http://miimama.jugem.jp/

スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

- - -
全力少年 26
*******************************************

ウラハラ 1   サイド*ましろ 

*******************************************


ふと、顔を上げたら鳥居が見えた。
長い長い石段を登った先にある大きな鳥居。
ざっと数えても100段以上はある。
普通に登っても大変なのに、浴衣に下駄の格好じゃあ、苦戦するのは間違いない。
溜息を零したら携帯が鳴った。


「もしもし──────?」


『ましろ?』


ママだ。




「どうだった?」
『大丈夫。火、ちゃんと消してた』
「…よかったぁー」
安堵に胸を撫で下ろす。
『今ちょうどパパが帰ってきたから、夕飯してからじゃないと出掛けられないのだけど…ひとりで平気?』
「大丈夫。もう子どもじゃないんだから。パパの夕飯、してあげて」
『何かあったら連絡するのよ?』
「うん。ありがとう」


できるだけ明るい声で電話を切って、携帯を懐にしまう。
せっかく浴衣を新調したのだからといって。
元気のない私をママが縁日に連れ出してくれた。
部活の日以外、ずっと部屋に篭りっきりだったから…。
あまり気は乗らなかったけれど、これ以上は心配をかけたくなくて。
ママは途中、お鍋の火を消したかどうか不安になって引き返したのだ。
火事にならなくてよかった。


目的もなく屋台の間を抜けたら、大きな鳥居のある石段に辿りついた。
お宮は遥か遠く。
あまりの人と石段の多さに、引き返してしまおかと考えてしまう。
「…参拝もしないで帰るのは、罰当たりだよね…」
住吉神社は縁結びの神様としても有名どころ。
こんな時だもの。
神様にもすがりたい。
「よし」
気合を入れて、長く続く石段への第一歩を踏み出した。
そのタイミングで、また携帯が震える。
ママかな?
懐から取り出して、パクンと折り曲げた携帯を開こうとした時だった。

ドン!と。
人波に背中を押された。
人の行き来の激しい石段の入り口で、ぼんやり携帯を開けてしまった私が悪い。
「あっ!」
声を上げたと同時。
携帯は私の手を離れて、宙に舞った。
足元なんて見てない浮かれた参拝客に蹴られて、はじかれて。
あっという間に、携帯の行方を見失ってしまう。



「ちょ…っ! すみません! ゴメンナサイ…!」




人波をかき分けてその場にしゃがみ込む。
姿勢を低くして探しても、携帯は見つからない。



「…っ。どうしよう……。きゃ…ッ」

「にやってんだよ! んなところで座ってんな!」


手を踏まれて、浴衣の裾を踏んでつんのめる。
転ばないように力いっぱい踏ん張ったら、そのタイミングで鼻緒が切れた。
ズサッと地面の乾いた音がして、私はまるで小学生がかけっこで転んだみたいに、その場に無様な姿をさらけ出してしまった。
「なに、あの子。大丈夫?」
「可哀想ー」
冷たい視線が一気に私に浴びせられる。
同情の声を上げても、手を差し伸べてくれる優しい人は、誰もいない。
みんな自分のことに精一杯だ。
新しい浴衣は砂だらけで、おまけに鼻緒も切れて。
靴で踏まれた手の甲と、地面についた膝小僧から血が滲む。
惨めだ。
声を上げて泣きたかった。
賑やかな人波がますます私を心細くさせる。





「──────園田」


硬質で低音な声が鼓膜を揺らした。
聞き覚えのあるその声に、ドキリと鼓動が跳ねて、声の主を探す。
少し離れた石段の入り口に、知ってる顔が見えて。
ガッチリ視線が合わさった。






「お前──────なにやってんだよ…」




黒いTシャツ姿に短パン、ナイキのスポーツサンダル。
神社の入り口で配っていたうちわをパタパタと扇ぎながら、私を見下ろしていたのは安部くん。
知った顔に一瞬、安堵して涙が浮かぶ。

「…携帯……落としちゃって……」
「どこで?」
「石段の入り口。探したんだけど…見つからなくて……」
「………」

つかつかと無言で歩み寄ってきた安部くんが、私の腕を掴んだ。
そのまま身体を引っ張り上げて、立たせる。
「てか、お前。邪魔。んなところに座り込むな! 移動すんぞ」
「でも、携帯が──────」
「んなの後だ」
有無を言わさず、掴んだ手を引っ張った。


「待って!」
引っ張られた拍子に下駄が脱げた。
浴衣の裾を気にしながら、それを拾い上げる。


「…足、どうかしたのか?」
「転んだときに、鼻緒が切れちゃって……」
「……貸してみろ」
安部くんが私の手から下駄を取り上げた。
眉根をキュッと寄せて難しい顔。



「これ、いつから履いてるヤツだよ……」
「…20年ぐらい前……かなぁ」
「はああ?」
「お母さんが、昔履いてたものだから…もう、かなり古いの」


ママとパパの出会いのきっかけになった思い出の下駄。
ましろにもいいこと運んでくれるといいわねって、譲ってもらった。
結果、こんなことになっちゃったけれど。
ロマンスのご利益は一度きりなのかもしれない。


「履けよ」
安部くんがサンダルを突きつけた。
さっきまで履いていた黒いナイキのサンダル。
「下駄。後で直してやるから。それまでとりあえず履いとけ」
ぶっきら棒に私に突き付ける。
「いいよ…。借りたら、安部くんが困る……」
「いいから。いくら俺だって、女を裸足で歩かせるほど鬼じゃねえ」
「…でも……」
「ぐだぐだ云うな。さっさと履け!」
「………」
「……お前って──────蒼吾や日下部には素直なクセに、俺相手だと頑固だな。そんなに俺に頼んの嫌かよ?」
だって。
安部くんに何かをしてもらうと、倍の要求をされそうなんだもん。



「もういい」


パン!
サンダルを投げつけた地面に、砂埃が舞う。
不機嫌な顔でそれをまた履いて、そのまま無言で近づいてきたかと思うと。
「きゃあ……ッ」
荷物を担ぐみたいにして、私を肩に抱き上げた。
「あ、安部く…んッ!? ちょっ、やだ……っ! 降ろして──────!!」
すれ違う人がみんな見上げてく。
こんなところでいちゃつくな、バカップル。
そういう呆れた視線だ。
恥ずかしくなって私は足をじたばたとバタつかせた。
「安部くん! やめてよ──────!」
「仕方ねーだろ? 俺のサンダル、履けないつーんだから」
「でも…借りたら、安部くんが困る…だから……」
「なら、じっとしとけ。バタバタすんな! 重い!!」
やだ。やだ。
こんなところ、誰かに見られたりしたら。
地元のお祭りだもん。
どこで知り合いが見てるかわからない。
もしまた、蒼吾くんに誤解されたりしたら──────。


「履く! 履きます!! だから降ろして…ッ」

数メートル歩いてぴたり。
安部くんが歩みを止めた。
肩に担いだ私をその場に降ろすと、また右足のサンダルを脱いで私に突き付けた。


「最初から素直にそうしろよ。手間かけんな!」
「……ごめん…」
「ゴメンじゃねーつってるだろ。学習しろ!」



「……ありがとう…」


言葉の使い方、間違えんな。
安部くんが言った。
こういうときは、ありがとうなんだって、教えてくれたから。


「……場所、移すぞ。ついて来い」

人混みをかき分けて、ぐんぐん進む。
その背中を見失わないように、少し距離を置いて安部くんを追いかけた。
浴衣の裾を気にしながらの小走りは苦戦する。
おまけに片足は下駄、もう片方はぶかぶかのサンダル。
安部くんを見失わないようにするのが、精一杯だ。
「きゃ…ッ」
人波にドンと押され、身体がはじき出された。
転びそうになった私の腕を安部くんが掴む。
前のめりになりつつも、無様な格好をさらけ出すのは免れた。

「…っぶね。──────どこ見て歩いてんだよ!」
「あ、安部くん! やめて…!」
「あいつ等、前見てねえから!」
あからさまに相手を睨みつけた後、私に向き直った安部くんが一喝。
「……お前も! 離れすぎなんだよ!」
だって。
変な誤解されるのはイヤだから…。


「それ。貸せよ。持ってやるから」
私の手から鼻緒の切れた下駄を奪い取った。
「お前どんくせーから、また人にぶつかってケータイみたいに落とす」
「もうやらないよ…」
同じ間違えは二度と。
「どうだか。…俺のサンダル、終わったらちゃんと返せよ?」
「云われなくても返すよ、ちゃんと…」
「そういうこと、ゆってんじゃねーよ。サンダル履いたまま、勝手にいなくなんなってこと! お前、都合悪くなるとすぐ逃げっから」
「………」
そんなことしない──────とは言い切れない。



「とにかく。ちゃんとついて来い。離れんな!」



言いよどんだ私に、ほらみろと悪態ついて、安部くんが顎をしゃくって行き先を促した。







←BACK / NEXT→

TOP / 魔法のコトバ*目次


にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へにほんブログ村


(Webコンテンツは魔法のコトバ*単作品のランキングです)





全力少年(魔法のコトバ* 続編) comments(2) -
スポンサーサイト
- - -
Comment








おおっと。安部君、登場ですか!
彼はとっても不器用なので・・・その不器用さを少しでもましろちゃんにわかってもらえるとうれしいかなと思って読んでます。
不器用さが旦那様に似ているので(^0^)更新楽しみにしています。
from. 2人目妊娠中 | 2009/07/04 16:24 |
*2人目妊娠中さんへ*
安部っち登場です。
この回、『ウラハラ』はずーっと書きたかったシーンなのです。たぶん安部っちの不器用さ全開の話になるかと…。
展開にドキドキしていただけると嬉しいです。
from. りくそらた | 2009/07/04 21:26 |
<< NEW | TOP | OLD>>