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春を待つキミに。 5
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春を待つキミに。 5  サイド*佐倉

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初めて喧嘩をした。
取っ組み合いの。
椅子が倒れる音が教室にひと際大きく響いて、気がついたら左の頬がやけに熱かった。
転がった教室の床は冷たくて、見上げた視界に殺風景な白い天上と、苦い顔をしたまんま唇を噛み締めた蒼吾の顔が見えた。
踏み込んでしまったことにすでに後悔を感じたけれど、もう引き返すことなんてできなかった。

どうしてイラつくのかわからない。
他人になんて執着しようとも思わない。


でも俺は、やっぱりコイツが嫌いだ────。





* 




「この…っ、バカっ!!何やってんのよっ!!」


昼休みの保健室。
仕切ったカーテンの向こうで罵声が聞こえた。
声の主は日下部。
きっといつものように腰に手を当てて、相変わらずのきりりとした顔つきで蒼吾を見下ろしているのだろう。


あの後、教室は一時、騒然となった。
本当ならとっくに出来ているはずの給食の準備はおろか、机や椅子は蹴り飛ばされて転がっているわ、野次に飛ばしたタオルや体操着、空になったペットボトルはころがっているわ。
更衣室から戻ってきた女子が思わず教室の入り口で躊躇してしまうほど、悲惨な状態だった。


「何やってんだ−っ!一組男子はっ!!」

女子と一緒に戻ってきた担任が野太い声で一喝して、床の上で団子になっていた俺と蒼吾を引き剥がした。


「お前ら…給食抜きだ。廊下に立って一度、頭を冷やせ!」
俺と蒼吾のひどい顔に頭を抱えながら、担任が呆れた声を漏らした。
今どき給食抜きだとか、廊下に立たされるとか、あるんだな。
これって田舎の学校だからか?
向こうの学校だったらありえない、とか。
理不尽さを感じながらも、言われるままに廊下に立った。
俺は教室の後ろの入り口、蒼吾は前。
殴られた拍子に切れた唇の端がやけにズキズキと痛んだ。

「…佐倉、すっげーな。意外にやるじゃん、お前」

給食の牛乳を運びながら、すれ違いざまに安部がぼそりと呟いた。
同じように前の扉に立たされている蒼吾にも何やら耳打ちをしたら、思い切り尻を足蹴りされていた。
バカだ。


「なにすんだよ…っ!」

「安部ーっ!お前も廊下に立つかぁ?」

担任の声に一括されて、安部は心底痛そうに尻をさすりながら、教室の中に消えて行った。
やっぱ馬鹿だ、安部は。
クスクスと教室から小さな笑い声が漏れる中、ふて腐れた表情でひたすら前だけを見つめる蒼吾は、決して俺を振り返ることはなかった。


給食の時間中、ずっと立たされていた俺たちふたりは、その後こってりと担任に叱られて、そのまま保健室へ連れられた。
お互い、頬や口元が赤く腫れていたり、生傷が痛々しい。


「あの…佐倉、くん。…大丈夫…?」


顔を上げると丸っこい茶色い目と視線がぶつかった。
給食のトレイを手にしたまま、心配そうな眼差しでましろちゃんがじっとこっちを見つめていた。
「先生が給食、持って行けって…。食べられる?」
「ああ。ありがとう」
「…よかったらこれ、使って」
小さく笑いながら差し出された絆創膏。
花柄の可愛いらしい一枚。
あまりにもそれがましろちゃんらしくて、思わず顔が緩んだ。

「ましろ、行こ」

「あ、うん。…じゃあね」

柔らかな笑顔を残して、ましろちゃんは日下部に連れられて保健室を出て行った。
長い黒髪を翻した日下部の背中はひどく怒っていた。
相変わらずだな。

「はい。これで消毒おしまいっ」
保健の先生の声が途切れるのと同時に、し切っていたカーテンが開かれた。
「まぁ。喧嘩をするのが悪いことだとは言い切れないけど、ほどほどにしなさいよ」
と、苦笑混じりに俺と蒼吾を見比べた後、机をふたつ向かい合わせてそこに運んできてもらった給食のトレイを並べた。
「教室は掃除が始まっているし、ここで食べてから戻りなさいね」
穏やかに声を落として机に向かうと、先生は何やら分厚いノートにペンを走らせた。
記録簿に俺と蒼吾の名前と症状でも書き記しているのだろう。
本当は蒼吾と向かい合って給食なんて食える心境ではなかったけれど、このまま何も言わずに飛び出していける勇気も度胸もなくて。
結局。
そのまま用意してくれた席に腰を降ろして、スプーンを手にした。
向かい合った蒼吾の頬には四角い絆創膏が痛々しく貼られていて、への字に結んだ口元が「いただきます」とぶっきら棒に呟いた。



その時の給食の味は今でも覚えてる。
大好きなメニューだったはずなのにひどく味気なく、切れた口元の傷にとても沁みた。
窓から見上げた秋の空はどこまでも高く。
授業中とは打って変わって、ざわめきが校舎に満ちていた。




取っ組み合いの喧嘩をするのも、廊下に立たされるのも。
クラスメイトに喧嘩の強さで褒められるのも。
保健室で給食を食べたのも。
全部、俺にとって初めての経験だった。







>>To Be Continued


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春を待つキミに。 comments(10) -
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Comment








朝一で読みました!!
怖いですね。蒼吾も佐倉くんも・・・
私は取っ組み合いのケンカは見たことないので、想像するだけでちょっと・・・ みたいな感じですww
しかも女の子絡みですよね?
もっと怖いわ〜・・・
まぁそんなこともいつかはいい思い出になるんですもんね♪
・・・といろいろ考えてしまったさくらでしたww
from. さくら | 2007/10/07 09:51 |
第5話楽しみにしてました〜
そういえば、確かに男の子側からの目線って難しいですよね;
だって男の子じゃないんですもの;
それが書けるからりくそらたさんはすごいって思います☆
とっても尊敬してます!!
これからも頑張ってください♪
from. ひなた | 2007/10/07 10:10 |
おお、男の子ですね。
ばっちり男の子ですよ!
しかし小学生を廊下に立たせる…そんで後で給食を運ばせる…
爽やかな先生が好きだ!(そこ?
静かだった佐倉くんの心情が、周囲の動きによって少しずつ変わっていきますね。
何に対しても特別な感情がなかった彼が。
凪の横顔に心動き、
蒼吾を嫌いと感じる。
うふー♪答えはすぐそこだ!
佐倉ファイトです!
from. 史間 | 2007/10/07 11:01 |
わぁ〜!第5話だぁww^u^ 
そっかぁ!佐倉kは蒼吾が、
キライかぁ^H^ うん!
from. | 2007/10/07 12:05 |
遅くなりましたが、番外編スタートおめでとうございます!
今私は受験勉強やら定期テストやらでで本当に毎日が忙しいです。
だからここに来て小説を読むことが私の一つの息抜きになってるんです。
佐倉君と蒼吾、取っ組み合いのけんかなんてした事あったんだぁ・・・。蒼吾はそういうの想像がついたけど佐倉君は全く想像なんてしたことなかったから本当に以外でしたねw
長々と分けわかんないこと並べてしまいましたが、今後も頑張ってください♪
from. 琴音 | 2007/10/07 19:02 |
まさか、あの冷静な佐倉君が取っ組み合いの
ケンカをするなんて以外でした!!
蒼吾はましろのことが大好きだからこそ
いつも隣にいて自分には向けてくれない
ましろの笑顔を引き出せる佐倉くんの一言が
許せなかったんでしょうねぇ。
わぁ〜、めちゃ続きが気になります!!(>д<)!!
がんばってください!!続き楽しみにしてます。
from. サク | 2007/10/07 22:21 |
●○●さくらさんへ●○●
いろいろと考えちゃいましたか〜(笑)
助長するわけではないのですが、私はこの時期の喧嘩はおおいにやればいいと思うのです。溜め込むよりもよほどいい。本気で本音をぶつければ、見えてくるものもたくさんあると思います。
…でも、実際は喧嘩は怖いですよね(笑)私もイヤだ。
この佐倉と蒼吾は小学四年生ですから、殴り合いというよりも掴み合いの喧嘩をやっちゃたと想像してください(苦笑)野次馬も混じって、きっと揉みくちゃにされたのでしょう。かわいそうに〜。


●○●ひなたさんへ●○●
大変お待たせしました(汗)
ある程度は書き上げてはいるのに、いつもあと一歩が足りなくて更新が遅れてしまいます。楽しみにしていただいているのに申し訳ない。
男の子の目線って難しいですよね。たまに呟くオットのひと言が助言になったりしながらも、頑張って男の気持ちを探っています(笑)
尊敬なんてとんでもない…っ(汗)こうであったらいいな、と私の勝手な理想の塊なのです。えへへ。


●○●史間さんへ●○●
あはは。そこですか(笑)
こういうがつんと叱れる教師は私も大好きです。最近、減りましたよねぇ(…しみじみ)。
佐倉の微妙な内面の変化。感じ取っていただけて嬉しいです。本気で喧嘩をできること、これも彼の大きな心の成長なのです。それに一番戸惑っているのは、佐倉自身。
うふー♪答えはすぐそこです(…たぶん)


●○●12:05PMにコメントをくださった方へ●○●
…はじめまして、でしょうか?コメントをありがとうございます!
佐倉はこの時点では蒼吾の事がキライです。でも『キライ』の中にはいろいろな意味合いが含まれていたりします。
また今後の佐倉の気持ちの変化を見守ってやってくださいね♪


●○●琴音さんへ●○●
お久しぶりでございます!
受験勉強の合間に覗いていただいているとは!あわわ。
息抜きどころか、逆にお邪魔しているのではないかと恐縮です。
蒼吾はご想像通り、きっとよそでも喧嘩をやっているのですが(笑)、佐倉にとっての喧嘩はこれが初めて。もちろん蒼吾以外とぶつかることはないと思います。
嫌いではあるけれど本音でぶつかれるのは蒼吾だから。認めている部分も大きいのです。
意外!と感じていただけて、「よっしゃ!」と心の中でガッツポーズ(笑)これからも意外な佐倉の内面を見守ってくださいね!
少しでも息抜きのお手伝いになるといいな。


from. りくそらた | 2007/10/07 23:02 |
●○●サクさんへ●○●
あ。ここにも「意外!」と思ってくれている人が(笑)
蒼吾のカッとなった理由は、サクさんの鋭い読み通りです。「園田の事、好きじゃないんなら思わせぶりな態度なんか取んなよ!」みたいなところでしょうか。
実はこの話。本編で書こうかどうか迷った末、削ったシーンのひとつなのです。書けてよかった〜。
from. りくそらた | 2007/10/07 23:09 |
こんにちは!!
試合中に喧嘩を起こしてしまった佐倉さん、彼は冷静な性格であまり喧嘩をしたことがないような雰囲気ですが、やはり自身の心中の事となると、我慢して聴いていられなくなる部分もあるのだと思いました。
担任教師の言葉がなかなか古風でよかったです。
最近の教師は学校で生徒に何か一言でもきつい言葉を言えば体罰だ何だ騒がれるのに、この先生はそのような言葉も恐れない勇敢な方であったと思いました。
そして怪我をして、保健室に運ばれた佐倉さんは日下部さんの優しい一面をまた、目にすることが出来ましたね。
果たしてこの後物語がどのように進んでゆくのか
次回の展開に期待します
from. | 2007/12/12 14:39 |
●○●要さんへ●○●
冷静で感情を取り乱すことの少ない佐倉が、凪の事になると冷静でいられなくなる。本気で本音をぶつけることで、彼の心の成長も感じ取ってもらえると嬉しいです。
古風な先生。大好きです!ちゃんと生徒の事を思って心から叱ってくれる先生、今の世の中少なくなってきましたよね。
from. りくそらた | 2007/12/13 09:27 |
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