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全力少年 3
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トラブルメーカー    サイド*蒼吾 

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「───で?
結局、図書館で仲良く勉強して、それで終わり!?」
学期末テストを終えた放課後、グラウンドが見渡せる体育館への渡り廊下。
呆れた表情で涼が言った。

「いくら姉貴に釘を刺されたからってさ、せっかくのチャンスを棒に振るなんてありえないだろ!」

結局、テスト期間中。
何度か園田とふたりっきりになるチャンスがあったのに、何ひとつ進展ナシ。
付き合って半年。
オレと園田の関係はキスどまりのままだ。

「フツーさ、半年も付き合ってたらキスより先に進みたいって思うのが、男の性だろ?園田ちゃんだって、その先を期待してたかもしれねーじゃん?」
「園田が?」
ありえねー。
そりゃ、その場の雰囲気に流されやすいタイプだからさ。
強く押せば、イヤとは言わないだろうけど。

「日下部なんて、佐倉と付きあうようになってからめちゃくちゃキレイになったじゃん! 艶が出たっていうか、ますます女に磨きがかかった。あれ、何かあったんじゃねー?」
涼は男のくせにお節介だ。
やたらと他人事に首を突っ込みたがる。

「ジンさんがよく言ってるじゃん? ピンチはチャンスだって」
「それとこれと、何の関係があるんだよ?」
「園田ちゃんの貞操のピンチ───ってえ!!」
「一回、死んでこい。この色ボケ!」
オレは思い切り、涼の頭を殴りとばした。
ったく。
想像豊かなコイツの頭の中で、どんな妄想が繰り広げられんだか。
「ったく。贅沢な悩みだよなー。こっちは女っ気ひとつないってのに」
叩かれた頭をさすりながら、涼が溜息混じりに言葉をこぼす。
「相棒がどうやって次のステップ進んだか!?って、妄想に走るしかねーじゃん」
「だから! 想像すんなって!」
「かー! 健全な男子高校生の言うセリフじゃないね、それ! 妄想は男のロマンだ!!」
スパイクを履き終えた涼が、偉そうに踏ん反り返った。
今日から部活解禁日。
久しぶりのグラウンドの匂いに、うんと身体を伸ばして大きく息を吸い込む。
上級生よりも早くにグラウンドに入っていた後輩達が、ちょうど整備を終えた後のグラウンドの地面。
ゆらゆらと陽炎が立ち昇り、めちゃくちゃ暑そうだ。


「園田ちゃんさ、お前と付き合うようになってから可愛くなったよ。
あまりうつむかなくなったし。ちゃんと見れば可愛かったんだなあ」
「園田は最初から可愛いよ」
「それだよ、それ!
向こうは“蒼吾くん”って、名前で呼んでんのに、こっちは未だに園田? 半年も付き合ってんのに? ありえねー」
「んだよ。自分だったら呼べんのか?」
「オレ? そういうの抵抗ないから」
屈託ない笑顔を見せて、涼が笑う。
中坊みたいな顔してっくせに、涼は肝が据わってる。
野球部の中でも“ここ一番!”って時の度胸と行動力はぴか一だ。
伊達にエースナンバー背負ってねえ。



「園田ちゃんってお前のこと、心底好きー!って感じだもんな。こんなヤツのどこがいいんだか。
余裕ぶっこいてると、他の男に攫われるぞ?
女って押しの強い男に弱いじゃん? 園田ちゃんの事が好きって男が現れてさ、そいつが押しの強いヤツだったりしたら…案外、流されちゃうかもよ?」

ニヤニヤと嫌味な笑みを浮かべながら、涼がオレを覗き込む。
絶対、おもしろがってる。
「実際、佐倉の事が好きだったのに、諦めの悪〜いお前の押しに負けて付き合ってるんだから、ありえない話じゃない! 最近の園田ちゃん、人気急増中だって知ってるか?
今まであの美人の日下部の影に隠れて目立たなかっただけで。単品で見ると、結構かわいいかも───っとお!」
オレは無言で涼に向かって足を蹴り上げた。
おう!と。
大げさな声を上げて、かすりもせずにそれをよける。
コイツの反射神経や運動能力は、オレより上だ。
ちきしょー。
「安心して余裕ぶっこいてると、マジで持ってかれるぞ〜?」
帽子を深くかぶって、振り返りざまに嫌味な言葉を残して涼はひと足先にグラウンドに向かう。
ったく。
余計なお世話だ。




「蒼吾」
「…おう。日下部」
噂をすれば何とやら。
振り返った先日下部の綺麗な顔がオレを見下ろす。
「ましろ、来なかった?」
「来てねーけど…」
「そう。蒼吾を探してたから、てっきりここだと思ったんだけど…」
入れ違いになったのかな? 綺麗な顔を曇らせる。
「何? 急ぎの用?」
「ケータイ。忘れてたから持ってきたの」
「渡しとこうか? オレを探してんなら、どっかで会うだろ」
「でもこれから部活でしょ? 野球部は遅くまでやるから。会えないまま部活になっちゃうと、ましろが困るでしょ」
スカートの折り目を気にしながら、日下部がオレの隣に腰を降ろした。
短いスカートの裾から膝小僧が覗く。
「テスト、できたの?」
「…なんでオレに聞くんだよ」
答えが分かりきってる話題を、わざわざオレに。
「ましろと一緒に勉強したんでしょ? あの子の教え方って分かりやすいから、少しはマシかなーと思って」
「したにはしたけど…」
園田の教え方はすげぇ分かりやすかった。
4年も海外生活をしただけあって、大学上がりの英語教師よりも発音が綺麗だ。
おまけに優しくて丁寧。
だからといって、テストができたかといえば話は別。
「それにオレは、日本人だ!」
「……何、わけのわかんないこと言ってんのよ…」
日下部が呆れたように眉根に皺を寄せる。
「日本人に英語は必要ねーってこと」
「要は全く出来なかったってことね。…蒼吾に聞いた私がバカだったわ」
心底、諦めたように日下部が溜息を漏らす。
だから。
オレに聞くのは間違いだって言ったじゃん。


「ねぇ、あれ…って───常盤大付属の制服?」
日下部に促されて視線の先に顔を向けると、体育館の入口がやけに賑やかだった。
見慣れない制服の集団が視界に飛び込む。
「あー…。そうかも」
シャツに緑のネクタイ。
左の肩口には、常盤大付属のTのイニシャルの入ったエムブレム。
「部生っぽいよね。練習試合かな…」
「そうじゃねぇ?」
夏服にタイって、暑そうだなぁ。
なんて、他人事のようにそれを見ていたら。



「お前ら───相変わらずつるんでんのな」

後方から声が降ってきた。
その声に弾かれるように振り返った日下部が、あからさまに嫌な顔をした。



「…なんで、アンタがこんなところにいるのよ?」


「いちゃ悪いのかよ?」


間髪入れずに苛立った言葉が返る。
嫌〜な予感がして、オレはじわりとそれを振り返った。
その先には予想通りの人物が、オレらを見下ろすように立っていて。
偉そうに腕組みをした姿勢で、見下すような冷めた一重の瞳が日下部を睨みつけていた。

「久しぶりだな、蒼吾!」

眼光鋭い一重の瞳が表情を緩ませた。





久しぶりも何も。
このまま会わずにいられたら、平和でいれたのに。

中学卒業以来、久しぶりに顔を合わせたもとクラスメイト。
安部 嵐(アベ アラシ)。
コイツがでてくると、ホント、ろくなことがない。






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