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青春、始動! 2
*青春ライン STEP1

「───入部希望?」
手元のA4サイズの用紙に視線を落としたまま、低い声でそう聞かれた。
早朝練習で『顧問とキャプテンが来ていないから出直して来い』と出鼻を挫かれて。
言葉通りに出直してきた翌日の放課後、グラウンド。
ヤル気満々でキャプテンと呼ばれる森田先輩に、入部届けを提出したところなんだけど。
何?
このウザったるそうな反応は。



「動機」
「…え」
「入部動機、聞いてんの!
経験者?中学の時、マネージャーやってたとか、ソフトやってたとか」
ブンブン。
「スポーツ経験は?」
「…ありませんけど…」
「……」
ごっつい顔がますます険しくなった。
眉間に皺を寄せて、フン…とか鼻を鳴らすし。
なに。
この気まず〜い沈黙は。
もしかしなくてもあたし、迷惑がられてる?



「なに」
「…え…?」
数秒たってから驚くほど、ぼんやりと聞き返したあたしに。
「何が目的だ?」
吐き捨てるような言葉と共に、じろりと睨みをきかされた。
「男子部のマネージャーだからって、チヤホヤされると思ったら大間違いだぞ?想像以上に、マネージャの仕事はハードだ。
選手目当て───、とかの入部だったらやめとけ」
あまりにも図星な発言に、あたしはギクリと身を縮こまらせる。
何で、バレてんの?

「大体なんだ、この髪は。チャラチャラしすぎだろ。切るか縛るかしてこい!はなからヤル気、ないだろ!」
力任せに毛先を引っ張られた。
ちょっと!
乙女の髪を何だと思ってんのよ、この人は!
サラサラストレートヘアを保つ為に、あたしが毎朝、ブローにどれだけ時間をかけてると思ってんの?
切れ毛ができたら、どう責任取ってくれるのよ?
暴力反対!



「…まぁまぁまぁ…、落ち着けよ」
キッと睨みをきかせたタイミングで。
あたしとキャプテンの険悪なムードに割って入った命知らずなバカなヤツ。
ユニフォームの胸の刺繍は『神』って文字。
───ジン?
閻魔大王のように威圧してくるキャプテンの隣で微笑む彼は。
ホント、あたしにとって神さまのように見えた。



「何?一年生?マネージャー希望なの?」
鬼の手から入部用紙を抜き取って、神さまが微笑んだ。
柔らかい人好きのする笑顔を浮かべながら、あたしと手元の用紙を交互に見比べる。
ああ、よかった。
やっとまともな人に対応してもらえる。

「マネージャー、やりたいんです。やらせてください」
ホッと安堵の息を漏らして、あたしは深々と頭を下げた。
鬼キャプテンに───ではなく、神さまのようなジンさんに。
たぶんこの人も三年生だ。


「…いいね。マネージャー。サポートしてくれる奴、欲しかったから、ちょうどいいんじゃない?」
想像以上にすんなりいい返事が返ってきて。
「え…じゃあ…」
パッと顔を輝かせたあたしとは正反対に。
「オイ!ジン…!!俺は認めるつもりないぞ!」
キャプテンが食ってかかった。
なんで?
そんなにもあたしが気に入らないですか?
一触即発。
睨み合ったあたしたちの間に割って入って。
「まぁまぁ、最後まで聞けって」
憤怒するキャプテンをなだめながら、ジンさんが笑顔を浮かべたまま、あたしを覗き込んだ。


「真崎さん、さ。君は何で野球部のマネージャーになんかなろうと思ったわけ?汚いしさ、汗臭いし。憧れだけでやれるもんじゃないよね?
コイツが言うように選手目当ての入部なら、吹奏楽とかチアとか…それで十分だと思うんだよね?
応援する方法なんて、いくらでもあるんだし───」
「そんなの…わかってます。厳しいのも覚悟してます。
───でも、どうしてもやりたいんです」
センパイの傍にいたいから。
少しでも長くたくさん。
センパイの力になりたい。
頑張っているセンパイのことを遠くで見てるだけなんてイヤ。
あたしはセンパイと一緒に、同じ舞台で夢を追いかけたいから。
その為にこの高校を選んで、こうやってここにいる。
センパイを追いかける為に必死だった中学三年生の一年間も。
これからの二年も。
一緒にいられる時間は、少しも無駄にはしたくない。
だから。

「お願いします!あたしにもお手伝いをさせてください!!」

あたしだって必死。
こんなところで引き下がれるもんですか。
諦めたらそこで終わっちゃう。
そんなのは、イヤだ。
あたしは制服のスカートのポッケに入れたお守り───センパイからもらったネームプレートをしっかりと握りしめた。




どれくらい沈黙が続いただろう。
「真崎さん、顔上げなよ」
ふたり分の深い溜息が聞こえた後、柔らかい声色でそう言われて。
あたしはじわりと顔を上げた。
そうしたら。
キャプテンとジンさんが諦めたように肩をすくめていて。
あたしを見下ろす視線とぶつかった。


「俺らもさ、マネージャーは欲しいって思ってる。
チームに貢献できる、支えてくれるマネージャーが欲しいって。俺が言ってる意味、分かる?
お荷物になるならいらない───ってこと。マネージャーはチームの花や飾りじゃないんだよ。同じマウンドに立てなくても、立派な戦力のひとつなんだ」
「あたし、やれます。
チヤホヤされたいとか、楽そうだからとか。そんな中途半端な気持ちじゃないです」
センパイ目当て…の入部は否定できないけど。
「マネージャー、やらせてください!
チームが勝ちあがるためのお手伝いをあたしにもさせてください。お願いします───!!」
絶対、引かない。
諦めたくない。
そんな気持ちであたしは体をうんと折り曲げて、懇願した。




「そんなに言うなら、入部を考えてやらんこともないぞ」
先に口を開いたのは、神さまのようなジンさんではなく。
鬼のようなキャプテンだった。
あたしは思わずバッと顔を上げて、まじまじとその顔を見つめた。
「ホント…ですか?」
「ただし───。条件がある。お前、1Dだったよな?」
キャプテンが手元の入部届けとあたしの顔を交互に見比べてニヤッと笑った。
ナンデスカ?
その意味深な微笑みは。

「お前のクラスに寺島っているだろ。そいつ、野球部に連れてこい。そいつをうちにスカウトできたら、入部。認めてやるよ」

は……?いいぃ???
寺島って、何?
誰??
どうしてあたしが…!


「マネージャーはチームにどれだけ貢献できるか───だろ?それぐらいできるよな?」
キャプテンは意地悪い笑顔を浮べて、あたしに入部届けを付き返した。
「それ。受理される時は、もう一枚、寺島の分が必要だからな。ガンバレよ」
神さまのようなジンさんも。
キャプテンと同じ意見らしくて。
フォローも何もなく。
「期待してるからね」
その言葉と笑顔だけ残して、放課後のグラウンドに消えて行った。


どうやら。
あたしの恋は、前途多難。
そう簡単にはいかないらしい。





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