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全力少年 2
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この恋、根気勝負   サイド*蒼吾

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園田がうちに来たのは3度目だ。
一度目は二件隣にある日下部の家に来た帰り。
もちろん日下部付きで。
奥手な園田の為に、日下部が気を利かせてきっかけを作ってくれた。


2度目は久しぶりに一緒に帰った学校帰り。
オレがよく、鼻歌混じりに口ずさんでいるCDを借りに寄った。
「玄関先でいいよ…」なんて。
遠慮がちに笑顔をこぼして、園田は家へ上がろうとはしなかった。
だけど。
我が家のうるさい姉貴に見つかって、つかまって。
結局、夕飯まで食べて帰った。
オレのカノジョなのに、アイツらに独占されるのは少々しゃくだったけど。
妹や姉貴達のくだらない世間話に耳を傾けながら、嬉しそうに笑っている園田を見てると、こういうのも悪くねぇなって、しみじみ思った。
うるさく賑やかないつもの食卓の中に園田がいるのって、すげぇ不思議。
口数は少ないけど、どんな些細な話題にでも耳を傾け、ひとつひとつの話に驚いたり、笑ったり、相づちを打ったり。
表情のくるくる変わる素直な園田の事を、姉貴たちはひどく気に入ったらしい。
引っ込み思案で、人見知りは激しいけどさ。
心を許した人間に対しては驚くほど表情が豊かなんだ、園田は。
そんな家族とのやり取りを見てると、自然に顔が緩む。
それを誰にも気付かれないように頬杖を付いて眺めた。
ニヤニヤと表情の緩みっぱなしの情けないオレを。
園田にも家族にも、絶対、見せらんねぇ。
姉貴たちに弱みをにぎられるなんて、もってのほか!

自分のカノジョを気に入られて、褒められて。
もちろん悪い気はしねぇ。
だけど。
「あんないい子が蒼吾の彼女なんて。アンタには勿体無いわ」
みんなが口をそろえて言う。
わかってんだよ。
そんなこと、オレ自身が一番よく自覚してる。



「外、すっごく暑かったよ」
ノースリーブの袖から見える園田の腕は、夏とは思えないほどに白く華奢だった。
器用にねじってまとめた夏髪。
白い首筋がちらちらとオレの視線を誘う。
制服とは違う妙な色気と清々しさが漂って、気を抜くと口元が弛む。
「あのね。アイス買ってきたの。一緒に食べよう?」
差し出されたハーゲンダッツの紙袋。
園田が夢で食べていたのと同じ苺のアイスが、ちょこんと、その存在を主張するかのように入ってやがる。
ちょっと待て。
どこまでが夢で、どこからが現実?
っていうか、これって正夢!?
実はオレ、予知夢の才能がありましたーって…?
あまりにも出来すぎだろ!
右の頬を軽くつねってみる。
イテェ。
「蒼吾くん?」
オレの不可解な行動に園田がきょとんと目をまん丸にして、上目使いに首を傾げた。
やべ。
今日、押さえる自信───ないかも。


「とりあえず食おっか」
炎天下の中、歩いてきた園田の頬は火照って真っ赤。
そんな彼女を促して、縁側へと誘う。
打ち水をした後の縁側は、ちょうど影に入り込んでいて風が吹くと涼しくて。
クーラーのないオレの部屋より、よっぽど気持ちがいい。
程よい湿った風が、風鈴をチリンと鳴らす。
「ん」
残ったアイスを冷凍庫に入れるついでに台所から取ってきたスプーンを園田に手渡した。
テイクアウト用のスプーンじゃ、どうも食いづらい。
「ありがとう」
嬉しそうに受け取った園田が選んだアイスは、案の定、苺で。
妙な期待にオレの心をそわそわさせる。


「美味しいね」


隣で無邪気に園田がアイスをほお張った。
甘さと冷たさに、表情が緩みきってる。
最上級に甘い園田の笑顔だ。
オレと同じく甘いものが大好きな園田は、こういうもんを食ってる時、すこぶる幸せそうな顔をする。
どんなに美味いもん食ってんだ?って、味見してみたくなるような顔。
見てるこっちの方が甘さにとろけそうだ。

「…なに?」
あまりにもオレがじっと見つめるもんだから、園田が不思議そうに首を傾げた。
「うまそうに食うなと思って」
「だって。美味しいんだもん」
ふにゃりと満足そうな笑顔が可愛い。
「あ…もしかして…。蒼吾くんも苺のアイスがよかった?
とっかえっこしようか?」
まるで小さな子どもにでも言うみたいに無邪気に微笑んで、園田がカップを差し出した。
くりんとしたまぁるい目に、オレの姿が映りこむ。
「園田」
オレは軽く身体を折り曲げて、下からのぞきこむように視線を合わせた。
「うん?」
カップを差し出したまま首を傾げた園田の手を引き寄せて、軽く唇を押し付ける。
重ねた唇は、甘く冷たく。
園田が食べていた苺のアイスそのまんまの味がした。
もっと深く味わいたい気持ちを押さえて、軽くキスしただけで園田を解放してやる。
自制心が効かなくなる前の予防線。


不意打ちを喰らった園田の丸っこい目が、ますますまんまるに見開かれて、一点にオレを見つめた。
キスした拍子に落ちた横髪が一筋だけ、頬に掛かる。
「髪まで食っちまいそうだな」
頬に掛かった髪を取ってやる。
その瞬間、園田の頬がぱあっと朱に染まった。
カップを差し出したままの格好で、固まってしまう。
こういう素直な反応が、すげぇ可愛い。
だけど、逆に拒絶も素直で。
嫌な時は、全身でオレを否定する。
子どもみたいに顔をくしゅくしゅに歪めて、泣きそうな顔で。
この前、屋上で押し倒した時みたいにさ。
見てるだけで満足していたあの頃とは違う。
華奢な腕を捕まえて、細い身体を抱きしめて。
ふっくらした桃色の唇にキスすることも今のオレには可能なわけで。
だけど。
“いつでもできる”が、“いつしてもいい”に繋がらないから厄介だ。
触れたいけど、泣かせたくはない。
ひとつづつ、一歩ずつ、確実に。
そうやって園田との距離は縮めていくしかない。



「───蒼吾」
背後から降ってきた声に、オレと園田はビクと身体を縮こまらせた。
恐る恐る振り返ると、トレイを抱えた一番上の姉貴が立っていた。
「お茶。淹れてきたから、ここに置いておくわね」
チラリ。
オレを睨み見た。
もしかして、見られてたのか?今の。
ていうか。
買い物行くんじゃなかったのかよ!

「あら、それ…。さっそく使ってくれてるのねぇ」
軽く耳の横でねじってゆるく留めた園田の髪。
そこに涼しげな光を反射させて輝くまぁるいガラス玉。
先週、姉貴が温泉旅行に行った時に園田のお土産に買ってきた髪飾り。
トンボ玉っていうらしい。
涼しげで清楚な藤色が、園田にめちゃくちゃ似合ってる。
「夏っぽくて可愛いから、すごく気に入ってるんです」
「ましろちゃんによく似合ってる」
「…ありがとうございます」
園田の頬が桃色に染まる。
「それじゃあ、私。今から出かけてくるから…」
何か言いたげにオレを横目で覗き見た。
…んだよ。
言いたいことぐらい、分かってるよ。
「ゆっくりしていってね」
オレに釘を刺すことは忘れず、姉貴は買い物に出かけて行った。


「お姉さん、すごくいい人だね」

園田にとったら“いい人”に違いない。
「どうしたの?」
「別に。何でもねーよ」
「うん…?
そろそろ勉強しようか?」
食べ終えたカップを丁寧にふたつ重ねて、園田がトレイを持ち上げた。
ワンピースの胸元から覗く園田の肌の白さに、やまさしを感じて、思わず視線をそらす。
ヤバイよ、オレ。
めちゃくちゃ意識しすぎ。
「蒼吾くん? 行こ?」
園田が甘い笑顔で振り返った。



「な。園田…。今日、やっぱり図書館で勉強しねぇ?オレの部屋、クーラーないんだ」


あーあ。
血流盛んなお年頃って、ヤダね。




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全力少年(魔法のコトバ* 続編) comments(7) -
全力少年 1
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事の起こりはこうだった   サイド*蒼吾

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はじまりはいつも、雨 1

THREE

そういうのって。
前ぶれとか、予感とか。
そういうものがちゃんとあるんだって思ってた。
私がいつもそれに気付けないでいるのは、シアワセで周りが見えなくなっているのか。
それともただ単に、鈍感なのかわからないけれど。
それはいつも、突然やってくる。

ないって気付いたときには、もう随分経っていて。
どこで失くしたのか、いつ失くしたのか。
それさえ検討がつかなくなってしまって、八方塞がりになってしまう。
私はいつもそう。


気付くのは、手遅れになってから。











「梓、ゴメン。鍵、貸してもらえる?」
両手いっぱいに資料を抱えたまま、私は隣のクラスの同期を覗き込んだ。
「今、手が離せないから鞄の中、探して持って行っていいよ。
たぶん内ポッケの中」
「んーー」
抱えた資料をロッカーの上に置いて、遠慮なく梓の鞄を開けさせてもらう。
梓の記憶通り、探し物は内ポケットの中からすぐに見つかった。
「じゃ、借りて行くね」
それをジャージのポケットにしまい込んで、運んできた資料を抱え直す。
「まだ、みつからないの?」
「ん〜。いろいろ探したんだけど…」
「もう三月になるよ?」
「うん…。どこかで落としたのかなぁ……」
行方不明なのは、職場の資料室の鍵。
それがないって気付いた時から、もうすでにふた月。
どこかで失くしたのか、それとも落としたのか。
検討すらつかない。
「正直に、言った方がいいんじゃない?失くしましたって」
「それは間違いなく、雷だね…」
園児達の個人情報を保管している大事な資料室の鍵。
就職した当初にくれぐれも失くさないように!と釘を打たれて、渡されたものだ。
失くしたなんて知れたら、雷どころじゃ済まない。
責任取って辞めさせられたり…までは、しないよね?



「通し番号付いてるから、スペアじゃヤバイでしょ」
「返す時にバレちゃう。それこそ大目玉だよ」
「荷造りの時に、見つけられなかったの?ちゃんと探した?」
「探したよ〜!クローゼットとか、服のポケットとか、引き出しとか…。
全部ひっくり返して探したんだけど…ないの」
「酒井サンちは?」
「思いつくところは探したんだけど、見つからない。やっぱりどこかで落としたのかな…」
探し物が見つからない時って、どうしてこんなにもどかしいんだろう。
考えれば考えるほど、へこむ。
「ま、今すぐにどうこうってわけじゃないからさ、もう少し探してみれば?私も幼稚園の中とか注意して探してあげるから」
どんどんテンションダウンしていく私を気遣って、梓が困ったように笑って言葉を掛けた。
「それに今日は酒井サンと会う約束してるんでしょ?そんな沈んだ顔、しないしない!」
「あ…───!」
慌てて腕の時計を覗き込んだ。
約束の時間まで、もう一時間もない。
「ゴメン! 梓。話はまた今度!」
ロッカーの上に置いた資料を急いで抱えなおす。
「久しぶりのデートなんだからさ、存分に甘えてくるといいよ」
ニヤニヤしながら手を振る梓に、もう!と頬を膨らませて。
私は早足で資料室に向かった。
抱えたたくさんの書類を所定の場所に戻して、きっちりと鍵を閉める。
それを失くさないように梓に返して、ひと足先にロッカールームに向かった。





年が明けてからのともひろは仕事が忙しく、すれ違いばかり。
私自身も。
ともひろと一緒に住む為の荷造りだとか、仕事も忙しかったりで。
お互い、ゆっくり会う時間がなかなか取れなかった。
電話やメールのやりとりは、毎日してる。
でも、それだけじゃ足りない。
声を聞けば聞くほど、会いたくなって、触れたくなって、ずっと側に寄り添って離れたくないって思う。
一緒に住もうって、クリスマスの日に渡されたともひろの家の鍵は。
まだ使われることなく、肌身離さず大事にしまってる。
そういう話を含めて、今夜会おうって、久しぶりに朝まで一緒にいようって、今朝、連絡が入ったのだ。
嬉しい。



おろしたてのワンピースに袖を通して、ロッカーからブーツを取り出した。
天気予報は午後から雨。
ブラインドの向こうは、冷たく細い雨が静かに降っていた。
こんなに降ってたらお気に入りのワンピースに泥はねして、ひどく汚れそう。
やだな…。
そんな事を考えながら、最後にコートを羽織った。



「───とわ先生」
ロッカールームのドアノブに手を掛けたタイミングで。
勢いよく、外側から扉が開かれた。
顔を覗かせたのは、私のひとつ上の荒木先生。
「よかった! ここにいたのね。探したのよ」
少し息を弾ませて、人好きのする笑顔で話しかけた。
「今、外にお客さん。来てるみたい」
こんな時間に誰だろう。
用件しだいでは、指定の時間に間に合わないかもしれない。
そわそわしながら腕時計をちらりと覗き見た。
「誰ですか?」
「幼稚園関係者…って具合じゃなさそうなんだけど…」
私の質問に荒木先生が困ったように顔を曇らせた。
もしかして。
ともひろが外で待ってるんじゃ…。

「高校生なの」
高校生?
ナンデ?
「雨の中、ずっと待ってる風だったから声を掛けてみたんだけど。もしかして、園児のご兄弟だといけないから。でもそんな風じゃなくて…」
「っていうのは?」
「人を待ってるって言うの。花井とわさん、いますか?って───」
だから、ナンデ高校生?
ナンデ私?


「どうする?心当たりがないのなら、帰ってもらうけど…?」



ブラインドの隙間から園舎の入口を除き見るけど、見えるのは門扉の影に見え隠れする傘だけ。
ここからじゃ何も見えない。
「どう?知ってる子?」
「…わかんない…」
荒木先生の目は、興味津々。
どういう知り合いかって、勢いで問いただされそう。
ていうか。
私が聞きたい。
「とりあえず行ってみます。私に用があって来てるんでしょう?
もしかして園児のご兄弟かもしれないし…」
その線は薄かった。
もしそうなら、こそこそと幼稚園の外で待ったりしない。
「そう?」
「私、今日はもうそのまま帰りますから。お疲れ様でした」
笑顔を作って頭を下げた。
興味津々と意思表示された背中に、あえて明るい声で。


悪いことをしているわけでも、後ろめたいことがあるわけでもないのに。
ひどくキモチが焦った。
胸騒ぎが、した。




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