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9月の憂鬱 後編




夏休みの後半は、バスケに集中した。
前半、あんなに真面目に通ってた予備校はおざなりになって、ある日を境に、ぱったり行かなくなった。
授業には付いていけてる。
なら、別に行っても行かなくても成績には変わりない。
もともと乗り気じゃなかった夏期講習に、俺が真面目に通ったのは成績向上なんて当たり前の目的なんかじゃなく、惚れた女に会いたいが一心で───って。
ああ、そうだよ。
逃げましたよ、俺は。
認めるよ。
ふられても、笑って友達でいられるような簡単な恋じゃなかった。
平気な顔して笑ってられんのも、限界だったんだ。



そう思ってたのに。
物事はいつも、俺の思うようには運ばない。
後半サボってたのがばれて、おふくろにはり倒された。
「月謝はタダじゃないんだよっ」て、大激怒。
そりゃわかっけど。
息子の気持ちも察してくれ。
ふられた女に会いたくなかったから───なんて、かっこ悪い理由を話せるはずもなく。
後半サボった分を繰り越しで取り戻すべく、新学期も通うことになった。
園田は夏だけ。
もう会うこともないだろう、そう勝手に高をくくって。
そしたらいるんだよ、アイツが。
夏の間にできた友達と、コンビニで買い込んだお菓子を囲んで、笑っていやがった。
嗚呼、もうね。
愕然としたね。





「あれ……安部───?」

教室の入り口でぼさっと突っ立ってた俺に、背後から声。


「しばらく見なかったけど……アンタも9月から通うの?」



あんたも、って、日下部もか?
勘弁してくれ。




「ねえ、顔。怖いよ」
「るせぇな…ほっとけ。元からなんだよ」
「知ってるけど。更に怖いつってんの。そんなんだから、ましろに嫌われるのよ」


また、傷口に塩を塗るような言葉を。
昔っからそうだよ、日下部は。
保護者のように園田に纏わり付いて、守って、実は蒼吾なんかよりも数倍厄介な存在。
俺は昔から、コイツが苦手で、コイツは俺が嫌いで。
今もそれは変わりない。


「9月からは私も同じクラスだから」
「だから何だよ」
「……よろしくね」


─── ましろにちょっかい出したりなんかしたら、許さないわよ? ───
言葉の裏に隠された、牽制。
まったく、どいつもこいつも、俺の神経逆撫でる。



おまけに。
極めつけは、園田本人の態度だ。
何事もなかったかのように話しかけてくるのも腹立たしいのに、中学ん時の蒼吾のことを教えて欲しい───だ?
この鈍感、無神経女が!
つうか、そういう話を教室ですんな。
まんまと誘導尋問に踊らされて、細かいことまでぺらぺらしゃべってんじゃねえよ。
声を潜めたところで筒抜けなんだよ。
女なら恥じらいを持て(他女子2名)。
阿呆が。











「───で。何が聞きたいって?」
自販機コーナーまで園田を引っ張ってきた俺は、ようやくそこで園田の手を離す。
「中学ん時の蒼吾? 今さら聞いてどうすんの?」
強く出たら園田はいつものだんまりだ。
怖がって構えて、萎縮してしまう。
またか───あからさまに溜息をついて、立ち上がる。
「ほらよ」
自販機でジュースを2本買って、そのうちの1本を園田へと投げた。
お約束のようにそれを取り落とした園田が、慌てたようにその場にしゃがみこんで、転がったそれを拾う。
かがんだ拍子に茶色く長い髪がふわと前へと流れた。
夏服の襟元から覗く白い襟足に、微かに残る赤い花を視界の隅に認めた俺は、ますます苛立った。

「つか、何が聞きたいの、お前」
「何って、その……」
俺の鋭い視線に、誤魔化しは利かないと悟った園田が、恐る恐る口を開く。
「……中学の頃、付き合ってた女の子って、いたのかなって……」
「いた」
「……え?」
「そう言われたらどうすんの、お前」
「どうするって……」
「蒼吾と付き合うのやめるのかよ? 別れんのかよ?」
それなら俺も喜んで嘘つくけど。
「それは……」
声は次第に小さくなって、その顔は下を向いた。
どんな顔をしているのかは、俺の位置からはよく見えない。
けど泣きそうだってことぐらいは、気配で伝わる。






「───園田。お前にこれだけは言っとく。上手いに越したことねえし、過去にはこだわるな」







「…それってやっぱり……そういう子がいたってこと、なの……?」


「だーかーら。そういうことは本人に聞け。俺に聞くな!」




アイツは昔から、バカみたいにお前一筋だ。
悔しいから、それは言わねえよ。
悩めばいい。
いくら悩んだところで、お前らの絆は絶対なんだから。














───またか。
オレは頭を抱えて愕然とした。





「園田。お前なあ……」

人の意見を全部うのみにすんのもどうかと思う。
もちろん園田のそういう素直なところは、長所だけどよ。
振り回されるこっちにしてみたら、たまったもんじゃない。
しかも、安部に聞くかね。
アイツ、ちょっと前までお前の事好きだったんだぞ。今もそうかもしれないし。
自分から余計なトラブル引き込むな。



「だって………。蒼吾くん、はじめから慣れてる感があって余裕もあって、リードも上手だったし…」
「褒めてくれて、どーも。でも、マジでお前以外と、経験ないから。オレ、何度も言ったろ。園田だけだって。そんなにオレのこと、信じられね?」
「キスの経験も…ないの?」




それは───。



ふと脳裏をよぎった苦い記憶。
中学2年の夏。相手は日下部。
忘れたわけじゃない。
あの時の本気は、オレもちゃんと受け止めた。
嘘は大嫌いだけど、相手を思いやる嘘ならオレはついてもいいと思う。



「ないよ」
「……本当に…?」
「ないつったら、ない。4年ん時のキス事件が初めて。その後は、園田以外とはしてない。子どもの頃に、親や姉貴にされた記憶はあるけど……そういうのは数に入れなくていいんだろ?」
「うん……」
「もういい? これで疑い、晴れた?」
「……ゴメンナサイ」


素直に頭を下げた園田の頭にそっと手を置いて、髪を撫でてやる。
せっかくふたりでいられるのに。
考え事ばかりで楽しめなきゃ、意味がない。





「───これからは疑う前に、ちゃんと聞いて。ちゃんと信じて」


疑うより、信じることのほうがうんと難しいけれど。
それでもやっぱり、信じて欲しい。
そっと体を包みこむように抱きしめたら、小さな手を精一杯オレの背中に回して、甘えるようにしがみついてくる。
ああ、やっと。
素直な園田だ。
オレは満足げに、園田の体をきゅうっと抱きしめた。






「……蒼吾くんは?」
「ん?」
「私に…聞いておきたいこと、ない?」
「聞きたいこと? んー……」




ぎゅっと抱きしめた園田の首筋に唇を寄せた。
汗で張り付いた髪を指でどけて、露になった白い素肌に軽く吸い付く。
ん、と軽く体を身じろがせた園田が、恥ずかしそうに頬を赤らめてオレの肩に顔を寄せてくる。
ほんの一瞬垣間見えた女の顔に、ぞくりと全身が震えた。
チラリと窓の外を覗く。
門扉の脇に路駐した水色のタントが見えた。


「……あの車、誰の?」
「車? ……ああ。ママにお客さんが来てて……」
「お前も知り合い? 親戚とか」
「ううん。カルチャースクールのお友達とかで、私は顔も見たことないの」
「ふーん」
「……どうしたの?」


園田母は来客中。
親戚でも顔見知りでもないなら、その間は上がって来ないってことだ。



「疑いは晴れた?」
「うん」
「じゃあ……もう拒む理由はないよな?」







「え?





───あの、蒼吾くん……?」




園田の体が、ガッチリ固まったのが手に取とるように分かった。
体を押しやられるよりも早く、小さな体をベッドへと押し倒す。
見下ろしたすぐ下で情けない声を上げたのは一瞬。
逃げ出す前に囲って、小さな空間へと閉じ込めた。
ほんの少し角度を変えればキスが出来る距離まで近づいて、甘く囁く。








「なあ、園田。オレって、余裕があるように見えた?」

「う、うん……」




「じゃあさ、オレ。もっとがっついていいの? かなりセーブしてんだけど───」








あからさまに表情を引きつらせて、反論しようと開けかけた唇をそのままキスで塞いだ。







覚えといたほうがいい。
そういう言葉は、誘ってるようにしか聞こえないって。









END




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魔法のコトバ* 続編 2 comments(6) -
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Comment








イヤ〜ン!嬉しい。更新待ってました。しかも、安部くん視点まで。ありがとうございます。四月から少しばかり入院することになってたので、見れないなと思ってた矢先。覗いてみて良かったぁ。退院する頃には「とわかな」も終わってるのでしょうか?
とわちゃんって・・・。意味深になっちゃってごめんなさい。私、出産するまでブライダルコーディネイター兼心理カウンセラーをやってたんです。だから、なんていうかとわちゃんの仕事に対する頑張りっていいなと思う反面、メンタル面がなぁと。リオコさんの台詞にあったみたいにヒトリで恋愛しているコだなと思ってたんですよね。肝心なときに相手からも自分の気持ちからも逃げちゃう。。。
元彼しかり、ともひろしかり。気の強いもしくは強がってる女性に多い現象ですが・・・。恋は一人でもできるけど恋愛は二人でするものだから。また読める頃には、自分の気持ちから逃げない自立した女性になった成長したとわちゃんに逢えるのを楽しみにしてます。素敵な小説書いてくださいね。それではまた。
from. 二児のママ | 2010/03/30 01:38 |
* 二児のママ様 *
たいへんお待たせいたしました。
久しぶりのまほコトだったので、感覚を取り戻すのに時間がかかりましたが……お気に召されましたでしょうか?

言葉の続きと解説をありがとうございました。
しかも、ブライダルコーディネーター兼心理カウンセラーとは! 恐れ多いです。
二児のママ様がお話してくださったこと、これはとわかな。の大きなキイになってます。
皆様、とわの気持ちに感情移入してくださって「ともひろヒドイ!」って言われてましたが、私はひそかに「逃げたとわの方が悪い」と思ってます。
この辺、後半でたっぷり出てきます。
まほコト。のましろ同様、最後にはとわが大きく成長できたらなという思いで書いていますので、楽しみにしていてくださいね。

入院されるとのこと。
子どもさんもいらっしゃるので、何かと大変だとは思いますが、どうかお大事に。
携帯からも閲覧できますので、お暇な時はまた覗いてみてくださいね。
from. りくそらた | 2010/03/30 08:03 |
まほコト更新嬉しいです〜〜(^^)
そーごくんが本当に大好きで大好きで…!
ましろちゃん、かわいかったです。相変わらずの鈍感な感じで、安部っちが少し不憫に思いました。(笑)
from. ハル | 2010/03/30 15:38 |
* ハル様 *
長らくお待たせいたしました。
ハル様は蒼吾スキーでしたよね。
久しぶりに書いた蒼吾は、ともひろと違って裏がなくて書きやすかったです(笑)

安部っち、不憫ですよね。ホントに(苦笑)
いつか彼にも何か幸せをあげたいなーと、思わずにはいられなくなります。
from. りくそらた | 2010/03/30 16:40 |
こんばんは。まほコト更新ありがとうございます。
蒼吾大好き!ましろ大好きです。
安部も、なかなか好きです!
とわの彼方に・・・も気になるところですが・・・。
ヤバい・・・。リオコ・・・キレイ!!

はづきさんの書く絵も大好きでーす!!
from. mimi | 2010/03/31 21:31 |
*  mimi 様 *
意外にも皆様、まほコトの続編を待っていてくださってたようで、とても嬉しくなります。
蒼吾の人気は相変わらずの不動。
でも人気キャラ投票では、安部が蒼吾をぶっちぎっての1位なんですよね。
うーん。予想外。

リオコはとびきり美人で! と、はづきにお願いしました。
私も相方の描いてくれるイラストが大好きです。
送ってくれるたびに、身悶えしてます(笑)
from. りくそらた | 2010/03/31 22:50 |
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