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魔法のコトバ* Season3 キス-8-
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ピピピピピピピピーーーー。
頭の奥でベルのようなものが鳴り響いて。
私は手を伸ばして音の発生源を探った。
堅いものが手に当たって、手馴れた仕草でボタンを押す。
私はまだぼんやりする体をゆっくりと起して、それを手に取った。
am6:30。
いつの間にか寝ちゃってたんだ…。
ずいぶんと懐かしい夢を見た気がする。
視界の隅に、半開きになった段ボール箱が見えた。
そこからはみ出した懐かしい写真。
引越しの時に封印したっきりのダンボール箱を昨日、開けたんだっけ。
だからあんな夢、見たのかな。
今さら…。
思い出したくない苦い記憶。
私はそれを封印するかのように、箱を固く閉じて、クローゼットの奥にしまった。
*
「行ってきまーす」
翌日、私はいつもより少し早く家を出た。
凪ちゃんと待ち合わせをしてるから、足取りが軽い。
昨日と比べると、雲泥の差。
「おはよ」
駅のホームで凪ちゃんの顔を見つけて、私は顔をほころばす。
昔から。
彼女の顔を見るとホッとするの。
凪ちゃんは私の安定剤みたい。
「昨日、ちゃんと帰れた?」
「うん。大丈夫だよ」
「そ。よかった」
凪ちゃんが安心したように笑う。
「…ほんとはね、ちょっと心配だったんだ…」
「?」
「ほら、ましろって人見知りをするところがあるじゃない? だから送って行ってもらうのなら、知ってる人の方がいいかなと思ったんだけど……蒼吾で大丈夫だったのかな…って。あとからすごく気になって……」
正直、蒼吾くんは今も苦手。
キス事件以来、彼とは一度も話すことのないまま、昨日だよ?
緊張で押しつぶされそうだった。
でも。
蒼吾くんは意外と優しくて。
気を使ってくれてるのが手に取るようにわかって。
思ったよりも、怖くなかった。
「じゃ。行きますか?」
凪ちゃんが笑う。
「ましろにしてみれば、今日が初登校みたいなもんだもんね?」
「…転校早々、調子悪くなってばかりだから、なんだか行きにくいんだけど…」
「大丈夫だよ。私も蒼吾もいるし」
「……なんでそこで、夏木くんの名前が出てくるのよ…」
「知り合いはひとりでも多いほうが、心強いでしょ?」
「そうだけど……」
蒼吾くんは別格。
心強さの頭数には、ならないよ。
「ましろ」
「ん?」
「蒼吾。いいヤツだから」
「───え?」
「ましろが思ってるようなヤツじゃないよ?」
「………」
黙り込んでしまった私の肩を叩いて、凪ちゃんが笑う。
「とにかく行こ。電車、間に合わなくなっちゃうよ」
この時。
どうして凪ちゃんが蒼吾くんのことばかり私に言うのか分からなかったけれど。
後から思えば。
答えは簡単だったのかもしれない。
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