲を聴きました(笑)いいですよね〜〜!大好きです!!
from. りくそらた | 2007/09/26 08:55 |
こんにちは!
やっと「魔法のコトバ」を全読しました。
「春を待つキミに」も新たな視点で、
とても素敵です。
続きを楽しみにしています!
from. 日和ナツ | 2007/09/28 00:21 |
うはー!出遅れた〜(涙)
ああ、佐倉くん、見ちゃったね(←
見つけたとたんに切ない展開が、放課後の教室の雰囲気とぴったりで、どうして風なんか吹くんだなんて、思っちゃいました。
シチュエーション設定が絶妙です♪
この日から、そんな凪の横顔を見つめ続けて。
どうして人って、不器用な方向に魅かれていっちゃうんでしょう…
続き、楽しみにしております〜!
from. 史間 | 2007/09/28 00:59 |
●○●日和ナツさんへ●○●
全読ありがとうございます!
長いお話なので大変だったでしょう。お疲れ様でした。
春キミ。は佐倉サイドと凪サイドのお話です。また違った視点で楽しんでいただけたらとても嬉しいです。


●○●史間さんへ●○●
放課後のシチュエーション。「…王道かな…。…うん、王道だよね。ま、いっか」と、ひとりごちりながらやってました(笑)私も学生時代は教室の窓の影に隠れて、こういうことをやってました。ああ、懐かしいなぁ。
from. りくそらた | 2007/09/28 09:27 |
今晩は!!
この章は、放課後の学校の部分描写が丁寧な章であったと思いました。読んでいると、自分も去年は高校生だったので、何だか懐かしさも感じさせてくれる雰囲気が章全体に漂っていたと思わされました。
友人である夏木さんとの久しぶりの会話をしていた佐倉さんは日下部さんを発見し、彼女が自身の前では浮かべない優しい表情を浮かべていた事を知りましたね。
日下部さんは夏木さんと佐倉さん、どちらを見つめていたのでしょうか?!
果たしてこの後物語がどのように進んでゆくのか
次回の展開に期待します
from. | 2007/12/10 18:19 |
●○●要さんへ●○●
丁寧なコメントをありがとうございます。
要さんは、去年は高校生だったと!若い世代ですね〜。羨ましい…。
凪が見つめていたのは、もちろん蒼吾(夏木)です。凪の気持ちの流れが動いていく様を楽しみに読んでいただけると、嬉しいです。
from. りくそらた | 2007/12/10 18:34 |
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