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全力少年 20
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安部くんの事情    サイド*ましろ 

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「園田さんって、安部と付き合ってるの───?」


予備校の教室で、他校の女の子に質問された。
グレイのベストに、グリーンチェックのリボンを身に着けた二人組。
常盤大付属の生徒だ。
安部くんと同じ学校なら、本人に訊けばいいのに。



「他校に彼女がいるって噂があるんだけど…その相手って、もしかして園田さん? 授業が終わった後、いつもふたりで残ってるよね?」

二人組の左側。
少し気の強そうな女の子が、私にそう聞いた。
右側にいる子は、控えめでおとなしそうなタイプ。
一歩下がってじっと私の答えを待ってる。

「安部くんって彼女、いたんだ…」
想像したこともなかった。
特定の女の子がいるなんて。
彼女には、やっぱり優しいのかな。
「いたんだ───ってことは…」
「うん。私じゃないよ」
そう告げたら、右側にいた女の子の顔が嬉しそうにほころんだ。
この子…安部くんが好きなんだ。



「じゃあ…どうして安部くんと、いつも一緒にいるの?」
私が彼女じゃないと知って安心したのか、右側にいた女の子がおずおずと口を開いた。
「別に…一緒にってわけじゃないよ。人を待ってた安部くんと、たまたま一緒になっただけで……」
「ふたりはどういう知り合い?」
「小学校が一緒だったの」
「どこ?」
「桜塚小学校」
「小学校時代の安部くんって、どんなだった? 」
「どんなって───」
いじわるで、口が悪くて、いじめっ子だったんだよって。
それは、言わない方がいいよね?
それとも───もっと中身、見た方がいいよって、事実を伝えるべき?
そんなの、大きなお世話だよね。
他人に言われたぐらいで好きでなくなるのなら、そんなの恋じゃない。



「…普通、かな」
「それ。答えになってないから。
何かないの? 付き合ってた子がいるとか、好きな女の子のタイプとか───」
「私。安部くんのことは、よく知らないから…」
「………」
私の言葉に二人が顔を見合わせた。
気の強そうな女の子が、ずいと一歩、前に出た。


「───ねえ。
ほんとに、ほんっとに!安部とは何でもないんだよね? 」
「…うん…。どうして?」
「だってさ、安部が特定の女子とっていうの、学校では見たことないのよ。
男同士ではよくつるんでるけど、女子には興味ないっていうか…」
へえ。
安部くん、学校ではそんな風なんだ。

「なのに。ここでは園田さんと、仲良さそげだし…。安部が特定の女子に構うのって、初めて見た」
「えっと……。私の場合、構うっていうか、からかわれてるっていうか。
ふたりの言う゛特定の女子゛の意味と少し違うと…思う」
「どう違うのよ?」
「どうって……」
なんて云ったらいいんだろう。
うまく言葉で説明できない。
「とにかく…私は安部くんとは、何でもないから」
「じゃあさ。ふたりで残ったりとか、しないでくれる? 彼女じゃないならさ、思わせぶりな態度取るの、やめてよ」
好きでふたりで残ってるんじゃないのに。
そういう関係じゃないって、見てて分からないの?
お互い、意識し合う関係でもないのに。







「…うん…。わかった。気をつける」


喉元まで出掛かった言葉を飲み込んで、私は曖昧に頷いた。
彼女達が欲しいのは、事実がどうかじゃなくて、安部くんに近づかないっていう約束。
事実がどうであれ、安部くんの傍に自分達以外の女の子がいるのが面白くないんでしょう?
だったら。
今、私が何を言っても、きっと言い訳にしか聞こえない。
余計にややこしくなるだけ。



「じゃあさ───この子に協力してやってくれない?」
「協力?」
「安部と何でもないっていうなら、できるでしょ?」
できるかできないか、じゃなくて。
安部くんとはあまり、関わりたくないんだけど…。








「どけ。邪魔」


返事に渋っていたら、視界が大きな物体に遮られた。
割り込んできたのは安部くん。
私の前の席にドサッと荷物を放り投げた後、じろり。
無言で女の子達を睨み付けた。
射抜くような鋭い視線に、彼女達が一瞬、怯む。


「じゃ…じゃあ…、そういうことだから。よろしくね、園田さん」
安部くんの機嫌の悪さを感じ取ったのか。
捨てセリフのような言葉を残して、逃げるように教室を出て行く。
なんだ。
同じクラスじゃなかったんだ。
どうりで見たことがないと思った。
安部くん、想われてるなー。
何気に隣を見上げたら、安部くんとガッチリ視線が合わさった。





「何、あいつら」
「付属の子」
「それぐらい見ればわかる。制服着てんだからさ。お前も余計なこと、ぺらぺらとしゃべってんじゃねえぞ?」
「…余計なことなんて…言ってないよ…」
「ふーん。どうだか」

安部くんの一重の目は、他人に冷たい印象を与える。
その目で深く見つめられたら、背筋がゾクリとなる。


「……なに?」
「俺とお前、付き合ってるように見えてんだなーと思って」
「…聞いてたの? それなら否定してよ。安部くんと同じ学校の人でしょ?」
私は関係ないのに。
「面倒くせえ」
「でも……誤解されてるよ?」
「したいヤツには、勝手にさせとけばいーんだよ」
「やだよ、そんなの…」
安部くんの彼女なんかじゃないのに。



「……そんなことより。課題、見せろよ」
荷物を手早く片付けて安部くんが手を突き出して催促。
「また? 学校の授業じゃないんだから、ちゃんと自分でやってこないと、予備校に来る意味がないよ」
「部活が忙しくてやる暇なかったんだよ。
それに───勉強できなくても、ここに来る意味が俺にはあるから、いいんだよ」
「意味?」
「……お前はわかんなくていい。関係ねえし。つか。ぐだぐだ言ってないでさっさと貸せって! 時間ねえだろ!?」
声を荒げて、安部くんが私の手からノートを奪い取った。
上から目線、俺様的な性格は相変わらず健在。
昔からちっとも変わらないなあ。
「ちっこい字だな、お前の字。性格出てるよ。小さすぎて、すげー読みにくい! もっとわかりやすく書けよ」
「文句いうなら返してよ…」
「うっせえ。俺に指図すんな。園田のくせに」
しかめっ面のまま振り返って、私の頭を指で弾く。
痛いなぁ、もう。








「今日も残るの? 」
講義を終えて荷物の片づけをしていた安部くんの背中に声を掛ける。
「そっちは? 今日、水曜だろ」
水曜日は凪ちゃんのクラスと1時間差で講義が終わる日。
いつも教室で課題を解くか読書をしながら、凪ちゃんが終わるのを待って、一緒に帰るんだけど───。

「今日は…下のコンビニで、時間潰してこよっかな…」
「なんで? いつもみたいに、ここで待てばいーじゃん」
「…う…ん…」
そうなんだけど…。


人の色恋沙汰に首を突っ込むと、ろくなことがない。
今朝のふたりの約束を守る義務も義理もないんだけど…何だか、ね。
関係ないのに、ごたごたに巻き込まれるのはイヤだ。
安部くん絡みならなおさら。






「今日はやっぱり、下に行って───」
「園田」
荷物を持ち上げたタイミングで言葉を遮られた。
一重の鋭い目が、見透かすように私を見つめてくる。



「さっきの。うちのガッコの女。あいつらに何か云われた? 」
「何かって……」
「俺に近づくな、とか───」
「………」
「…図星、か」
ガシガシと苛立った表情で頭をかいて、安部くんが深く溜息をついた。
「あの二人とは、友達なの?」
「友達なんかじゃねえよ。同じガッコなだけだ。他に、なんか聞かれた?」
「私が…安部くんの彼女なのかって…」
「なんて答えたんだよ」
「違うって答えたに決まってるでしょ」
「………」




安部くんが困ったような表情で、こめかみを指先で撫でる。
ふと。
何かを思いついたような表情で顔を上げて、私をじっと見つめた。
なに、その顔は。
何か良くないことを企んでるでしょ?










「なあ、園田」
「やだ」
「俺、まだ何も言ってねえんだけど」
「だって…。絶対ろくでもないことなんだもん」
「勝手に決め付けんな」
ムッと不機嫌に顔を歪める。
「なあ…」
「…聞きたくない…」
そっぽを向いて、両手で耳を塞ぐ。
「いいから。聞くだけ聞けよ!」
安部くんが私の両手を掴んで、耳から外す。
怒鳴り声がすぐ間近で聞こえて、鼓膜の奥がキーンってなった。
手を振りほどこうとしたけれど、びくともしない。
それどころか。
ますますその手に力が入る。
骨ばった指が手首に食込んだ。
痛い。





「お前さ──ここでは俺の彼女ってことにしててくれない?」





やっぱり。
そんなことだろうと思った。



「…冗談言わないで。無理だから」
「即答してんなよ」
「だって……」
嘘でもやだよ。
蒼吾くん以外がカレシだなんて。

「ふりでいーから」
「ふりでもやだ」
「なあ。頼むって! あいつ等の前だけでいいからさ」
「やだってば…」
大きく首を横に振って、頑なにそれを拒み続けた。
ちゃんと拒否しなきゃ、強引に押し切られちゃう。





「今日だけでいいからさ」
「イヤだ」
「話を合わせるだけでいーから。な?」
「…ぜったい、嫌…!」


「………」





「………」









「お前……変なところで頑固だな!」





私の頑なな態度に苛立った安部くんが、声を荒げた。
たとえそれがフリだけでも、嘘はつきたくない。
そこは譲れないから。
安部くんが射抜くような視線で、強く私を睨みつける。
そんな顔したって、ダメなものはダメだから。






「お前…ちょっと変わったな。昔はもっとおどおどしてて、もっと扱いやすかったのに」
「…回りくどいことしないで、あの人たちに、はっきり言えばいいでしょ?」
「言ったさ。言ったけど……これだ。ずっとしつこく付きまとわれて、迷惑してんだよ!」
「それならなおさら。私が彼女のふりをしたって、すぐにばれちゃうよ」
「その時はその時で、また考える」


本当に迷惑してる顔。
困ってるのはわかるけど、それでもやっぱり───。













「…私には無理だから……」




ごめんね。他を当たって。
















「…わーったよ」



大きな溜息と同時に、するりと手首を離された。
よかった。
諦めてくれたんだ。
そう思ってた矢先───。
安部くんの視線が私を通り越して、廊下へと泳いだ。
何か、を認識して口を開く。















「もう、お前には頼まねえ。俺が、自分で何とかする───」







言葉の意味をよく理解できないままに、腕をがっしりと掴まれた。
そのまま強引に引き寄せられたかと思うと、安部くんが私を腕に抱きしめた。
身じろぎ一つできない力強さで、腕の中に閉じ込める。
少しでも抵抗をしようとすると力が加わって、満足に息もできない。
苦しい。
「ぐ…っ」
後頭部を押さえ込こまれて、上げようとした声が安部くんの肩で抑えられてくぐもった。
声が出ない。
息苦しい。
蒼吾くんとは違う匂いに、全身が粟立った。













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