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しあわせは、キミのとなり 1


とわにプロポーズしてから半年。
オレのマンションで、ようやく一緒に生活を始めたのが先月のこと。
五日ぶりに出張から戻ったオレがメールボックスを覗くと、オレと彼女宛てに、それぞれ一通ずつ手紙が届いていた。
差出人の名前は『 梶タケル 』。
もと親友であり、恋人の元彼の名前に、オレは渋い顔をした。


「わー! とうとう結婚するんだねー」
先に封を切ったとわが、ソファの上で膝を抱えてのんきな声を上げた。
眩しそうにそれを見つめて、頬をほころばせる。
「つか、送ってくるか、ふつう」
タケルから届いた郵便物は、結婚式の招待状だった。
来月末、地元で式を挙げるらしい。
窮屈なネクタイをほどきながらオレは、送ってきた招待状の封も切らず、その他のいらないダイレクトメールと一緒に机に投げた。



「え? ともひろまさか……、行かないつもり?」
「そういうお前は、行くつもりか」
「……いけない?」
行く気満々で、もうすでに返事を書きかけているとわに、オレは深いため息を落とした。
「お前、わかってるのか? 友達の結婚式じゃない。元恋人の結婚式だぞ? 普通は、行かないし呼ばない」
まさかアイツの結婚式に招待されるなんて、思いもしなかった。
オレだけに送ってくるならともかく、とわにまで送ってくるなんて。
ましてやそいつは、その当時とわと二股かけていた女だ。
とわにも、婚約者に対しても失礼な話じゃないか。
無神経にも程がある。


「べつにいいじゃない。私、もう怒ってないし。タケルだって来てほしいって思うから、送ってくれたんでしょ? だったらさ、行ってあげようよ。
ていうか……おなかに赤ちゃんいるから、てっきりもう式は挙げたとばかり思ってたのに。あれから半年だから……もう7ヶ月半か。ギリギリだねー」
なんのことを言っている。
つうか、お前。
その口調から察すると。
「あ! ちょっと……っ!」
「説明しろ」
手元から招待状を取り上げて、苦い顔でとわを見下ろした。
オレはこの招待状が送られて来るまで、結婚するなんて知らなかったし、恋人が妊娠してるなんて話はもちろん知らない。
3年前、アイツをぶん殴ってからはずっと、タケルとは疎遠になってる。
なのにお前は、まさかタケルと──────。

「ともひろに話してなかったっけ? 私、タケルとは和解したんだよ」
「いつの話だ、それは。つかお前、タケルと会ったのか?」 
「うん。会ったよー」
聞いたら、あっさり認めた。
「……ともひろとよりを戻す、ちょっと前だったかな。クラスの集まりに、たまたま偶然タケルも来てて。そのときに結婚することも、彼女のおなかに赤ちゃんがいることも聞いたの」
つうことは、デキ婚か。
計画性のない結婚に、呆れてため息が出る。
「あとね……ともひろのことも聞いちゃった」
「オレの?」
なにを聞いた。
「あのときの嘘は、私が少しでも傷つかなくて済むように、ともひろが責任を全部被ってくれたんだって」
──────あんの、 阿呆!
知らなくていい事実をベラベラと…!
しかも、なんで今さら!
大きなため息とともに崩れるようにソファに腰を降ろした。
苛立ちのままガッと髪をかき上げ、テーブルのボックスに手を伸ばして、煙草を口に咥える。
火をつけて、煙を深く吐き出したところに、とわが不思議そうな顔でオレを覗き込んできた。



「……なんか怒ってる?」
「当たり前だ」
「それは私に対して? それともタケル?」
「お前じゃない。アイツが考えなしにベラベラとしゃべるから」

こんな形で暴露されるなら、早めに手を打っておけばよかった。
事実を知って、とわがどれだけ傷ついたか。
アイツの考えのなさに、心底腹が立つ。


「バカね。どうして傷つくのよ? むしろ嬉しかったもの。ともひろが私のことを思ってついてくれた嘘が優しくて。もちろん、事実を知ったときは混乱はしたけどね。
それにね、過去にタケルが私にしたことは、拳ひとつでぜーんぶ水に流してあげたから」
ペロリと舌を出したとわが、いたずらっぽい笑みでオレを見上げてくる。
彼女らしい清算の仕方に、思わず苦笑いした。

「……ったく、お前は。いいのか、それで…」
タケルの話が出るとどうしても、過去に泣いたとわが蘇る。
また強がってんじゃないか、オレの知らないところで泣いてるんじゃないか、心が痛くなる。
抱き寄せた手でそっと頭を撫でてやると、とわが穏やかに微笑んだ。
「逆にね、タケルには感謝してるぐらいだわ。だってあのとき、浮気しなかったら私、あのままタケルとゴールインしてたかもしれないのに」
もしもの未来を想像するだけで、胸が抉られるほど苦しくなる。
本気で嫌な顔をしたオレを見て、とわがクスリと笑って手を伸ばした。
指先がそっと頬に触れる。
「私はね、あのときの涙を思い出すよりも、その可能性を想像するほうが辛いの。過去を笑って話せるようになったのは、ぜんぶともひろのおかげ。ともひろがこうやって、そばにいてくれるから」
煙草が口元から抜き取られた。
寂しくなった口元にそっと、柔らかな感触が押し付けられる。
「ずっとともひろに言いたかった。……ありがとう」
最近のとわは素直すぎて困る。
たまらずオレは、彼女を抱き寄せた。
そうされるのを待ってたかのように、とわの腕がオレの首に回って、甘えるように抱きついてくる。
「あのとき、タケルが事実を教えてくれたからともひろと、向き合うことができた。タケルと話さなかったら、私はあのまま身を引いてたかもしれない。
それにね、式に参列するのは勉強になると思うから。もちろん仕事のこともだけど、何より自分たちのこれからの参考になるかなーって。………ダメかな?」
「……正直オレはまだ、タケルがしたことは許せないし、会いたくはない。だけど──────」
とわをひとりでは行かせたくない。
「ありがとう、ともひろ。そんなふうに思ってくれて。
だけどね、私のためを思ってくれるならさ、タケルと仲直りしてくれた方がもっと嬉しいの」



「──────本気か?」

オレは思わずとわの体を離した。
とわの口からそんなセリフが出てくるなんて想像もしてなかった
見上げてくる瞳は真摯で、その言葉は冗談なんかじゃない。



「タケルがいいやつだっていうことは、ともひろが一番よくわかってるでしょ? ともひろが名前で呼ぶ友達って、私、タケルしか知らない。もちろんタケルがしたことはサイテーだと思う。誠実じゃないよね? だけど……時間を重ねていろんなことがあったから。いろんな人に出会ったから、だから今の私があるんだって思うの。ともひろの隣で笑える今に辿りつくためには、タケルの存在も奏多の存在も、リオコさんも必要だったと思う。だから、すべてを否定しないで?」
堪忍したようにオレは苦笑いを浮かべて、ゆっくりと息を吐き出した。
緩やかに目を閉じて、ふたたび腕の中にとわを抱きしめる。
「わかったよ……。今すぐには無理だけど、努力はする。式にも出るよ。お前と一緒に」
「ほんと?」
「ああ。嘘は言わない。ただし、過去を思い出してどうしても辛くなったら、そのときはちゃんと言えよ」
すぐにそこから、さらってやるから。
「ともひろがそばにいてくれるかぎり、そんなことはないよ」
腕の中で、とわが嬉しそうに笑って、頬を摺り寄せた。




「けど…。いいなー、結婚」
夕飯の準備をするためにキッチンに立ったとわが、羨望混じりのため息をこぼした。
カウンターの向こうから漂ってくる匂いに鼻を鳴らしながら、灰皿を取る為にオレは席を立った。
「この式場の大聖堂ってね、ステンドグラスがすごくキレイなんだって。私、行ったことないからすごく楽しみなんだけど」
「どこも同じだろ」
「もう! ムードないなぁ、ともひろは。女の子はロケーションとかシチュエーションとか、すっごく重要なんだからね!」
「はいはい」
システムキッチンに備え付けた棚から新しい灰皿を出しながら、オレは苦笑した。
とわは意外にロマンチストだ。
結婚に対しても、彼女なりの強いこだわりがあるらしい。

「タケルのタキシードってやっぱり白かな? でも白って、着る人を選ぶからタケルじゃ服に着られそう。黒って柄じゃないし……。無難にグレイとか持ってくるかな。ていうか、タケルのタキシード姿、想像したら笑えるんだけど……」
招待状を開いた瞬間から、とわの頭の中は結婚式のことでいっぱいらしい。
仕事柄、仕方ないといえば仕方ない。
これも一種の職業病みたいなものなんだろう。



だけど。

こっちは出張から戻ったばかりで、満足に話もしてないっていうのに、出て来る話がタケルのことばかりじゃあ、面白くない。
とわの背後に回って、両脇に手をついた。
キッチンとオレとの間に彼女を挟んで、逃げられないように後ろから抱きしめて、耳元で甘く囁く。


「オレらもするんだろ? 結婚」

浮かれた彼女が、オレの気配に気づくわけもなく、突然与えられた刺激にビクリと体を強張らせた。
「ちょ、っ…ともひろ、いつの間に……や、ぁっ」
髪をかき分けて、耳たぶを遊ぶように噛んだら、とわ唇から甘い息がこぼれた。
腕の中で体の向きを変えさえて、そのままキスで唇を塞ぐ。
唇だけで柔らかく触れるキスを繰り返しながら、味わうよう舌でなぞる。
五日ぶりにじっくり触れたとわの唇は柔く甘く、いつまでもずっと、味わっていたくなる。



「………先に風呂、入ったのか? いい匂いがする」

抱きしめた腕の中から、彼女の匂いが立ち昇ってオレを包み込む。
あまり深く吸い込んだら頭の芯がクラっとして、ものを考えられなくなりそうだ。
「汗かいたから、シャワーだけ先に……、あっ」
弱く頼りない声が漏れて、忍び込んだオレの手を、服の上からとわが慌てて押さえる。
「ちょ…っ、や、だ、ってば……!」
胸を軽く包むだけで、とわの体が過敏に反応する。
文句を言うくせに、次第に柔らかくなっていく体は誘っているようで。
恥じらいの滲んだ横顔にますます、ブレーキが利かなくなる。
キャミソールの肩紐をずらして、あらわになった胸元に唇を押し付けたら、オレの肩に添えていた手がわずかな抵抗をみせた。
それもできないように、細い腕にも唇を這わす。
「や、だ…っ、ともひ、ろ……っ、ダメ!」
「ダメじゃないくせに」
「だって…っ、もうすぐ夕飯、出来るのに! ともひろが食べたいって言うから、頑張って作ったの! ロールキャベツ!」
抱きしめた腕の中で、とわが抗議の声を上げた。
泣きそうな声で、キッと威嚇する。
視線を泳がせると、キッチンカウンターの上には料理本が数冊と、ネットで検索したロールキャベツのレシピのコピーが散乱していた。
料理があまり得意でない彼女の努力の跡が垣間見れる。
だけど。
そんな顔でダメはないだろ。
頬を両手で包みこんで顔を上げさせると、泣きそうな、困ったような、そのくせ待ち侘びているような表情をしていた。
じれったくてオレはそのままとわを抱き上げた。



「ロールキャベツはあとの楽しみに取っとくよ。それよりも、今はこっち──────」
寝室のドアを足で蹴り開けて、ベッドに押し倒した。
「っ、ともひろ…、や…っ、 ほんと、ちょっと待っ」
「待たない。先にシャワーを浴びたのは、こうなることを予測してたんだろ?」
「ば……ッ、ちが──────んぅっ」
逃げられないように上半身を被せて、強引に舌をねじ込むと、とわの唇から切ない声が漏れた。
「…ッ、ふ、ぁ」
唇をふさがれたまま、とわが抗議するようにうめくのが、尚更に欲情を誘う。
服をはだけさせ、指先でゆっくりと肌をなでたり、触れるだけのキスを飽きるほどくりかえして。
時折強く肌を吸い上げながら、首筋から腰まで、ことさらゆっくりと舌を這わせると、とわの唇から抑えていた声が漏れた。
潤んだ目のふちや頬がほんのりと薄紅に染まって、オレを熱っぽく見上げてくる表情に加減を忘れそうになる。





「タケルの話なんかどうでもいい」

久しぶりに帰ってきたのに、出て来る話がタケルのことばかりじゃあ、面白くない。
その可愛い唇で。かわいい声で。
オレの名前を聞かせて。


「……もしかして、ともひろ…。妬いてるの?」
「そうだよ。悪いか。五日ぶりに帰ってきたのに、口を開けばタケルの話ばかり。オレは゛おかえり゛の言葉も聞いてないつうのに」
過去に不安も嫉妬もないけど、他の男のことでとわが嬉しそうな顔を見せるのは、やっぱり嬉しくない。
それならもう、オレのことしか考えられないぐらい、意識をそっちに持ってってやるしかないじゃないか。
オレが素直に口にした嫉妬に、とわが嬉しそうに目を細めた。
首に腕をまわして抱きついて、引き寄せて、耳元でとろけそうに甘い声で囁く。





「………おかえり、ともひろ。ずっと待ってた」


本当に最近の彼女は素直で可愛すぎて、参る。
手放したタケルは馬鹿だ。
一生、後悔すればいい。









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