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全力少年19
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天国と地獄と。    サイド*蒼吾 

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野球部に゛夏休み゛という文字はない。
夏の練習は普段よりもうんとハードだ。
日が長いのをいいことに、早朝からボールが見えなくなる時間まで、みっちり練習がある。
それも毎日。
おまけに遠征があったり、集中合宿をやったり。
野球部の夏は1年の中で一番キツイ。
海だ! プールだ! バカンスだ! と騒いでるクラスメイトが、正直すげぇ羨ましい。
オレ達、野球小僧の夏の自由な時間は、必然的に限られる。


『彼女ができても、ひと月ともたない』
っていうのが、野球部のジンクス。
彼女ができても会う時間がない。
電話もメールもろくに返せなくて、愛想つかされる。
『私と野球と。どっちが大事なの!?』
別れ際に彼女に言われる決まり文句(らしい)。
どっちが大事か───なんて、比べる基準が違う。
違うポジションで、どっちも大事に決まってる。
そこを理解できない女が、簡単に別れるなんて口走るんだ。

園田と付き合って半年。
オレ達はうまくいってるし、これからも問題はない。
根拠のない自信を堂々と掲げて。
オレは勝手に、そう思ってた。














「蒼吾」
リビングで昼食用の弁当をバッグに詰めていたら、後ろから呼び止められた。
一番上の姉貴だ。
黒のサマーワンピースに一連の真珠。
四国のじぃちゃんちで法事があんの、今日だっけ。
「夕飯、冷蔵庫に入れておいたから。カレー。温めて食べてね」
「ああ。さんきゅー」
「明日の朝とお昼は、冷蔵庫にあるもので適当に済ませて。夕方にはもどるから」
「わーった」
「戸締り、ちゃんとしてね。暑いからって、家中の窓、開けっ放しにするんじゃないわよ」
「しねーよ。そんなこと」
主がいねーんだ。
リビングでクーラーつけて、布団持ち込んで、ゲーム三昧だ。



「それと───」
「…まだあんのかよ?」


さっさと行けよ。






「誰もいないからって…ましろちゃんを連れ込んで、変なことするんじゃないわよ?」






「…ぶっ!!っっ!!」




飲んでいた牛乳を思わず吐きそうになって、口を押さえた。
あっぶねー!
危うくユニフォーム、汚すとこだったじゃねーか!
洗濯してっから、これしかねーんだぞ!?
牛乳ってくっさいのに!
姉貴が唐突に変なこと言い出すから!






「あんた…。分かりやすすぎ」


2番目の姉貴、葵が、リビングのソファから顔をしかめて、オレを振り返った。
「留守をいいことにましろちゃんを連れ込んで、やらしーことしようと思ってたでしょ? サイテー。フケツ〜」
「はぁあ?」
そっちこそ。
無駄に胸元の開いたブラウスや、短いスカートは何だよ?
法事だぞ?
TPOを考えろ。

「…何よ?その目は」
「別に」
「言いたいことがあるんなら、ちゃんと言いなさいよ」
いつだって葵はオレに対して喧嘩腰だ。
いちいち神経を逆撫でする。
「葵が法事に顔出すなんて、珍しいよな? 今回、なんかあんの?」
「…別に。久しぶりに四国のおじいちゃん達の顔が見たかっただけ。悪い?」
「へー。物は言い様だな」
「…何よ?」
ピクリ。
整えられた片眉が上がる。
「オレ。知ってんぞ」
「なにを?」
「今回、亘にぃも来るんだろ?」
葵の1つ年上の従兄弟。
男のオレから見ても、ワイルドでカッコイイ亘にぃ。
だからその格好。
女を意識した、無駄に露出の多い服。
そっちの方が下心見え見えで、フケツじゃねーのかよ?





「なによ」
「…んだよ? やる気か?」


「ハイハイハイハイ! 出かける前に喧嘩なんてやめて!」
姉貴が声を張り上げて割って入った。
「だって蒼吾が!」
「そっちが先に吹っかけたんだろ!? 」
「もう! わかったから! いいかげんにして!
葵は荷造り、ちゃんとできたの? さっさとしなさい。それから───蒼吾も。いちいち葵の挑発に、引っかからないで」
キッと鋭い眼光で睨みを利かされる。
鉄拳が飛ぶギリギリのライン。
言い逃げされたみたいで納得いかねーけど、ここは引くしかない。
姉貴に鉄拳喰らわされるのは、ゴメンだ。



「あーあ!」
ドカッと食卓に腰を降ろして、朝食をかけこむ。
葵のお陰で、飯が全然うまくねぇ。
「時間、まだ平気なの?」
「ああ」
ムスっと声だけで返事。
「んだよ? 時間ねーんだから、さっさと行けば? ちゃんと戸締り、やっとくし」
苛立ったオレの態度に姉貴が大きな溜息。
別に姉貴が悪いわけじゃねーけど、喧嘩の度にいちいち仲裁されるとこっちもストレス溜まる。
男女の力の差って言うんだろうけど、言葉の暴力だってあるだろ。




「ねぇ、蒼吾。葵じゃないけど…くれぐれも責任の取れない行動だけは、しないでね」
「責任の取れない行動って何だよ? 」
「それぐらい自分で考えて。子どもじゃないんだから」



「………」



別に。
園田を連れ込んだりしねーよ。
今日、アイツ予備校だし。
門限あるし。
鬼のいぬ間にもうワンステップ───といきたいところだけど。
せいぜい会えても1時間が限度だ。
虚しいから、今晩は涼とゲーム大会だっ。





「それと───お盆前に部活が休みの日があったでしょ? 今日、行けないのならその日にちゃんと、顔を出して」
「オレ…今年、無理だわ。その日、約束あるし」
「うん。でも行ってきて」
「───は?
だから…無理だって言ってるだろ? 前々から約束してんだよ、園田と。普段部活で、なかなか会えないの、知ってるだろ?」
「知ってるわよ。ましろちゃん、会う時間が少なくて寂しがってたから。
普通あれぐらいの年の子なら、もっと時間を作ってとか、わがまま言うのにね。まじめというか、けな気というか。何であんないい子が蒼吾の彼女なのか、わからないわ。もったいない」
ほっとけ!


「でも。チケット、もう取っちゃったのよ。あんたの休みに合わせて」












ハイ?






「勝手なこと、すんなよ!!」


ガタン!
勢いよく立ち上がった拍子に、椅子が派手に倒れた。
床が軽く凹む。
「チケット代、あんたの小遣いから天引きしておいたから」
「はあ!? 何で!? 」
自分らのチケットは家計から出してんだろ。
何でオレだけ!
ていうか、園田と約束してんだ。
行けるかよ!





「オレ。今回だけは、ホント無理だから」
「うん。勝手言ってるのはわかってるんだけど…、もうおじぃちゃん達に言っちゃったのよね。みかん畑、手伝って欲しいから待ってるって」
うえー。
マジで?
「手伝うのは別に構わねぇけど…勝手に人の予定を決めんな。オレ、今回はマジで無理だから。また別の日に行くって、じぃちゃんに謝っといて」


「ましろちゃんが一緒でも、無理?」







へ?







「勝手ついでで悪いんだけど───チケット2枚取ってあるから」














ハイぃッ?






「何、間抜けな顔してんのよ…」



姉貴が目の前にチケットを差し出した。








「往復のフェリーチケット。二枚、用意してるって言ってんの。
四国のおじいちゃん、蒼吾が彼女連れてくるって楽しみにしてる」



「…姉貴…それって───」







園田と公認旅行?


マジで??










うっ…わーー。





「別にましろちゃんじゃなくてもいいわよ?お隣の凪ちゃんとか…」

「…何で日下部なんだよ……」

「断られる可能性だってあるしね。
誰を誘って誰と行くか、それはアンタが決めていい。お節介な詮索はしないし、母さんや葵には内緒にしといてあげる。ただし───無茶なことはしない。未成年が責任の取れないことはしない。それだけは約束して」


四国のじぃちゃんちなら、海も山も近い。
おまけにすげー静かで、自然豊かで、空も青くて。
夏の課題、スケッチ100。
描くのにも全然、困らないんじゃねーのか?
園田。
ぜってー、喜ぶ。



「姉貴。感謝っ!!」
思わず姉貴の手を握り締めた。
「やめなさいって。気持ち悪い…」
本気で嫌そうな顔をした後、姉貴がオレにだけ聞こえるように囁いた。




「アンタ。ましろちゃんのこと、ちゃんと大事にしてるみたいだから。
信じてるわ。蒼吾のこと」




夏はこれからだ。
















自転車にまたがってペダルを勢いよく漕ぎ出す。
今日はペダルが軽い。
足も身体も軽い。
太陽がキラキラ輝いて、空がすっげー青い!
生ぬるい風さえ爽快に感じるオレは、むちゃくちゃ絶好調だーーーーっ!!




花屋の角を曲がったところで、見覚えのあるセーラーと黒髪が見えた。
「くっさかべー!」
大声で呼びかけると、黒髪を翻して見慣れた顔が振り返った。
「蒼吾…。朝から声、でか過ぎ。近所迷惑だよ…」
おはよ、と。
迷惑そうに顔をしかめた後、日下部が笑った。


「お前も部活?」
「うん。午前中だけね。午後からは予備校」
「うへー。ご苦労なことで」
「そっちは午後も部活でしょ?」
「日が暮れるまで。ボールが見えなくなるまでってな」
「そっちの方がご苦労様ね」
気の毒そうに表情を肩をすくめて、綺麗な顔で笑う。

「園田と予備校で会う?」
「たまに、ね。ましろとはクラスが違うから…」
「へー…。あいつ、元気にやってる?」
最近、部活が忙しくて、ろくに会えてない。
ケータイ越しの声だけじゃ、表情まではわかんねぇから。
元気でやってるのか、すげー心配。


「会ってないの?」
「たぶんお前の方が、会ってるよ」
「その割には余裕じゃない? 会えなくて、もっと煮詰まってるのかと思った」
「女々しいこと言うな。別にオレは平気だぜ?」
夏の約束がオレらの絆を強くしてくれる。
それがあるから頑張れる。
オレって単純?






「……何かいいことあったの?」


「…別に」




「ふーん…」



わかったような顔で、日下部がオレを下から見上げる。
…なんだよ?


「顔。にやけてるよ? 」



日下部が笑う。
コイツといい、佐倉といい。
人の心の内を読むのは、やめてくれ。
全部見透かされてるみたいで、すっげえやりにくい。




「うまくいってんだね、ましろと」
「別に。フツーだ」
「普通、ねぇ…」
ニヤニヤわかったような顔。
日下部の表情から、オレらの情報が筒抜けなのが読み取れる。
園田、どこまで話してんだ?



「まぁ、それならよかった。心配することないわね」
日下部に心配されるようなこと、今のオレと園田の間にはねーよ。
オレらの愛は順調だ。

「同じクラスだって聞いた時は心配したんだけど…特に害もないみたいだし。大丈夫よね?」
日下部が安心したように、オレに笑いかけた。









ん?







同じ、クラス?






「……誰と、誰が?」














「……え?」






「え?」









お互い間抜けな顔で数秒。















「…蒼吾───アンタ、聞いてないの?」





苦い顔のまま、日下部がオレを見上げた。



「…その様子じゃ、知らないのね」



すっげー、嫌な予感。








「まぁ…今のところおとなしくしてるみたいだから、大丈夫と思ってのましろの判断だと思うんだけど…」


「だから、なにが!?」


ずいと問い詰めたら、日下部がますます苦い顔をした。









「夏期講習でさ、私らと同じ予備校に来てんのよ。安部が。しかもアイツ……ましろと同じクラスよ」












は?










「はぁああ!? 」






何だよ、それ!!
オレ。
ぜんっぜん! 聞いてねーぞ!?








「おとなしくしてるみたいだから、別にいいんじゃないの?」

「いいわけねーだろっ! 」


「…何、ムキになってんのよ……」


「今はおとなしくしてても、これから先のことはわからねーだろ! だってアイツ───」


「ましろのことが、好きなんでしょ?」









「───なんでそれを…」



「そんなのとっくに知ってるわよ。
幼稚な発想よね。構って欲しくてちょっかい出すなんて。自分で自分の首を絞めてんの、わかってないのかな」
「お前…いつから気づいてたんだよ?」
「最初からに決まってるでしょ? 安部って天邪鬼だから、裏を返せばすごくわかりやすいのよ」
「……」
「ていうか蒼吾、知ってたの?」
「…最近、知った」
「最近って……なんで?」
「戦線布告してきやがったんだ、アイツ」
自分も園田に惚れてるって、今さら。
本気で取りに行くって───こういうことだったのか?

「へー…。安部もやるじゃん」
「やるじゃんって…。お前、どっちの味方してんだよ!?」
「なに動揺してんのよ。今さら安部が出てきたって、ふたりの気持ちがしっかりしてれば、問題ないでしょ?」
「…別に。問題なんてねーよ」
「むちゃくちゃ問題あり、みたいな顔してるけど?」
平気でなんかいられるわけ、ねぇだろ。
園田がまた、泣かされるかもしれねーんだぞ?


「いつ? アイツ、いつ予備校来てんだよ?」
「ましろが出てる日、ほとんどかな。火曜と水曜と金曜…」
水曜って───今日もじゃねえか!
しかも夏休み、園田はオレよりも安部と会ってる!?
2年になってクラスが別れてから、オレだって同じ教室で───なんて、機会がねぇのに!
なんか。
ずるくね?





「…あのさ。すごく言いにくいんだけど…」


「なんだよ? まだあるのか?」






「いつも私が終わるまで、ましろが待っててくれてるんだけどさ…。ましろを迎えに行ったら、いつもアイツも一緒に教室に残ってるのよね。
人を待ってる───なんて言ってたけど…。それってたぶん、都合のいい口実だと思わない?」









…あんにゃろー!





「そういうことはさっさと言えって!」
何、黙認してんだよ!
思わず怒鳴ってしまったことで、日下部の体がビクリと上下した。
表情が一瞬、強張る。



「園田には言うなよ。安部が園田を好きなこと、アイツは知らねぇから」

知らないままの方がいい。
安部の気持ちを知ったからって、園田の気持ちが動くはずはねぇだろうけど。
少なくとも動揺するはずだ。
不安要素は、接触する前に排除する。


「…蒼吾。アンタって…」
「んだよ?」
「結構、独占欲強いんだ」
知らなかった。
へー、って。
面白そうにオレを見んな!
自分の彼女に横やりされて、平気な男なんていねえから!




「じゃ、私。ここから電車だから」
「…おう」
「顔。怖いよ?」
「放っとけ」
「…ましろを泣かせるようなことだけは、しないでね?」
するかよ、そんなこと。
お前は園田の味方でいてやって。
日下部がいれば、園田もオレも心強ぇから。
「じゃーね。安全運転で、学校行きなよ?」
「さっさと行けよ。電車、乗り遅れるぞ」
「うん。じゃあ…またね」



改札口へと消えていく日下部の背中を見送った後、オレは深く溜息をついた。
朝の出来事とじゃあ、天国と地獄だ。
安部なんて眼中にねぇ。
そう言い切ってしまえればいいけれど、そうもいかない。
アイツのことだ。
このままおとなしく引き下がるとは、思えない。
厄介なのは、この夏のポジション。
オレよりも安部のほうが、ずっとずっと園田に近いってこと。









「…ちきしょー!! 」



夏はまだ長い。


オレは暑さを振り切るように、力任せにペダルを漕ぎ出した。















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Comment








最近、見はじめてはまってしまいました。
高校生に戻った頃のとっても、懐かしい気持ちで楽しみに見てます。
安部君ってなんだか家の旦那様みたいだなっと「かわいいヤツ」と思いながら見てます。
from. 2人目妊娠中 | 2009/04/03 18:53 |
*2人目妊娠中さま*
はじめまして。コメントありがとうございます!

わお。
旦那さま、安部っちみたいなのですか!
それはぜひお会いしてみたい(笑)
安部っちに対してはいつも辛口コメントばかりだったので、「かわいいヤツ」だなんて言ってもらえて、きっと安部っち喜びます(笑)
いや、天邪鬼なヤツなので「馬鹿野郎!」かな?
何にせよ新鮮で嬉しかったです。
不器用な奴らですが、これからも暖かく見守っていただけると嬉しく思います。
そしてふたりめ妊娠中の大事なお体、大切にされてくださいね。
from. りくそらた | 2009/04/04 09:19 |
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