http://miimama.jugem.jp/

スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

- - -
9月の憂鬱  中編




振り返れば9月。
新学期が始まって間もない土曜の昼下がり。
講習開始時間よりも随分早く着いてしまった私は、違う制服の彼女たちと、机を囲むように話をしていた。


夏だけのつもりで通った予備校に、2学期からも通うようになったのは、思った以上に成績が伸びたから。
ふた月も通っていると、自然と顔見知りになる。
休み時間のたびに話す機会も増えて、いつの間にか仲良くなった。
たわいもない話題に花を咲かせて、誰もがいつも真剣に耳を傾けるのは恋の話。
ひと夏の経験───みたいな浮かれた話が飛び交うのも、新学期ならでは。
そういう疑惑が上がったのは、ちょうどその時だった。



「ね、園田さんって、カレシ、いるよね?」
突然に話を振られて、飲んでいたパックの苺ミルクを落っことしそうになった。
地味でおとなしい私は、そういう話題には控えめで、適当に相槌を打つ程度。
話の中心に上がることもなかった。
なんとなく尋ねられても、「カレシ? うーん」と曖昧に誤魔化してたのに。
なんでまた、急に。
「昨日、彼氏が迎えに来てたでしょ?」
たまたま部活が早く終わった蒼吾くんが、予備校まで迎えにきてくれたのを見られてたのか。
わー。


「えー? 園田さんって、付属の彼と付き合ってんじゃないの?」
「付属の…彼?」
「ほら、あそこの───」
指差した先を見て、私は愕然とする。
また安部くんか。
いい加減にして欲しい。


「違う違う。この子の彼氏、同じ学校みたいよ? 青南の制服、着てた」
「えー? ホントに?」
「…うん」
「な〜んだ。てっきり付属くんと、そういう仲かとばかり…」
「……安部くんと付き合ってるように、見えた?」
「見えた見えた! だって夏期講習の後、よく一緒に残ってたじゃない?」
「それはたまたま、一緒になっただけで…。安部くんは同小なだけの、ただの友達……」


で、いいんだよね?
へたなことを言って、波風立てたくないもん。




「なぁんだ。よかったー!」
「よかった…って───え?」
「実はこの子、ひそかに安部くんのこと、狙ってんの。ぜったい! 無理デショ」
「なんで最初から、無理だって決め付けるのよー! 告る前から自信削いでどーする!」

夏休みの彼女達といい、このふたりといい。
安部くんがモテることは、確証済み。
まあ、確かに。
よく見れば、整った顔立ちをしてる。
今風でお洒落な格好をしてるし、スポーツをやってるから体格もそこそこ。
それに加えて常盤大付属って───結構、頭いいってことだよね? 意外。
ただし……性格に難ありだけど。
口を開けば毒舌で、偉そうで、上から見下ろすみたいな威圧感が私は苦手。


「そこがいいんじゃない〜。硬派な感じでさ!」
「そうかなぁ……」
「好みなんて人それぞれよ。まあ確かに、園田さんは苦手なタイプかもねー。彼氏は正反対のタイプっぽいもん」
「えー。園田さんの彼って、どんな感じ?」
「んー…。見た目、やんちゃっぽい雰囲気の爽やかくん…? あの体格は、何かスポーツやってるでしょ?」
「うん…。野球部」
「やっぱりね〜。背高いし、上腕部がしっかりしてたし、フットワーク軽そうだし。絶対そっち系だと思った! ね、ね。彼氏のどこが好き?」
「どこって……」

蒼吾くんの好きなところを上げればきりがない。
優しいところ。力強いところ。
曲がったことが大嫌いな真っ直ぐな性格と、気持ちがいいくらいのストレートな感情。
何事にも物怖じしない、男らしさ。
低音で優しく響く声はとても心地が良くて、あの声で名前を呼ばれると、ドキドキが止らなくなる。
私の全てを包み込んでくれるような大きな手のひらも、逞しい胸も。
蒼吾くんの全部が全部、私は大好き。
でも、一番はやっぱり───。


「笑った顔、かなぁ…」

蒼吾くんが見せてくれる、いろんな笑顔が一番好き。
蒼吾くんが笑って話すと、何でも「できそう」な気がする。
彼の笑顔は、いつも私に自信と勇気をくれる。
その笑顔に、私は何度、救われたことか。
屈託なく笑う顔は子どもみたいに幼いのに、ベッドの上で見せてくれる笑顔は、男性的で挑戦的で、大人びて見えて───私をドキドキさせる。
うっ、わー……。
思い出しちゃった。



「あー、なに? この子、赤くなってるよー」
「何を想像したのよ? やっらしいーなぁ」
「ち、違うって! 変な想像、しないで…!」
いけない。いけない。
慌てて口元を引き締める。


「でもさー。同級生の彼氏って、子どもっぽくない?」
「あー。わかるわかる〜。キホン、男の方が精神年齢低いよねー。あたしらぐらいの年代だと、4つぐらい、精神的に幼いんだってー」
「園田サンのところはどう? やっぱ子どもっぽかったりする?」
「んー…。他を知らないから比べようはないけど……、言われてみればそうなのかなって、思うところもたくさんある」
「他を知らないってことは───今の人が初カレ?」
「…うん」
「じゃあ、初エッチも彼となんだー。へえー。ふーん」
急に色めいた目で見られた。
私…もしかしなくても、地雷…踏んだ?


「いつ?」
「え?」
「今のカレシと、初めてしたのって」
「えっとー…………ゴメン。トイレ、行ってくるね…?」
立ち上がるより前に、腕をつかまれた。
「さっき行ってきたばかりじゃない。逃げるな!」
うーっ、だってぇ。

「最近、でしょ? 園田さん、雰囲気変わったもん」
「あーそうかぁ。夏の間に、彼氏と進展したのかぁ。それなら納得!」
「…で。どうだったの?」
声を潜めて、ずいと顔を寄せられた。
「どう、って………」
「感想! 痛かったとか、気持ちよかったとか……いろいろあるデショ?」
話すまでは逃がさないって、キラキラ輝く好奇心の瞳が輝いてる。
適当になんて、交わせそうにない。
うわーん。











゛はじめて゛の日の記憶は、宝物みたいに大事に扱われた思い出しかない。
いっぱいいっぱいな私に対して、蒼吾くんは落ち着いていて。
何もかもが、泣きたくなるほど優しかった。
繋がることを目的としてなくて、『女』と言うよりも『私本人』を求めているような抱き方。
心地良くて、胸が満たされた。
幸福しかないあの日の記憶は、何度思い出しても体が熱くなる。





「えー。それってなれてない?」
「お互い初めてなんて、絶対嘘だよー」


私の話を聞き終えたとたん、ふたりがあからさまに顔をしかめた。


「でも…私は、ほんと初めてで……」
「園田さんはそうかもしれないけどさ、向こうは絶対、初めてじゃないって」
「付き合うのが初めてなだけの、経験者と見た。だって初めての男がそんな余裕のあるエッチ、ありえないって!」
「しかも、同い年でしょ? ナイナイ!」
「うちもさー、去年まで付き合ってた彼とは、初めて同士だったんだけど……。もう、サイアクだったよ?
自分さえ気持ちよくなればいいみたいな勝手なセックスして、痛いって言ってもやめてくれなくて。こっちは初めてなのに、自分の都合だけで動いて、ハイ終わりーみたいな」
「かといって、お互い手順が分からないとか、そういうのも嫌じゃない?」
「イヤイヤ! 絶対それは、ナシ。ありえなーい!」
「ちょっと慣れてるぐらいの方がいいよね、初めては。どうせ痛いのなら、向こうに余裕のある大人の彼の方が」
「そういう意味では、彼氏が慣れててよかったんじゃない?」
「だって。同級生の男なんてさ、がっついてるか、もたついてるか。どっちかだよねー?」
「でも、向こうも私とが初めてだって……」
「口では何とでも言えるの。愛がなくてもできんのよ、男は。そういう風にできてんの」
「………」
「気になるのならさ、あの人に聞いてみなよ。安部くん。カレシと同小、同中なんでしょ?」
「園田さんの知らないこと、案外、知ってるかもよ?」



ふたりが口をそろえて、そう言ったのだ。




なんか私、またいいように使われてない?













「───え? 中学ん時の蒼吾?」
「うん…」
「なんで、今更」
「どんな中学生だったのかなーと、思って……」
「知ったからってどうこうなんの? つか、それをオレに聞く? ま、いっけど」

安部くんがコメカミをカリカリと掻く仕草から、機嫌の悪さが見て取れた。
読みかけの雑誌を中断させたのも、怒らせた原因のひとつだろうけど。
内容が内容なだけに、なんて無神経な───そう思われたに違いない。




「別に俺じゃなくても、日下部とか佐倉とか。同中で仲いいの、お前の周りにいっぱいいるだろ?」
そこから聞けはいいのに、と。
あからさまな溜息をつく。
「だって……。私にマイナスになることは、あのふたりは絶対、言わないと思うから……」
「じゃあ俺は、マイナスになることばっか言うとか、逆に思わないわけ?」
「あ……」
「あ、じゃねえよ。そこ、否定するところだから。お前らしい返しだけど。
で、蒼吾の何が聞きたいわけ? 俺、中学は一度も、蒼吾と同じクラスになったことねえから、お前が欲しがるような情報、持ってねえと思うけど?」
「うん……」
「つうか、あいつら何?」
「え?」

安部くんが顎をしゃくった。
私らから少し離れた場所で聞き耳を立ててるふたりの存在に、安部くんはとっくに気づいてる。
まずい。


「お前、また───人に言われて、俺んとこ来たんじゃねえだろうな?」
「……えっと…あの……」
「人の意見に左右されんのも、大概にしろよ? 自分の意志、ちゃんと持て。阿呆が」
パチンと指で額を弾かれた。
痛い。


「ちょっと来い」
「…エ?」
猫のように襟の後ろをつかまれて、そのまま引きずられた。
「え…、なに…? あの…っ、安部…くん…!? 」
「いいから黙って、付いて来い」
「でも、あの……っ」
「振り返んな。聞き耳立てられてちゃあ、こっちがたまらん。いいから、黙って付いて来い」
「で、でも。講義が───」
教室を出たと同時に、始業のチャイムが鳴り始めた。
ばたばたとみんな、席に着き始める。
「サボってまではアイツらも、追いかけては来ねえだろ。なら好都合だ」
「でも───」
「でもでも、ウルサイ。来るなら話す。来ないなら、やめる。どっち? はっきりしろ!」
強く怒鳴られて、ビクと体が強張った。
どっちつかずな私の態度に、ますます安部くんが苛立ってくのが、手に取るように分かる。
だからもう、この人に関わるのは嫌だったのに。




「言っとくけど。俺はもう、お前のことなんて、何とも思ってねえから。ふたりっきりになってどうこうとか、そういうことは考えんな。それを踏まえた上で、どうしたいかはお前が決めろ」





そう言ってくれた安部くんに、私はもう、黙って付いてくしかなかった。







←BACK / NEXT→


TOPへ / 魔法のコトバ*目次へ


にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へにほんブログ村


(Webコンテンツは魔法のコトバ*単作品のランキングです)



魔法のコトバ* 続編 2 comments(9) -
スポンサーサイト
- - -
Comment








またまた、時間が出来たので除いてみたら・・・安部君登場でちょっとうれしいかも。でも何か至らぬ事を言いそうな。。。。
恋をしているときってその人の過去を気にしたりするんですよね。
でも、過去を気にしても仕方の無いこと。今を大事にするのが一番です。そして好きであればあるほど、相手の過去の恋愛については絶対に聞いては駄目!!
これは経験から言いますが、いい思いは何もしません。
疑心暗鬼になったりして、今の相手が見えなくなってしまうこともあるので。
ではでは。また更新を楽しみにしてます。
「とわかな」も拝読しました。ちょっとイターイ気持ちになって切なかったです。とわちゃん幸せになれることを祈ってます。
from. 2人目妊娠中改め二児のママ | 2009/12/04 23:42 |
*2人目妊娠中改め二児のママ さんへ*
今更、過去のことなんて聞いたってどうこうなるわけじゃないのに、好きだからこそ気になってしまうんですよねぇ。
悲しい乙女心。
熱のこもったアドバイス、ましろによーく伝えておきます(笑)

とわかな。は結構、痛い展開が多くて、書いていても悲しくなります。とわに幸せがおとずれるように、どうか祈ってやってくださいね。
from. りくそらた | 2009/12/05 10:16 |
すみません。。。
今気づきました。私、二回も同じ内容を入れていたのですね。
どちらか削除できるなら削除してください。
あー恥ずかしい。。。。。
from. 二児のママ | 2009/12/05 13:42 |
*二児のママさんへ*
ダブっていた分のコメントは、削除させてもらいました。
送信が遅いと、ダブってクリックしがちですよね(苦笑)
どうぞお気になさらずに。
from. りくそらた | 2009/12/05 22:07 |
「魔法のコトバ」全部読みました。1回読むとまた続きが読みたくなって、最後まで読んでしまいました。私は、蒼吾とましろが付き合うことになって、よかったなぁと思ってます。
「春を待つ君」も途中まで全部読みました。
続きも待ってます!!
あと「9月の憂鬱」の後編もまってます!!
それと、「青春ライン」も読みました。
2人がどうなるのか、気になります。

3つ、楽しみに待ってます!!^^
from. ちぃたむ | 2010/03/02 17:45 |
すみません。。。

3つじゃなくて、4つでした。
from. ちぃたむ | 2010/03/02 17:47 |
* ちぃたむ様 *
はじめまして(ですよね…?)
コメントをありがとうございます。

いただいたコメントを読みながら、途中放置の作品ばっかだなと、深く反省です。
今は『とわの彼方に』をメインに更新しています。
まほコト。番外編の催促を他の方からもいただいていて…そろそろ重い腰をあげなきゃなと思うのに、なかなか(苦笑)
近いうちに頑張ってみます。
ありがとう!
from. りくそらた | 2010/03/02 21:44 |
魔法のコトバ全部読ませていただきました!!ものすごく、キュんとして胸が温かくなりました。本当に最高です!
次の展開を期待してます:)
from. | 2010/03/27 00:33 |
* 03/27 12:33 AM のコメントの方 *
まほコト、完読ありがとうございました!
思い入れのとても強い作品ですので、心温まるお言葉が聞けてとても嬉しいです。
後編は、春休みの間には更新したい!とようやく重い腰を上げました(苦笑)
また時々、チェックしてみてくださいね!
from. りくそらた | 2010/03/27 08:00 |
<< NEW | TOP | OLD>>