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バースディ・バースディ 4 とPASSについて。



本日。
バースディ・バースディ4を更新しました。
R-18程度の描写を含む為、本館からはずします。
18歳以下の方はご遠慮ください。

なお。
興味本位ではなく、ふたりのこれまでの成長の過程を読んでくださった方にのみ、読んでいただきたいという理由から、PASS制にさせてもらっています。
一度cookieに登録すると次回ログインフォームが省略されます。
再度利用される場合はcookieを有効にして、パス保存をされるといいかもです。






では。
以下、新しいページの入り口とPASSです。
18歳以下のお嬢さま方は、誕生日までしばしお待ちを。
続きを読む >>
更新とお知らせ comments(18) -
バースディ・バースディ 3




「まあ、飲めや」



出先から戻ったオレと園田が夕飯の席についた時には、じいちゃんはもう、とっくに出来上がっていた。
炒った小海老を片手につまみながら、オレにお猪口を押し付ける。




「グッといけ。一気じゃ」

……じいちゃん?
オレ、未成年。高校生。





「飲めんクチじゃないやろうが?」


そりゃそうなんだけど。
オレにとって、今夜はここ一番。
酔っぱらって、爆睡して。
目が覚めたら朝でしたーなんて、洒落にもなんねえから。






「蒼吾が飲まんのなら、代わりにましろちゃんが飲むか?」

オレに断られたもんだから、ターゲットは園田に。
いやいや、じいちゃん。
園田なんて、もっとダメだろ。
酔いつぶれんのは、目に見えてる。
「なあに。お猪口一杯ぐらい、水みたいなもんじゃけん」
そりゃあ。
酒豪のじぃちゃんからしてみれば、それっぽっちの量、酔いの足しにもならないんだろうけど。
園田がその一口で、どんなことになるのか……オレにだって想像できる。
じいちゃんが押し付けた゛ひめさくら゛なんて、可愛い名前の日本酒は。
愛媛の地酒の中でも、アルコール度数はぴか一だ。






「じゃあ……ちょっとだけ…」

強く押し切られて、園田がお猪口を口に運ぶ。
わーっ!
ちょっと待てーっ!!





「たんま! たんまっって───!!」



明日は付き合うから、今夜だけは勘弁して───!














ひたすらに酒をすすめるじぃちゃんをうまくかわしつつ。
酒と話に付き合って4時間。
オレと園田がようやく解放された時には、壁の時計は、10時を回っていた。
押入れからタオルケットを引っ張り出してきて、気持ちよさそうにいびきをかくじぃちゃんに、そっと掛けてやった。



「おやおや。じいちゃん、寝てしもたんやねえ。飲めば絡んでくる人が、珍しい。
いい顔して寝とるわ…。よっぽどいいお酒やったんやねぇ」


腰巻きエプロンで手を拭きながら、ばあちゃんが台所から出てきた。
ひと通りの後片付けを終えて、ようやく腰を降ろす。
もてなし好きな人だから、客がテーブルを囲んでいる間は、せわしなく動いてないと落ち着かないんだろう。
晩酌が終了して、じいちゃんも寝てしまってから、ようやくだ。


「じいちゃんな、蒼ちゃんがましろちゃんを連れてくるん、すごい楽しみにしとったんよ」
「うん。何度も聞かされた」
苦笑しながらそう言うと、ばあちゃんが「ありがとうねえ」と笑う。

「部屋に運ぼうか?」
夏つっても、山間の夜は冷える。
このままじゃ、風邪引くだろ?
「かまんかまん。そのうち、起きるけん。そこで寝かしとけばええよ。
それより───お風呂沸かしたけん、入っといで。ゆっくり浸かって、旅の疲れを癒したらええ。これ、タオルと着替え」
そう言って、箪笥の上の籠に用意してあった、ふたり分のタオルと着替えを園田に手渡した。
真新しいそれからは、石鹸とお日さまの匂いがする。
今日の為におろして、汗を吸いやすいようにと、洗濯しておいてくれたんだろう。



「オレは後でいいから、園田、先入ってくれば?」
「…うん」
「風呂場、こっちだから」

案内しようと立ち上がった背中に、もう一度、声がかかる。




「───蒼ちゃん」

「なに?」




「別に順番に入らんでも、一緒に入ったらええが。ふたりでゆっくり入っといで」







その言葉に、特に深い意味はないと思う。
ばあちゃんの中ではもう。
オレと園田は、長年連れ添った夫婦のように、認識されてるんだろう。


だから。






そんなストレートに受け止めなくても、いいと思うぞ? 園田───。






耳まで真っ赤に染めた顔を、思い切り強張らせて。
オレを見上げてくる顔が、NOと言ってる。
動揺が顔に出まくりだ。
そりゃあ、キスだけの清い関係?(あえて疑問符で)のオレらにとって。
いきなり風呂っていうのは、ハードルが高いワケで。
シャイでガードの固い園田サンが、首を縦に振るはずがない。
風呂場で園田の身体をまじまじと……なんて、オイシイ経験をしたいのはやまやまですが。





「……遠慮しとくよ、ばあちゃん」




襲わない自信、ねえから。
癒す為の゛ゆっくり゛が、園田をじっくり味わうことになっちまう。
えらいこっちゃ。







「あの……っ、蒼吾…くん……っ」

園田の手を掴んで、ギシギシと軋む廊下を歩く。
風呂場の戸を開けて、戸惑う彼女を中に押し込んだ。






「大丈夫。一緒に入ろうなんて、言わねえから。安心して、ゆっくり浸かって」




昔から、オレ。
大好きなものは最後に取っておくタイプ。
一番のお楽しみは、後にとっときマス。














「えー。なんで……?」



風呂から出てきたオレを見上げて、開口一番。
園田がむくれた顔でそう言った。
眉間と鼻に皺を寄せて、頬を膨らませて、口がへの字だ。
あーあ。
可愛い顔が台無しなんですけど。





「蒼吾くんだけ、ずるい……」


園田が拗ねた原因は、たぶんこれ。
オレが手にした男物の浴衣だ。
ばあちゃんが寝巻き代わりにって、用意してくれたんだけど───風呂上り、オレはTシャツに短パンだ。
浴衣なんて、窮屈で着れるか。

「似合うと思って、楽しみにしてたのに……」


そう言う園田は、先に風呂を済ませて、ばあちゃんが用意してくれた浴衣に袖を通して、オレを待ってた。
うちわでぱたぱたと涼を取りながら、縁側に腰掛けて。
桔梗……って、いったっけ?
紺地に青紫のちょっと古めかしい花柄。
深いうぐいす色の帯は、浴衣がはだけないように機能するだけのもの。
縁日で園田が着ていた、レースや飾りで彩られたイマドキの浴衣とは違う、シンプル一色だ。
へえ。
こういうシックな浴衣も、よく似合う。
紺の色に引き立てられた園田の肌の白さに、オレは思わず喉を鳴らした。






「どうして、着ないの?」
「あんな暑苦しいの、着れるか。邪魔臭くて寝れん」


祭りに行くならともかく、寝るのに浴衣だぞ?
簀巻きにされてる気分だ。




「…じゃあ……私も、着替えてくる…」
「園田はいーって。そのままで。せっかくばあちゃんが用意してくれたんだからさ、オレの分まで着てやって」
「だったら、蒼吾くんも───」
「オレはいいの。いつものことだから」



ばあちゃんは、サザエさんちのフネさんみたいだ。
寝巻き代わりに浴衣を着る習慣は、昔から変わらない。
んでもって、毎回。
オレや泊まった家族の分も、浴衣を用意してはくれるんだけど……。
慣れない浴衣じゃ寝られないオレは、いつもTシャツ・短パンだ。
オレが浴衣を嫌がんの、ばあちゃんもよーく分かってるはずなんだけど。
園田と一緒なら───って、思ったに違いない。
ゴメン、ばあちゃん。





「お揃いで、着たかったのにな……」
「また今度な」
「………でも…」
「いいから。園田はそのまま着てて」




脱がす楽しみができるから。
どうせなら、そういう格好の方が萌える。
って、オレ。
朝からそういう想像ばっかだ。
重症。







「食う? うちの畑のスイカ」


邪念を振り払うように頭をぶんぶん振って、真っ赤なスイカが入った大皿を、縁側の廊下にドンと置いた。
「よく熟れてっから、すげえ甘いぞ?」
オレも。
ばあちゃんが切ってくれてる間に、一切れ拝借した。
甘くてみずみずしくて、スーパーに並んでるものとは、格が違う。



「わ…。ホント、真っ赤だ…。あ、美味しい!!」


小さな口を大きく開けて、オレの隣でスイカにかぶりつく。
「それに、すごく冷たい! コメカミがキンとしちゃった……」
単純な園田に、思わず笑みがこぼれる。
だって、スイカひとつで、もう機嫌が直ってんだもんな。
コロコロ変わる表情から、目が離せない。


「これな。川で冷やしたんだぜ? ネットに入れて、流されないように石で固定して…」
「……ホント?」
「すげえだろ? 天然冷蔵庫!」
「だから、うんと美味しいんだね……」


園田が頬をほころばせて笑う。
あー、もう。
可愛い。
後ろにばあちゃんさえいなければ、絶対、押し倒してる。








「これ。冷やしとったんやけど、飲まんかね?」
ばあちゃんが、コトンと、2本の瓶を置いた。
ようやく全ての家事を終えたようで、腰巻エプロンを外す。
「園田。炭酸、平気?」
返事を聞く前に、1本、栓を開けた。
碧く透明の瓶からしゅわしゅわと気泡が上がり、開放されたビー玉が、青いソーダ水の中を泳ぐ。
「少し苦手なんだけど……ラムネなら飲みたい」
「…なんだそりゃ…」
「だって……。その瓶に入ってるってだけで、おいしそうじゃない? なんだか、飲まなきゃ損みたいな気がして……」
「食い意地、張ってんなあ」
冗談めかして笑ったら、ポコンと殴られた。
いてえ。
「一緒に飲む?」
「…いいの?」
「どうせ1本は飲めないんだろ? オレも───5きれもスイカ食ったから、水っ腹」
大げさに腹をさすって見せたら、園田がくすくすと笑った。
「ん。お先にどうぞ」
「ありがとう。じゃあ、ひとくち…」
園田が口に運んだら、瓶の中で炭酸が弾けた。
ビー玉が中で踊る。
すっぱい!と、一瞬、顔をしかめた園田が可愛くて、声を立てて笑う。


「最近、こういうちゃんとした瓶のラムネって、減ったよね? 飲み口がプラスチックだったり、容器全部がプラスチックだったり……」
「缶に入ったラムネ───なんてのもあるよな? あれをラムネつうのは、間違ってね? こういう瓶に入ってこそ、ラムネだと思うんだけど」
「うん、私も。そう思う」


あとは飲んでねと、園田が残りを手渡した。
ホントにひと口飲んだだけ。
全然、減ってねえの。
マジで炭酸、苦手なんだな。
……これって、間接チュウ───?
そんなばかげた事を考えながら、オレも喉を潤した。


「私ね。昔───瓶の中のビー玉が欲しくって…無茶して、ママに叱られたことがあるの」
「割ったんだろ?」
「うん。割れた破片が飛び散って、顔に怪我しちゃったから……」
「そりゃまた……」
飛び散った破片で怪我って、どんだけ激しく割ったんだよ?
「女の子が顔に傷つくって、どうするの! 誰も、もらってくれないわよ!って、ママが激怒して。
何でそんなに怒るの? ただ、ビー玉が欲しかっただけなのにって───悲しくて、わんわん泣いた。おまけに、割れた拍子にビー玉はどっかいっちゃうし……」
「園田らしいオチだな」
「でしょう?」
園田が笑う。


「───でも。それだけ大事にされてるってことだろう。お前、箱入り娘って感じだもん」
たくさんの愛情を受けて育ったからこそ、園田はそれを、人にわけてやることができる。
自分が与えられてきた愛情と同じ分だけ、人に優しくできるから…。
「うちなんてさ、男はオレだけだから、損な役回りばっかだぜ? 全然、大事にされてねえの。
あーあ! オレも女に生まれてきたら、よかったかなーっ」




「それは……困るよ」

「……なんで?」




「だって。蒼吾くんが女の子だったら、きっと楽しいだろうけど……こんな風に、゛特別゛ではいられないでしょう?
 それは……やだな……」


ああ、もう。
がー! って。ぎゅー!って。無茶苦茶にしたくなる。
そういうことを素で言っちまうんだから、園田には参る。
だからオレはいつも、君に完敗だ。







「…切ったのって、どのへん?」
「もう残ってないと思うけど…ホラ、目のすぐ横…」
「見せて───」


そう言って、左目のすぐ下を指でなぞった。


「どう?」
「ない。つか、園田。目の際はマズイだろ。そりゃ親も怒るって」


あと1センチでもずれてれりゃ、眼球だ。
破片が目に入って、失明でもしていたら───。
考えるだけでもぞっとする。


「まあ。もし傷が残ってたとしても、オレが責任持って園田のこと、もらってやるから。安心しろ」
「…なにそれ。私が残り物みたいな言い方───。ていうか、偉そう?」


たとえだよ、たとえ。
つか。
売れ残るわけねえだろ?
オレは5年先も10年先も、お前と一緒にいる。
そのつもりだ。






もどかしさを噛みしめながら、園田の髪を撫でた。
まだ、少し湿った髪が、冷たくて心地いい。
堪らなくなって、園田の身体をそのまま後頭部から引き寄せた。
「え」
と、零れる声をキスで飲み込む。
まさかこんなところでキスされるなんて、思ってもみなかったんだろう。
唇を合わせても、丸っこい目がきょとんと開いたままだった。
開放されると、すぐ耳まで真っ赤になる。
何か言いたげな唇が、ぱくぱくと動いて───だけどなかなか、声にならない。


「キスしちゃ、まずかった?」

「…だ、だって…! おばあちゃん……っ」


慌てて離れようとする園田の腰に手を回して、もう片方の手を顎にかけた。
逃がさない。
「ばあちゃんは、風呂行った。じいちゃんは、見ての通り熟睡中だ」
さあ、どうする?
意地悪く笑ったオレに、観念した園田が、唇を真一文字に結ぶ。
ふーん。
そうやって、ささやかな抵抗を続けりゃいいさ。
どうすれば園田が、オレのキスを素直に受け入れてくれるのかぐらい。
もう、ちゃんとわかってる。


顎にかけた手で、上を向かせる。
頑なに閉じた唇を軽く舌でなぞるだけで、甘い声が零れて、唇が薄く開く。
そこをすかさず割り入って、深く口付けたら、園田が声を上げた。
「蒼───っ…」
反論なんてさせてやらない。
園田の唇を、声を奪う。






チリン。
雨戸にぶら下げた風鈴が、風に揺れて音を鳴らす。
夏の匂いに混じって微かに香る、洗い髪の匂いに、すんと鼻を鳴らした。
キスの余韻でくたりと身体を預けてきた園田の手を、そっと握る。




「……部屋、行かね?」



耳元で囁いたら、真っ赤な顔のまま、園田がコクリと頷いた。



















母屋から離れまで、手を繋いで歩いた。
満点の星空がすげえ綺麗で、立ち止まってふたりで見上げた。
離れに着いてからも、園田は窓から星をずっと見ていて。
そんなにも星空が気に入ったのか、とも思ったけれど、そうじゃない。
こういう時。
どういう態度を取ればいいのか、分からないんだろう。
小さな肩が、微かに震えてる。
タイミングがつかめないのは、オレも一緒。
欲望よりも緊張が、遥かに上回る。

窓辺に置いた手にそっと手を重ねて、やんわり背後から抱きしめた。
浴衣の下に隠された園田の身体が、華奢で柔らかいのは、もう知ってる。
だけど。
今日は、とびきり柔らかい。
……あれ?
この感触。
もしかして───。


「ブラって…つけてねぇの…?」


耳元で囁いたら、真っ赤になる。
「…寝る時につけてると、締め付けられてるみたいで、苦しくって……」
や。もう。
全然、オッケーっスよ。園田サン。
何なら下も───って、そんな想像ばかりしてしまうオレは。
かなり、限界。




「園田のこと……そろそろもらっても、い?」



返事を聞くより早く、浴衣の合わせから手を滑り込ませた。
浴衣の下はすぐ素肌。
しっとり汗ばんだ肌の質感に、とびきりの柔らかさ。
クラクラした。
肩から背中に流れる柔らかな髪を掻き分けて、首筋に唇を押し付ける。
園田の身体がびくんと震えた。
瞬間。
身をよじってオレの腕から逃げ出す。







「…っ、待って……まだ───」










おいおいおいおい。
この期に及んで、やっぱり───なんて、言うなよ?
はだけた胸元で誘っといて、それはナシだ。
勘弁して。




「怖くなったか?」




窓際に追い詰めて、捕まえて、俯く園田の手を取る。
手のひらに唇を押し付けて、薬指にキス。
軽く指の間を舐めたら、園田がまた、ピクリと震えた。
今朝から、オレの行動すべてに、過剰なほどに反応を示す。
可愛い。
たまらず浴衣の合わせに手を伸ばしたら、やっぱり、止められた。
あー、もうっ!!
なんで!?












「……怖いとか、したくないとか。そういうのじゃなくて…………。




日付───変わってからじゃ…、ダメ……? 





蒼吾くん、誕生日だから……」

















あ。




そんなこたあ、すっかり忘れてた。
園田と一緒にいられることに舞い上がって、テンション上がって。
後数分で17歳が来ることなんて、頭の片隅にもなかった。


─── 誕生日に園田のこと、ちょうだい ───。


交わしたあの日の約束を。
園田は律儀に、守ってくれてたわけだ。







「…う、あーっ、もうっ!!!」




堪らず園田を抱き上げた。
彼女の全部が、可愛くて、愛しくて、たとえようのない愛情が溢れてくる。
「待つ! あと5分。死ぬ気で我慢する!」
好きで、好きで。もう、どうしようもない。






ボーンと、壁に掛けた古時計が低い音を響かせて、日付が変わったことを告げた。
生まれて17年。
またひとつ、年を刻む。
オレに抱き上げられたまま、園田が耳元で、そっと囁いた。





「───17歳、おめでとう。

私ね、蒼吾くんといると、女の子に生まれてきて良かったって…心から思うの。

これからも、ずっとずっと…蒼吾くんの側にいさせてね……」





至近距離で照れたように笑って、園田が目を閉じる。
そのまま近づいてくる唇が、スローモーションのように見えて、心臓がバクバクした。
唇が触れるより前に、舌が触れる。
園田らしからぬ、大胆で誘うようなキスに、一瞬で歯止めが切れた。


もう。
我慢、しない。













「……蒼吾くん、大好き……」





とびきりの甘い笑顔に、オレは夢中で口付ける。










ハッピーハッピー、バースデイ。
今年のオレは何でもできそうな気がする。








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魔法のコトバ* 続編 2 comments(2) -
バースディ・バースディ 2




髪を結う園田の仕草が、すげえ好きだ。
縁側に胡坐をかいて、携帯をいじるふりしながら、オレはそれを眺めた。


前髪をいじる時の少しの上目遣い。
うなじに流れた一筋の後れ毛と、それを拾う細い指先。
俯く時、長い睫毛が頬に影を落として、ヘアピンを咥えた唇がむちゃくちゃ色っぽい。
柔らかな栗色の髪が器用に束ねられて、彩られていくさま。
あどけない園田の表情が髪を上げることでぐんと大人びて、ますますオレをドキドキさせる。


出かけるつってからもう、かれこれ20分。
園田はずっと鏡の前だ。
真剣そのものな横顔に、思わず手を伸ばしそうになる。




「おまたせ。準備、出来たよ」



鞠みたいな塊が、頭のてぺんでふわふわ揺れる。

なんつか。

猫が丸いもの見て、じゃれたくなる衝動、すげえわかる。





結ってほつれた後れ毛。
白いうなじに薄っすら浮かぶ汗の粒。
触れた柔らかさを知ってる分、すぐ側に見えるそれに触れられないつーのは、結構……酷なワケで。
意識するなっつー方が、無理な話。
まあ。
そういうことばっか、しにきたわけじゃねえから…さっさと頭、切り替えねえと。





「じゃあ、泳ぎに行くか」


「うん。でも───どこに?」



縁側から見える開けた景色は、見渡す限り山ばかり。
海に出る為にはバス停まで歩いて、そこから市バスを乗り継いで40分。
もと来た道を延々、戻らなきゃあならない。
ふたりで長距離ドライブつーのもいいけど、それは行きで十分味わった。




「いいか、園田。海やプールばかりが泳ぐ場所と思うな? こっちで泳ぐっつったら───川だ!」





これ。


この辺の常識。












じぃちゃんちは、公道から少し登った高い位置にある。
敷地の脇の細道には鮮やかな夏草が伸び、風にその葉をさわさわ揺らす。
すんと鼻を鳴らして息を吸い込んだら、夏の匂いがした。
遠くで蝉が鳴く。
心地良い葉音を聞きながらゆるやかな下り坂を降りて、道を曲がったところで、ばったり人と出くわした。


「───あ」

「お!」



お互いがお互いを認識し合った瞬間、声が重なった。



「…うえー。バカ蒼吾だ。サイアクぅ…」


あからさまに表情を歪めて毒づいたそいつは、三浦 大和(ミウラ ヤマト)。
じいちゃんちの隣の三男坊だ。
隣…つっても5、600メートルほど離れた向こうに家がある。
この辺のお隣さんとの距離は、ほとんどがそんなもんだ。
個々の家が広い野山に点在する。



「なんだ。その嫌そうな顔は。久しぶりに会えて、嬉しくねえのか? オレは嬉しいぞ!?」



三浦家の次男坊───つまり大和の2番目の兄貴とオレは同い年だ。
夏に行くたび、よく遊んだ。
金魚の糞みたいに、弟大和をくっつけて。
だからコイツもオレにとって、弟みたいなもんだ。
口が立って生意気なんだけど、何だかんだと言いながらも常にオレらの後を付いて来て、慕ってくる感が可愛い。
小学4年生…だっけ?
しばらく会わない間に、すっかり大きくなりやがって。


「あーっ! 馬鹿! 放せっ!」


嫌がる大和を首根っこから捕まえて、頭をグリグリ乱暴になでた。
そしたら大和のヤツ、本気でオレを突き飛ばしやがった。
ひでえ。


「ガキ扱いすんな! 蒼吾はいちいち、オーバーなんだよ!」
「喜怒哀楽を全身で表現して、何が悪い?」
「暑苦しいけん、やめろっ!」


口は悪いけど、本気で嫌がってない感は伝わってくる。
可愛くてしかたない。


「…ったく…。いつ、こっちに来たんよ…?」
「今日。昼過ぎ。寛太に聞いてね?」
「なんで寛太?」
「アイツの親父に乗せてきてもらったから」
「今から会うとこ。これから聞くとこ。ていうか……その人、誰なん?」



大和の視線はオレを無視して園田だ。
つま先から頭の天辺まで、遠慮なく視線で撫で回す。
その強い視線に園田が怯むぐらいに。






「この子は、オレのかの───」
「嫁だっ!」








ハイ?



「そーごのヤツ、マ・ジ・で!嫁連れてきとるやん!」
「やけんゆったろが。うちの父ちゃんがここまで乗せてきたんやけん、間違いないって!」
「だってさー、そーごが嫁なんて、信じられんかったけんさあ」



振り返れば小学生。
男3人集まって、こっちを指差してひそひそ笑ってやがる。




「なあなあ! 紹介してえや! その人、蒼吾の嫁なんやろ?」
嬉しそうな笑顔を振りまいて、一番に寄ってきたのは、寛太(カンタ)。
いがぐり頭が眩しい小学3年生。
「色白でべっぴんやったぞーって、父ちゃんが村中に言いふらしよった!」
その隣で、ニヤニヤ同じ顔で笑うのは喜助(キスケ)。
ふたりは一卵性双生児、いわゆる双子ってやつだ。



「父ちゃんなー、蒼吾の嫁を迎えに行くってめっちゃ張り切っとってさー、朝から軽トラ、ピカピカに磨き上げてやんの」
「そしたら母ちゃんにな、若い子にうつつ抜かしてんじゃないよー!って怒られてさ、白熱バトル!」
「母ちゃん、怒ると超こえーけんなあ」
「ギッタギタのメッタメタにされてやんの!」



今朝、港から乗せてきてもらったのは、この双子の親父つーわけ。
賑やか者の血は争えない。


「う、わー…。マジで色、白っ! 細っ! おまけに…結構、可愛いやん! 蒼吾には勿体ない。なあ、俺にせん?」

可愛い顔で笑いかけるのは、5年生の健人(ケント)。
村の小学生で1番、顔がいい。
つか。
園田を口説くな!


「なんだよ、大和〜。なかなか来んと思ったら、ひとり抜け駆けしてたんかぁ」
「バカなこと、言うな。今そこで、ばったり会ったんだよ!」


毒舌無愛想な大和と合わせて男4人。
生まれてから毎日、ずっと一緒だ。







「オレのカノジョの園田ましろ。同い年。同じ高校。女子。以上───」



「えーー。そんだけぇ?」
「もっとないんかよ? 馴れ初めとかあー」


小学生が馴れ初めとか、言うな。
田舎で年寄りが多いせいか、こいつら全員、言葉使いが古臭い。



「言うこと言ったし、紹介した。それだけだ。じゃあな」
「うっわ。感じ悪っ!」
「いつもならウザイぐらい混ざってくんのに、こういう時は逃げるんかー!」
「ひっきょー!」


「卑怯も何も。これから行くとこあんの。園田、行くぞ」




もうすでに取り囲まれて、芸能人並な質問攻めになりつつある園田の手を引いて、そこから連れ出した。
こいつらの質問に、いちいち答えてたら、きりがない。
興味に底はねぇから。
適当に巻いて、逃げるが勝ちだ。



「なーなー」
「逃げんなよぉ」
「勿体ぶらんと、教えてやー」
「なーってばあ!」

「うっさい。お前ら。付いてくんな!」

「あ。キレタ」
「逆切れ?」
「おっとなげな〜」


そりゃ大人げなくもなるさ。
だってお前ら、しつこいもん。




「ねえ、蒼吾くん…。もう少し、優しく接してあげても…」


オレのシャツの袖口を園田がくいと引っ張った。
なんだかかわいそう…なんて、そんな目で見上げられたら、無視するわけにはいかねえじゃん。
小学生って肩書きは、得だ。
幼いだけで優しくしてもらえるんだからさ。


「…ったく。何が聞きたいんだよ? 全員の質問に答えてたらキリがねえから、話し合っていっこに決めろ! それなら答えてやる」


半ば投げやりにそう言ったら、4人の顔がぱあっと輝いた。
そういう素直さは小学生らしくて可愛いんだけどさ。
円陣を組むみたいに顔を寄せて、あーだこうだと意見をぶつけ合った結果。
代表で口を開いたのは、最年長、健人。







「───姉ちゃんと、どこまでいった? ちゅーぐらいはしたんか?」









何をマセタことを。




つか、そこ。
マジで触れて欲しくない。









「………もう、ついてくんな……」






「あ! 逃げた!!」
「いっこって言ったけん、ちゃんと話し合ったのに───!」




話し合った結果が、それ?
そりゃあ、そういうことに興味が出てくる年頃だけどよ。
そういう質問は、園田の前でするの、やめれ。
自分が言い出した手前、引けなくて、真っ赤じゃねえか。
なあ、園田。
その質問、馬鹿正直に答えなくていいから。




「……お前ら、マジでついてくんなって」
「そっちこそー」
「蒼吾こそー」
「付いてくんなやー!」



「オレらは、こっちに用があって───」




言いかけて、はたと気づく。





「……何でお前ら、上半身、裸?」




しかも、それ。





「───…海パン、履いてんの?」





「そうだけど?」





「……川に……行くとこか?」





『だったらなに?』









双子の声がシンクロした。
なんてこった!!
まあ。
ここらで泳ぐっつたら、そこしかねえけど。
学校の授業だって、プールじゃなくて川だ。
えーーー。
マジかよぉーーー。




「そういやあ、そーごも海パンやん! ねーちゃんと行くつもりやったな?」
「俺ら邪魔? 邪魔者、扱いなん!?」
「ふたりっきりで、エロイこと、しようとしとったんやろ?」
「ふっけつー」
「大人ってフケツー」
「エロそーご!」
「エロじじいー!!」



こいつらには、会いたくなかったって、マジ思う。
ちゃかされて、冷やかされて。
オレの純愛、ズタボロだ。
こいつら全員、どうしてくれようか。




邪魔者をどうやって追い払おうか、真剣に悩んでいた時。









「あ。立夏───」






民家の垣根を曲がった向こうに、知った顔を見つけて、喜助が声を上げた。







「喜助───、と。……蒼…ちゃん?」






向こうがオレを認識した瞬間。
あからさまに、顔を逸らされた。



え?

なんで?





「……会いたくなかったのに…」





唯一、オレの味方をしてくれそうな立夏(りっか)。




何でお前まで。









超……凹む。















結局オレは、お邪魔虫を追い払うこともできず。
途中で合流した4年生の立夏を加えて、ぞろぞろと川に向かった。
県道を少し下って向日葵畑を抜け、赤い橋を渡って、川沿いに上流へ5分。
しばらく歩くと、柵も手すりもないコンクリの橋が見えてくる。
五色姫川(ごしきひめがわ)に架かる7番目の沈下橋「遍路」だ。
オレの夏休みといえば、ここ。
じぃちゃんちに来るたびに、地元仲間とここで遊んだ。
幼心に染み付いた記憶が、その景色を目にするだけでわくわくさせる。


下流に堰があって、飛び込みに適した水量がいつもある。
流れが緩やかで、泳ぐのにも橋から飛び込むのにも、もってこいの場所。
公道からの死角で市街地に住むやつは知らない、地元民のみ知る穴場中の穴場だ。








「…綺麗……」


川を覗き込んだ園田が、嬉しそうに表情を緩ませた。
橋の真下を緩やかに川の水が流れる。
エメラルドグリーンの水面が、きらりと太陽の光を跳ね返し、深さを増すごとに群青を濃くする。
その情景の美しさは、何度見ても感動だ。




「…落ちんなよ?」
「うん…」
「こういうとこ、お前好きだろ? 夏のスケッチにもちょうどいいかなと思ってさ」
「凄く…素敵。描きたくなる。ちょっとだけ…描いてもいいかな?」



広げたスケッチブックの上に、園田が鉛筆を走らせる。
彼女の瞳に映る風景がみるみるうちに、紙の上に世界を広げく。
見る人の心を強く揺さぶるそれは、才能っていうんだろう。



「すっげぇ……うますぎ!」
「姉ちゃん、天才!?」



ひそ、と。
オレの耳元で、双子が呟いた。



「将来、大物になるんやない?」
「サイン、今のうちにもらっとく?」
「えー。オレ、書くもん何も持ってきとらんし」
「ネームペンならあるで。帽子に書いてもらえよ。オレはタオルにするし」
「なあ、蒼吾ー。後でサイン、頼んでくれん?」
「なーなー」
「お前らがちゃんと、おとなしく待ってたらな。とりあえず今は、邪魔すんな」
「ちぇっ」
「終わったら絶対やけんな!」



ものの5分もしないうちに、園田が絵を描き上げた。
つってもデッサンだけ。
帰ったらキャンバスに起こすのって、嬉しそうに笑う。
可愛い。




「あ。しまった───」



沈下橋の上に脱ぎ捨てたTシャツとスポーツサンダル。
汚れるのなんてお構いなしに、放りだされたタオルを目にして、今更気づく。



「そういえば。姉ちゃん、どこで着替えんの?」


そのことだ。
考えてなかった。
泳ぎに行くっつったら、今まで野郎ばっかだったから、がーッと脱いで、バーっと着替えて。
タオル1枚あれば、どこでだって。
園田は……そうはいかないよなあ。


唯一の女の子、立夏は家から水着だ。
白いホルターネックのタンキニにデニムのパンツ、星柄のビーサン。
泳げる格好で来て、そのまま帰る。
男共も同じ。
海パンにTシャツ、首からタオルぶら下げて。
沈下橋に上だけ脱ぎ捨てて、そのままどぼんだ。
双子なんて、家から海パン1枚だ。


「あのね。少し向こうに、着替えられるところっていうか…、道路から死角になる場所があるんだけど…そこ、行く?」


立夏が右岸を指差した。
こういところは、さすが女の子。
男じゃ気づけない気配りができるつうか、同じ目線で物を考えられる。
てか。
立夏でも気づくことを配慮してやれないオレは、彼氏失格だ。





「ううん。大丈夫。ありがとう。実は…、もともと泳ぐ気はなくて……水着、持ってきてないの…」


「えー。マジでーーー?」
「ねえちゃんの水着姿、期待しとったのにーー!!」
「がっくしーー!」





おいおい、お前ら。
それはオレのセリフだ。
つか、園田サン。
準備してくるって、隣の部屋に入ったのは何?
オレが外したブラのホックをはめただけ?
てっきりそのワンピースの下に、水着を着てるもんだとばかり……。
───がっかりだ。





「なーんだ」
「ねえちゃんの水着姿を拝んでから、飛び込もうと思っとったのに」
「しょうがねえから、泳ぐべ?」
「飛ぶべ?」
「あーあっ!」




オレの心の声を代弁しながら、沈下橋の上から寛太と喜助が飛んだ。
そのすぐ後に、健人も続く。



「大和ーっ! 来いよーっ!!」



エメラルドグリーンの波紋の中で、飛び終えた3人が大きく手を振って、そこへ向かって大和が飛んだ。
派手に水しぶきが上がると同時、ぎゃははと派手な笑い声。
飛び込んだ拍子に、大和の海パンが脱げたらしい。
まぬけ。






「みんな、仲いいね…」


園田が、眩しそうに目を細めた。
そのすぐ隣にオレも胡坐をかいて、そっと指を絡めて手を繋ぐ。
ちゃんと捕まえてねえとコイツ、誤って橋から落ちそうだ。


「男4人。年齢イコール過ごした年数だからなぁ」


人数少ねえ田舎で、幼稚園も小学校も、同じ教室で育ってきた。
朝から晩まで、毎日、日が沈むまで一緒。
長期の休みになると、順番で誰かの家に泊まってたりする。
共に過ごしてきた時間は長い。


「……立夏ちゃんは?」
「アイツは、去年の夏、千葉から引っ越してきた。
ひとりだけ、標準語だろ? 今は普通に溶け込んでるけどさ、まあ、いろいろあって……。つか。お前ら! 立夏も入れてやれよ! ひとりで寂しそうだろ?」


立夏は泳ぐわけでも、飛び込むわけでもなく。
少し離れた場所で沈下橋に腰掛けて、足をぶらぶらやってる。
仲間に入れない横顔が寂しそうだ。


「だってさー」
「橋から飛び込めんヤツは、エメラルドんとこ、入れんってルールがあるもん。蒼吾だって知っとるやろー?」
「立夏は足飛びもできんけん、浅いとこまでってきまり!」


エメラルド? 足飛び?
なんじゃそりゃ。
そんなルール、オレは知らん。




「いいよ。蒼ちゃん。あたし、別に入りたくないし……」



入りたくないってヤツが、そんな拗ねた顔すんのか?
握り締めたゴーグルは、今日こそは飛び込もうって決意の証。
浮き輪も、仲間に入りたいから持ってきたんだろ?
その勇気を無駄にするな。
つか。
ここから飛びこめつーのは、結構、ハードル高いよな。
地元男子ならともかく、他から来て間もない女の子に。
そんな無茶、言っちゃあいかんだろ。




「そのルール、誰が決めた?」



「立夏が転校してきた夏に、大和が決めちゃったんだよなー?」
「一番ふっかい、エメラルドんとこは、飛べんヤツは入っちゃいかんって」
「なんでだよ?」
「よそ者に、とびっきりの場所を取られたくなかったんやない?」
「俺らだけの秘密の場所やし」
喜助が言う。
「別に俺らはさー立夏のこと、もう仲間だって認めとるけん、入れてやってもいいかなーとは思うけど……
大和がなー、飛び込めるようにならんと、どうしても駄目だっていうんだよ」
「なあ、大和! 何とか言えよー!」
橋床にぶら下げたロープを伝いながら、橋の上に戻ってきた大和に、健斗が声をかけた。




「……泳げんやつはそれなりの場所で、遊べばええやろ。別に川に入ったらいかんって、言よるわけじゃねえし」

「でも、浮き輪持ってきとるし…少しやったら、入ってもええやん?」

「ダメだ。立夏は。絶対いかん。アイツ、無茶するし───」

「………」




唇を真一文字に結んだ横顔は、何か思うところがありそうだ。




「じゃあさ、オレが代わりに飛ぶ。飛びこめたら今日だけ、立夏のこと、入れてやって」
「えーーっ! 蒼吾が飛ぶん? ずっりぃよ! そんなん、反則やろーっ」
「その分、ハンデ。何か技、決める」
「えー。どうする?」
「どうする?」


双子と健人がそろって左を見た。
決断はいつも大和だ。
頭がキレるコイツを何だかんだといっても、みんな一目置いてる。



「じゃあ……オレと同じに飛べや。できたら、入れてやる。つか。飛べんかったら、みんなに北村のアイス、おごりな!」





隣で、立夏が不安を顔に浮かべてオレを見上げた。
そんな顔、すんな。
仲間に入りたくないわけじゃないだろ?
その気がないのなら、わざわざ毎日、来るわけがない。



大和の気持ちもわかんなくはないが……好きな子、泣かせちゃいかんだろ。












「……ごめんね、蒼ちゃん……」




オレの真横で、立夏がぐずと鼻を鳴らした。
真っ赤になった目元も、ぐずぐず言ってる鼻も。
オレが情けないっていうことを主張してるような気がする。


「泣くなって。立夏のせいじゃねえから……」
「でも……っ」


ぎゅっと瞑った瞳から、ぼたぼたと涙が零れ落ちた。
眉間にも鼻の上にも皺をよせて、えっく、としゃくりあげる。
これじゃあまるで、オレが泣かせたみたいだ。
まあ。
オレが原因なのには、変わりないけど。



立夏を川に入れてやることを条件に。
大和のヤツ。
空中2回宙返りなんていう、ウルトラミラクルな飛び込みを要求しやがった。
そりゃあもちろん、飛んださ。
だけど。
素人のオレが、そんな難易度の高い技を決められるはずもなく。
1回転したところで前後上下わかんなくなって……そのまま、顔面強打だ。
ついでに腹打ちのおまけつき。
胸から腹にかけては真っ赤に腫れて、おまけに鼻血なんかも出しちゃって……。
カッコ悪いったらありゃしない。
慣れないことは、するもんじゃないね。
まったく。


「あーあ。なっさけねえなーっ、蒼吾は!」


そりゃないだろ。
打ち所、悪けりゃ死んでるぞ!?
年齢差があるつってもな、こっちは飛び込みなんてほとんど素人だ。
毎日ガンガン飛び込んでるお前らとじゃあ、レベルが違う。
大和に勝とうだなんて、もともとが無謀な話。
自分の実力過信して挑んだオレは、超カッコわり。



「大丈夫……?」


おまけに園田に心配かけて。
怪我の功名ってやつで、ありがたくもオレは園田の膝枕。
額にタオル乗せられて、鼻にティッシュを詰め込まれてなきゃあ、最高なんだけど。
「気分は悪くない…?」
平気って笑ったら、園田がホッと表情を緩めた。
優しくオレに笑いかけて、温かな指先で髪を撫でた。
気持ちいい。




「技、決められなかったんだからな。帰り、北村のアイス、おごれよ?」



腰に手を当てて、大和が真上からオレを覗き込んだ。
偉そうに。



「立夏。お前もいつまでも泣くな。蒼吾、生きとるけん」
いやいや、大和。
その表現、どこか何か間違ってる。
「でも…だって……っ」
自分のせいだと深く責任を感じて、泣きじゃくる立夏の腕を、大和が捕まえた。
「来いよ。……蒼吾のガッツに免じて、今日だけ中に入れてやるけん」
それでいいだろ?
大和がオレを覗き込む。
「……本当…? 本当に、入れてくれるの……?」
「無茶はすんな。浮き輪も放すな。オレから…離れんな。それ、絶対」
「…うんっ! ───蒼ちゃん、ありがとう!!」



満面の笑顔をオレに見せて、立夏が走り出す。
大和らみたいに沈下橋からは飛び込むことはできなくて、橋を渡って右側の岸からゆっくり入水。
健人に浮き輪を引っ張ってもらって、今はエメラルドグリーンの水の中だ。
立夏のあんな嬉しそうな顔は、初めて見た。




「…ねえ、蒼吾くん。大和くんって、立夏ちゃんのこと───」


「ああ。たぶん、そう」



いくら緩やかな川だつっても、橋の中央部から左岸にかけてはぐんと深くなる。
流れも速い。
エメラルドの色が濃ければ濃いほど、水深が増して、危険度も増す。
泳ぎなれたアイツらならともかく、泳ぎの苦手な立夏には危険エリアだ。


「深いところは危ないからって、素直に言えばいいのにな」


わかりにくい優しさで、立夏が絶対に近づけないルールを作って、遠ざけて。
嫌われることを恐れず、立夏を守ることを優先する。
ガキんちょのクセに、男前なこと、するじゃねえか。





「私たちと同じ年だね」
「ん?」
「大和くんと立夏ちゃん。私が蒼吾くんを好きになった年齢と同じなの。だから……あの子達も、もうそういう気持ちは、ちゃんと育ってる」



眩しそうに目を細める園田の横顔は、やけに嬉しそうで。
こっちまで伝染して、笑顔になる。




「なんか…昔の蒼吾くん、見てるみたい」
「オレって、あんなだっけ? あんなに生意気か? つか、園田サン? オレの気持ちには全っ然、気づけなかったくせに、他人だとよーく見えるんだなあ?」
「なんかその言い方、意地悪……」



眉間に皺を寄せて、園田が頬を膨らます。
だってそうだろ?
オレの気持ちに、5年も気づけなかったくせに。
あの時伝えてなきゃあ、一生、園田は気づかないまま。
今、こうして隣にいることもなかっただろう。


大和。
素直になれない小心者は、損だぞ?







オレは黙ったまま、園田の背中をぽんと叩いた。
軽く笑いかけると、彼女も笑顔になる。
可愛い。
このまま抱き寄せて、キスしたいところだけど……こんな格好じゃあな。



「…どう? 鼻血、止った?」
「ん……。よし、オッケー」



ダッサイ鼻栓から、ようやく開放だ。












帰り道。
北村商店で約束通りアイスを買ってやった。
1本80円の手作りアイスキャンディ。
ミルク・あずき・みかん・ぶどう・ソーダ・レモン・林檎。
色鮮やかな夏色がアイスボックスに並ぶ。
「全部で7本。560円ね」
買ったアイスは、ナイロンでも紙袋でもなく、古新聞に包んでくれる。
昔からそうだ。
この田舎臭いレトロな感じがたまんねえ。

「さんきゅー、蒼吾!」
「ゴチになりまーす!」

それぞれにアイスキャンディを配り終えて、最後の1本を園田に手渡した。
園田が選んだのはミルク。
オレはソーダ。
「わー。ありがとう…!」
満面の笑みにこっちまで、とろけそうだ。



「気をつけろ」
「?」
「北村のアイスはすげえうまいけど……歯が折れるぐらい、固いんだ」


苦い記憶が脳裏を掠めて、思い出すように苦笑した。


「初めて食った時、ちょうどオレ、歯の抜け替わり時期でさ、前歯がぐらついてて……このアイス食って折れた記憶が。んでもって……驚きのあまり、歯を飲みこんじまった…」
忘れもしない、小学1年生の苦い夏。
そのお陰で、一時期、アイスキャンディー恐怖症になった。
今はもう、平気だけどな。
「ばっかでぇ! 蒼吾!!」
「食い意地張っとるけん、そんなことになるんやー」
わははっと馬鹿にして笑ったヤツから、アイスを取り上げた。
笑うなら返しやがれ。



「じゃあなー!」
「また明日!」
「ちゃんとまっすぐ帰れよー」
小さな手をぶんぶん振り回して、それぞれが茜の空に散ってく。
「あ〜…っ、肩の荷、下りた〜!!」
それを全部見送ってから、そっと園田の手を取った。


「あいつら結局、最後まで付いてきやがって……」
「明日も来るって言ってたね?」
「うえー。マジでぇ……?」


思い切り顔をしかめたオレを見て、園田が笑う。


「あんなふうに憎まれ口ばっかりだけどね、本当はみんな蒼吾くんのことが、大好きなんだって。
会えて嬉しくてたまらないから、少しでも長く一緒にいたくて。蒼吾くんがいると、みんなが笑顔になれるから───って立夏ちゃんが言ってた」
「…オレもあいつら好きよ? だけど……園田とふたりの時は、勘弁して」


誰もいないのをいいことに、道のど真ん中で園田を抱きしめた。
小さな手がオレの背中に手を回して、そっと頬を胸に押し付ける。
ああ、やっと。
園田をこの手に抱きしめられた。
覚えた体の柔らかさと園田の甘い匂いに、胸の深いところがホッとなる。






「今日はホントにご免な。いろいろうるさくして、振り回して」
「ううん。楽しかったよ?」
「あいつらに、もみくちゃにされても?」
「蒼吾くんといられるのなら、どこだって、誰がいたって楽しいから…。それに、蒼吾くんのいろんな顔が見れて、また、もっと好きになった……」
「鼻血、出したりとかなぁ」
「それは……もう、いいよ」


園田が笑う。








「また…来年も、来てもいい?」

「つか。来なきゃ、みんなに何、言われるか……。オレもじぃちゃんも噂話に殺される……」




何、物騒なことをって、園田は笑うけど。
それは真面目な話。
実際、次の夏も絶対、園田と一緒に来いって大和に約束させられた。
守らなきゃあ、間違いなくアイツらに、オレはこてんぱだ。




「また来たい。来年も、そのまた次も。夏休みがなくなっても、蒼吾くんと、ずっと一緒に……」

「できればいつか、子どもを連れて───なんていうのが、理想なんですけど…?」





冗談めかして笑ったら、うんって、園田が真顔で頷いた。








「え?」






それって、どっち?

ただの相槌?







それとも───。





















「約束…ね?」





そう言って園田が静かに目を閉じた。








村に黄昏が降りて、景色も園田も、全部さらってく。







リーっと虫の音が鼓膜を揺らす中、オレらはそっと、唇を重ねた。
園田からねだる初めてのキスは、いつかの未来に繋がる、確かな約束。
それを信じて、柔らかな唇に何度もキスを降らせた。











オレは。


この夏を、一生……忘れないと思う。













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魔法のコトバ* 続編 2 comments(0) -
バースディ・バースディ 1



16歳と364日。
オレは明日で、17歳になる。










「こんちはー! じいちゃん、ばあちゃん、来たよー」

霞ガラスの古びた引き戸を開け放って、奥に向かってオレは大声を張り上げる。


にょきにょき入道雲の白さが眩しい日曜、早朝。
オレと園田は四国行きの船に乗った。
天候は快晴。視界良好。
いつもは退屈で仕方ない船の旅も、園田といるとあっという間に着いた。
港に降りたのは昼過ぎで。
そこから市バスを2本乗り継いで40分。
最後のバス停からここまでの山道は、近所の叔父さんに、軽トラの後ろに乗せてきてもらった。
「蒼吾くん、すごい! ほら、見て見て!!」
軽トラ荷台っつー初めての体験と、そこから見える360度開けたパノラマの世界。
瞳をキラキラさせて、目新しいものを見つけるたびに、子どもみたいにはしゃぐ。
こんなにもはじける園田の笑顔は久しぶり。
連れてきてよかったって、心から思う。





「あらあら。蒼ちゃん、よく来たねえ!」
腰巻エプロンで手を拭きながら出てきたのは、オレのばあちゃん。
しばらく会わない間に、随分小さくなった気がする。
や。
オレがデカくなってんの?
「また大きいなってぇ。その子が電話で言っとった…」
「園田ましろです。2日間、お世話になります」
オレの隣で園田が頭を下げて、手にしたかごを差し出した。


「あの…これ───よかったら近所の皆さんで、召し上がったください」

「まあまあ。こんなにたくさん。荷物になるのに、大変やったやろう? ありがとうねぇ」


大変だったのはオレだよ、ばあちゃん。
でっかい籠盛り菓子の手土産に、バスケットに入った手作り弁当。
オレの荷物と園田の分。
どうして女ってこんなに荷物、多いんだ?
そりゃあ手作り弁当はさ、美味しくありがた〜くいただいたけど。
日用品だけで、軽くオレの倍はあんの。
何をどこで使うのさ?


「離れの部屋を掃除しといたけん。そっちをお使いや。疲れたやろう? 荷物、置いといで」
「サンキュー、ばあちゃん。じゃあ…とりあえず、行くか」
「うん」
「お昼は食べたんかね?」
「船で食った」
園田の手作り弁当、むちゃくちゃ旨かった!
「じゃあ、夕飯までふたりでゆっくりしたらええ」
「ああ。そうさせてもらうな」


「あの……何かお手伝い、しましょうか?」


や。園田。
それはダメだろ。
2泊3日つっても、移動を入れたら正味1日だ。
それぐらいの時間じゃあ回りきれないほど、見せてやりたいものがいっぱいあるってのに。
時間はいくらあっても足りないわけで。
ばあちゃんには申し訳ないけど、旅行中ぐらい園田を独り占めさせて。



「かまんかまん。せっかく来たんやから、ゆっくりしいや」
「でも……」
「田舎やけん、自然ぐらいしか自慢できるところがないけど…蒼ちゃんにいろいろ案内してもろたらええ。
それに───どうせ後々、家族になるんやけん、そんな気ぃ使わずに気軽にしとってや」








「……え?」




園田がオレを見た。
丸っこい目がますますまん丸だ。


つか、園田。
そこはオレを振り返るべきじゃない。
オレだってその発言、意味不明だ。






「……ばあちゃん」
「なん?」
「家族、って?」



どゆこと?




「だって、海月(みつき)ちゃんがゆっとったよ。蒼ちゃんが将来の嫁、連れてくけん、よろしくって───」








あ・ね・きーーーーー!!!!




「ご近所さんにも蒼ちゃんが嫁連れてくるって、言ってしもたがな。やけんどこかで会ったら、挨拶だけはちゃんとしときや」



もうすでにインプットされたばあちゃんの思考を書き換えるのは。
オレが英語のテストで満点取るよりも難しく。
組長をやってるじいちゃんが、おそらく村中に吹聴したのは容易に想像できて。
返す言葉が見つからない。
おまけに。
「ましろちゃんはお人形さんみたいにべっぴんさんやけん、ひ孫が楽しみじゃわい」
なんて。
そんな嬉しそうな笑顔を見せられたら、老い先短い年寄りの楽しみを壊すわけにはいかず。
姉貴がついた嘘に乗る以外、方法がみつからなかった。

つか。
ひ孫が出来るアレコレをしてないつーのに、どうやったら子どもが生まれるんだか。
誰かオレに、教えてくれー!









『だーから〜。
ふたりとも古い人間なんだから、彼女連れてくっていうよりは、嫁のほうが体裁いいでしょ?』


離れに移動してすぐに、オレは自宅に電話した。
携帯の向こうで、ニヤニヤ笑ってる姉貴の顔が想像できてムカツク。
『田舎だし、噂は風よりも早く…よ?』
「そうかもしれねえけど…! 話、飛躍しすぎだろ!」
ばあちゃんがそういう話題を振るたびに、オレはやましさを感じて、まともに顔が見られない。
『まるっきり嘘、っていうわけじゃないじゃない? 実際、アンタはましろちゃんと付き合ってるわけだし…』
「だけど!」
『要はさ、アンタがましろちゃんとこのままゴールインしちゃえば、ホントの話になるんだから。…結果オーライ?』
「ゴ……ッ!?」
姉貴の言葉に思わず携帯を取り落としそうになった。
ゴールインって…オレらまだ、高校生だぞ!?
何考えてんだ!
『あら。もうこんな時間。 ───じゃあ、そういうことだから。まあ……うまくやんなさい』


うまくって、何をどうしろと。
オレが面倒くさい事を言い出す前に、打ち切った感がぬぐえない。
ったく。
年寄りを騙して、罪悪感とかないんかね。







「どうだった? 海月さん…何て?」


オレを見上げてくる顔が、不安に揺れる。
百歩譲ってオレはいいとしても。
嘘をつけない園田サンが、どこまでこの嘘に付き合えるのか。
もしこれが理由で話がこじれたりなんかしたら……。
恨むぞ、姉貴!












じいちゃんちは300坪程の敷地の中央に、屋敷みたいに馬鹿でかい家がどかんと建っている。
敷地の西側に納屋と、トラクターなどの農具をしまう倉庫、米蔵。
南側に昔、親父たちが使っていた離れがある。
普段、家族で来る時は、屋敷みたいなばあちゃんちに泊まるけど。
今日は、わざわざ離れの部屋を用意してくれた。
たぶん姉貴が、配慮してくれたに違いない。

いくら気配り上手なばあちゃんでも、そういう若者の事情はわかるはずもなく。
客好きのじいちゃんが、かわいい孫と、孫が連れてきた将来の嫁をわざわざ離れに…なんて。
手放すわけがない。
そこだけは、姉貴に感謝だ。
初めての大事な夜を祖父母と同じ空間で───なんて。
さすがのオレも気が引ける。
つか、集中できない。
もちろん、園田だって嫌がるだろうし。
どうせなら誰にも邪魔されることのない場所で、ふたりきりを楽しみたい。
可愛い園田をアンアン言わせたい。
なーんて。





「すご…いー! 広いね! 老舗の旅館みたい…。あ───。あの黄色く見えるのは何? 向日葵?」

今朝からずっと、園田ははしゃぎっぱなしだ。
たぶん。
それぐらいテンションを上げてかないと、緊張でどうしようもないんだと思う。
今日はやけに沈黙を嫌がるし。
そういう雰囲気に持ってかれるのが、やなわけ?
ちょっと凹む。



「普段使ってないのに、手入れが行き届いてるね…」
「ばあちゃん、掃除好きだから」
毎朝、5時には起きて、ひと通りの家事をこなしてから大掃除だ。
使ってる使ってないなんて関係なく、20近くある部屋全部、隅から隅まで。
掃除が趣味といっても、過言じゃない。
おかげで塵ひとつなく、ピカピカだ。
「荷物、ここでい?」
「うん。ありがと───」


園田の視線がある一定の場所で止って、そこから動かなくなる。
布団がふた組。
キレイにたたんで、部屋の隅に用意してあった。
前日に干してくれたであろうそれからは、お日さまの匂いがする。
あ、意識したなって。
あからさまな態度で、園田がそれから乱暴に視線を外した。
…わっかりやすぅ。
園田にバレないように顔を背けて、笑いを噛み殺す。
素直な反応が園田らしくて、可愛くて仕方ない。
慣れてない感が男心をくすぐって、オレのツボをぐいぐい押してくる。
んでもって。
悪戯心をむくむくと呼び起こした。




「そのだ」



耳元にわざと、息を吹きかけるように名前を呼んだ。
「ひゃあ…ッ!!」
案の定、甲高い悲鳴を上げて、飛び上がるように園田が振り返った。
想像通りのリアクション。
耳の奥がキンとした。
つか。
意識しすぎだ、バカ!
さすがにオレだって、真っ昼間から押し倒したり、そういう事、するつもりはない。




だけどな。

そんなあからさまに”ふたりきり”を意識されたらさ。
オレだって───。







あー…。ヤバイ。
スイッチ入る。








至近距離で見つめて、ゆっくり顔を近づけた。
園田の背中に、それとなく手を回す。


「あの……そーご…くん…」
「なに?」
「外、まだ明るい…よね……?」
「だから?」
「だから、って……や…ぁッ…」


意地悪く園田を見下ろして、耳朶を柔く噛んだら、意識した身体がびくんと震えた。
なんつか。
今日の園田サンは、いつもより敏感だ。
んでもって、警戒態勢もマックス。
ありったけの力で、オレを押しやる。




「着いて早々なんて…ヤダ……」
うん。
それはわかってる。
「キスもダメ?」
「……だめ」
「なんで?」
「それだけで終わらない感が…あるから……」


うっ。
読まれてる。


「キスだけ。それ以上、しない。約束する」



今日はまだ、園田に触れてない。
手ぇ、繋いだだけ。
せっかくふたりになったんだから、キスぐらいは、しときたい。




「…ホント、に……?」









素直にうんとは、約束できない。
でも。
出来る限りの努力は……します。













たぶん。





やんわりと指で唇に触れて、そっとキスで塞ぐ。
園田がゆっくり目を閉じて、オレからのキスを受け入れる。
軽く触れるだけのキスを何度も降らせて、唇の柔らかさを確かめたら、ひどく安心した。
それだけで幸福に包まれる。


「…そー、ご、クん…ッ、苦し……っ」


キスが長くなると園田はいつも息が上がる。
キスの体力って、持久力と繋がってんの?
それとも肺活量?
どっちにしても園田のそれは、オレの半分以下なんだろうなぁ、なんて。
馬鹿げたことを考えながらも、キスを続けた。
時折、キスの合間に、園田が苦しそうに息を喘ぐ。
その、いっぱいいっぱいな表情がすげぇ可愛いくて、色めいて。
オレの官能に火をつける。








あー…。もう。


田舎を案内するのなんてやめてさ。
このままずっと、キスしときたい。
離れに閉じ込めて、喧嘩して会えなかった分の夏を、園田で満たせるのなら、もうそれで…。



なんて。
ダメだよなぁ……。
つか。
キスだけでお預け、つーのは、限界ギリギリまで来てる。
夜まで───の、ほんの少しが待てない。
崖っぷち。






案の定。
園田の予想通り、キスだけじゃ止らなくなったオレは。
キスの余韻で、くたくたと寄りかかってきた園田の無防備さをいいことに。
ブラウスの裾から手を滑り込ませて、直に素肌に触れた。


「そ、ーごくん…!」


ビクと身体を震わせて、園田が目を開けた。









「やっぱ……ダメ?」


「約束、したのに……」



そんな泣きそうな顔で言われると、良心が痛む。
だけど。
こんな状態で、キスだけで終われるかって聞かれると、答えはNO。



「ちょっと、触るだけ。最後まではしない」
「だって…。さっきも、そうやって約束したのに……」
「うん」



何が「うん」だ、オレ!
だってさ。
男のそういう約束は、あってないようなもの。
まだまだオレを分かってない、園田が悪い。


「あ───ッ」


話している間に、ブラのホックを外した。
観念した園田がぎゅっと目を瞑って、与えられるであろう刺激に唇を噛締める。
ちょっと触るだけ。
今度は絶対、約束する。










「蒼ちゃーん、ましろちゃーん。麦茶、入ったけん、ここ。置いとくねー」










ガラガラと引き戸のガラスを響かせて、玄関からばあちゃんの声。


瞬間。

オレも園田も、固まった。




「あー………。








ばあちゃん、ありがと、なー……」












心のこもってない、感謝の言葉を玄関に向けて呟く。



悲しいかな、お約束。









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魔法のコトバ* 続編 2 comments(2) -
全力少年34
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明日もきっと晴れ   サイド*蒼吾 

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「ふ、ああーっ……」

バカみたいにでかい口をあけて、オレはあくびを空に解き放った。
眠い。
おまけに、ダルイ。
完徹なんて、久しぶりだ。

「うっわ。でっけえ、あくび!」

朝の挨拶と同時に、リュックサックで背中からガツンとやられた。
目が覚める…つーか、痛えよ!
「朝まで園田ちゃんと、一緒だったってか?」
片手でチャリを運転しながら、器用にリュックを背負いなおして、涼がニヤニヤ覗き込んだ。


「そういやあ、お前…昨日と服、一緒───」
「ヤッテねえよ! てか、服。違うし!」

ちゃんと家、帰ったさ。




あくびの理由は、朝まで園田をこの腕に───なんて甘い夜のせいじゃない。
神経高まって、気持ち昂ぶって。
要は興奮して眠れなかった。
お互いの気持ちを確認した。仲直りもした。旅行の約束だって。
でも。
不安要素は抱えたまんま、結局、朝だ。
オレはおもむろに、スポーツバッグのポケットから取り出してケータイを開いた。
8時10分前。
園田からの連絡はない。



「ラーメン」
「は? なに?」
「ラーメンおごれ! 昨日、あれから大変だったんだからな!」


オレと安部が去った後。
乱闘騒ぎを揉み消すのに骨を折ったって、三浦からメールで報告受けた。
涼たちのおかげで、部に迷惑をかけずに済んだのは、すげえありがたいんだけど…。


「金、ない」

3日後には園田とじいちゃんちだ。
部活三昧の毎日で、バイトする時間の余裕はないわけで。
手元の金は小遣いと少しの貯金。
だからそれまで、他で金を使うわけにはいかない。

「じゃあツケで」
「高校生にツケで食わしてくれるラーメン屋が、どこにあるんだよ」
「来々軒のおっちゃんなら、その辺、融通効かしてくれそうじゃね?」
ラーメン好きの目がキラキラ輝く。
「……考えとく」
とりあえずの約束でも交わしとかないと、しつこそうだ。




「で? 結局、仲直りできたのか?」
「一応…」
「よかったじゃん! モトサヤ! 」


涼が笑ってピースサイン。
オレ。
コイツのこういうところ、好きだ。
自分ごとみたいにハッピーに喜んでくれるところ。


「で。シタの? 一線越えた?  朝っぱらから、ラブコールチェックってことは……一時も離れられない関係になったわけ!?」


んでもって。
こういうデリカシーのないとこがキライ。
人の恋路、土足で踏み込むずうずうしさ。



「してもしなくても、そこはお前に関係ない!」
「えーー。出し惜しみすんなよー。けちー」


けちもクソもあるか。
心配してくれてんの、わかるけどさ。
お前の場合、心配なのか好奇心なのか。
境界線が微妙なんだよ。



「なーってば!」


自転車がオレを追い越して、声が前から降ってくる。
しつこい!




「いいさ。直接、本人に聞くからさ。───もしもし、園田ちゃん?」



その第一声に、ギョッとする。


「何、勝手にかけてんだよ!」


つか。
何でお前が園田のケー番、知ってんだ!?



「あのさー。蒼吾が教えてくれないからさ、単刀直入に聞くけど───」



ケータイを取り上げようと伸ばした手をまんまと交わされた。
涼の運動神経は、野球部ぴか一だ。





「やめろって! アイツ。今、取り込み中だから!」








「───はい?」




一瞬、涼が耳から携帯を放したところを取り上げた。
つか、時報!?
園田にかけたつーのは、嘘か!











「取り込み中って、何?」








しまった。







「誰と、何を、取り込んでんだよ?」




バカなクセに、こういうところばかり勘が鋭い。




「そこまで言って黙るな! 言えよ!」










こうなってしまったら、誤魔化せそうにない。
携帯の通話をオフにして、不機嫌に涼に突きつけた。





「……安部んところ、行かせたんだよ」

「───はああっ!? なんでっ!?」





馬鹿デカイ声が早朝の住宅街に反響する。
いちいちお前は、オーバーリアクションなんだよ!
ボリューム落とせ!





「……キスした理由を、園田はちゃんと知るべきだって、思ったから」









「おっ前…何、考えてんだよっ!」




まあ。
普通はそういう反応だ。
オレだって。
そういう結論に至るまで、散々悩んださ。






いつもはところ狭しと並び合っている自転車置き場も、今日はチャリの数がまばらだった。
そこに2台の自転車を突っ込む。
ポールに止ってた蝉がジーと声を上げて、青い空に飛び立った。



「オレさ、ずっと勘違いしてた。安部とのこと。オレが何とかしなきゃって、思ってた。
でも……オレじゃあ解決できるわけ、ねえんだよな。だってアイツの問題だろ? 安部が自分で決着つけなきゃ、いけなかったんだ。人に言われてハイソウデスカなんて、納得できるわけねえよ。それができるなら、とっくに諦めてる───」




きっと。
安部の中で、言葉にできなかった想いが燻ってる。
伝えてないから、前へ進めない。
次なんて見えてこない。
オレもそうだったから、わかるんだ。
無理に忘れようとしても駄目だから。
自分の気持ち、ちゃんと言葉で伝えねえと。






「…それ。ある意味ひどくね? 答えなんて分かりきってんのに。要は、ふられてこいってことだろ?」
「悪いか?」
「悪かねえけど……」




それぐらい、言わせてやるよ。
悔しいけどその気持ち、認めてやる。
潔くふられりゃあいいんだ。
そしたら明日が見えてくる。




「そんな思惑通り行くのか? 安部、だっけ? ああいうタイプは、一筋縄じゃあいかないだろ?
このまま、園田ちゃんが拉致られたらどーすんだよ!?」
「…もうアイツは、そんなことしねえよ」
「なんで? その根拠と自信は、何?」





「アイツの……表情───だ」




園田にキスした後の、顔。
後悔と罪悪感の横顔。
園田を傷つけた、取り返しのつかないことをしてしまったっていう自覚はあるのに、謝れない。
気持ち、なかったことにはできねえから。
ゴメン───なんて、言えるわけがない。
オレも経験あるから、わかるんだよ。
アイツの気持ち。







「園田ちゃんは、そのこと知ってんの?」

「鈍い園田が気づくわけねえよ。だからなおさら、ちゃんと言わなきゃ伝わらねえんだ」







安部がずっと伝えられなかった想いを、他人のオレが、簡単に口にしていいはずがない。
そういう言葉は、ちゃんと本人が伝えないと意味がない。
それぐらい、言わせてやるさ。





「今日も暑くなりそうだなー」





見上げれば真夏の太陽。
青い空と入道雲。


眩しさに目を細めたら、ケータイが鳴った。

















午前中の走り込みを適度に切り上げたオレは、旧校舎の古びた引き戸を開けた。
カタカタッと乾いた音を立てたと同時。
それに気づいた園田が、キャンバスから顔を上げた。


「おはよう」


向けられた清清しい笑顔につられて、顔がほころぶ。




「美術部って…いっつもお前か佐倉しか、いねーのな」
「在籍だけの幽霊部員、多いもん」
「佐倉は?」
「週末から東京」
「…ふーん」

「練習は、いいの?」
「午前中、自主練だからへーき」
つっても、ほとんど部員、全員来てるけどな。
みんな練習熱心だから。
「オレ。今朝、一番だった」
「1年生よりも先に来ちゃダメだよ、キャプテン。 下級生の立場、なくなっちゃう…」


だってさ。
じっとなんてしてらんねえよ。
お前が安部んとこ行ってんのに。
体でも動かしてねえと、余計なことばかり考えちまう。
オレだってほんとうは。
ひとりでなんて行かせたくなかったさ。





窓際に置かれた椅子の背にまたがるように腰を降ろすと。
カタン、と乾いた音を立てた。

園田が、筆に乗せた色を静かにキャンバスに移す。
白い空間が瞬く間に、青く蒼く染まる。
彼女が描くそれは、美術室の窓から見える空だった。
青く透明で、どこまでも澄み切った夏空───。
今日のこの空は、園田の目にはこんな風に映ってんだなって、思わず窓の外を見上げた。




「ね。蒼吾くんは……知ってたの?」



ふと、そう聞かれて視線を戻す。
キャンバスから視線を浮かせた園田が、じっとオレを見ていた。




「アイツ。ちゃんと言った?」
「うん…」


静かに頷いた横顔は、泣き笑いみたいな表情。



今まで、アイツの気持ちに気づけなかったこと。
応えられなかったこと。
傷つけたこと。
園田が今、どれだけ自分を責めているだろうかと考えると、たまらなくなる。
気持ちを受け止められない辛さは、オレも知ってる。
相手がよく知ったヤツなら、なおさら……。




「…どう気持ちの整理をつけるか。あとは安部の決めることだ」




椅子から立ち上がって、背後からそっと園田を抱きしめた。
小さな掌が強く、オレの腕を握り返してくる。


「…蒼吾くん……」
「ん?」
「行かせてくれて…ありがとう。でなきゃ、私、安部くんのこと…誤解したままだった……」
「アイツに、変なことされなかった?」
「…心配性だなあ、蒼吾くんは」




抱きしめた腕の中で小さく笑う。
長い髪に手を添えて指で梳くと、栗色の髪が陽に透けて、黄金色に輝いた。



「そういやあ…家の方は、平気だった?」
昨晩、ちゃんと日付が変わる前には、送り届けたケド。
遅い帰宅には変わりない時間だった。
「もう少し早く帰りなさいって言われた。だけど……暗い顔してる私より、よほどいいからって、お咎めなし」
「…っかったあー…」
このまま、出入り禁止!とか、外出禁止!とか。
制限されたらどうしよーかと、気が気でなかったんだ。


「それとね。ちゃんと伝えてきたよ。行ってもいいって。蒼吾くんの誕生日。その…、泊まりで……」
「マジで? つか、まんま言ってきたの?」
「うん。いけなかった?」
「いけなくねえけど……」


男の誕生日に泊まりで。
それがどういう意味を示すのか、いくら鈍感な園田の親だってわかるだろ。
認められた? それとも誠実さを試されてる?


「んーー……何か、複雑」


次会う時、どんな顔で会えばいいのか。
まあ、その時はその時だ。
成るようになるさ。





体の位置をずらして、正面から園田を抱きしめる。
オレの胸にすっぽりと収まる小柄なサイズが、たまらなく可愛い。
甘えるように額を押し付けて、オレの背中に手を回してくる。
耳元に唇を寄せて柔く噛んだら、園田が頬を真っ赤に染めて顔を上げた。



「なに?」
「ここ。学校だから……」
「知ってる」
「もうすぐ、他の部員が…」
「夏休みだし、誰も来ねえよ」


腕の中で身じろぐけれど、離しはしない。


「で、でも…っ、佐倉くんが…っ」
「アイツ、東京だろ?」

意地悪く耳元で囁いたら、うっと園田が言葉を詰まらせた。
それでも必死に、逃げる口実を探す。
そんなにオレといちゃつくの、イヤなわけ?


「だって。こんなところを見られたら、絶対、変に噂されるから……」


野球部的にはそういうの、よくないでしょ?って。
確かに。
それはマズイけど。








でも。











「……もう少しだけ、充電させて───」






園田が逃げられないように、腰の辺りでがっちり手を組んで閉じ込めた。
観念した横顔がぎゅっと目を瞑り、下を向く。
制服の襟元から覗く白い襟足がすぐ真下に見えて、オレを誘惑する。
たまらず唇を押し付けたら、ユニフォームを掴んだ手に、わずかに力が入った。
声を押し殺して、すがるようにしがみついてくる。
「───園田」
俯いた顔を上向かせて、キスしようと顔を近づけた瞬間。
ありったけの力で、園田がオレを突っぱねた。




何っ!?











「───そ、蒼吾、くん…っ」











園田が指差した先を見て、ぎょっとなる。














「ラーメン!」
「野菜炒めもつけろ。ラーメンだけじゃ、割りに合わん」
「餃子もだ!」
「お前だけ、いい思いしてんなよ。キャプテンのくせに」
「キャプテンのくせに、サボって女といちゃつくな!」
「不純異性交遊、断固反対!」
「キャプテンのくせに」
「蒼吾のくせに」
「部員全員におごれ!」
「幸せは平等であるべきだ!」






オレを呼びにきた野球部員がひとり、ふたりと増えて。
校庭側の窓に、気がつけば、鈴なり。
世界に入りすぎて、気づくの遅れたなんて。
不覚!






「キャプテンがそんなんで、大丈夫かねえ、野球部は」






なんて。
ニヤニヤ、サッカー部の連中も混じってるし。
わー! もう、サイアク。






「…あ! 逃げた…!」





あまりの恥ずかしさに、オレの腕を逃れた園田が、教室を飛び出した。




「あーあ! 泣かせた!」
「可哀相に〜」




って。
誰のせいだよ、オイ!




「とっとと追っかけろ! 色男!」
「ダッシュだぞ、全力疾走!!」




言われなくてわかってる。
お前ら戻って、弁当食ってろ!










追いつくのはあっという間だ。
部活で鍛えぬいた脚力、あなどるなかれ。
細い腕を捕まえて、近くの資料室へ押し込む。
今度こそ誰にも邪魔されないように、内側から鍵をかけた。


「───ゴメン! 園田!! あいつら、デリカシーないから……」


「…うん。わかってる。悪気は…ないんだよね……」


怒ってはいないみたいだけど、泣きそうな顔だった。
俯いた顔は羞恥で、耳まで真っ赤だ。
オレは思わず衝動的に抱きしめた。
腕の中に閉じ込めて、口付ける。
軽く触れるだけのつもりが、そのまま唇を割って舌を入れてしまう。

「ん…、蒼吾、くん」

潤んで溶けた眼差しが熱を帯びたまま、オレを見上げてくる。
こういう表情を無意識でやってしまうんだから、女ってコワイ。
こんな園田、アイツらに見せるなんて勿体無ねえよ。
知ってるのは、オレだけでいい。








「…ごめんね…」


キスだけで満足した園田が、くたくたとオレの肩に体重を預けた。


「わざわざ追いかけてきてくれなくてもよかったのに…」


顎をくすぐる柔らかな髪から、ほのかにシャンプーの匂いが薫って、オレを刺激する。






「だって。まだ、途中だったからさ」
「?」
「充電、できてないから───」





これぐらいのキスで満足されても困る。
オレは、全然、足りない。







「そーご、くん……?」





言葉の意味を察した園田が、一歩後ずさる。
トン、と。
資料を積み上げた棚が肩に当たり、逃げ道がないことを悟る。




「…また、誰か来ちゃう……」
「へーき。鍵、閉めたから」



本棚に肘をつけて、覆い被さるように、真上から園田を見下ろした。
両手で囲った空間に、小さな彼女を閉じ込める。



「…あまり時間が経つと、後でまた、何を言われるか───」










わかってる。









でも、もう少し。あと少し。


園田でオレを満たして───。









狭い空間に閉じ込めて、言葉の続きをキスで塞いだ。
髪の中に手を埋めて、引き寄せて、唇を重ねる。
吐息の間に離れて、角度を変えて、キスは続く。
次第にユニフォームを掴む力が抜けて、園田がその場に座り込みそうになった。
口付けたまま小さな体を抱き上げ、手近な机に座らせる。
そのまま髪の中に手を埋め、耳や首筋にもキスを降らせる。
んっ、とこぼれ出た園田の吐息が色っぽくて、しばらくむさぼるようにキスを続けた。
時間をかけてじっくりと、園田で満たしてく。


抱きしめた腕の中で。
自分の物なのか、園田の物なのかわからない心臓の音が聞こえた。
柔らかい園田の髪がほつれて、肩に落ちていく。




「…蒼吾くん。私…わかった気がする……」
「…なに?」
「蒼吾くんに抱きしめられる時も、キスした時も。嬉しくて温かくて、幸せでいっぱいになるの。なのに、どこか寂しくて、切なくて、苦しくて……もっともっとって、わがままになって。この人にもっと触れたい、もっと近づきたい───って。そう思うから、人は繋がりを求めるんだね…。身体の結びつきだけじゃなくて、心も満たされるから…」



見上げてくる瞳の真摯さに、愛しさがこみ上げてくる。
つか。
誕生日の約束をキャンセルして、いっそこのまま───なんて。
衝動に走りそうになる。


「園田」
「…なに?」
「それ、最強の誘惑なんだけど……」


17歳までカウントダウン。
我慢だ!





「あ。そうだ。絵の具───」
抱きしめた腕の中で顔を上げて、園田が空を見上げた。
「せっかくいい色作れたのに。もう、乾いちゃったかな……」
「ゴメンな。あいつらに邪魔さえされなきゃ…」

つか。
オレのせい?
随分たっぷりと、園田を味わっちまったから…。





「蒼吾くん、あれ───」

園田が指差した窓の向こう。

「戻ったらラーメンだ。逃げんなよ〜」





地面を踏みしめるスパイクの音に混じって、涼がごちる声が鼓膜を掠めた。
まだ、オレを探してる。




「しつこい」
「でも、そのしつこさが守口くんらしいよね……」
「だな」



ふたりで顔を見合わせて、どちらともなく笑う。




「日曜日、晴れるかな?」
「この空だ。間違えなく晴れるよ」
「お弁当作ってくから、船で食べようね」
「マジで?」
「蒼吾くんの好きなもの、たくさん作って行くから、楽しみにしてて」


園田が眩しい笑顔で笑う。






園田といると、何でも全力で頑張らなきゃなという気にさせられる。
君がオレの原動力。
オレを強く大きく揺さぶって、突き動かす。







「あーあ。午後からも暑くなりそうだ!」






見上げた窓の向こう。
青の色がいっそう鮮やかさを増して、光を吸い込んだ入道雲が眩しかった。











FIN


幸せのカタチ。




*あとがき*



〜 あの頃の僕らはきっと 全力で少年だった 〜


スキマスイッチが歌う「全力少年」のワンフレーズが胸に響いて、離れません。
ましろを軸に、蒼吾と嵐は全力で駆けたはず。
対照的ではあるけれど、似たところもあったり。
ふたりの心の葛藤と成長を感じ取ってもらえていたら、幸いです。


作者的には、爽やかなラストがスキです。
自然に笑顔がこぼれるような。
ちょっと物足りないかなーと思いつつも、全力少年はこれでおしまい。
甘い続きはバースデーデートに期待してください。
もうしばらく。
ふたりの恋愛模様にお付き合いいただければ嬉しく思います。



毎度のコトながら。
忙しい中、はづきがあとがき用にイラストを描きおろしてくれました。
ああ、もう!
感無量!
弾ける笑顔が、キラキラ眩しいのなんのって!
イラストと一緒に、幸せの余韻を楽しんでいただけると嬉しいな。



ではでは。
長い間のおつきあい、本当にありがとうございました!
拍手、コメントなどで、感想を聞かせていただけると嬉しいです。
バースデイのおはなしは、また後日。









( スキマスイッチ/「全力少年」より * 一部歌詞引用 )


Presented by RIKU*SORATA *『全力少年』


* END *






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おまけ



「全力少年」って、どんな曲?
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