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全力少年 27
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ウラハラ 2   サイド*ましろ 

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人混みを割って、立ち並ぶ屋台の裏に出た。
座るのにちょうどいい石を見つけて、安部くんが腰を降ろす。
浴衣の裾を気にしながら、私もその隣に腰掛けた。
安部くんが手にしていた下駄に視線を落とす。
顔を上げるとライトに照らされた鳥居がちょうど真上に見えた。



「お前、ひとりで来たの?」
視線を落としたまま、安部くんが聞いた。
「お母さんと来てたんだけど……用ができて先に帰ったの」
「蒼吾は?」
「………知らない」



あれから、何度も何度も電話した。
メールだって送った。
だけど。
蒼吾くんは私からの連絡には、一切出ようとしない。
しばらく距離を置こうって云われたのだから当然だ。
一度だけ、意を決して学校まで会いに行ったけれど、結局何もできなかった。
さすがに部活中に押しかけられないし。
自分の弱さが嫌になる。
蒼吾くんはまだ怒ってる。
きっと、呆れられたんだ。


「俺のせい?」


私は静かに首を横に振る。
きっかけは安部くんだったかもしれないけれど、そうじゃない。
私の鈍さと、臆病な心が、いつも蒼吾くんを傷つける。
ふーんと鼻を鳴らして、安部くんが手元から顔を上げた。


「なあ。お前、何で蒼吾と付き合ってんの? あの事件で蒼吾のこと、嫌いになったんじゃねえの?」


再会した当初を思い出す。
過去のトラウマのせいで、最初は蒼吾くんと向き合うのが怖かった。
怖くて、辛くて。
向き合うことを避けて、ずっと逃げてた。
そんな臆病な私に、蒼吾くんは体当たりで気持ちをぶつけてきた。
小手先や駆け引きなんてしない。
いつでもストレートに真っ直ぐぶつかってくる蒼吾くんの存在は、私の心に刻み込まれて。
一気に気持ちが動いた。
付き合うようになってからの蒼吾くんは、いつだって私の気持ちを優先してくれた。
真綿に包まれているようなぬくもりと優しさに甘えきって、過信していたのは私。
ずっと大丈夫───だって。


気がついたら涙が頬を伝ってることに気づいた。
パタパタと頬を流れ落ちる雫が浴衣に染みを作る。
「……泣くな。ウザイから」
「うん……ごめ…」
「拭けよ」
安部くんがタオルを差し出した。
「いーから使えって。俺が泣かしたみたいだろ」
首を横に振って断る私の手に、有無を言わさず握らせる。
「……ありがと……」
安部くんの匂いがした。
蒼吾くんとは違うその匂いに、私はますます悲しくなって顔をうずめて泣いた。
私がめそめそしている間、安部くんはひと言もしゃべらず、鼻緒を直すのに集中していた。
鼻緒が直っても、何も言わずに側にいてくれる。
あの安部くんに同情されるぐらい、自分の状態のひどさを思い知る。
ダメだ。
これ以上、迷惑かけちゃいけない。
そう思ったら涙が止まった。



「…ゴメン……」
「いいよ。別に。お前がめそめそすんの、今に始まったことじゃねえから。
できたぞ。とりあえずの応急処置だけど───履けよ。肩、貸してやるから」
安部くんが下駄を差し出した。
「どうよ?」
少しきつくて親指の付け根が痛い気もするけれど、ちゃんと歩ける。
「うん…。大丈夫みたい。ありがと───う…」
すぐ傍に安部くんの顔がある。
目線が同じで、声も近い。
私は慌てて肩から手を放した。

「なんだよ?」
「あ……うん。なんでも……」

鋭い視線と間近で目が合って、緊張で身体が固くなる。
安部くんが腰を上げた。
「ケータイ、探しにもどるぞ。もう手遅れかもしれねえけど」
「…手遅れ?」
「拾われたか、踏まれて割れて使い物にならないか。その可能性、大だろ」
「………」

「園田。ケー番、教えろ」
「え」
やだよ。
「悪用したりしねーから」
「………」
「お前の携帯、鳴らすんだよ! 早くしろ!」
一喝されて、ビクリと身体が震えた。
「こういう時は、闇雲に探し回ったってダメなんだよ。頭、使え!」
苦い顔で安部くんがポケットから携帯を取り出した。


「あ…」
「なんだよ?」

「携帯。私と一緒……」




「───マジで?」



「うん…」



「ラッキー」





「───え?」



言葉の意味が分からず、ぼんやりと聞き返した私に向かって。
安部くんがニッと笑う。
「お前も虹色ケータイってことだろ? 着信時に虹色に光る設定にしてんのか?」
「うん……」
「じゃあ、探しやすい」
安部くんが、さっき私から聞きだしたばかりの番号をプッシュ。
「お前もしゃがめって。突っ立ったままじゃ、見つからないだろ?
拾われてないなら、足元だ───」
くん、と浴衣の袖を引かれて、ペタンのその場に座り込む形で腰を降ろす。
安部くんが肘で小突いて合図した。


「繋がったぞ。目ぇ凝らせ」


花火の打ち上げ時間を間近に控え、一段と人の数が増えてる。
太鼓の音と賑やかな歓声にかき消され、小さな着信音は聞こえるはずもない。
頼りになるのは光だけだ。


「光ったか?」
「ううん……」
「ちゃんと探してんのか?」
「探してるよ」


足元なんて無理だよ。
紛失届を提出して、出てくるのを待つ方が早いんじゃないのかな。
そう思った時だった。
視線の隅にチカリと、何かが光ったように見えた。
「あ…」
金魚すくいの屋台のすぐ側。
虹色の光がチカチカと反射するのが視界に映る。


「安部くん! あった! あそこ───」




指差したと同時。
私が腰を上げるよりも早く、安部くんが駆け出した。
人の波をかき分けて、屋台に辿りついて、携帯を拾い上げる。
私にも見えるように大きく空に翳してみせた。

「これかっ!?」


砂まみれで傷だらけだけれど、確かに私の携帯だった。
「うんっ!」
私は大きくうなづいた。

「でかしたなっ!」

携帯を手に戻ってきた安部くんが、屈託なく笑った。
その笑顔に目を丸くして見入ってしまう。


「……なに?」
「あ……うん……。ありがとう」
「なんだよ? 云いたいことがあんなら、さっさと言え。黙んな!」



「…安部くんも…そうやって、笑うことあるんだなーっと思って……」
「ああ?」


「───イタッ…! 痛いよ…ッ」

安部くんがコメカミに拳を押し付けた。
思いっきり怖い顔を近づけて、左右から力を込めてグリグリ。

「失礼だろ! お前!!」
「だって……。安部くん、いつも怒ってるか難しい顔、してるから───」
「…るせー!」

ふくれっ面をますます険しく歪めて、拳に力を込めた。
痛い。
本当に痛いよ、安部くん。


「ったく…お前は。俺の事を何だと思ってんだよ!」
女の子相手にこういうこと、する人でしょう?
そう云ったら、また怒鳴られた。
「俺は普通に優しいし、嬉しかったら笑う。人を鉄仮面みたいに云うな! 」
そっか。
喜怒哀楽の怒の部分ばかりしか見えてなかったけれど、嬉しかったらちゃんと笑うんだ。
最近の安部くんは、私が怖がらなければちゃんと話してくれる。
狭い視野の中で、私は安部くんのほんの一部分しか見えてなかった。
いつだって安部くんは、私に怒ってばかりだったから…。
そういえば。
「昔の安部くんは普通だったよね?」
「はあ? ……お前なぁ…人をフツーじゃねえみたいな言い方ばっかしやがって!」
「ご、ゴメン…。そうじゃなくて……」
いじめっ子の印象が強烈すぎて、はっきりとは覚えていないけど。
それ以前の安部くんは優しかった。
他の女の子達と同じように接してくれてた気がする。


「…ねえ、安部くん」
「ああ?」
「私……安部くんに何か嫌なことしたのかな?」
「は?」
「どうして私、きらわれちゃったの?」



いじめが始まったは、4年生になってからだ。





「……お前のそういうところがムカつくんだよ」
「そういうところって?」
「そんなの自分で考えろ」

「……ちゃんと言ってくれなきゃ、わかんないよ……」


肝心なところはいつもはぐらかす。
素直じゃないのは知ってる。
ちゃんと安部くんの口から聞きたいのに。


「……今さらそんな話、してもしょうがねえだろ。もう終わってんだ。今さらむしかえすな」
「今だからだよ」
少し強くなれた。
自分に自信がもてるようになった。
今だから、目をそらさずに受け止められる。
ちゃんと自分のダメな部分と向き合える気がするから…。


「……てか、ケータイ。壊れてねえか、確認してみろ」

うまくはぐらかされた。
「早くしろって!」
これ以上、深く入り込むと本気で怒らせそうな空気をぴりぴり感じる。
私は仕方なく、手元の携帯に視線を落とした。











「え?」






ドクンと鼓動が跳ねた。









「なんで…? どうし、て───」





液晶に映し出された文字が信じられなくて、何度も目を擦る。







「どした?」












着信が入ってた。
5件───どれも蒼吾くんからだ。





瞬間、ケータイが鳴った。
震える手で、私は携帯を耳元に当てる。





『園田───?』



その声を聞くのは10日ぶりだった。



「……そーご───くん…」



声が震える。


『よかった。やっと繋がった。お前、とってくれないから…もう駄目なのかと思った』
「どうして……」

『オレ───ダメなんだ。園田がいねぇと。自分の半分、死んだみたいになって、何やっても楽しくねえ。生きた心地、しねぇよ。自分から距離置こうって云ったクセに……。
だから───電話した。園田に会いたくて。ちゃんと会って、謝らせて───』


涙を堪えて唇を噛締めた。
そうでもしないと嗚咽が零れてしまう。



『園田? ちゃんと聞いてる?』
「ん…」



『……また、泣いてんだろ?』



蒼吾くんは何でもお見通しだ。




「蒼吾くん、私…わたし───」




思考回路がぐちゃぐちゃで、うまく言葉にならない。
気持ちだけが先走る。



『とにかく会おう。電話じゃ、ダメだ。ちゃんと顔見て話そう』


伝えたいことがたくさんある。
電話の声だけじゃ足りない。
満たされない。




ドン!と。
お腹の底から震えるような音が、聞こえた。
花火の開始を告げるアナウンスが流れて、第一発目が夏の夜空に打ちあがる。
色鮮やかな花が夜空に咲いて、周囲からわっと歓声が上がる。
花火が夏の夜を弾く。




「……蒼吾…くん…? 今、どこにいるの…?」


同じ音が聞こえた。
携帯の向こう側からも。




『神社にいる。園田を見かけたって部の先輩に聞いて……。
お前のこと、ずっと探してた───』




携帯の向こうがざわめくのは、同じ場所にいるから。
話す声がいつもより荒いのは、ずっと走っているからだ。
胸が苦しい。
早く、早く。
蒼吾くんに会いたい。




『何か目印になるものないか? オレは境内にいる。鳥居のすぐ真下───』


とっさに空を仰いだ。
青白いライトに照らされた真っ赤な鳥居。
ぼやっとした提灯の明かりとあまりの人の多さとで、蒼吾くんは見つけられない。




「ここから鳥居が見えるよ。私…蒼吾くんの真下だ…」
『真下?』
「うん。石段の入り口…」


『──────いた』


「…すごい。私、わかんないのに……」


視力は悪い方じゃない。
けれどこの距離と人の多さでは無理だ。


『園田だけは、どんなに遠くからでも見つける自信あるよ、オレ。どんだけ片思いしてたと思ってんだよ? なめんな』
ケータイの向こう側。
蒼吾くんが笑ったのが分かった。
私もわかるよ。
蒼吾くんが今、どんな表情をしてるか。
声を聞いただけで、想像できるんだよ?
太陽みたいに明るくでっかい笑顔、もっと見たい。
もっと近くで。
ずっとずっと、見ていたい。



『オレ。行くから、動くな。そこで待ってろ』
「うん」
『ケータイ、切んなよ?』
「うん───。蒼吾くん…」
『なに?』


「私──────」






───ずっとずっと、会いたかった。





そう告げようとした言葉が、突然、遮られた。
携帯が耳元から奪われたからだ。







「…あべ……、くん……? 」



この人の存在を忘れてた。
私の手をきつく握り締めて、きつく睨みつける。
ドクリと鼓動が嫌な音を立てて跳ねた。
…な、に……?
さっきまで楽しく笑ってくれてたのに。
どうして怒ってるの?








「──────言えばお前、どうにかしてくれんのかよ?」



言葉の意味がよくわからなかった。





突然、ガッと私の方へ伸ばされた手に腕の付け根を強く握られた。
「イタ…ッ」
その拍子に、携帯が地面へと滑り落ちる。
『園田───?』
蒼吾くんの声が途切れた。
拾おうとしても、安部くんはそれを許してくれない。






「──────ちゃんと言えばお前…俺の気持ち、受け止めてくれんのかよ?」





「なに……、言ってんのか…、わかんない、よ……」







「……やっぱお前、すげぇムカつく──────」






怒ったように安部くんが言葉を吐き捨てたあと、一瞬で、目の前が真っ暗になった。
安部くんの顔が覆いかぶさって、視界がふさがれたから。




突然。
なんの前触れもなく、キスされた。



「…あ、べっ……ク……ッ」



一緒だ、あの時と。
小学4年生。教室。ファーストキス。
心の引き出しに鍵をかけて、ずっとしまっていた苦い記憶が引きずりだされる。
一歩も動けなかった。
振りほどくこともできない。
「…や、っ、んーッッ!!」
声を上げようと唇を開けば、舌で強引に割られて押し入られた。
押し返した腕を掴まれて、後頭部から引き寄せられて、深く舌が侵入してくる。
何がなんだかわからない。
あのときみたいに、庇ってくれる蒼吾くんは側にはいない。
噛み付くようなキスに、頭が真っ白になる。









──────アイツに隙、見せるな。





あの日の蒼吾くんの言葉が、何度もリフレインする。



私が。
彼の忠告を聞かなかったからだ。









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Comment








あらあら・・・。安部君途中までは不器用さがかわいかったのに^0^気持ちが逸りすげて悔しいやら何やらで、こんな展開・・・若さって罪ですね。でも意外と一途で強引な男性に惹かれたりするものなんですよね。ふふふ・・・。ましろちゃんは違うでしょうけど。
更新楽しみにしています。
from. 2人目妊娠中 | 2009/07/07 14:51 |
*2人目妊娠中さんへ*
今まで積み重なってきたものが、ここにきて爆発した…という感じでしょうか。
ほんとにあらら…ですよね(笑)

作者的にはライバルは押しが強くて、ヒロインを揺さぶってくれなきゃ!みたいな思いがあって、嵐にはガンガン突っ走ってもらってます。
それが吉と出るか凶と出るか…。今後の展開をお楽しみに。
from. りくそらた | 2009/07/08 10:04 |
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