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全力少年 24
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渇望 3   サイド*ましろ*蒼吾 

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「ましろー? 帰ったのー? 」
玄関を開けるとリビングからママの声がした。
「凪ちゃんから電話があったわよー?ましろの携帯が繋がらないってー」
携帯には着信履歴とメールが数件。
全部、凪ちゃんからのものだった。
約束してたのに、勝手に帰っちゃったから…。
「夏木くんと一緒だったの? ちゃんと連絡しなきゃ、ダメよー」
ジュっと何かを炒める音が聞こえてくる。
幸いにもママは手が離せないらしい。
「夕飯はどうする? 先に食べるー? 」
「…いらない」
食べてきたの?って尋ねるママの声に聞こえないフリをして、バスルームに入って鍵を閉めた。
制服を脱ぎ捨てて中へ駆け込むと、シャワーのコックをめいいっぱい回して、頭から水を被った。
勢いよく噴き出す水が、まだ熱の引かない身体を一気に冷ます。
鏡に映った自分の姿が視界に入って、心臓がドクリと脈打った。
胸や脇腹についたキスマーク、強く握られて赤くなった手首。
目は腫れぼったく、鼻はトナカイのように真っ赤だった。
おまけに、唇の端が切れてる。
キスのときに抵抗したから、蒼吾くんの歯が当たったんだ。
私の身体は蒼吾くんにされたことをリアルに覚えていて、思い出すとひどく疼いた。

──────蒼吾くん。
私の知らない男の人の顔、してた。
いつも優しく触れる手が迷いも躊躇なく服を剥いで、身体に触れて。
食べられる──────って、錯覚しそうなぐらい、すべてが激しく濃いものだった。
優しく見守ってくれているいつもの蒼吾くんとは違う。
キスも。触れてくる指先も。強く抱きしめてくれる腕も。
加減がなくて、怖かった。
くったくなく笑う゛同級生の蒼吾くん゛じゃない。
男の人だった。
手加減なしだとああなんだ。
日頃、どれだけ大事にされているのか、私に合わせてくれているのか、ひどく痛感した。
首筋に、耳にかかる息の熱さ。
私の身体を這う、指や舌の感触。声。
全部、全部、覚えてる。
蒼吾くんの心の声が痛いほどに伝わってきた。
私が追い詰めた。
私がちゃんと、気づいてあげられなかったから……。





「…ひっ………ッ…」




自分の鈍さに嫌気がさす。
いつだって私は蒼吾くんを傷つけてからそのことに気づく。
蒼吾くんの優しさに甘えて、頼りきって、極限まで追い詰めて。
気持ちを汲んであげられなかった自分が情けなくて、歯痒くて、もどかしくて堪らない。
涙が次から次へと溢れて溢れて、止まらなくなった。
優しく緩む眼差しも、頭を撫でてくれる大きな手も。
私の全部を包み込んでくれる逞しい腕も、安心できる体温も。
全部、全部。
失くしてしまった。
私が、蒼吾くんの気持ちに気づいてあげられなかったから──────。


「う…っく………っ」

蒼吾くんが残した痕が鮮やかに身体に残る。
身体の芯がうずいて、熱くなる。
涙が溢れて溢れて、どうしようもなかった。





シャワーにしては少し長い時間浴びて、肌の露出が少なめのルームワンピを身に纏う。
これだとキスの痕がわからない。
鏡に映る自分の姿を確認してから、バスルームを出たところで、ママに呼び止められた。
「ましろー。ちょっといらっしゃい」
「………なに…?」
何だか後ろめたい気がして、まともに目が合わせられない。
「ちょうど、出来上がったところなのよ。袖、通してみる?」
呼ばれるままに向かった和室のテーブルの上に、浴衣がきちんと折りたたまれて置かれてあった。
今年、買ってもらったばかりの新しい浴衣。
──────これ、すげえカワイイ! 園田に絶対似合う!
私が見てたファッション雑誌を覗き込んで、蒼吾くんが嬉しそうに笑った。
この浴衣に袖を通して一緒に歩くのを楽しみにしてたのに……。


「……また今度でいい」
「またって……もう、来週なのよ? もし、まだ大きいようなら直さなきゃいけないし。シャワーの後だから、ちょうど──────」
「いいの!」






「……ましろ?」





「……あ。……ゴメン。今日、テストがいっぱいあって…、疲れたの……。またにしてもいいかな…?」
「それはいいけど……大丈夫? 顔色があまりよくないけど…」
「平気だから、心配しないで」




精一杯の笑顔で誤魔化して、逃げるように階段を駆け上がった。
バタン! と大きな音をさせて扉を閉めたら、その場にずるずると座り込んだ。
机の上に置いたカレンダーが目に入る。
8月のページにふたつのしるし。
ひとつは縁日の約束。





もうひとつは──────。








「……蒼吾くん、もうすぐ誕生日だ……」






声に出したら、涙が溢れた。
一度、溢れ出したらそれは止まらなくなって。
うずくまる様にして、私は、ひたすらに泣いた。




初めての夏休み。
初めての誕生日。
たくさんの初めてをひとつづつ思い出に変えて、大事に大事にふたりで歩んでいくんだって、ずっと思い描いてた。
蒼吾くんが傍にいない。
ただそれだけで、胸を締め付けるような寂しさが波のように押し寄せてくる。
それに耐え切れなくなって、握り締めていた携帯をパチンと開く。
何度もかけた番号は、何度コールしても繋がることはなく、呼び出し音だけが受話器の向こうから聞こえてくる。
その無機質な音に、ますます寂しくなって涙が溢れた。
蒼吾くんが出ないのはわかってた。
自分からそうするって決めたのだから、中途半端なことはしない。
いつだってストレートで、感情が真っ直ぐな人だから……。
そういう人だってわかってるからこそ、どうすればいいのかわからない。
会いに行ったって会ってくれない。
愛想付かされたんだ。





「う…っ、く……ッ」




蒼吾くんのいない夏は色褪せて見えて。
会えないこれからの夏をどうやり過ごせばいいのか、わかんない。
















ポケットの中で携帯が震えてるのに気付いた。
土手沿いの道を人がいないのをいいことに、がむしゃらに突っ走ってたオレは、自転車を漕ぐのをやめて、サドルにまたがったままポケットを探った。
「………」
液晶に表示された「園田」の二文字。
見なかったふりをして、そのままポケットに突っ込んだ。
ケータイの向こうで泣いてる園田の姿は容易に想像できた。
きっと、顔をくしゃくしゃにして子どもみたいに泣いてんだ。
オレが泣かせた。
カッとなって、自分見失って。
園田のこと、無理矢理思い通りにしようとして傷つけた。
何やってんだ、オレ。
一番、大事にしたい子に──────。





「…ち、きしょー……っ!」




園田がオレのこと、受け入れてくれる準備をしてたのは知ってる。
なのに感情だけで突っ走って、園田のこと傷つけて。
気持ち、踏みにじって。
サイテーだ、オレ。
安部の腕の中に園田がいるのを見て、頭に血が上った。
心の中でぐるぐるとわだかまっていたものをうまく言葉にできずに、園田にぶつけた。
わかってんだよ、頭では。
園田は悪くない。
勝手に安部がやっただけ。
でも、心がついてかなかった。
オレ以外の男に触れさせんな。
ただひと言、そう伝えればよかったのに。



ポケットで震えていた携帯がぴたりと止まった。
オレと園田を繋ぐ物がなくなった気がして、ますます虚しさが漂う。
距離を置くって、さっき決めたばかりなのに、もう心が弱ってる。
こんなんでやっていけんのか、オレ。
焦りと苛立ちを振り切るように乱暴に頭を掻いた。
しばらくして、また。
携帯が震えて、メールが入ったことを知らせる。
液晶に映ったのは園田からの「ゴメンナサイ」の文字。





オレはそのまま、返事はしなかった。







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