http://miimama.jugem.jp/

スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

- - -
春を待つキミに。 4
***********************

春を待つキミに。 4  サイド*佐倉

***********************

「うあぁぁぁーーーっ。
ムカつく!ムカつく!!ムカつくーーー!!!」

教室のドアを乱暴に開けて、ドカドカと苛ついた足音をさせながら
クラスメイトのひとりが、はき捨てるように言った。
安部 嵐(アベ アラシ)。
4年1組の中でもリーダー的存在のひとり。
“アラシ”という名前の通り、輪を乱す自己中男。
クラスの中でも嵐な存在。
いわばお山のガキ大将だ。
気が強くて、何でも自分が一番でないと気がすまない性質。
強いものに従え的なこの時期の男子。
クラスの半分以上は、安部に頭が上がらなかった。


「あの女、ムカつくっ!」


汗が染み込んだ体操着を乱暴に脱捨てて、安部がガンっと机の脚を蹴り上げた。
安部のすこぶる機嫌の悪さは、2時間ほど続いていた。



事の発端は、4時間目に体育の授業を控えた休み時間。
安部と日下部がもめた。
お山のガキ大将的存在の安部と、正義感の塊のような学級委員長、日下部はよくぶつかる。
といっても頭のいい日下部は、本気で安部のことなんて相手にしていない。
けれどそれが安部にとってはますます気に入らないらしく、火に油。
日下部のそっけない態度が、いつも怒りの着火材になる。
止めても無駄だと分かっているから、誰も仲裁に入ろうとはしない。
クラスの中ではすっかり日常化していた。

今日ももめた。
何が原因かはわからないけれど、どうせいつものくだらない理由。
負けず嫌いの安部はどうにかして日下部を負かしてやりたくて。
事あることにいちゃもんをつけて勝負を挑む。
はっきり言ってかなりガキ臭い。
子どもじみてる。


今回の勝負は体育の授業のバスケの試合で、どちらが多く点を入れられるかだった。
四年になってミニバスケットボール部に入部した安部。
今回の勝負は自信満々だったのに。
それは自信と共に覆されて、あっさりと負けた。
カッコ悪すぎる。
しかもこの期に及んで「今日は調子が悪かったんだ!」とか「腹へってて力がでなかったんだ!」とか。
言い訳にしては見苦しい悪態をついた。

「調子が悪かった?お腹減ってた?そんなの言い訳。
大体、男子と女子の差のハンデがあるんだから、たとえ調子が悪かったとしてもそれぐらいカバーしなさいよ。ミニバス経験者のクセに」

と決定的な大ダメージを与えられて、あえなく撃沈した。


結局、負けるのはいつも安部だ。
彼女に口で勝てるはずがないのに。
顔を寄せられて、相変わらずのきりりとした綺麗な目にすごまれて。
結局は何も言えなくなってしまう。
いつものパターンだ。
あの綺麗な顔を寄せられて、動揺しない男なんていないと思う。



「ばっかだな、安部。日下部に勝てるわけないだろ?」


呆れたような声が耳を掠めた。
鮮やかなターコイズ色のGAPのパーカーに袖を通しながら、蒼吾が安部を振り返った。


「日下部を負かしたいってお前の気持ちもわかるけど、無理だろ。悔しいけど、全てにおいてアイツの方が上なんだよ。付き合いの長い俺でさえ、アイツにほとんど勝った事がねェんだ」
「うっせー!んなの、やってみなきゃわかんねぇだろ」
「やってみた結果がそれだろ?…ていうか安部。ほんとにミニバス部?」
笑いを含んだ声で、蒼吾が質問を投げかけた。
教室の隅からクスクスと笑い声が上がる。

「始めたばっかなんだよ!これから上手くなるんだっ」
「才能、ないんじゃねぇの?」
「バッカ言うな!この前受けた運動能力診断、評価Aだったんだぞ!」
自信満々に安部が踏ん反り返った。
「へぇ〜」
「あべっち、すごいじゃん〜!」
とクラスで上がったヨイショの声に、気を良くした安部は。
「イニシャルもAAでトリプルAだ!」
訳もわからないことを自慢した。
何だよ、その意味の分からない解釈は。



「…ああ…。安部(Abe)・嵐(Arasi)・アホ(Aho)?」


蒼吾が失笑混じりに言葉を落とした。
クラスがどっと沸いた。
あまりに的を得た発言に、思わず俺も吹いた。

「うっせー!うっせぇ!!黙れってっ!!」

憤怒した安部が真っ赤になって叫んだ。
「もとはといえば、蒼吾!お前がフリースロー外すからだろっ!勝負、かかってんだ。真剣にやれよ!」
「別に俺は関係ねぇんだからいいだろ。ミニバス部でもねぇんだし。失敗ぐらいするさ」
軽く受け流した答えに、ギロリともの凄い形相で安部が睨み返した。
「知ってんだぞ。俺」
「は?何が」


「お前がフリーで入らなかったのは、園田に気ィ取られてたからだろ?」


水筒代わりにペットボトルを凍らせた麦茶をがぶ飲みしていた蒼吾が、思わず喉を詰まらせた。
ゴホゴホと派手に咽返る。


先のバスケの試合で、ましろちゃんが突き指をした。
隣のコートで試合をしていた蒼吾は、ちょうどフリースローの真っ最中で。
狙えば8割ぐらいは入るであろうシュートも、それに気を取られたおかげで、からっきし入らなかった。
残り時間1分前で5点差。
そのフリーの2本が入っていれば、逆転の可能性もあったかもしれないのに。
蒼吾があっさりシュートを外してしまったことで、チームには負けのムードが漂った。
そして誰もが思った。
やっぱり安部は日下部には勝てないんだ、と。


「べ、別に…っ。試合に勝ったって負けたって、安部のシュート数は日下部に負けてたんだろっ」
痛いところを指摘されて、蒼吾が珍しく噛み付いてきた。
普段なら笑って流せる言葉も、ましろちゃんの事になるとムキになる。
彼女は蒼吾の着火材だ。

「早く告れよ、バカ蒼吾。うぜっ」
「告るか!アホ!」
ふて腐れた横顔が、きゅっと悔しそうに唇を噛み締めた。
安部はそれを見逃さない。


「ああ…。お前、園田に嫌われてんだもんな〜」


哀れんだ目でおもしろそうに安部が笑った。
「放っとけ。…誰のせいだよっ」
悪態をついて、振り返りざまに蹴りを入れる。
安部がおうっと大げさに声を上げて、それをよけた。
立場が逆転したのか余裕ありげにケラケラと笑う。


「お前、今、告ってもぜってー振られるって」

「…んでだよ」


「園田が好きなのは、佐倉だろ」


突然、話を振られてクラス中の男子の視線が俺に集まった。
好奇心に満ちた視線が突き刺さる。


…勘弁してくれよ。


「ぶっちゃけ、どうなんだよ。佐倉〜。園田だけ、名前で呼んじゃってるもんな。実は好きなんじゃねぇの?」


注がれるクラスメイトの視線は興味津々だった。
ペットボトルの麦茶をがぶ飲みしていた蒼吾の手が止まって、真剣な眼差しが俺を捕らえた。
どうなんだよ、と。真っ直ぐに視線を投げかけてくる。
クラス中が俺に注目する中で、ペットボトルの中で溶けた氷が、がらんと音を立てた。


好き、とか。嫌い、とか。
どうしてそればかりにこだわるんだろう。
『好き』だなんて、そんな厄介な感情。
今好きだからといって、一生寄り添うわけでもないのに。
ましてや他人の色恋沙汰なんて、どうでもいいだろう。
まともに取り合うのが面倒になってきた。
ましろちゃんを好きだと言ってしまえば、この場は丸く納まるのだろうか。


「…自分の事ばかり話してるような女子よりは、ましろちゃんの方が控えめで可愛いと思うけど?」



おおー、と。
予想通りの反応が返って、教室が大きくざわめいた。

「すげー!佐倉。ライバル宣言かっ!?」
「蒼吾、勝ち目ねーだろっ!かっわいそーー!」

この年頃の俺らにとって、堂々と特定の女子を褒めるのは、かなりの勇気を必要とする。
ましてや褒めるという事は、イコール『好きだ』と解釈されても仕方がない。



「────佐倉は、園田が好きなのかよ?」



ふて腐れた表情で蒼吾が低い声色を漏らした。
ざわめいていた空間に、シン…と。
何ともいえない気まずさが漂った。


「…安心しなよ。別にましろちゃんが好きなわけじゃないから」


俺の口から漏れた言葉は、気まずさの極地にあった空気を更に凍らせた。
蒼吾が目に見えて不機嫌になったのが分かった。


「どういう意味だよ…」


「…別に。」




視線を逸らした俺の耳に届いたのは。
ガタンッ、という派手に椅子が倒れる音。





>>To Be Continued


ランキングに参加しています。
にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説へ


(Webコンテンツは春を待つキミに。単作品のランキングです)

押していただければたいへん励みになります。






春を待つキミに。 comments(12) -
春を待つキミに。 3
***********************

春を待つキミに。 3  サイド*佐倉

***********************

その日の放課後も屋上で絵を描いた。
この学校に転入してから、こうして絵を描くのが日課だった。
場所は屋上だったり、教室だったり、グラウンドの隅だったり。
その日の気分と天候次第。
どこまでも青を覗かす空と、遥か彼方に見える海と。
秋色に染まっていく木々や山の緑。
描きたいものはたくさんあったから。
描いていたら余計なことを考えずに済むとか。そんなことばかり。
ただ、人は描かない。
どうしてもアイツがちらつくから。


どこまでも高く続く秋の青空は、いつの間にか夕焼けに色を染めて。
気がつけば藍の色に近くなっていた。
もうすぐ日が暮れる。
描いていたスケッチブックを閉じて、手早く帰り支度を済ませ校舎を出た。
夕暮れのグラウンドは部活を終えた生徒たちが、徐々に引き上げる頃で。
厳しい声も飛び交っていて、部活ともなると楽しいだけではないんだろうな、とぼんやりとそんなことを思う。

その中に見覚えのあるクラスメイトが見えた。
夏木 蒼吾。
夏休みを有意義に過ごしました!とでも主張するかのように、真っ黒に日焼けしたアイツ。
野球用のヘルメットを深く被り、バッターボックスに立つその横顔はどこまでも真剣で。
今までに見たことのない表情で、真っ直ぐボールだけを見つめていた。


…やっぱ人間、『好きなこと』になると集中力が違うな。
授業中のアイツと全然、違う。


なんてぼんやり見つめていたら。
硬質な音が耳を掠めて、白く放物線を描いて秋の空に消えた。
「ありがとうございましたっ!」
深く頭を下げたアイツが、こっちに走ってきた。
一瞬、視線が合わさったけれど。
それを気にする様子もなく、俺のすぐ横の手洗い場まで駆け寄ると、使い込まれたヘルメットを脱いで脇のベンチに置いた。
そこに止まっていたトンボが、驚いて飛び立った。



「オツカレ。もう上がり?」

蛇口をめいいっぱいひねって、頭から水を被る後姿に声を掛けた。
んー、と気のない声が返って。
蒼吾は水を被った頭を犬のように振った。


「…お前こそ。今、帰り?おっせーな」
なにやってたんだよ、とでも言いたそうな口調で顎を伝って滴り落ちる水滴を乱雑にタオルで拭いた。
「絵、やってたから」
「…絵?」
視線が俺の抱えているスケッチブックに泳いだ。
「ああ…」
そういえば、女子がそんなこと話してたっけな。と、そんなことはどうでもいいやと言わんばかりの響きが返った。
お前はいけ好かん、という雰囲気がありありと滲み出ている。
少しは気を使うとか、取り繕うとかすればいいのに。
そんなんだから、彼女に嫌われるんじゃねーの。と喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。


「野球、いつからやってんの?」
「四年の春」
「半年前?…にしては上手いよな」
「別に。フツーだろ」
「ポジション、どこ?」
「…キャッチャー希望」

面倒くさそうに答えながら、軽く乾いた頭に野球帽を被りなおした。
野球少年らしい短髪頭は、水を被ってもすぐ乾くらしい。
便利だ。

「なに。何か用?」
ふて腐れた表情でじっとこっちを見た。
「いや、別に」
用がなければ話しかけたらダメなのか?と素朴な疑問は、蒼吾には通じないらしい。
“好きな女の子”と仲のいい俺は、どうしても邪魔者でしかない。
蒼吾が話を打ち切りたがってるのがわかって。

「じゃあな。部活、ガンバレよ」

とだけ声を掛けて打ち切った。
おう、と短く答えて、蒼吾は足元に転がっていた球を拾い上げて、駆け足で去っていった。


そういえば。
蒼吾とまともに話したのって、これが初めてかも。
いつも教室の隅に陣取る蒼吾たちのグループは、クラスでもかなりの騒々しさだ。
同じクラスでありながら、アイツとの接点は少ない。
ぼんやり背中を見送って、帰ろうと踵を返した時。
ふと視線を感じた。
強い、視線────。


それを探して、橙色に沈む校舎に視線を泳がせると。
三階の端の窓に視線が止まった。
四年一組の教室。俺のクラス。





「…あ」



日下部だ…。


なにやってんだよ、アイツ────。



とっくに帰ったものだと思ってた。
荷物を取りに教室に戻った時には、誰もいなかったから。
うるさい学級委員長に捕まらなくて良かった、と。
ホッと胸を撫で下ろしながら鞄を回収したのに。


まだ残ってたのか…。


グラウンドのバックネットに掛けられた時計に目をやると、時刻はPM6時を回ったところ。
今日の授業は5時間でとっくに終ってる。
HRが終わってからかなりの時間が経っていた。

窓辺に佇むその姿は、ただ立ち止まっただけ、というのではなくて。
目的のために立っている風で。
真下にいる俺なんて通り越して、遥か向こうのグラウンドを真剣に見つめていた。
今までに見たことのない憂いの残る横顔が、なぜか心拍数を上げた。
電気の消えた教室は橙色に沈んでいて。
時折、風に舞う白いカーテンが翻って、夕日に透ける。


…なに見てんだ。



視線の先を辿る。
グラウンドで活動する部活はほとんど引き上げていて、最後まで残って練習をしていた野球部が片付けとグラウンドの整備をしていた。
まばらになった部員達に影が降りて、遠目からはその表情がよくわからない。
教室からだと、誰が誰か、認識するのも難しいだろう。
それなのに。
ただ一点を迷いもなく真摯な視線を投げかける。



「夏木ー!」


整備中のグラウンドにひと際、大きな声が響いた。
だらだらとトンボを引きずっていた蒼吾が顔を上げるのが見えた。
六年生だろうか。
駆け寄ってきた同じ野球部員に頭を軽く殴られて、バックネットの端へと連れていかれた。
先輩は“怒っている”という訳でもなさそうで、二人共笑顔まじりでじゃれあってるって感じだ。
人好きのする、人懐っこい笑顔が零れた。


一瞬、それに気を取られたけれど。
どうしても彼女の様子が気になって、また視線を窓辺に返した。




────…あ。




俺は誘われるように目を奪われた。
言葉をなくして、ただそれを見つめる。



夕焼けがやけに鮮やかだった。
長い髪がさらさらと肩を滑って胸の方へ流れた。
グラウンドを見つめる俯いた視線と相まって、夕暮れの窓辺に憂いのある雰囲気が漂う。

 


────なんて顔、してるんだよ…。




一瞬、息を詰めた。



淡い優しさが染み渡った笑顔と。
どこか切なげで、寂しそうな表情。



日下部のあんな顔。
誰も見たことがないのではないだろうか。
こんな表情もできるのか、と。
ざわめきが胸中に満ちていた。


俺は彼女の怒った顔しか知らないから。






見つけてしまった。
彼女の視線の行方────。








>>To Be Continued


ランキングに参加しています。
にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説へ


(Webコンテンツは春を待つキミに。単作品のランキングです)

押していただければたいへん励みになります。






春を待つキミに。 comments(11) -
春を待つキミに。 2
***********************

春を待つキミに。 2  サイド*佐倉

***********************
続きを読む >>
春を待つキミに。 comments(10) -
春を待つキミに。 1



想いが通じたことなんて一度もなかった。
たくさんのヒトに「好き」と言われたって。
たったひとりのキミが、振り向いてくれないのなら。
意味なんてないのに────。

続きを読む >>
春を待つキミに。 comments(7) -
| 1/1 |