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全力少年 28
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全力少年   

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サイド*嵐/


腹が立つ。
俺の葛藤も蒼吾に対する敵対心も、コイツには届かない。
今更、嫉妬だなんて。
くだらない感情なのは百も承知だ。
そんなもの、園田の転校と同時にとっくに捨てたはずだった。
でも。
園田と再会したあの日から。
心の中で燻ってた想いが、勝手に毎日積み重なって。
どんどん追い詰められてく。
おそろいの携帯ひとつで、心が弾むなんて。
どうかしてる。

たぶん泣かす。
絶対、泣く。
わかっていても、止められなかった。



「…痛…ッ」



腕を掴んで引き寄せた瞬間、園田の手から携帯が滑り落ちた。
携帯から漏れた蒼吾の声が、微かに耳を掠める。
それを必死で拾おうとするけれど、させてやらない。
頬を両手で包み込んで強引に上を向かせた。
逃ることが出来ないように、全てを包み込んで自分のそれで園田の唇を塞いだ。
ずっと園田に触れたかった。
抱きしめて、キスしたかった。
その気持ちに気づかないフリして、他の女で誤魔化して──────自分を偽るのは、もう限界だ。


「んーーーッ!!」

ドンドンと胸を叩く園田の抵抗を感じたけれど、止まるはずがない。
息苦しくて緩んだ唇を舌でこじ開け、口中に割り入って舌を絡め取る。
助けを求めるように抵抗を続ける小さな唇を越え、思いの丈貪った。
柔らかな感触にリアルに触れて、理性が保てるわけがない。
「ふぅ……ッッ」
抱きかかえるように園田の背と腰に腕を回して、ますます深く口付けた。
抵抗を続けるように彷徨っていた手は既に、俺の手に押さえつけられている。
だから身動きも出来ない。
それでも園田は、なおも逃げようとする。
サイテーなことしてる。
そういう自覚はあった。
けれど、一度ブレーキが外れたら、止まるのは無理だ。

「──────ッ!」


唇に鋭い痛みが走った。
鉄臭い味が口の中に広がる。
力では適わないと判断した園田が、噛み付いたのだと理解するまでに、時間はかからなかった。
瞬間、精一杯の抵抗で、園田が俺の身体を突き放す。


「…どう、して……っ? 何で、こんなこと、するの…!?」


──────ナンデ?
態度で解るだろ、惚れてんだよ!
その言葉は簡単には出てこない。


「あの日の仕返し…? あのとき、私が安部くんに恥をかかせたから…!? からかうのもいい加減に──────」
「…ッ。そういうところが、ムカつくんだよ! お前は!!」
堪えきれずに、声を荒げた。
「鈍感なのも大概にしろ! いくら思春期だからってなっ、キライな女にキスなんかするかよ! 罰ゲームじゃねえんだぞ!」
ビクと園田が身を引いて、顔に脅えが走る。
またあの顔だ。
俺はコイツに、こういう表情しかさせてやれない。
蒼吾は園田のこと、突き放して、放ったらかしにしてたくせに。
その声ひとつで、園田を笑顔にさせる。
俺にはめったに見せてくれない甘い笑顔で、アイツには嬉しそうに笑いかける。
俺に笑ってくれたのなんて、ほんの数えるほどしかないのに──────。


腹が立つ。
そして何よりも、悔しかった。






「……なに、言ってるのか……、わかんない……。わかんない、よ……っ」




わかってる。
いつだって俺は、言葉が足りない。
肝心な気持ちを言葉にできない。
園田が欲しがる言葉を簡単にみつけて、分け与えてやれる蒼吾とは違う。
最初から、勝ち目がないことはわかりきってたのに。



──────俺、なんてみっともないことやってんだよ。




えっく、と園田がしゃくりあげた。
涙で頬を濡らしたぐちゃぐちゃな顔。
お世辞にも綺麗とはいえない子どもみたいな泣き顔が、俺をますます苛々させる。
あのときと同じだ。
小学4年生。淡い恋心と苦い記憶。
今頃になって、あの日の言葉を理解する。
お互いが好きでないと、カウントできないキスの意味を。
ただ惨めなだけだった。
リアルなのはキスの感触だけで、心は満たされない。
罪悪感と後悔だけが、俺を支配する。
俺の全部を否定するみたいにして、きつく噛締めた口元を見るだけで、こっちの方が泣きそうになる。


「……好きでもないヤツとのキスは、カウントしねーんだろ!? だったら俺のキスなんて、何ともねぇよな? ──────ザマーミロ!」


いつだって俺は、言葉とウラハラ。
昔から進歩がない。






サイド*蒼吾/



通話が途切れた。
園田が何も言わず、携帯を切るはずがない。
会話途中の不自然な切れ方──────。
嫌な予感がする。

人垣を掻き分けて、オレは全力で石段を駆け下りた。
耳の裏がチリチリする。
追い詰められたピンチのとき、感じる感覚とよく似てる。
胸騒ぎがする。
こういうときの勘はよく当たる。

石段の入り口。
金魚と林檎飴の屋台のすぐ裏に、園田はいた。
「すみませんッ!!」
屋台に群がる人波に割り入って、裏手に回る。




「──────園…っ」



手を伸ばせばすぐ届く距離に園田はいた。






いるのに。
オレは動けなかった。
それを目にした瞬間。
身動きひとつ、できなかった。





暗闇に沈む景色の中、イヤになるほどはっきり見えた。
重なる影も、その相手が誰なのか──────も。
一瞬で、心が真っ黒になる。



「安部ッ!!!」



頭の中で、何かが切れるような音がした。
もう、我慢できねえ。
ふざけんなッ!!


園田から安部を引き離して胸倉を掴み上げる。
そのまま力任せに殴りつけた。
「きゃあッ!」
周りから悲鳴が上がり、賑やかな祭りの雰囲気が一転して、騒然となる。
一瞬で注目を浴た。

「なんだよ。今のはっ! 説明しろッ!」
倒れはしないものの、バランスを崩した安部が、2、3歩よろめく。
ハッと鼻で笑ったのが見えた。


「どいつもコイツも馬鹿ばっかだな。いちいち説明しなきゃ、わかんねーのかよ?
お前もスポーツやってんならわかるだろ。 相手の弱点を見つけてそこをつく──────本気で勝ちに行くならそうする」
「たとえの話なんてすんな!」
「……まだわかんねーのかよ? そっちのピンチはな、オレにとってはチャンスなんだよ! お前が園田を突き放して、ぐだぐだやってるから悪いんだろ!? てめーが招いた結果だ! 甘ったれんなッ!!」



「んだと……ッ!!」



拳を振り上げたと同時、左の頬が熱くなった。
体勢を立て直した安部が、思い切りオレの顔を殴り飛ばしたからだ。
上等だ!




「…に、やってんだよッ!」
「そーごがキレタ!」
「騒ぎになる前に止めろ!!」



騒ぎをききつけて駆けつけた里見と三浦が見えた。
お前ら、ゴメン。
ジンさんゴメン。
もう辛抱ならねぇ。我慢できない。
部を任せるって云われたばかりなのに、園田の涙がそれを強く打ち消す。
どうしても安部だけは、許すことができねぇ。


「そーごッ!! 涼、岡野! こっちだ!! 手ぇ貸せッ!!」



ふたり掛かりで、押さえつけられて動きが制限される。
安部も同じだ。




「そーご!やめろよ……ッて、おい! 園田ちゃん──────!!」



「お前に俺の気持ちなんて、わかんねーよッ!」



わかるか!
つか、わかりたくもねえ!
懇親の力で押さえつける腕を振りほどいて、再度、安部の胸倉を掴み上げた。
どれだけ安部と組み合っても、気持ちが晴れない。



「そーごッ!!!」



渾身の力で拳を振り上げた瞬間。
むんずと、首根っこを掴まれて後方に強く引かれた。
「いーかげんに、しろッ!!!」
思わぬ引力に転びそうになったオレは、足を思い切り開いてそれを堪えた。
瞬間。
バシャッと、顔面に何かがぶつけられた。
当たった瞬間、それが弾けて生ぬるい水の感触と、カルキの匂いが鼻をついた。






「………は?」





金魚?
今…オレの顔に、当たったよな?
その光景に呆然と手を降ろしたオレの胸倉を涼が掴んだ。


「そーごッ! お前、やってること違うだろっ!? 気持ちわかるけどっ! 許せないのわかるけど!! キスされて一番傷ついてるの、お前じゃない! 園田ちゃんだろっ! 間違えんな!」



そっちこそ。
掴む相手、間違ってねえか?
てか、涼。
お前、見てたな? 一部始終。
つか、お前。
金魚が入ってた水、オレにぶっかけたわけ──────!?
わなわなと拳を震わせている涼の右手に握られた透明の袋。
そこにいるはずだった色鮮やかな赤い金魚が、酸素を求めて地面を飛び跳ねる。
それを見てたら目が覚めた。
頭が冴える。
夢から覚めたみたいに現実が飛び込んできて、そこに肝心の園田がいないことに気づく。


「──────園田はっ!?」
「お前らが団子になってる間に、走って逃げた。三浦が追いかけたけど──────ちっこいから、人混みに紛れるとわかんなくなるぞ!」
「……ッ」



何やってんだ、オレ!
頭に血が昇って、冷静さを失って。
今一番、何が大事なのかを完全に見失ってた。
やることめちゃくちゃだけど、涼の云うとおりだ。
キスされて傷ついてるのは、オレだけじゃねぇ。


一番、傷ついたのは、園田だ──────。






「クソッ!! ──────涼! 園田がどっちに行ったかわかるか!?」
「裏参道で彼女、見失ったって…!」
三浦と携帯で連絡を取り合ってた里見が声を上げる。
「裏参道って…家と間逆じゃん!」
なんで!?
「バカ蒼吾! 向こうはテンパってんだから、方向なんて見てねーよ!」
「裏参道って人通り少ないから、やばくね?」
「変なヤツ、多いし。女の一人歩きは危険──────ッて、そーご!?」
「後は頼む!」
走り出した身体にブレーキかけて、チームメイトに向かって手を合わす。
「裏参道なら、竹薮抜けたほうが早いぜ! ほらよっ、忘れもん!」
涼が拾い上げた携帯を投げてよこす。
地面に転がっていた園田の携帯の白が、薄く汚れていた。
携帯は繋がらない。
自力で探さねぇと。




「サンキューっ!」
「いいから早く追いかけろって! 今ならまだ追いつくから」



さっさと行けよ、そういって手で追いやられたと同時。
笛の音が鼓膜を掠めた。
騒ぎを聞いて、警備員が駆けつけたらしい。
ヤバイ。
捕まるのはもちろんヤバイけど、連れてかれると完全に園田を見失う──────。


「ここはいいから、行けって! 捕まったらヤバイの俺らも一緒だから、適当に誤魔化す! 当事者がいなきゃなんとでもなるから!」
ほら、お前も!
里見が安部を開放するのが見えた。
本当は警備に引渡しやりてぇ気分だけど、敵にも情けだ。
安部を引き渡したところで、何の解決にもならねぇ。



「…安部! 話──────、終わってねえからな!」
叫ぶと、あからさまに安部の顔が険しくなった。
「……うぜぇからさっさと行けよ」
どうでもいいみたいな口調で、顎をしゃくる。
内心、腸煮えくり返ってるクセに。
相変わらず、態度に出そうとしない。
本来なら二度と園田に近づかないように、ギタギタにしてやりたいところだけど。
それは後回しだ。
今、優先すべきは園田。


「後、頼んだぞっ!」


申し訳ないと思いつつも、後のフォローはチームメイトに任せて、オレは全力で駆けた。
何であの時。
安部に殴りかかる前に、園田を気にかけてやれなかったんだろう。
涙でぐしゃぐしゃになった彼女の顔を見れば、非がないことなんて一目瞭然だったのに。
真面目で素直な園田が、好きでもない男にキスされて、平気でなんていられるはずないのに。
キスひとつで、どれだけ園田が傷ついたのか。
大丈夫。気にすんな。
そのひと言で、どれだけ園田が救われるか──────。


嵐のような後悔が、胸の中で渦巻く。
あの時。
キスされて傷ついた園田を。
真っ先に抱きしめてやれなかった自分が、歯痒くて仕方ない。







「──────くそッ! 絶対、見つけてやる!」

花火に歓声を上げる人混みを掻き分けて、オレは駆けた。
園田を見つけたら、まず抱きしめよう。
言葉で伝えるよりもまず先に。
抱きしめて、閉じ込めて、もう二度と離さないように。






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