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春を待つキミに。 7
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春を待つキミに。 7  サイド*佐倉

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フェイントをかけたつもりだった。
安部のセリフじゃないけれど、いつも堂堂と胸を張って、弱い部分なんて微塵も見せない彼女の、本音が少しでも聞きたかった。
だけど返ってきたのは。

「…バッカじゃないの?」

という皮肉な言葉。
1ミリたりとも動揺の色を見せず、凛とした立ち姿のまま真っ直ぐに俺を見つめた。
窓から吹き込む風が、彼女のクセのない黒髪を攫いサラサラと肩に流れた。


「都合がいいとか、悪いとか。なに馬鹿みたいなこと、言ってんの」


呆れたようなため息が漏れた。
「私にとって都合がよかったら、佐倉はましろを好きになるの?都合が悪かったら好きだとしても諦めるの?
…そんなのおかしい。人に言われたからって、はいそうですかって気持ちが動くはずないでしょう?そんなので簡単に動く気持ちなんて、嘘だ」
揺るぎのない意思の強さを輝かせて、じっと俺を見つめた。
妙な緊張感が漂って、何も言えなくなった。
それがますます、ふたりの間を流れる空気を気まずくさせる。

「…佐倉は知らないかもしれないけど、ましろは一学期、いじめられてたの。
私、何もできなかった。毎日ましろが泣いてたの知ってたのに、何もしようとしなかった。あんな事件が起こるまで、何も…」
記憶を手繰り寄せて、日下部が悔しそうに唇を噛み締めた。


「…私はもう二度と、後悔なんてしたくない。だから───」


違うだろう。
日下部が抱えている感情は、もっと複雑なニュアンスを持ったものだ。
…いや、違わないのかな。
彼女を助けることが、結局はアイツと繋がってるんだから。
もっとも日下部は、そんなそぶりは全く見せないけれど。



「それを言うなら、どうして佐倉はましろに執着するの?トクベツな感情があるとしか思えない」
「どうしてだろうな」
うっすら笑みを浮かべて小首を傾げた。
もうすっかり慣れてしまったごまかし笑いを日下部に返す。
「教室で蒼吾と揉みくちゃになって床に転がってる佐倉を見た時、すごく驚いた。何がそんなに気持ちを揺さぶったんだろうって。
…でもね、正直、ホッとした。佐倉の本気の本音が見えて。ちゃんと感情的になることもあるんだ、って。
なのに。…そうやっていつも、肝心なところをはぐらかす」
それを知ってか知らずか、呆れたようにため息をついた。


「…佐倉は、もう少し素直になればいいのに」


前置きなく、隣で空気が動いた気配がした。
いつの間にか顔を見ることを避けてしまった俺のすぐ側で、日下部がじっと見つめていることに気付いて、鼓動がひと際跳ねた。
感情は気配で伝わってしまうのに、一度走り出してしまった鼓動は収まることなく加速していく。
大きくくっきりとした瞳や、瞬きをすると揺れる睫毛。
自信に溢れた強い眼差しは、第一印象とちっとも変わらず、色あせることを知らない。
一瞬、息を詰めた。
それに気付かれたくなくて、じっと見つめる深い瞳から視線を外した。
まるで拗ねた子どものように。
視界の隅に映った彼女の小さな手が、ゆっくりと宙を舞った。


「────絆創膏、取れそうになってる」


躊躇いもなく伸ばされた手が、頬に触れた。
傷には触れないように、優しくそっと。
手の冷たい人は心があったかい、という言葉が頭の中で渦巻いてた。
指先から伝わるヒヤリとした体温に、息が詰まる。
腕を伸ばした拍子にバルーン型になった袖が肘まで滑り落ちて、細い腕が覗く。
目の前に見える長い睫毛とか、形のいい唇から漏れる小さな吐息とか。
彼女の全てが、スローモーションのように見えた。

「あーあ。綺麗な顔が、台無しだね」

見上げたその顔が、笑顔に変わる瞬間も、全て────。










気がついたら、俺は思わず日下部の左手をきつく掴んでた。
「…え…。なに…?」
きょとんとした表情で日下部が見上げた。
突然に腕を掴まれて、一瞬、戸惑いの色が走る。


「え…、あ………」


小さく呟きを漏らすことで、俺は我に返った。




何やってんだ、俺────。



「あ、ごめん。…もしかして、触れられるの、嫌だった?」
困惑の瞳が、俺を見上げた。
違う。
嫌とかそういうのじゃなくて───。
声にならない言葉が、喉元につっかえて気持ちが悪いのに、それを言葉にすることができない。


「…なに?」

浮んだはずの笑顔はとっくに消えて、日下部が不思議そうに俺を見上げた。




言えるはずない。

もう一度、俺に、笑ってほしいなんて───。






「じゃーなーっ!」
「先生、サヨナラーっ!!」
とっくに整備を終えたグラウンドから、野球部員の声が耳を掠めた。
「あ」
と、短く呟いて日下部がそれを振り返る。
掴んだ力が抜けて、するりと彼女の腕が外れた。
白く細い腕にはうっすらと赤い跡が残っていて、思いのほか強く掴んでしまったことをリアルに主張していた。

「じゃあね。私、帰るね」

彼女の気配が脇を抜けて、机の上に置かれていた鞄を持ち上げた。
「佐倉は、まだ帰らないの?」
いつまでもその場に突っ立ったままの俺を、一度、教室の入り口で振り返った。
「…ああ」
とだけ漏らすのが精一杯の俺に。
「早く帰りなよ。また、明日ね」、と。
いつもと変わらない委員長の顔になって、小さく手を振りながら教室を出て行った。
パタパタと廊下を駆ける足音が次第に小さくなり、闇に消えた。



下校を促す音楽と最後の放送が校内に響く。
すっかり闇の色を濃くした教室は、孤独感を膨らませる。
じき見回りの教師がやってくる。
力なく椅子に腰かけた体をのろのろと起し、最後にひとつだけ開いた窓をぴしゃりと閉めた。
ふと視界に入った窓の向こう。
薄汚れたユニフォームから着替えを済ませた野球部が、黄昏の中へ散って行く。

「────蒼吾…!」

凛とした聞き覚えのある声が耳を掠めて、日下部が駆け寄って行くのが見えた。
偶然なフリをしてアイツと肩を並べて帰る後ろ姿が、闇に溶けた。




無自覚?
そんなの本当はとっくに気付いている。
こんな厄介な感情、認めたくなんてなかったのに。
トン、と窓辺に背中を預けたらズルズルと床に沈むように力が抜けていった。

他の誰かを見ている奴をどうして想っていられるんだろう。
そんな顔をするぐらいなら、好きになんてならなければいいのに。
アイツを見つめる日下部を見かけるたびに、ずっとそう思ってた。
なのに。



────俺、今。どんな顔してるんだよ…。


情けなくって座り込んだ膝に埋もれるようにして顔を伏せた。
一緒に帰ろう、とか。暗くなったから送って行く、とか。
虚しく飲み込んだ言葉が、胸の奥につっかえて気持ちが悪い。








ああ、そうだ。
彼女の笑顔を見たかったのも、怒った顔が見たかったのも。
蒼吾にイラついていたのも、全部。


俺は、日下部が好きなんだ。





>>To Be Continued
春を待つキミに。 comments(12) -
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Comment








あ・・・蒼吾にイラついてたんだ。。。
てか、佐倉君やっと気づいたかぁ・・・
てか、凪ちゃん完璧だなぁ・・・
ぁーゆぅ人がモテるんだよねぇ!
from. | 2007/10/11 15:20 |
●○●3:20PMのコメントの方へ●○●
凪は確固たる自分を持った芯の強い女の子です。でもそんな優等生な彼女にもいろいろ思うところはあるはず。
そういう部分を今後、うまく書いていけたらいいなと思っています。
from. りくそらた | 2007/10/11 17:01 |
佐倉くんも自分の気持ちに気づきましたねぇ〜。
凪ちゃんの佐倉くんへの「素直にになればいいのに」
ってコトバは、凪ちゃんがましろを想う蒼吾に対して
の自分へのコトバともとれちゃって切なくなりました。
深読みしすぎですね(>д<;)

蒼吾も凪も佐倉もただ、好きな人に自分に向かって
笑いかけてほしいだけなのに、それが一番難しくて
でも、自分以外の人への笑顔を見るたびに切なくて・・・
切な過ぎます(>д<)!

お気に入りの蒼吾にがんばってほしいケド
4人共がシアワセになってほしいです。
from. サク | 2007/10/11 21:13 |
読みましたよ〜www
佐倉の謎が一つ解けたような気がしますw
あ〜・・・こうして凪ちゃんを好きになったんだな・・・
やっぱり佐倉くんのお話はとてもおもしろいですね!!
りくさんも男の子が主人公のお話で難しいとは思いますが、持ち前のガッツで頑張ってください♪
最後に偉そうなこと言ってしまいましたが((笑
これからもずっと楽しみにしてます!
from. さくら | 2007/10/11 21:42 |
自覚しちゃいましたね…こっから長いぞ(長いな)
複雑な感情がよくまとまっていて、読みやすいなと思いました。
素敵です!
そんで佐倉、頑張れ><
from. 史間 | 2007/10/12 00:10 |
佐倉君・・・ジェラシーですね 笑
そして切ない・・・・;
でもまだまだこれからって感じが伝わってきます!!
頑張って下さい!!
from. 志歩 | 2007/10/12 22:08 |
●○●サクさんへ●○●
あ。深い読みだ(笑)
佐倉ばかりでなく、4人それぞれの気持ちを汲んでもらって、みんな幸せ者だなぁ〜と思います(しみじみ…)。そこまで考えて読んでもらって、とても嬉しいです。


●○●さくらさんへ●○●
本編ではましろから見た佐倉しか、ほとんど出てこなかったので謎が多かったのかな。解けてよかったです(笑)
佐倉モードオン!で頑張って書いていきます。応援ありがとうございました〜。


●○●史間さんへ●○●
恋心って、自覚してしまうと急に気持ちが加速しちゃうものなんですよね。先は長いぞ、佐倉!(笑)
凪と佐倉は複雑な気持ちが絡まりすぎて、書いる私は脳がわきそうです〜(涙)書き手の史間さんに読みやすいと言っていただけて、ホッとします。
from. りくそらた | 2007/10/12 22:23 |
●○●志歩さんへ●○●
ジェラシーですか。そうとも言う…(笑)
いっそ気持ちに気付かないままのほうが楽だったのに…と思うのに、走り出したら止まらないのが恋心。
片恋は、切ないですよね。
from. りくそらた | 2007/10/12 22:28 |
凪ちゃん、強くて優しくてすてきです〜
そして佐倉くん、自分の気持ちに気がついたんですね〜
でも気づいた方が切ないかも;
二人の感情は複雑ですね〜
私が小学生の頃はもっと単純に好き〜!って感じでした
といっても二人と同じ片想いでしたが;
でも、こういう深い恋、ちょっとしてみたいなって思います。
from. ひなた | 2007/10/13 19:05 |
●○●ひなたさんへ●○●
私も小学生の頃は単純に「スキ!」って感じで、もっと幼くて単純な恋愛でした(笑)
でも片思いって、辛いけれど一番「恋愛してる!」って感じる期間ではないのかな〜と思ったりします。
ふたりの複雑な感情が絡まり合って、それがいつか結び目になれるように。どうか見守ってやってくださいね〜♪
from. りくそらた | 2007/10/13 23:03 |
おはようございます!!
日下部さんの言う通りですよね。佐倉さんは彼女の気持ちや顔色を察してばかりで、自分自身の意志で行動できていないと思います。
園田さんはかつて、いじめられていたのですね。彼女を助ける事の出来なかった日下部さんの後悔が、彼女の言葉から伝わってきました。
そして佐倉さんは、ようやく日下部さんが好きだと言う自らの気持ちに気づきましたね。
果たしてこの後物語がどのように進んでゆくのか
次回の展開に期待します
from. | 2007/12/14 09:12 |
●○●要さんへ●○●
>佐倉さんは彼女の気持ちや顔色を察してばかりで、自分自身の意志で行動できていないと思います。

凪が好きだからこそ、気持ちを探り、恋心を探る。佐倉の駆け引きなのです。そういう恋心のもどかしさが要さんにも伝わってくれるといいなと思います。
今後の展開にも、どうぞご期待ください。
from. りくそらた | 2007/12/17 00:45 |
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