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春を待つキミに。 12
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春を待つキミに。 12  サイド*凪

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「日下部にも、心配かけてすまないって」
深青ちゃんが夏木家の長女、美月さんに連れられて家に入っていくのを見届けてから、蒼吾が私を振り返った。
「蒼吾は…知ってたの?千尋ちゃんの体のこと…」
「うちに来た時も何度かやったことあるよ、喘息の発作。それに。千尋が掛かってるのって、おふくろの病院。入院も何度かやってる」
「…そう…なんだ……」
そんなの私。全然、知らなかった。


蒼吾は路地の角にある自販機で、ポカリと珈琲を買うとそのうちの一本を私に手渡した。
いつの間にか陽は西の空に傾いて、街路樹を茜色に染める。
どこまでも長く伸びる影が、ひどく寂しく見えた。
「ね、蒼吾…」
「ん?」
「私、千尋ちゃんと会うのってこれで二回目だよね?」
「はぁ?」
蒼吾が思い切り眉をしかめて、私を見遣る。
何でオレがそんなこと知ってんだよ?って、表情。
「この前、塾の帰りに蒼吾んちの前で会ったのが初めてで、今日が二回目で…」
「何、わけのわかんない事、言ってんだよ?二回目っつーなら、二回目だろ」
「そうなんだけど…。もっと前から、知ってる気がするんだよね…。どうしてだろう…」
「………」
初めて会った時にも感じた。
あれ?この子、どこかで会った事があったっけ?
ずっと前から知ってるような違和感。
はじめは佐倉に似ているから、そう感じるんだって思ってた。
でも、違う。
千尋ちゃんはずっと前から知ってる、そんな気がする。
確かにあの日が初めてだったのに───。

「“初めて会った気がしない”?」

外壁にもたれて、暇を持て余すかのように足元の小石を蹴っていた蒼吾が足を止めた。
「───え?」
「オレも、千尋と初めて会った時に思ったよ。
あれ、コイツ。前にもどこかで会ったことあるっけ?って」
足元の小石から顔を上げて、こっちを見た。
「でも……千尋とは、やっぱり初めてなんだよ」
目が合うと、少し困ったように笑う。
その意味有り気な表情に、胸の奥がさわさわと揺れた。


「…わかんねぇ?」
蒼吾が少し困ったように笑って、私を見た。
小さな溜息をひとつ。
一拍置いてから、蒼吾が重い口を開く。




「似てんだよ。
調子が悪くて座り込む姿とか、恥ずかしそうに俯く姿とか。引っ込み思案な性格とか。
全部全部、かぶるんだ。園田と───」





「…あ……」





そうだ。
ましろだ。
顔とかそんなんじゃない。
千尋ちゃんから出ている、独特のオーラや波長が、すごくましろのそれと重なった。
ふたりはとてもよく似てる。

「何で佐倉が、園田を特別扱いすんのかわかるか?たぶん、千尋と似てるからだよ。
妹を見てるみたいで、放っておけねーんだよ。佐倉は最初から、園田の事を“妹”としてしか見てない。園田が超えられないラインを、アイツは初めから引いちまってる。
でもそれを知らない園田は、佐倉が下手に優しいから、自分は『特別』なんだって錯覚する。
佐倉を好きなあいつにとって、その優しさは酷なんだよ」
だからオレは、見てらんない。
蒼吾が悔しそうに唇を一文字に引き結ぶ。

…あーあ。
コイツってほんと、よく見てる。
ちゃんと考えてる。
バカで、野球と遊ぶこと以外、考えてないようなヤツなのにさ。
ましろに関してはいつもアンテナ張り巡らせてんだ。
バカみたいな真っ直ぐな目で、いつだってましろばかり。



「…蒼吾って―――佐倉のこと、よく見てるね。嫌いって言ってなかったっけ?」


「…ばっ…」

「ば?」

「ばっかだなっ、お前! 嫌いだよ、アイツ! 何考えてんのかわかんねーし。感情ねぇし! 園田の事、泣かせてばっかだし!」
語尾がやけに強調された。
恨み、こもってんなぁ。。
「大体なぁ! オレが見てんのは、佐倉じゃねぇ。園田の側にいつもアイツがいるから、イヤでも視界に入るんだよ!」
ふて腐れた顔で、唇を尖らせた。
うわ。
子ども。

「…ねぇ…。蒼吾」
「ああ?」
メチャクチャ不機嫌な顔で、私を睨みつけた。
なにも私に当たらなくても。


「ましろのどこが好き?」
「…んだよ、いきなり」
「いきなりじゃないよ。ずっと聞いてみたかったの。いいじゃん、教えてよ。ふられた私には、聞く権利あるでしょう?」
諦める理由、作ってよ。
蒼吾は少し困ったように視線を落とすと、不機嫌なままに口を開く。

「───最初は…顔だったよ。一目惚れだった。
色白で、こう…髪とか、今よりもっとふわふわしてて。控えめでかわいいなーって。
真面目だなーとか、弱っちょろいなーとか。なにやってんだよ、とか。園田って危なっかしいから、いちいち目に付くようになって…アイツばっか見てる自分に気付いて…。気がついたらもう、園田じゃなきゃ、ダメだった───」

ふて腐れた不機嫌な顔は、いつの間にかその影を失くして。
清々しい笑みを浮かべながら語った蒼吾に。
もう、自分の入り込む余地なんてないことを思い知らされる。
「うわ。聞いてるこっちが照れるよ」
「…んだよ。言わせといて。こんにゃろ」
コツン、と。
頭を軽く小突かれた。
痛かったわけでもないのに、涙が滲む。



とっくにこの恋は失くしていたのに。
いつまでも惨めにしがみついていたのは、私だ。
もう、ちゃんと前に進まなきゃ。




「蒼吾」
「ん?」
「ましろに届くといいね。今度こそ私、応援してるから―――」





>>To Be Continued
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