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春を待つキミに。 15
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春を待つキミに。 15 サイド*凪 

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佐倉に手を引かれるまま辿りついたのは、ショッピング街を抜けた先の広場にある大きなモミの木だった。
点灯式を終えたばかりの大きなモミの木は、白と青の電飾を纏って幻想的な光を放つ。
近隣では少し有名なクリスマスツリー。
その圧倒的な大きさと電飾のまばゆい光に、私は目を細めた。
佐倉は大きな木の前で立ち止まったまま、何もしゃべらなくて。
私は彼の隣で同じようにそれを見上げることしかできなかった。
ここに連れてこられる時、握られた手はそのまま。
振りほどくことができなかった。


「見に来たことある?」
木を見上げたまま、佐倉が口を開く。
「うん。何度か」
「……蒼吾と?」
「まさか。みんなと一緒に見に来たことはあるけど……ふたりきりなんて、あるわけないじゃん」
わかってるくせに。
意地悪な質問だ。
「……佐倉は?」
「俺は初めて。お互い、寂しいクリスマスを過ごしてたわけだ」
失笑交じりに天を仰ぐ。
点滅する電飾の影が、佐倉の瞳に薄く映って消えた。



「──────日下部の夢って…なに?」
木を見上げたまま佐倉が聞いた。
「なに? 突然……」
「なんとなく、聞いてみたくなって」
「夢か…。昔はいろいろあったんだけど………今はまだ、漠然としてる。佐倉は? やっぱり絵の方に進みたい?」
「絵を描いて食っていきたいとは思わない」
「どうして?」
「夢で何かを犠牲にした人間を俺は見てきたから…。
好きなことでさ、食っていけるやつなんてほんの一握りだよ」
「自分から聞いてきたくせに、現実的だね」
「そうかな? でも……そういう将来じゃなくてもさ、絵には何らかの形で関わっていけたらいいなって思うよ」
「でも、美大には行くんだ? それって矛盾してない?」
「あれはただの情報収集。行くなんて云ってないだろ? まだ──────決めてない」


私は。
大きな木を静かに見上げる佐倉の横顔をじっと見つめた。
佐倉はただ漠然といい大学へというのではなくて、その先まで見てる。
淡々と、その先に見える将来を冷静に。
まさかこういう話を、佐倉とするとは思わなかった。




「日下部」
「うん?」
「手──────握ったまま。嫌じゃないの?」
「………っ!」



慌てて放しかけた手を佐倉が掴む。
振りほどこうとしたけれど、させてくれない。
それどころか。
指を絡めて、ますます強く握られた。



「さく」
「温かいから。もう少しこのままで」



あまり自分の感情や欲求を露にしない佐倉が、そんなことを云うから。
それ以上、振りほどけなかった。
これ以上、なにも云えない。




ずるいよ、佐倉は。
人恋しい時に、優しい声を聞いたらダメになる。
寂しいときに、優しくされたらその暖かさを求めてしまう。
一度、誰かに弱さを見せたら、もう──────。



佐倉が優しく笑いかけて、また大きな木を見上げた。
つないだ手をそっと、自分のコートのポケットに入れる。
温かい。
人のぬくもりって。
こんなにもあたたかく、安心できるものなんだ……。
触れ合う身体から、アクリルと油絵の匂いがした。
土とおひさまの匂いがする私の幼馴染とは全然違う、佐倉の匂い。
クラクラした。





「日下部と一度、見ておきたかったんだ」






どうしてだろう。
モミの木を見上げる横顔が、やけに遠くに見えた。
同じものを見ているはずなのに、佐倉が見つめる先はずっと遠く。
隣にいるのに、すごく遠い──────。


寒さで赤く染まった耳と頬が、小さく震える。
もうだいぶ長い時間ここに立っていて体が冷え切ってしまいそうだけれど、佐倉はなかなか動こうとしなかった。
仕方がないから、しばらく隣でツリーを見つめた。
マフラーに埋もれた息が、白く白く空に舞う。






「日下部」
「…なに?」
「いつかちゃんと、返事……聞かせて。今じゃなくていいから」





モミの木からそっと私に視線を返して、佐倉が笑う。






「蒼吾でなくてもいいって、思える日が来たら、その時に」






「……そんな日が来るのかな…」
蒼吾以外の人に、感情が動いたことがないから。
いつかのその日が、想像つかない。
「もしかしたら、そう思える日が来ないかも。ずっとずっと、死ぬまで蒼吾のことが好きかもしれないよ?」
「構わない。それでも俺、待つから」




「………」




「そう思える日が来たら、その時は、一番に俺の事、思い出して。考えて。
そのとき俺は、日下部の傍にいないかもしれないけれど──────でも、ずっと待ってるから」
「…佐倉の方が先に、私じゃなくてもいいって思う日が来るかも」
「来ないよ。ちゃんと言葉で聞くまでは俺、ふられたつもりないから」
「………」
「あの時の日下部は、蒼吾以外、考えられなかった。でも今は、違う」



イロゴト方面にはめっぽう鈍いましろが、蒼吾の気持ちに気づいた。
もともとはお互いに意識し合ってたふたりだもの。
きっかけ次第でどんどん転がっていくのは、目に見えてる。
私は蒼吾の気持ちを動かせない。
それはたぶん、この先もずっと──────。
手に入れられないと覚悟して想ってはきたけれど。
それはもう、確信になった。
きっと今のままではいられない。



「…意外と頑固だね、佐倉は」
「そっちこそ」



お互い睨み合って、どちらかともなく笑う。
ふっと。
緊張の糸が切れた瞬間だった。
前置きなく、隣で空気が動いた気配がして、私は佐倉を見上げた。
あ、と思った時にはもう、隣に佐倉はいなくて。
聞きなれた柔らかい声が、私の右耳のすぐ横で、ゆっくりゆっくりと言葉を紡いだ。




「日下部は……ずっとひとりで立ってきたから。そろそろ誰かを頼ってもいい頃だと思うんだ。
いつだって強がって、ひとりで前を向いて歩いてきたから」
「強がってなんか──────」
「失恋してから、一度でも泣いた? 声を上げて」




これだから嫌だ、この人は。
いつだって私を心の奥まで見透かす。
蒼吾なら気づかないような強がりな嘘を、この人は簡単に見つけてしまう。
佐倉には嘘や虚勢は、通用しない。

顔を上げたら、きっと泣く。
佐倉が優しいから、泣きたくなる。
我慢とか、難しくなる。
だからただ黙って、下を向いて唇をきつく噛締めた。



「……日下部の悪い癖だよ。泣きたいとき、そうやって唇を噛むの。我慢しないで、全部吐き出せば楽になるのに」




背中から抱きしめた佐倉の腕が強くなる。
息苦しいくらい、強く強く。
私の弱い心をすべて包み込むかのように、抱きしめてくる。

背中から伝わってくる佐倉の存在に、心臓が音を立てた。
嫌な鼓動じゃない。
息が詰まるこの感覚。




感情が、動く。





「もし、蒼吾のことが忘れられなくても──────誰かに寄りかかりたくなったら、いつでも云って」






そう、耳元で囁いて佐倉に。
私は何も答えられなかった。






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春を待つキミに。 comments(2) -
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Comment








お久しぶりです。
もしかしたら、覚えてはらへんかもしれませんが・・・。
パソコンが壊れてしまってからここのサイトを見つけるまで、
随分と時間がかかってしまいました。

久々に読んだこのお話、やっぱりすごく素敵でした。
続きも期待してますね。
from. ゆい | 2010/02/28 13:54 |
* ゆい様 *
お久しぶりです。
あらあら、PCが壊れちゃったのですねぇ。
私もPCをリカバリーした時、お気に入りにいれていたサイト様の収集にすごく手間取ったのを思い出しました(苦笑)

春キミ。途中放置のままで申し訳ない。
今書いている話が落ち着いたら、何とかせねば!!
from. りくそらた | 2010/02/28 22:09 |
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